「───やっと撒けたかな?」
「おそらくは・・・・・・しかし関所は既に封鎖線を敷かれているでしょう。どうやって前に進むかが問題ですね」
包囲網の一角を崩して何とか俺たちは逃げ延びた。とはいえ正規ルートからかなり外れたし、此処にいつまでも居られない。
今居るのは途中で見つけた廃村の一角、辛うじて雨風を凌そうな廃屋を間借りしてる。簡単に当たりを付けれそうな場所だがしばらくは問題ない。
此処に居るのは俺たちだけじゃなく、しかも力尽くがし難い連中だからだ。
「『西部通商連合』・・・・・・カーツさんの言う通りでしたね。私はてっきりお構いなしに襲撃してくるかと」
「やたら西部の内容が授業に出てきたからな。覚えておいて正解だった。それにブラックダイアが日和ってくれたのも大きい。幾ら王家の縁戚とはいえ、西部での発言力は失いたくないか」
西部の関税は地方の内外を問わず法外な金額を掛けられてる。派閥や思惑の違う勢力がパッチワークみたいになってるからな。そんなこの地方で、領民が物資を適正価格で受け取れてるのは『西部通商連合』が居るからだ。
確か元々は、関税を免除された商会が連帯して興った組織だったな。昔はどうか知らないが、今彼らを敵に回したら物理的に"干される"だろうな。
「王族や一部の貴族が【
「だから連合の旗を見た途端に姿を消したんですね」
とはいえ場所代をガッツリ取られるし、いつまでも此処に居る訳にもいかない。商人だから最低限の礼節を示してくれてるけど、彼らの向ける視線はかなり冷たい。
見るからに厄介事の火種だもんな俺たち。身一つで突然現れた『蒼の防人』に、貴族さまが着るような服を着た"自称治癒士"。うん、立場が逆なら俺も全力で避けるだろうな。
「さて、連合にカラレス自治区まで引っ付いていく・・・・・・は現実的じゃないな。金銭的にも彼らの心理的にも。クインはどう思う?」
「・・・・・・そうですね、おそらくどう動いても相応のリスクは付き纏うかと。もしカーツさんの身体に関する事情でなければ、無理矢理にでも帰還しているところです」
そうだよなぁ、クインならそう言うと思った。今までの旅や冒険と比べれば、今回のはどうも悪条件が多過ぎる。
まず単純に準備が足りない。土地勘もなければ装備も最低限しか持ってきてない。そもそも馬車で真っ直ぐ往復するだけの予定だったし。
まさか教会関係者諸共襲ってくるとか予想外にも程がある。テロリストが出張ってくるって分かってればまだ対処しようがあったんだが・・・・・・油断してたな。
「確か俺たちが王都を出る前に先触れを出してくれてるんだよな?何処かの街に潜伏して迎えを待つってのはどうだ」
「到着しない馬車を案じた【天門僧衆】の救援に賭ける作戦ですか・・・・・・相手が王族だけであれば私も賛成です。しかし此処まで強行な相手だと、その先触れの方がそもそも辿り着けているのか・・・・・・」
「カラレス自治区にそもそも情報が伝わってないってこともあり得るのか」
その可能性は失念してたな・・・・・・事態に気付くとすれば派遣した中央の方だが、あちら側は治癒なら兎も角戦力としてはかなり乏しい。そもそもこれ以上彼等に犠牲を出させる訳にはいかない。
最悪引き返すことも選択肢に───ないよなぁ。今回の一件で、アガペレ修道教会は否応なくこの内戦に巻き込まれる。御者さんを殺されてる訳だし、これまでの動きからしてもこの事件はまず間違いなく悪用される。
しかもクインの予想が正しければ、俺たちを秘密裏に送り出すって書状も連中の手の中にある。王族連中が『教会は【浄血】に与したのか!?』って詰め寄る姿が目に浮かぶ。
もし急激に事態が動いてしまえば、こうして西部に出向いてる暇なんて無くなるだろう。カラレスに行くなら今しかない。
「・・・・・・それにしても、本当に何故突然方針を変えたのでしょうか?カーツさんを襲撃するなら幾らでも機会があったでしょうに」
「そうなんだよなぁ。螺子の飛んだ奴なんざ理解したくないけど、アイツらの気位の高さは相当だ。自分で吐いた言葉を反故にするとは思えない」
「する理由がありませんし、他人の都合を慮る手合いじゃありませんしね・・・・・・そうなると、別の『大蛇衆』が決めた可能性が高そうです」
同感だ。少し会話してみた感じ、"バシュム"には組織への忠誠心なんて微塵も感じられない。恐らく"ザット"も同類だろう。
連中が【
「・・・・・・時期的にどう考えてもこの"呪い"が原因だよな。他に理由なんて思いつかないし」
「カーツさんは、その呪詛には何らかの──────誰だ!」
「ひ、ひひひ・・・・・・流石は狂人共の罠を躱した腕利きですなぁ。盗み聞きはさせてもらえないようで」
気配を察知したクインが声を荒げて身構える。すると出てきたのは、『THE・盗賊』って感じのフードを被った厳ついオッサンだった。
こっちへの敵意はないようで、武器も持ってないし【魔技】を使う素振りもない。何の用だ?
「おっかない殺気は仕舞ってくだせぇ、アッシは西部の冒険者ギルドの人間でさぁ。親しい連中からは"マウス"って呼ばれてやす、へへへ・・・・・・」
「・・・・・・冒険者さんが余所者の私たちに何のご用ですか?」
「うひ、美人の睨む顔ってなぁ絶品ですなぁ。あ、ちょっとちょっとお待ちなすって!旦那方、カラレスに行きたいんでしょう?良い道を知ってますよぉ」
胡散臭過ぎるし逃げようと思ったが、聞き捨てならない発言の所為で足が止まる。クインももの凄く嫌そうにしながら、振り向いた俺を止めようとはしない。
"マウス"と名乗った男は煙でも出そうな勢いで揉み手してくる。信用されようって雰囲気が皆無だなこいつ。
「・・・・・・色々気になるところだが、何で俺たちに手を貸す?悪いが今アンタを満足させる銭なんて持ち合わせてないぞ」
「いやはや、西部の人間をよく分かってらっしゃる!確かにアッシらは金にがめついですが、先行投資ってのが出来ない訳じゃねぇんですぜ?」
この小男が言うには、西部のギルドは特に貴族と仲が悪いらしい。端金で鉄砲玉の真似事をさせてみたり、敵対派閥が仕事の邪魔をしたり。
通商連合が間に入ってるから辛うじて殺し合ってないが、何処かの派閥が台頭する事態は避けたいらしい。そこで嫌がらせの一環として俺たちに協力したいんだとか。
「───関所や関税だけでもウザってぇんだ。調子に乗ったら何上乗せされるか分かったもんじゃねぇ。旦那方が引っ掻き回してくれんなら願ったり叶ったりでさぁ」
「・・・・・・一応、筋は通るか。もし王族が悲願を果たして【浄血】を追っ払えれば、次標的にされるのは間違いなく冒険者ギルドだろうからな」
高度な【魔技】に、モンスター退治で得た
もし王族が権限を得れば、遅かれ早かれ規制の話が持ち上がるだろう。連中の思い通りにさせたくないって考えるのは当然だろう。
「アンタはギルドじゃどういう立場なんだ?失礼だが、冒険者の将来を憂う責任者には見えないんだけど」
「こいつぁ手厳しい!ですが旦那のおっしゃる通りでさぁ。アッシはあくまで使いっ走り、今の話はあくまで上のお言葉ですわ」
「おいおい、どんだけ"耳"が良いんだよ」
「ひひ、西部の一等級は地獄耳で有名なんですぜ?それで、やんごとなき旦那さま。お返事は如何で?」
・・・・・・正直、全く信用出来ない。タイミングが良過ぎるのもそうだが、話の流れ的に正規ルートを通る訳じゃなさそうだ。誘導された先がまな板の上、なんて可能性もある。
とはいえ、断ったところで俺たちに行くあてなんてない。それにこの状況で冒険者ギルドの反感まで買う訳にもいかない。背に腹はかえられないか。
「クイン、俺はこの話を受けようと思う」
「・・・・・・やむを得ませんか。それでは"マウス"さん、貴方の言う"道"とやらを教えていただけますか?」
「そうこなくっちゃ!ささ、早いとこ出発しちゃいましょう。入り口は此処からすぐなんでさぁ」
狙い通りといった風に"マウス"が踵を返す。見失う訳にはいかないので、俺たちもすぐ荷物を纏めて立ち上がる。
連合の人達もちらっと此方を見るが、すぐに興味を失ったようにそっぽを向く。まさか、この人達まで"仕込み"だったとか言わないよな・・・・・・?
それはさておき、"マウス"の言った通り入り口はすぐに見つかった。まるで石が溶けたみたいな、妙な凹凸と光沢が目に付く洞穴だ。
「さっきは入り口って言いやしたがね、正確には"出口"なんですよねぇ。不定期に【焔】を吐き出す排気孔でさぁ」
「焔・・・・・・排気───まさか!」
・・・・・・話には聞いたことがある。【黒の防人】が最期を迎える"迷宮"にして"墓場"。まさか俺たちが入ることになるとはな。
「───それでは旦那方、【緋を呑む迷宮】は此方でございやす。お足元に充分お気を付けを・・・・・・ひひひっ」