ラリマー子爵家の精鋭達に先導され、怒号が轟く戦場をすり抜けていく。横目で見た感じだと南部連合軍が圧倒的に優勢だな。
硬い骨と金属の塊がぶつかり合い、大地諸共暴風が敵を巻き上げる。軍馬の嘶きが響き渡り、それ以上に五月蝿い冒険者達の鬨の声。多種多様な爆音が木霊し、俺たちの動きを覆い隠してくれる。
『───それじゃあ移動ついでに、情報交換の続きといこうか』
【
またカイツ殿の乗馬で体調を崩したくないからと、クインの風で運ばれてる。まるで風船みたいで滑稽だけど本人は機嫌が良さそうだ。
『君たちが西部で襲撃されたという一報は、中央を飛び越えて即座に南部へ齎された。そして冒険者ギルドのネットワークであっという間に広がり、事態を重く見た南部貴族の元締め───サファイア公爵家の許可の得て有志連合が組織された訳だ』
「・・・・・・・・・
『そうだ、余りにも早過ぎる。元々有事に備えていたとはいえ・・・・・・昨日?僕の耳に情報が入ったのは
トマス殿の言葉に思わず耳を疑った。三日前って言ったら俺たちが教会に行く前じゃねぇか!?行動を予測したんだとしても、間違いなく情報の発信者は善意の第三者じゃないだろう。
そうであるなら情報の意図も考えなきゃいけない。更に言えば、三日で南部から西部に辿り着けたのも不思議な話だ。軍馬で最短距離を駆け抜けてギリギリだろう。一体どんなスピードで話が纏まったんだ・・・・・・?
「───まるで、南部の時空が歪んだかのようですね」
『面白い冗談だ・・・・・・だけど今回の事態は正しく"瓢箪から駒"かもしれないよ』
「・・・・・・嘘でしょ?"ザット"とかいう奴の仕業────いや、まさか」
『どちらもあり得る話だね。どうも僕たちの常識は通じないようだし。まあ分からないことは棚上げしよう。重要なのは、どうやらテロリスト共は南部の戦力を引き離したいってことだ。だからアデル殿やアイゼナッハ支部長といった特記戦力は今回従軍していない』
そしてノア少年の護衛は最大戦力のシュナイゼル卿が担当する、と。【
しっかし・・・・・・時間操作、それも地方単位でとかいよいよ何でもありだな。改めて、イカれ異邦人が齎した魔法技術のヤバさを痛感するよ。そしてそんなヤバい能力をスーパー自己中が手中にしようとしてるってこともな。
「時系列のおかしさは取り敢えず飲み込んどきます。それより、こんな風に攻め込んじゃって大丈夫なんですか?」
『───まあ、遅かれ早かれだよ。今回の件が連中の誘導込みならブラックオパールで死人を用意してるだろうさ。間違いなく大事になると思うけど、このまま中央が破滅に向かうなら南部は分離独立の道を歩むことになる』
「うへぇ・・・・・・何かどんどん話が大きくなってくるなぁ。平和で安全な治癒士生活に早く戻りたい」
『テロリスト共潰すまでは無理じゃない?』
やっぱそうなるよなぁ・・・・・・一千年単位で暗躍してきた秘密結社の相手だろ?ただの治癒士には荷が重過ぎるんだよ!
とはいえ泣き言も言ってらんねぇか。ノア少年の存在がバレたかもしれなくて、しかも狙ってくる動機もあるんなら俺のやることは決まってる。この件が済んだらまたクインに相談してみるか。
「───それはそうと、任せきりで悪いんですけど、今敵首魁の方へ向かってるんですよね?」
『あーその辺は専門家に聞こうか。兄上〜進路の根拠について教えてください』
『───む?行き先はこの平原の中心部だな。根拠としてはユークレス卿を補足した際増援を送るのに都合が良い点。そしてブラックオパール領の首都は防衛戦に向かない点。あとはセレン先生・・・・・・"ティアマト"の能力から考えれば、自分好みに前線基地を作る方が真価を発揮するだろうということだな』
なるほど、確かに言われてみれば納得だ。平原一つ丸ごと制圧してみせたって事実に面食らったけど、戦力投入の基本で考えりゃ中心からあんまり離れらんないよな。
それに撤退が選択肢にあるなら安全圏に居座るのも手だが、昨日の話振りからみてあっち側も背水の陣っぽい。物量の投入具合からみても向こうも出し惜しみなしだろ。
『───他には雑兵に混じった精鋭を目印にしてるよ。明らかに動きの精細さが違うのが混ざってる。ソイツの出所を遡って軌道修正してるんだ』
『解説ありがとうございます・・・・・・どう、分かった?』
「はい、分かりやすく説明していただきありがとうございます」
『うん?この声ってユークレス卿??おいトマス、非公式の場とはいえ男爵閣下にタメ口は───』
『おっと、切り忘れてた。失敗失敗っと』
・・・・・・それで良いのかトマス殿。いやまあ、散々世話になったトマス殿に敬語使われたら落ち着かないんだけど。公の場でないなら今の方がこっちも気が楽だ。
しっかり納得も出来たことだし、改めて進軍に集中する。トマス殿の魔導具のお陰でクインやデュッセルの魔法を探知されにくくなったらしく、二人の連携で発生させた蜃気楼が俺たちを隠してくれる。
更に南部連合軍が派手に立ち回ってるのも大きい。そうこうしてると景色に不釣合いな施設が見えてきた。デカい石材で組んだ塀に簡素なテント、そして──────。
「・・・・・・闘技場か、これ?」
「取り囲んでいる柄は耐魔法に秀でた鉱石で出来ていますね。外部からの攻撃への盾の意味もあるのでしょうが・・・・・・おそらく何か仕込まれているものかと」
「───違ぇよ、此処はは数で擦り潰したテメェ等を引っ張ってくる祭壇だっつーの。何もかも上手く計算外でふざけんなって話だよ」
整地された舞台の中心で"ティアマト"が待ち構えていた。6本腕の巨大な魔導人形に抱えられながら、頗る不機嫌そうな顔で肘を突いてやがる。
「どうやら南部からの救援は想定外らしいな」
「ああ、ウチが聞かされてたのは襲撃の情報で撹乱することだけだ。そもそも一日で間に合う筈のない距離をどうやって越えてきやがったんだオイ?」
「(一日・・・・・・どうやら本当に何も聞かされてないらしいな)」
どうも大事な情報を碌に共有されてないらしいな。まるで捨て駒みたいな扱いだけど・・・・・・稀代の錬金術師をこれからって時に使い潰すのか?【
「降伏してくれないか・・・・・・って言いたいとこだが、確か裏切れない保険か何かがあるんだよな?」
「おう、同じこと二度も言わずに済んで助かるぜ。それに降伏だぁ?笑わせんなよ───馬鹿がノコノコ狩場にやってきた癖によぉっ!!」
"ティアマト"が指を鳴らすと同時に、塀の外を黒焔の壁が覆い被さった。【黒星事件】で見たものに近いが、あの時以上にヤバい気配がする。
外へ意識が行った一瞬を突いて、6本腕が一息で距離を詰めてきた。俺たち後衛は全く反応出来なかったけど、ウォルフやカイツ殿達頼れる前衛が即応してくれた。
だけど一気に押し寄せてきた選択で迷いが出た。焔の解除か、味方の援護かそれとも後衛の護りか・・・・・・その隙を咎めるように、俺の喉と胸元を"ナニカ"が貫いていった。