「──────コフッ」
「か、カーツさんっ!!?」
クソッ、しくじった・・・・・・!なんだ、何が起きた!?幾ら前と外で揺さぶられたとはいえ、反応すら出来なかったぞ!!
兎にも角にもまずは治療だ。即座に【
「何故魔法を止めるんですか!?その怪我はすぐにでも──────まさか、魔力臓器に損傷を・・・・・・?」
「そのまさかだよ間抜け!!ソイツが万全だと色々面倒臭過ぎるんでなぁ!しっかり対策取らせてもらったぜぇ?」
頭上から喧しい声が降ってきやがる。焼けたように痛む喉へ響いて鬱陶しいことこの上ないな!
どうやったかは知らないが、"ティアマト"は魔力を生み出す臓器をピンポイントで撃ち抜きやがったらしい。そんな画期的な技術は聞いたことがないし、そもそも胸元にそんなモンがあるなんて俺自身知らなかったんだぞ?
「嘘だろ、魔力臓器の場所は個人差がもの凄いんだぞ!?しかも大量の魔力で護られてるのにどうやって───」
「考察は後ですトマス殿!自前の魔力を使えないなら【触媒】を使えば・・・・・・うっ!?」
クインが非常用に持たせておいた魔導具を握らせてくれる。だが作動させようとした途端、内側から爆発したみたいに破裂しやがった。
「だから言っただろうが、対策取ったってなぁ。ウチの作品以外を使おうとすりゃあ、回路に激烈な負荷が掛かるって寸法よ!」
「なっ───!?トマス殿の方はどうです?」
「・・・・・・大分不味いですね。半分はダメにされたし、残りも多分使えて一回っぽい」
俺へのメタがトマス殿にまで影響してるか。某猫型ロボットのように何でもありな魔導具を封殺された訳だ。これは本格的にヤバいな。
ウォルフとカイツ殿が状況を打破しようと奮戦してくれてるが、どうにも旗色が悪い。あの二人なら来ると分かっていれば"あの攻撃"も対処出来る。だがいつ飛んでくるか分からない攻撃を警戒しながらだと、思うように追撃が出来てない。
「───チッ、表面に浮いてんのは液体金属か?斬っても突いてもすぐ元に戻りやがる」
「ああ、それに負荷が重くなれば途端に後退される。畳み掛けたいところだが、先程の"熱線"は防人さまやトマス達では躱せまい。ユークレス卿が障壁を張れさえすれば造作もないものを」
「おいおい、
素で引いてる"ティアマト"の方も二人と騎士達相手に防戦一方らしい。だが状況を鑑みれば完全にこっちが不利だ。
魔導人形にはスタミナの概念なんて存在しない。持久戦は圧倒的に部が悪いし、誰か一人倒れでもしたら詰みだ。足手纏いの所為で回避が出来ないんじゃ、あの二人でもどうしようもなくなる。
何より、喉をやられた影響で上手く酸素を取り込めない。完全に呼吸出来ない訳じゃないが・・・・・・多分10と保たないかもしれない。気絶するのもかなり問題だが、それ以上に厄介なことが俺の中で起きてやがる。
「───っ!?」
「・・・・・・ふぅん、クソ教主が言ってた"鍵"ってのは相当な劇物なんだな。漏れ出た魔力を啜ってやがる。胸の風穴以上に足引っ張ってんなぁ、まあウチにとっちゃ好都合だけど、な!!」
俺に気を取られた隙を突かれ、カイツ殿は重い一撃を許してしまう───ように見せかけ罠へと嵌め落とす。クリーヒットしたと錯覚させ、まるで滑車の様に巨碗を巻き取り関節から引き千切ってしまった。
逆撃によって生まれた思考の空白を、ウォルフが更に食い破っていく。まるで弾丸の様に突っ込んでいって"ティアマト"へ肉薄、慌てて無防備に突出した人形の腕2本を纏めて両断しちまった。
「クソがっ、さっき喰らった不意打ちの意趣返しってかぁ!?」
「硬ぇけど隙だらけなら喰えるっすね。アンタの技術は超一流かもしれねぇが、戦闘屋としては二流以下っすわ」
ウォルフの煽りに青筋を立てながら、それでも"ティアマト"は我を失うことなく間合いを取って仕切り直す。喰い破れた腕は合計3本、"ティアマト"自身を抱えるために1本使ってるから残りは2本。
さっきまでとは圧力が段違いに弱まってる。攻撃に回せる手数は文字通り半減した訳で、さっきまでの互角の競り合いはもう成立しない。それに朗報は他にもあった。
「・・・・・・鼻先に槍が迫っても"矢"を撃たなかった。自動制御の線はなさそうっすね」
「───加えて攻撃後の隙を晒しても撃たず、後衛への強襲も最初の一発のみ。装填に時間が掛かるのか、それともそもそも
いつの間に移動してたのやら、塀に小さな穴を開けたトマス殿が素材を睨みながらそう溢した。流石は魔導具造りの専門家、解析もお手のものって訳か。
言われてみれば、あの"矢"───熱線ってことはレーザーか?アレはバンバン連射してなんぼの兵器だ。直接味わったからこそ分かるが、攻撃範囲が狭過ぎて急所以外には火傷程の被害も与えられない。
殺したくてと殺せない俺や前衛二人はともかく、ウォルフ達を援護してる騎士達すら排除しないのは不自然だ。そういった状況証拠からトマス殿は確信したんだろうな。
「───あーあ、これだから南部の戦闘民族は嫌なんだよ・・・・・・なぁんで下手な冒険者より殺し合いに慣れてんだかなぁ!?」
「はっはっはっ!ご先祖の教育が行き届いてるもんでね。鉱山ばかり相手してる西部貴族とは鍛え方が違うんだ」
「もしそう思うのなら、せめて護身術くらい真面目に受けてほしいんだけどね」
「・・・・・・兄上、空気を読んでください。それはそれとして、貴方の言う『魔物より魔物らしかい蛮族』の中にか弱いモヤシが居るんですよ?もっと警戒してもらわないと」
いやトマス殿、"ティアマト"はそこまで言ってないぞ?それって多分貴方の感想ですよね??
その場に居る全員が向ける白い視線をフル無視し、トマス殿は捩じ切られた魔導人形の腕を拾い上げる。何かを察した"ティアマト"が目の色を変えるも、手ぐすね引いて待ち構えるウォルフ達に堰き止められる。
───『次は腕だけじゃ済まない』。そう悟って歯噛みする"ティアマト"を他所に、トマス殿が俺の作った【触媒】に水銀と薬品を振りかける。その瞬間、あれだけ発動しなかった魔導具が嘘のように術式を解放した。
「───ゲホッ、ゴホッ。あ"ー、思い切り息が吸えるって最高だな・・・・・・」
「カーツさん!良かった、どんどん顔色が悪くなっていたので心配しましたよ」
「トマス殿、ありがとうございます。クインも助かった。俺たちを守ってくれて」
魔導具に妨害されながらも、クインは風で護りを固めてくれていた。流石にレーザーが飛んできてたらぶち抜かれただろうが、そのお陰で前衛を残らず攻撃に回せた。正しく縁の下の力持ちって奴だ。
「いやぁ一時はどうなることかと焦ったよ。君の学校での活躍を聞いて準備した甲斐があった」
「・・・・・・本当に用意周到っすね」
「敵の素性が割れたんだよ?ただでさえ魔導具職人としては遥か格上なんだし、そりゃあ対策するでしょ普通」
何てことない風に言ってるけど、あの騒動からも対して時間は経ってないんだがなぁ。本当に頼りになる細工師さまだよトマス殿は。
「魔導具は作り手によって魔力波形に癖が出るからね。鹵獲したものを媒介に干渉したって訳。本当なら機能停止させる筈なんだけど、効果を少し減少させるのがやっとだねぇ」
「・・・・・・・・・テメェみてぇな細工師が居るなんざ聞いてねぇぞ。よく今まで隠れられたもんだなぁオイ?」
「理解のある父上と兄上のお陰さ。これからも能ある鷹を気取るつもりだけどね。どっかの誰かさんみたいに目立つのは苦手だから」
おい、それって俺のことか?好きで目立ったことなんて一度もないからな???
・・・・・・まあいい、今は目の前のことが先だ。トマス殿のお陰で傷は綺麗に塞がった。腹に漏れた魔力と左腕の"鍵"とやらの所為で魔法はまだ使えない。だけど自衛くらいは何とかなる。
まだ騙し討ちの危険はあるが、レーザーも飛んでくる気配は無い。周囲の警戒を下げられるならウォルフ達も大胆に攻め込める。おそらく状況は逆転したと言って良い。
───そう断言出来る筈なのに、それでも"ティアマト"の表情には余裕が浮かんでやがる。