「───どこだ此処?・・・・・・あぁ、寺院の宿泊施設か」
昨日は時間が遅かったのもあるが、そもそも疲労がデカ過ぎて話せる状態じゃなかったんだよな。僧兵さんのご厚意に甘えさせてもらったけど、横になったら爆速で寝落ちしてしまった。
しかし、布団で寝るのは久しぶりだ。身体は兎も角精神は覚えてるもんだな、違和感とか全然なかったし何となく落ち着く気がする。
「───ぐえっ!?」
「か、カーツさん!大丈夫ですか!?」
「・・・・・・そうだった、いま左腕が無いんだった」
つい、いつものノリで手を突こうとしてしまった。お陰で顎がとても痛い。廊下に居たらしいクインにも心配かけてとても恥ずかしい。
「おはようございますカーツさん。良かった、痛み止めが必要かと思いましたがよく眠れたようですね」
「あぁ、おはようクイン。疲れが良い麻酔代わりになってくれたよ・・・・・・悪いんだけど、着替えを手伝って貰って良いか?」
「ふふっ、もちろんお任せください」
本当はシャワーも浴びたいんだけど片腕じゃ難しいんだよなぁ。傷そのものは治癒専門のお坊さんが治してくれたけど。そこまで世話されるのは流石に辛い。
取り敢えず匂いはクインが持ってる香水で誤魔化すとして、手早く着替えを済ませよう。まだ此処の責任者に挨拶もしてないんだし、ゆっくりしてる暇はあんまりない。
「───おいっす、おはよう・・・さん・・・・・・?」
「おう、おはようウォルフ。どうかしたか?」
「・・・・・・いや、おんなじ匂いさせてると恋人みたいっすね」
「おいおい、変な冗談でクインを困らせるんじゃねぇよ」
シャンプーの匂いじゃねぇんだし、そう不思議なことでもないだろ。
「それはそうと、坊さんから言伝っす。僧正さま・・・・・・此処の責任者は今日一日予定を空けてくれてるんだと。面会したいなら都合の良い時間を言ってくれってさ」
「話が早いな、それならすぐ会いに行かせてもらおうか」
「了解しました、ではそのように伝えてきます」
そう言ってクインが席を外す。さて、その間にウォルフとも色々話しておこう。特に昨日のことは礼を言っとかないと。
「遅くなったが昨日は助かった。ウォルフや南部の人たちが居なかったらほぼ確実にやられてたわ」
「今更水臭いっすよ。それに南部・・・・・・特にラリマーの人間はカーツにデカい借りがあるからな。ちょうど良い機会ってことで」
「うーん、まあそう言ってもらえるなら北部で頑張った甲斐があるな。それはそうと、トマス殿はまだ寝てるのか?あの人にも礼を言っときたかったんだけど」
「あぁ、あの人は先に起きて『大蛇衆』・・・・・・じゃなくなったのか。錬金術師の姐さんと何かゴチャゴチャやってたすよ」
あ、そうなの。爺さんが最期に果たした仕事だったから心配はしてなかったけど、もう目を覚ましたのか。
まあそういうことなら後にしよう。仕事人の邪魔するのも悪いし。そんなことを考えていると言伝に行ってたクインも戻ってきた。
「戻りましたカーツさん。確認したところ、今なら礼拝堂に居るのでいつでもどうぞ、とのことです」
「ありがとうクイン、それじゃあ案内をお願いします」
「承知しました・・・・・・では此方へ」
クインの後ろで待機してくれてた坊さんに連れられ、静謐な寺院を真っ直ぐ進んでいく。何もかもが目新しい景色だが、霊山特有の厳かな空気の所為か不思議と緊張や焦りが鎮まっていく気がする。
華美さや派手さはないが、相応の技術が使われてるんだろうなっていう見事な風格。そんな泰然とした礼拝堂の入り口を潜ると、中にはこれまたモンク僧って感じのムキムキで徳の高そうなお坊さんが待っていた。
「───よくぞ参られた・・・・・・『天門僧衆』僧正としてこの寺院を預かるルカンと申す。貴殿等の来訪を心より歓迎しよう」
「お心遣い感謝します僧正さま、お騒がせして申し訳ありません。それに私を含め、迅速な治療をしていただいたことも併せて感謝を」
「お気になさいますな、困った時はお互いさまというもの。この巡り合わせもまた我らの修練となろう」
抱拳礼みたいな独特の作法を見様見真似で返す。よく見てみると、この人かなり小柄だな。正面からだと滅茶苦茶デカく見えるんだが・・・・・・身に纏う覇気がそう錯覚させるのか?
まだまだ白兵戦については未熟な身だけど、掲げられた拳のヤバさは見たらすぐ分かった。一瞬義手かと思うほど硬そうな手の甲は生半可な修行でなるもんじゃない。それだけでこの人の
「───そして我々からも貴殿等に感謝を。王家との盟約により、我らは
「あぁ、そういうことでしたか。あの戦力でどうやって貴方達を抑えていたのか不思議だったんですよ。それにそれこそお互いさまです。まさか反政府勢力が大々的に王家と結ぶなど前代未聞ですから」
実はあんまりにも沈黙してるもんだから、裏で【
まあ戒律を守るお坊さんが、王家と交わしたルールを破る訳にはいかないよな。教会の最大戦力に首輪が掛かってないなんてあり得ない訳だし。
「ご配慮、誠に痛み入る───さて、それでは本題に入ろうか。修道教会より聞き及んでいる。『精神を洗い清める遺跡』に御用があるとか」
「はい、厳密に言えば諸悪の根源である
「・・・・・・なるほど、承知した。無論遺跡の利用については問題ない。しかしその前に、貴殿にはやってもらいたいことがある」
おっと、此処にきて足踏みは困るんだが・・・・・・いや、教会から話は行ってるんだよな?なら『天門僧衆』側じゃなく俺の方に問題があるのか。
「一つは貴殿の回復が不十分であるという点だ。出来うる限りの治療は施したが、魔力漏れはこれが初めてではないな?」
「・・・・・・やはり専門家にはお見通しですか。以前一度臓器を損傷しましたけど、何か重篤な問題が?」
「うむ、詳細はまた場を改めて説明させていただく。重要なことは、万全の状態でなければ遺跡の効力に不安が残ること。そして三度目はないよう対策を身に付ける必要があるということだ」
あー・・・・・・なるほど?アナフィラキシー・ショックじゃないけど、2回目ってのが色々問題なのか。しかも今回は負傷したままの時間が結構長かったし、"鍵"っていう厄ネタも同居してたしな。
しかしそういうことなら仕方ない。焦って半端な仕事で終わらせたら、これまで尽力してくれた人達に申し訳が立たない。ノア少年を待たせることになるが、本腰入れて取り組むしかないな。