「───それで、俺の何について熱く語ってたんです?」
「よくぞ聞いてくれた!僕たちは君の義手製作について議論してたところなんだ」
何事も諦め肝心、仕方なく席に着いて俺も参加する。どうやら失った俺の左腕の代わりを用意してくれるらしい・・・・・・さっきの話振りからすると、ロケットパンチを組み込もうとしてたったぽいな。ヒトの腕で遊ぶんじゃねぇよ。
「見ての通りセレンディバイト嬢も復活したことだしね。禊を兼ねた奉仕活動ってとこさ」
「・・・・・・まだ協力するとは一言も言ってねぇんだけどよぉ?」
「おや、この期に及んで拒否権があるとでも?」
ニッコリ笑うトマス殿に、セレンディバイトは苦虫を百匹くらい噛み潰した表情で舌打ちする。憎まれ役を率先してやってくれるのは助かるけど・・・・・・嫌にテンション高いな。
セレンディバイトは行儀悪く机に肘を突きながら、それでもトマス殿の言葉を否定しない。ジグムントの爺さんも言ってたけど、コイツにも命乞いをする理由がある以上、俺たちに協力しないなんて選択はあり得ない。
「───チッ、分かってんだよ自分の立場ってもんくらい。ボケ老人が何を血迷ったかは知らねぇが、せっかく生命を拾ったのに死刑はこっちだって勘弁だよ」
「それは結構、なぁに役に立つならラリマー家で匿う用意はあるとも。次期当主として約束するし、【浄血】についてはユークレス卿が間に入ってくれるさ」
「・・・・・・いや、そりゃあ錬金術師をタダで死なせるのは惜しいですけど。それより何でそんなに乗り気なんです?」
「それは勿論、彼女の技術が喉から手が出る程欲しいからさ!今までは既製品や日用品に"細工"するのが精々だったけど、セレンディバイト嬢が居れば『ぼくのかんがえた最凶の【魔導具】』だって作れそうだ!」
あぁ、それでテンション高かったのか。どうやら相当『錬金術』に期待してたらしい。
『細工師』は既にある物に細工をして魔導具に仕立て上げる能力だ。例えば吸着シートに『音を吸う』機能を付与して盗聴防止の魔導具を作ったり、糸電話に細工して遠隔通信機能を付与したりとか。
とはいえ今までは細工出来る素体は身近にある物に限定されていた。ラリマー領は食糧生産の名所であって職人の街じゃないし、街の需要に合わない物を仕入れて変な疑いを持たれたくもなかったんだろう。
そんなトマス殿にとって、秘密裏に錬金術師を囲えるなんて千載一遇のチャンスだ。興奮するのも仕方のないことかもな。
「ウチにとっても隠遁先は重要だ。独立心が強くて遺恨の少ない南部は正直悪くねぇ」
「そうだろう?もちろん君の希望は出来る限り尊重するとも───たとえば、第三王子の保護と支援とかね」
「・・・・・・チッ!」
まあ俺から見ても未練タラタラだったもんな、セレンディバイトもアーサー殿下も。多分だけど今も魔導人形とかを護衛に置いてあるんじゃないか?
仇敵であるジグムント爺さんが亡くなった現状、最大の関心ごとは殿下の安否だろう。"ティアマト"を使い捨てた以上、もう殿下を助命してやる義理はテロリスト共にも存在しない。そういう意味じゃ、今のセレンディバイトはかなり手を組みやすい相手だ。
「どうやら我らがユークレス卿は、近いうちに王城へカチコミ掛けるおつもりらしい。きっとこれまで通り【
「・・・・・・お前らにとっても第三王子が生きてた方が都合が良いって訳だ。南部としても、碌な後ろ盾のねぇ王子様なら近付き甲斐があるだろうしなぁ?」
「我々の利害は一致している。仲直りの第一歩もして、カーツ殿の生還率を上げる装備を共に作ろうじゃないか」
なるほど、セレンディバイトが作った装備のお陰で助かった───そういう話になれば免罪を勝ち取りやすいってことか。ノア少年の救助に寄与したなら【浄血】の説得も楽になるだろうし。
まあどの道トマス殿の言う通り、彼女に選択肢はない。掌で踊らされてるのが不満であっても、セレンディバイトは差し出された手を取った。
「───それで?ウチとしては頑丈な義手で充分だと思ったんだけど。お前は何でやたらと機能を足してぇんだ?」
「理由の一つは、魔法に依存しない攻撃・防御手段の獲得だね。彼には【
「回復は兎も角として、防御の方は確かになぁ・・・・・・」
治癒士のスカウト手段って基本、教会か冒険者からの引き抜きしかないからなぁ。唯一知己があった治癒士さんは敵の方に行っちゃったし。
だけど防御手段は外注出来るならそうしたい。長杖の障壁も本来緊急手段の筈だったのに、最近はもはやメインツールだもんな。
障壁を出しながら記録した魔法は使い難いし、防御手段を他に回せるなら魔法を二つ使い分けることが出来る。もしそうなれば俺も大分動きやすくなる筈だ。
「・・・・・・一つってことは、他にも理由があんのか?」
「さっきも言ったでしょ?"ぼくのかんがえた最凶の【魔導具】"を作りたいって。いやぁ最近かなり派手に動き過ぎたから、それなりの箔と防衛装置が欲しいんだよね」
「つまり、俺の義手を試作機にしたいってことですか」
まあ中央がトマス殿の存在を知ったら絶対手元に置こうとするだろうな。『細工師』は・・・・・・というより俺の"同郷"のトマス殿は技術のブレイクスルーを起こしかねないからな。
地方と中央のバランスを保ちたい人間からすれば、トマス殿は目の上のたん瘤でしかない。最悪、王立学校の演習で出てきた暗部部隊を差し向けるとかされかねないもんな。
「───とはいえ、今から素体を作ってたんじゃあんまり試行錯誤は出来ないよね。仕方ないから無難な装備を優先するか」
「あー・・・・・・実は西部の隠れ家に色々持ってきてんだよなぁ。もしウチが勝ってたら元々義手をくれてやるつもりだったし?」
「おい待て、どうして火に油をぶち込んだお前??」
ほら見ろ、ちょっと自重しそうだったトマス殿の眼が輝いておられるぞ!?さてはお前もちょっと興味湧いてるな?
「よし、その装備とやらは兄上が合流したら取りに行かせよう。肉体自慢は揃ってることだし、場所さえ分かればすぐ取り寄せられるでしょ」
「出来ればユークレスの修行が始まる前に微調整は済ませときてぇなぁ?やるからには半端なモンは出さねぇからそのつもりでいろよ」
「望むところだ、小物の類いだとあんまり複雑な細工が出来なくて最近消化不良気味でね。ヴィブギヨル王国を翻弄してみせた稀代の天才の仕事、是非期待してるよ?」
・・・・・・あーあー、技術屋根性に火が着いちまったよ。最終的に俺の利益に繋がるから付き合うけどさ?どうかお手柔らかにお願いしますね・・・・・・?