異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第十五話 どうも逃げられないっぽいです

 

 

 

 

 

 

 

「───失礼、カーツという治癒士が勤める治療院は此方でしょうか?」

「はいはい、どちら様ですかー?」

 

 

 また入り口から声がする。今回は声音からして急患って感じじゃないな。

 

 

「ああ、いらっしゃって良かった。二度手間にならずに済みました。ワタクシ、トマス・ラリマー様にお仕えするヌミダと申します」

「・・・・・・ラリマー子爵家の方ですか。俺に何の御用でしょうか」

 

 

 うわ、今度はそっちかよ。以前の食事会もあってかつい身構えてしまうな。やってきたヌミダって人も、目が笑ってない所為で凄く胡散臭く見えてくる。

 

 

「お話というのは他でもありません。貴方達に【指名依頼(クエスト)】を発注したく足を運ばせてもらいました」

「・・・・・・俺はまだギルドに入組したばかりのペーペーですよ?それにこういう話はギルドに直接するものでしょうに」

「其方には別の遣いが行っておりますので」

 

 

 【指名依頼(クエスト)】か。ライル達に依頼を出す予定の俺が、逆に依頼される側になるなんてな。コイツはとんだ偶然だな。

 

 ・・・・・・いや、そういう話じゃねぇよ。そう言ってやりたいがこの人に言っても仕方ないだろうな。そもそもの言い出しっぺは子爵令息だろうし、ヌミダさんとやらはあくまで伝言役だろうし。独断専行とかでなければ、な。

 

 

「───それで依頼というのは?状況的に断るって選択肢は無さそうですしね」

「話がお早くなによりです。依頼内容はずばり『指名手配魔物の討伐』になります」

「・・・・・・はい?」

 

 

 意味が分からなくてついクインの方を見た。しかしクインも首を傾げており、俺が無知なだけじゃなかったと内心で胸を撫で下ろした。

 

 

「あの、質問なんですけど。【指名手配魔物】って懸賞金が掛かった強力な魔物のことですよね?態々俺に依頼なんかしなくても、腕利きの冒険者が勝手に討伐してくれますよ」

 

 

 仮にラリマーの冒険者で勝てない様な相手だったとしたら、尚更俺に頼むべきじゃない。クインの魔法頼りだとしてもリスクがデカ過ぎる。

 

 仮にも貴族の子息に仕える人間なら分からないとも思えない。だがヌミダさんは肩を竦めるだけだ。

 

「お考えはご尤もでしょう、ですがワタクシの口からは何とも・・・・・・ギルド関係者から詳細を伺っていただけると幸いにございます」

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

 おい、それって貴族の従者でも説明すると面倒なことになる内容ってことか?もう今の時点で物凄く憂鬱になってきたんだけど・・・・・・。

 

 

「・・・・・・貴方は平民にしては聡い方だ。故に一つだけ忠告しておきましょう。我が主人トマス様のご不興を買うことだけは、決してなさいますな」

 

 

 それだけ言い残し、話は済んだとばかりに帰ってしまった。残された俺達は、ただ呆然と現実を受け入れるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───おお、来たかカーツ。座ってくれ」

「はい、失礼しますラングレー副支部長」

 

 

 兎にも角にもまずは情報が必要だ。俺達は採算度外視の急ピッチでデニスを治療し、三日後にはギルドへ向かうことが出来た。

 

 ヌミダさんの言ってた通り此方にも話が行ったらしい。受付に行くとすぐに奥の応接室へ通してもらえ、中にはラングレー副支部長が待っていた。

 

 

「それじゃ早速だけど、依頼内容の前に色々伺っても?背景やら前提になる情報が全然足りなくて」

「まあお前らは街に来たばっかだし、そりゃそうだわな。使用人共も言い辛ぇのは分かるが、こっちに押し付けてくんなってのまったく。さて、何から話したもんだかなぁ・・・・・・」

 

 

 副支部長の話を要約すると、くだんのトマスってのはラリマー子爵家の次男様らしい。付け加えると、このお家騒動を引っ掻き回してる中心人物だとか。

 

 そもそもヴィブギヨル王国の貴族は、長子相続が慣習らしい。もちろん例外は幾つもあるそうだが、基本的には長男が嫡子として家を継ぐ。

 

 次男に相続争い参加を許してしまった長男にも落ち度はあるかもだが、それ以上にトマスが曲者とのこと。目的の為なら手段を選ばないらしく、長男の悪評ばら撒いたり手柄を横取りしたりと何でも有りなんだとか。

 

 

「・・・・・・いや、ただの狂犬じゃないか。何で処罰されないんだ??」

「それがなぁ、昔は次男坊サマも大人しく穏和な方だったんだぜ?ネコ被ってたのか、それとも生死の境を彷徨ったのが原因か。庶民でも気軽かつ安全に卵料理が食える発明をしてくださったのもあの方だしなぁ」

 

 

 次男が豹変したのは、数年前とある流行り病に罹ってからとのこと。それも今じゃ長男による暗殺未遂って噂が出回ってるらしく、真相は不明とのこと。

 

 

「子爵閣下からはお家騒動って聞いてたが、内容を聞くと印象が変わるなぁ」

「さて、そこが子爵様も頭が痛いとこだ。ご長男も自分が頼りない、次期当主としての素質を疑問視されれば慌てて噂の鎮静化に動いた。だがその時にも色々してやられたらしくてな。今じゃ長男も次男もお互い様ってのが街の主流な意見さ」

 

 

 うわぁ・・・・・・次男が長子継承って伝統に横槍入れた話が、いつの間にかどっちもどっち論に持ってかれてるのか。エゲツないな。

 

 しっかし、何か引っ掛かるな。レッテル貼り、印象操作、それから貴族の伝統をガン無視した行動・・・・・・まさか、な。

 

 

「貴族側の意見も聞いてみてぇな。そっちの美人さんから見て、今回の件どう感じる?」

「そうですね、私もあまり聞いたことがない事例です。こういった跡目争いというのは非嫡子が際立って優秀だとか、あるいは御輿として担ぐ周囲の暴走が大半なので」

 

 

 そうだよな。そもそも血統主義ってのは、下剋上や相続争いで家の力を落とさない為の措置だ。慣例から外れる行為そのものが忌避されるだろうし、それを覆すなら相当なパワーが必要だ。

 

 そういった前提がある以上、嫡男でもないのに噛み付くなんてまさしく晴天の霹靂だ。ヌミダさん含め周囲の人間は気が気じゃないだろうな。

 

 

「───お家騒動については何となく理解しました。あとは依頼内容についてだけど」

「おう、"指名手配魔物の討伐"についてだな。何で態々こんな依頼が成り立つのか、もう大体検討付くだろ?」

「・・・・・・街に被害を出した魔物の討伐。悪評を流布するよりずっと実績になります。子爵令息としては自分の手柄になる形で成功させたいでしょうね」

「逆にこの騒動に関わりたくない人間にとっちゃ、下手に討伐したら巻き込まれかねないし敬遠しそうだな。まさか、御令息サマが依頼出すまで討伐が実行されなくなった・・・・・・?」

 

 

 俺達の解答に、副支部長は溜息と共に肯定した。とことん依頼を受けない選択肢を削ってくるよな、ホントに。

 

 

「・・・・・・はぁ、ギルドから見て早急に対処が必要な案件を見繕ってもらえるか?」

「待ってください、カーツさん。依頼は受けざるを得ないとしても、トマス殿に肩入れしたと見られるのは得策ではありません」

「それについちゃ心配すんな、こっちでもちゃーんと用意してある。専属契約してるなら兎も角、貴族サマの騒動に巻き込まれるのは御免だからな。お前さん達は依頼に集中してくれや。俺としちゃ三つほど、急いでやってもらいたい案件がある」

 

 

 その用意ってのは後で聞き出すとして、一応ギルドでも対応してくれるってのは良いニュースだ。無闇に信用すると足元掬われそうだし、情報はしっかり貰わないとだが。

 

 

「しかし魔物の討伐となると、前衛を雇う必要がありますね。カーツさんはまだ乱戦はおろか、敵の攻撃を回避しながら戦う訓練を積めていませんから」

「同感だな。目撃情報があるって言っても、二人で魔物を探しながら戦うなんてのは出来る気がしないな。クインは兎も角として、俺なんか死角からの一撃で簡単にやられそうだ」

「そっちについても心配無用だ。ちゃんと腕利きを用意してあるし、ソイツは今回の騒動じゃ中立で動いてる奴だ」

 

 

 そりゃそうか。指名依頼なんてギルドの信用にも関わってくるんだ。入ったばっかの俺と、あくまで助っ人の部会者に任せきりな訳がない。多分監視の意味も含めた応援だろうな。

 

 とはいえこの状況で首突っ込めて、しかも腕も立つ人材が居るならとっくに依頼を消化してる筈だ。何か理由でもあるのか?

 

 

「本当に大丈夫なのか?今は中立でも、 圧力掛けられたんですぐ掌返し、なんてのは困るんだけど」

「だから安心しろって、そこんとこも織り込み済みだ。トマス殿もアイツを引き込むことは絶対無いからな」

 

 

 ・・・・・・いやそれ、もっと面倒な人間巻き込んでないか!?街の統治者の威を借る狐が手を出せないってよっぽどだぞ!

 

 

「カーツさん、気持ちは分かりますが状況的に相手を選べる場合ではないかと。依頼を受けざるを得ない以上、何処かでリスクを呑むしかありませんよ」

「いや、分かってるよ。分かってるんだが・・・・・・ふぅ、その腕利きって人の名前は?」

「ウォルフ・ラリマー、基本ソロでやってる三等級冒険者だ」

「・・・・・・・・・・『ラリマー』?」

 

 

 ついさっき聞いた覚えのある苗字だなおい?多分俺の聞き間違いだよな。そうだと言ってくれ頼むから。

 

 

「よし、じゃあ入ってきてくれ」

「あ、ちょっと待って。もう一度───」

「───うっす、邪魔させてもらいますよっと。アンタ等が最近来たっていう治癒士さん達か。ウォルフ・ラリマー、こんな身なりでも一応ラリマー子爵の養子ってヤツです。まあ城には入れねぇんだけど」

「・・・・・・」

 

 

 扉を狭そうに開けて入ってきたのは、身長が2m近くありそうな偉丈夫だった。魔物素材らしき革のロングコートと身長に見合う筋骨隆々さ、まさに冒険者って感じの風体だ。

 

 喋り方からして貴族の養子とは思えないが・・・・・・それよりも問題は血が繋がってない筈なのに、透き通る様な水色の髪は何処かの子爵様とそっくりだってことだ。

 

 ・・・・・・なあ、やっぱ無理言ってでもこの話キャンセルに出来ないかな?

 

 

 

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