「───せりゃあッ!!」
『グゲェッ!?』
身の丈より大きな槍が振り下ろされる。親玉の呪い師みたいなゴブリンがバリアか何か張ってたようだが、諸共紙屑みたいに両断された。
依頼内容より数の多い、総数50越えの群れは一匹残らず駆逐された。いやー、森を縄張りにしたゴブリン達の歓迎は熱烈だった。
ブービートラップや木々の上からの狙撃、それから家畜化したデカい猪を砲弾代わりに突撃させたりと実に多種多様だった。だがゴブリン達渾身の布陣は、一人の冒険者によってなす術なく蹂躙された。
素振りから炸裂した衝撃波が弓矢諸共ゴブリンを寸断し、魔猪の突進は片手で止められた。そこからはバターでも斬るかの様に次々始末して回り、残ったのは魔物の屍の山だけだ。
「・・・・・・俺達要らなくね?」
「いやいやいや、俺一人じゃ無理っすよ。治癒士も連れずに【魔技】連発するなんざ自殺も同然だ」
「そうなのか?どうにも学がなくてすまんな。前に居たパーティは理由も言わずに【
「そりゃまた剛毅なことで。そもそも魔力ってのは人体に有害なんすよ。特殊な臓器に入ってる限りは問題ないみたいだが。そんなもんを全身に流して強化したり動きを矯正する【魔技】は当然負担がデカい。あっという間に体力が尽きちまうんすよ」
へー、確かに言われてみればハンスとか雇われのガルゥは偶に光ってたりしたか?とはいえ、魔法との違いがサッパリ分からん。魔法だと術者に負担とかピンとこないし。
何度か頼まれて【
「魔力を扱うことそのものは、魔法使いでなくとも誰でも出来るんですよ。もちろん得意不得意はあるでしょうが。けれど魔法を扱うには、まず術式という"器"を認識出来る先天的素養が必要になります」
「お、さっすが専門家。まあそういう事情なんで、【魔技】って魔法より扱いが下なんすよ。魔法は術式のお陰で反動もずっと少ないし、体系化されてるから継承するのも楽だし」
ほほう、それは良いことを聞いた。カーツ少年は攻撃系の魔法はからっきしみたいだが、もしかすれば魔技なら習得出来るかもしれない。そう呟くとウォルフに苦笑された。なんだなんだ??
「いや、アンタ【硬気丹術】習うって言ってたじゃないすか。てっきり予習として聞いてるんだとばかり」
「・・・・・・なるほど。光属性魔法と【魔技】のハイブリッドなのか、【硬気丹術】って」
てっきり漫画に出てくる気功だとか発勁みたいなモンかと思ってたが、ようやくイメージが固まった。自分で勝手に試さなくて良かったとも思ったけど。
そもそも魔力が害のあるモンだとすら知らなかったからな。もし事前知識なしの思い付きで試してたら・・・・・どうなってたか結構怖いな。
「【魔技】を習いたいって顔してるとこ悪いが、今ギルドに居る中で真っ当に教えられる奴は居ねぇんすよ。そもそも【魔技】は落ちこぼれの技で、かつ学の無いヤツが適当やって習得したモンだ。俺も擬音抜きで説明しろって言われても困るしな」
「・・・・・・まあ楽して身に付けられる技術なんて無いよな。幸い俺には光属性魔法もあるし、色々試してみるわ」
「そうしてくれ。ああそれと、間違っても他の属性で【硬気丹術】の真似事はやめてくれよ?」
「あ、それは私からもお願いします。光属性は最も人間と親和性の高い属性なので、余程のことが無ければ体内に浸透させても問題ありません。ですが他の属性魔法だと、【浄血】のように"特殊な処置"を施されていなければ大変危険です」
おうふ、マジか。今のところ俺は光属性しか使えないけど、試してみたら万が一ってこともあり得るからな。先に言っといてくれて助かるよ。
「それはそうと、こんな感じでよろしかったでしょうか?ゴブリンは耳を削ぐとお聞きしていますが・・・・・・」
「おお、あれだけ居たってのに凄ぇ早業っすね。一人に押し付けてすんません」
「いえいえ、私が言い出したことですので。それでは帰りましょう。ウォルフさんには、行きと同じく先導をお願いしても?」
ウォルフが敵を片付けた後、クインには討伐の証拠になるゴブリンの耳を剥ぎ取ってもらってた。単に証拠以外の意味もあるらしいが・・・・・・ちょっと忘れたな。あとで復習しとこう。
クインが念の為借りた道具を返すと、ウォルフは手慣れた様子で後片付けを始めた。それを背中ごしに観察しながら、俺はクインに小声で話しかけた。
「(・・・・・・それで、どうだった?)」
「(装飾の特徴は幾つか一致しました。あの時の襲撃に利用されたゴブリンは、おそらくこの群れから選抜したものでしょう)」
「(やっぱりこの辺にも手が入ってたか。当たってほしくない予想が当たっちまったな)」
討伐依頼の直前に知った情報だが、一口にゴブリンと言っても群れごとに個性があるらしい。その一つが装飾品だ。
といっても骨を削った飾りや葉っぱを塗った程度のものだが。一ツ目巨人と違ってゴブリンは何体か死体も残ってたからな。しっかりその残留物を回収してたクインに、耳の剥ぎ取りついでに調べてもらった訳だ。
本当に万能過ぎて俺の仲間が凄い。風でヒョイっとするだけでスパスパ切り取っていったもんな。やっぱり俺とは積んできた経験値が違うな。
「───さて、忘れモンはないっすか?そんじゃ帰りますかっと」
「・・・・・・え、それ持って帰んの?クインが作業してる間なんかゴソゴソやってるなって思ったけど」
「ヒュージボアは今の時期が一番脂も乗ってて美味いんすよ。血抜きとコイツを使えば鮮度も保てるんで」
片手で軽々持ち上げられた元・ゴブリンの家畜には、お札の様な魔導具が貼り付けられていた。そういえば似た様なのが市場の食用鶏にも貼り付いてたな。
「俺はよく知らねぇっすけど、確か『サッキン』とかいうのをしてくれるらしい。あと寄生虫とかも良い感じにやっつけてくれるみたいでさ」
「へー、随分便利なモンがあるんだな」
「コレ作ったの、アンタ方に依頼を受けさせた御仁っすよ?」
え、マジか!?いや、考えてみりゃそうか。衛生面なんて考えが流行るほど近代的でもないからな、この世界。しかし・・・・・・。
「こんな札一枚にそんな機能突っ込めるなんて凄いな。俺なんて【触媒】作るだけでひーひー言ってんのに」
「コイツは特殊な素養があって初めて出来る芸当だからな。そういう人を纏めて【細工師】って呼ぶみたいっすけど」
「【鑑定】スキルで発見されればすぐに貴族からスカウトが来る希少な能力ですよ。自身が習得した術式を込めるなら兎も角、一から術式を組み上げて道具に込めるには特殊な知覚能力が必須なんです」
へー、特殊な知覚か。例えるなら俺にはただ青い色にしか見えなくても、【細工師】は濃さ明るさを正確に知覚出来るからより複雑で見事な絵画が作れる、みたいなモンか?
しかし貴族から庶民まで助かる道具を作ってた奴が、今じゃ権力闘争の鬼か。そのままの路線で発明しまくってたら、騒動なんか起こさなくても良い線行けたんじゃないかな。もったいねぇな。
「それで、どうだった俺の働きっぷりは?アンタ方のお眼鏡には適ったっすかね」
「適うなんてもんじゃないよ。バッタバッタと薙ぎ倒しながらこっちには一匹も寄せ付けなかった。これなら安心して任せられる」
「そりゃ張り切った甲斐があったってもんですよ。実際に見て確かめてもらっても、やっぱり等級で判断されるってのは珍しくねぇんすよ」
あー、それは確かに。俺みたいなにわかじゃよく分かんねぇが、それでもウォルフは【明星】の団員にも負けてないと思う。最初に三等級って聞いてたから凄く意外だった。
「やっぱり等級上げるのってソロじゃ厳しいのか?」
「そうっすね。さっきも言ったが一人だと持久戦に不安が出るんで、こうして森の奥まで突っ込む依頼は受けれねぇし。あとは単純に、アンタ方みてぇに余計な詮索をしない人ってのはどうも珍しいみたいで」
「あー・・・・・・」
それは割と無理筋じゃないか?俺達みたいな余所者なら兎も角、この街で育った人に"ラリマー"の苗字を無視しろっていうのは。クインもちょっと苦笑してるし。
あと俺達は単純に忙しいのと変な事情に巻き込まれたくないだけだ。背中を預ける同僚とかでなけりゃゴシップへの興味は人並みにはある。言葉遣いが全然貴族らしくないとことか普通に気になる。
「今回の依頼をこなせば、これまでの実績と合わせて二等級に上げてくれるって話だ。俺もアンタ方の事情には耳塞いどくから、上手いことやっていきましょうや」
「・・・・・・そうだな、そうした方がお互い楽で良いな。改めてよろしく頼む、ウォルフ」
「こっちこそ、こんな機会そうそうねぇし頼むぜカーツ」
差し出された右手に握手で応える。先程の槍捌きといい道中の真面目な道案内といい、同僚としてウォルフは信用して良いと思った。
色々ややこしいフラグが見え隠れしてるが、迷惑さえ被らなければこっちとしてもどうでもいいしな。まだまだ討伐対象も多いし、気張って行きますか。