異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第十七話 報・連・相は忘れずに

 

 

 

 

 

「───これで粗方回ったか?」

「そうですね。"森荒らしのデュデュク(ゴブリンマーチャント)"、"兵士喰らいのファフテュバ(メイジトロール)"、"宝石呑みのクアッフル(ウォーヴァルチャー)"・・・・・1週間の強行軍としては上出来かと」

 

 

 クインの言う"強行軍"は嘘でもなんでもない。何せこの1週間()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もちろん【快復魔法(ヒーリング)】で適宜回復を挟んじゃいるが。

 

 こうなった理由は単純だ。まず一つは進捗確認とか適当な理由で治療院に来るだろう、トマス令息サマの関係者と顔を合わせない為だ。何せ相手は情報操作がお得意らしいからな。俺達がトマス派だなんて噂される根拠は極力作りたくない。

 

 そしてもう一つの理由なんだが、つい協力者であるウォルフにカーツ少年の"日課"について口を滑らせてしまったからだ。どうやらそこそこ経験豊富らしい彼からみても、俺のやってることは結構奇抜だったらしい。

 

 連続で使用した場合、どれだけ長く集中と体力が持つのか。物凄く興味を惹いてしまったのと、俺自身知的好奇心を擽られたからこうして実践した訳だが───。

 

 

「いやー最初は半信半疑だったが、光属性魔法って使い方次第でこんなに便利なんすね。まさか1週間もの間疲れ知らずとは思いもしなかった」

「・・・・・・やっぱり普通の使い方じゃない、よな?」

「当然でしょ?教会とギルドに保護された治癒士にこんな苦行課せられる訳がねぇ。バレたら修道騎士の精鋭と、王都にあるギルド本部直下の冒険者にシメられてポイっすわ」

 

 

 まあそりゃそうだよな。24時間働けることと、24時間働きたいかは別問題だ。俺は寧ろ昔のブラック労働と違って関節や目、それから脳が軋まないからマシくらいの感覚だけど。

 

 ただ、そのジェスチャーは"ポイっ"なんて軽いもんじゃないんだが。どう見ても首を捥ぐモーションだったよな?

 

 

「それにしても、最初の時よりだいぶ【魔技】の扱いもマシになったんじゃないすか?あんまりにもへっぴり腰だもんで、つい笑っちまったけどさ」

「・・・・・・アレは忘れてくれ。対人の喧嘩ならまだしも、魔物とタイマン張った経験なんてなかったんだししょうがないだろ」

「それでも、この1週間で随分良くなりましたよ。もう少し経験を積めば、一対一で魔物を倒せるようになるでしょう。万一私達と分断されても安心ですね」

「怖いこと言うなよ・・・・・・」

 

 

 流石に手配魔物で試したりはしないが、道中で遭遇した魔物を相手に何度か【魔技】の練習をさせてもらった。ウォルフから聞いた情報をヒントに、魔力を少しずつ身体に行き渡らせながらの実戦だ。

 

 まあ最初の方は我ながら酷かった。何せ地球に居たイノシシなんて目じゃない化け物だ。ムカつく人間をブン殴るみたいにいかないのは、頭ではわかってるつもりだったが・・・・・・。

 

 失敗したその都度二人にアドバイスや手本を示してもらいながら、少しずつ改善された・・・・・・と思う。クインの言う通り、まだ一人でやり合うのは不安しかないが。

 

 

「にしてもこの面子で結構な数の魔物を倒してきたけど、成長というか伸び幅って言えば良いのか?それが二人よりショボい気がするんだけど。こういうのって初心者の方が分かりやすく伸びるもんじゃないのか?」

「あー・・・・・・カーツのモチベを下げないよう言ってこなかったけど、それ仕様なんすわ。残念ながら」

「えっと、魔物を倒した際の成長がどの様にして行われるかは覚えていますか?」

 

 

 クインの言葉にもちろんと返事する。魔物は死んだ際に、残った魔力と生命エネルギーが混ざった特殊物質───【マナ】を放出するらしい。それを浴びるか吸収すると『魂の階梯(レベル)』とやらが上昇するんだとか。そう回答するとクインが満足そうに頷いてくれた。

 

 詳しいことはよく分からないが、魂の格は現実にも反映されるらしい。仮にウォルフの階梯(レベル)が20で俺を15だとすると、同じ力で殴り合っても5階梯(レベル)分上位者の望む方向に補正が発生する。

 

 つまりウォルフが殴ったらより強く、逆に殴られるのはより弱く修正される訳だ。こうして思い返してみても、俺だけハブられる要素はなさそうなんだが・・・・・・?

 

 

「予習はバッチリですね。それでは吸収する過程についてですが・・・・・・前衛は至近距離で倒すことで取り込み、後衛は発動した魔法との繋がりを通じて効率的に【マナ】を吸収するんです」

「ああ、クインが呪いをくらったのもその繋がりからだったよな。なるほど、前衛は見たまんまとして後衛はそんなカラクリで───ん?それじゃ治癒士はどうやって取り込めば良いんだよ」

 

 

 距離は遠いし魔法の行使も基本的に魔物でなく味方にするもんだ。でもそれじゃ取り込む為の【マナ】との繋がりなんて作れなくね?

 

 

「・・・・・・お気付きになりましたか。おっしゃる通りで、それが治癒士と他の冒険者との能力格差に繋がりやすいんです。治癒士の方々にも全く吸収されない訳ではないんですが、やっぱりその量は雲泥の差でしょうね」

「治癒士がわざわざシガラミの多い教会やギルドに所属してるのも、コレが一番デカい要因っすよ。冒険者なんて偉そうに言った所で、一部の例外を除きゃ大抵ゴロツキの延長なもんで」

 

 

 おおう、やっぱりそうなるのか。ゲームとかだと戦闘力皆無な回復特化キャラも居るが、アレは主人公パーティという善性と人間性を山ほど詰め込んだ集団だからだ。あるいはシナリオの都合、深刻な仲間内でのトラブルが発生しないって前提の組織でしか通用しない。

 

 実力主義の世界で格別暴力に乏しく、しかも冒険者はモラルが高くないときた。相手が人間だろうと揉め事が起きれば、解決手段としてまず暴力って話になるだろうな。そりゃ大きな組織の後ろ盾がなきゃやってられんわ。

 

 

「───話が逸れましたね。そういった仕組みなので高位の治癒士は非常に珍しいんです。より上位の治癒士を目指す方はカーツさんのように、【魔技】あるいは【硬気丹術】を修めるみたいですね」

「とはいえ、パーティの生命線をわざわざ危険に晒すってのはどうしても忌避されちまうけどな。教会の目もあるっすけど、そもそも我が強い冒険者は他人に足並み揃えるのが苦手だからな」

「そりゃそうか、俺ももし二人から止められたら多分思い止まるだろうし。でもそうなると、ウォルフみたいにソロ活動を求めてる場合はどうするんだ?」

 

 

 ウォルフみたいに何か事情がありそうな奴とか、あるいは性格的に集団行動が向かない奴とか居るだろ。治癒士だからって皆んながみんな社交的とは限らないし。

 

 【硬気丹術】って自衛手段を持ってる奴ならソロ活動とかもアリな気はするんだが。二人の反応を見てるとやっぱり少数派みたいだけど。

 

 

「治癒士のソロ活動なんて聞いたことないっすね。教会がそれなりの銭積んで育てた人材な訳で、事前にギルドが相性の合うパーティを選別するって聞いたな」

「そういえば教会からの出向って扱いなんだっけ?それじゃソロとか無理だよな。団体行動前提で派遣してるんだし」

「冒険者としての治癒士はそうでしょうね。ただ、確か教会の最大戦力である治癒士───【聖人】は無制限の自由行動が認められていた筈です。何でも、竜を単独で屠る程の手練れだとか」

「何それ怖い・・・・・・治癒士、なんだよな?その【聖人】って人も」

 

 

 本当に同じ人間なのか疑問に思うけど、それはそれとして良いことを聞いたな。強くなるには向かい風が多い治癒士でも、飛び抜けた才能と努力があればそこまで強くなれるって訳だ。俄然やる気が湧いてきた。

 

 そんな風に雑談しながら歩いていると、ラリマーの外壁がだいぶ近付いてきた。どれだけ方向音痴だとしても、あんな目立つ目印があれば帰ってこられそうだ。結構遠出したけど一度も見失わなかったな。

 

 

「そんじゃ、一度ギルドに戻ったら一時解散っすよね。換金は俺がやっちまって良いのか?」

「お願いするよ。その辺の作業も実際にやってるとこ見て覚えたいし」

 

 

 ウォルフが背負ってるデカいバッグに視線をやる。中にはクインが綺麗に削いだ魔物の一部がたっぷり詰まってる。かなり重そうなんだがウォルフの足取りは行きと全く変わらない。

 

 因みにこの討伐証明だが、ゲーム的な表現でいう"ドロップアイテム"も兼ねているらしい。というのも放出される筈の【マナ】は魔物の肉体にも少し滞留するらしく、そうして【マナ】に染まった部位はそうでない物と価値が全く違うそうだ。

 

 種族ごとにどの部位に滞留するかは大凡決まってるらしいが、偶に変わった場所を【マナ】が染めることがある。そういった珍品は"希少品(レアアイテム)"として高値で取引されるとのこと。今回の討伐依頼でも幾つかそんなのが出たって言ってたな。

 

 

「面倒なんで報酬は全部纏まってから山分けで良いっすか?」

「そうだな、それが一番簡単だよな。クインもそれで良いか?」

「お二人にお任せします。次に集まるのは何時にしましょうか」

「正直身体はまだまだ軽いっすけど、流石にベッドでゆっくりしたいんで。一日休みを取って、明後日に再開ってことでどうすか?」

 

 

 そうだな、それが良さそうだ。ギルドもこの状況で明日治療院に勤めろとは言わないだろうし。いっそ宿に戻らずギルドの仮眠室でも借りようか。

 

 そんな話をしていると、街の反対側から青い花火の様な光が空を飛ぶ。何事かとクインの方を見ると、何故か忘れ物を思い出したみたいに表情が強張っている。

 

 

「・・・・・・あの、一つだけ確認したいことがあるんですが」

「うん、何だ改まって?」

「私たち1週間も外に居たじゃないですか」

「ええ、居たっすね」

 

 

 クインが急にそう尋ねると、ウォルフまで『あ、やべ』と小声で呟いた。俺も何か忘れてる気がしたが、思い出すより先に答えを言われた。

 

 

「私もつい勢いに任せてしまい失念していたのですが・・・・・・1週間も音信不通だったのは不味いのでは?遠征依頼でもありませんし、あるいはギルドで行方不明と処理されてませんかね?」

「・・・・・・・・・・あっ」

「急いで帰るっすよ。ラングレーの爺さんは怒ると長ぇんで」

 

 

 このあと、滅茶苦茶走った。入り口で何時ぞやの門番さんが、俺たちを見るなり滂沱の涙で迎えてくれた。クインの推測が当たっていたのと、この後起こるであろうイベントに俺達は震えた。

 

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