異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第十九話 またお前かよ!?

 

 

 

 

 

 

「───そう固くならないでください。何もとって食おうだなんて考えてませんから」

「いや、この状況でそれは無理でしょうよ・・・・・・」

 

 

 再びソファに戻ることとなってしまった。何せ紛うことなき貴種が、わざわざ向こうから挨拶して話がしたいって言ってきたんだ。

 

 ここで断って逃げたら色んな意味で後が怖い。幸いラングレー副支部長とクインが両脇を堅めてくれてるんだ。下手に言質を取らせない限り面倒なことにはならないと思う・・・・・・多分。

 

 

「ラングレー副支部長、それから【蒼の防人】さま。僕はカーツ氏と内密な相談がしたいので、席を外していただけませんか?」

「そうは行きませんぜトマスさまよ。コイツはまだギルドに入ったばかりのひよっこなんでね。妙な口約束をさせちゃボスに申し訳が立たないんでさ」

「ええ、大変失礼ですが私も承知しかねます。そもそも初対面の相手に内密の話など尋常の内容とは思えません」

 

 

 おお、珍しくクインの語気も荒い。まあそれも当然か。いきなりアポなしで突撃かました挙句、異世界素人と二人きりにさせろなんて言ってきたんだからな。

 

 冒険者ギルドの責任者と有数の魔法名家の防人から睨まれてるってのに、次男坊サマはどこ吹く風と言わんばかりに茶を啜ってる。大した胆力だと思うが、それ以上に年齢不相応で少し気味が悪い。

 

 

「ご理解いただけないのなら、内輪話が出来る状況を用意するだけです。早いか遅いかの違いでしかありませんよね?」

「・・・・・・随分とまあ、はっきり言いなさる」

「勿体ぶったところで時間の無駄だろう?部下想いは結構だが、噛み付く時と場所は選べラングレー」

 

 

 おいおい・・・・・・武力で地位を築いた人間に"力尽くでやる"って宣言するなんてな。ラングレー副支部長の顔に青筋が浮かんでるよ。

 

 それは兎も角、何か違和感を感じるな。手段を選ばないのはさて置いて、幾ら何でも性急過ぎないか?こんだけ口が回る人間ならもう少し融和的に話が出来そうなもんだが。

 

 

「───まあ良いでしょう。元々副支部長にも話すことはあったからね。カーツ氏とはその後でも構わないさ」

「・・・・・・それで、ご用件とは?」

「そう警戒するな。一週間後に戻ってくる冒険者達についてだ」

 

 

 副支部長の反応は覿面(てきめん)だった。そりゃそうだ、現状ラリマーを支部長に代わり仕切ってるこの人ですら、負傷した冒険者が帰還する明確な日付までは把握してなかったんだからな。

 

 子爵閣下からの情報なら既にギルドにも通達されてる筈だ。つまりはトマスさま独自の情報網って訳だ。

 

 

「───その情報の確度は?」

「君がそれを知る必要はないし、それに重要なのはそこじゃない。問題は彼らが携えてくる"命令書"だよ」

「命令───ッ、まさか!?いやありえんでしょう!!」

 

 

 声を荒げて狼狽える副支部長。何が何だか分からんが、碌でもないことだけはなんとなく理解出来た。俺の反応を目敏く見咎めたのか、トマスさまは噛んで含める様に言い聞かせてきた。

 

 

「命令の差出人は北部貴族のトップである"パイロガーネット"公爵。内容はもちろん『減った人員に対する補充』です」

「馬鹿な・・・・・・南部にある迷宮ならまだしも、更なる損耗を北のためにやれってんですかい!?」

「まったく頭の痛い話だよ・・・・・・さて、僕の頭にはこの辺の事情に関する"裏話"が入ってる。何故こんな無意味な損耗が罷り通るのか、聞きたくはないかな?」

 

 

 すっごくイイ顔で此方に微笑む坊ちゃんに、俺の方はゲンナリしてきた。この後何を言うかなんて俺でも分かるからな。

 

 

「・・・・・・聞かせて欲しけりゃ、カーツと密談させろってんですかい?」

「言っただろう、遅いか早いかの違いだって。それに彼も詳しい話は聞いておいた方が良い。君たちや父上はおめでたい考えらしいが、カーツ氏を巻き込まないなんて不可能だよ」

 

 

 副支部長が物凄く不服そうな顔で此方を見てくる。俺としては何も気にしてないから苦笑して頷いておく。色々気になる・・・・・・というか今怖いこと言ってたし、知らないままってのも後で痛い目に遭いそうだ。

 

 二人きりでの密談も、よくよく考えればそこまで気にする必要もないかもしれない。子爵閣下の免状もあるし最悪席を蹴って逃げれば良いだけだ。

 

 別に俺はこの街に居続けなきゃいけない理由もないし、この一週間でそれなりに依頼もこなした。他所へ行っても冒険者家業は続けられるだろう。

 

 クインには迷惑かけるが───あ、馬鹿な弟を見るような目で笑われた。こっちの考えはお見通しって訳か。すまんな、そして本当に頼りになるよ。

 

 

「───承知しました。ただし獲物とご自慢の道具、それから後ろに居る物々しい連中もご退室だ。その条件でなら飲みましょう」

「もちろんだとも、理解ある返事に感謝する」

「と、トマス様!?この様な荒くれ者の巣窟に御身を独りきりになど───」

「僕は了承しましたよ?弁えろ」

 

 

 そう言って腰に佩いてた剣と短剣、それから懐に入れてたペンらしきものを従者に放り投げる。そのうえ出口を指差して彼らを退室させてしまった。その明け透けな行動には思わずクイン達も目を丸くしてた。

 

 そういえばそうだった、この人ラリマーじゃ有名な【細工師】だった。小柄で武器を持たなくたって、やろうと思えばエグいことだってやれる可能性はある。危ない危ない、つい見た目で油断してしまった。気をつけないと。

 

 

「さて、では先に情報を開示しておこう。といっても、知らない方もいらっしゃることだし最初から説明しましょうか」

「えっと、はい。よろしくお願いします」

「ではまずことの発端から。北部の主要都市である"カーマイン伯爵領"にて迷宮が具現化されました。そしてその迷宮が近年にない()()()()だったことが全ての始まりでした」

 

 

 以前子爵閣下も言っていた。『迷宮そのものは問題ではない』と。魔物の強さも街の戦力で充分対応出来た。問題は迷宮の"内容物"だったってことか?

 

 しかしセレストゲイル出身のクインはともかく、何で俺にまで敬語なんだこの子爵令息サマは?副支部長にはタメ口なのに・・・・・・正直滅茶苦茶居心地が悪い。

 

 

「通常であれば迷宮は最下層にある【魔核(コア)】を破壊することでさっさと消滅させます。しかし大きく分けて二通り、迷宮を残す選択肢が生まれます」

「魔物の討伐証明になる素材が稀少なものだった、あるいは具現化した施設そのものに価値がある場合ってんでしょう?」

「その通りだ。そして今回は珍しく後者、しかも未だ碌に解明されていない古代文明の足跡を多く遺す代物だった。厄介なことに、『万能の霊薬』と『若返りの妙薬』が発掘されてしまったのだからさあ大変」

 

 

 名前だけで面倒の塊だと分かる品だ。なるほど、迷宮を管理する北部以外の貴族が絡まざるを得ない訳だ。トマスさまが肩を竦めるのも当然だろう。

 

 効力がどれほどかは知らないが、おそらく北部に独占されれば派閥間のパワーバランスが崩れるんじゃないか?王都からお触れが出たのは、元々はその辺りを考えたかあるいは他派閥からせがまれたりしたんだろうか。

 

 

「・・・・・・なるほど、いつまでもボス達が帰れない理由が良く分かった。そんなモンが出ちまえば迷宮を畳むわけにゃいきませんわな。だがまだ解せねぇんですわ」

「ええ、今の話だけではカーツさんが巻き込まれる理由にはなりません。仮に各派閥の上層部が急き立てたとしても、既に充分な戦力が集まっている筈でしょう?」

「おっしゃる通りです。迷宮から具現化した遺物を持ち帰るには専用の技術者が必要になります。しかし足手纏いが少し増えたくらいで犠牲を出すほど、ヴィヴギヨル王国は軟弱ではありません」

 

 

 そうだな、ここまでの話だと発掘と探索そのものは順調に聞こえる。それに今駆り出されてるのは、きっと迷宮探索に秀でた選りすぐりの人材だろう。非戦闘員の存在も織り込み済みの筈だ。

 

 

「───しかし発掘された物がモノですから、競争も探索も加熱する一方です。成果物は深部へ向かうほど上質になる傾向がありますから。しかしそこで事件が発生します」

「・・・・・・事件?」

「はい、ある一定の階層を越えた途端に魔物の強さが跳ね上がったのです」

 

 

 その言葉に、クインと副支部長が一斉に顔を歪めた。俺からすれば厄介だな、くらいにしか思わないが。何か都合が悪いんだろうか?手に余るなら上層で満足すれば良いじゃないか。

 

 

「・・・・・・カーツさん。迷宮の調整は誰が、どうやって行うか覚えていますか?」

「え?そりゃクインの実家と同格の、えっと、アガット・・・・・・何とかって家の仕事だろ?その土地の貴族で対応出来る規模の迷宮を───あっ」

「気付いたか。地元どころか各地方から集められた冒険者が手に負えない迷宮を拵えたなんざ、連中にとっちゃ面目丸潰れじゃすまねぇ」

 

 

 うわ、そりゃ最悪だな。どうしてそうなったかは知らねぇけど、災害対策と引き換えに特権得てる家からすりゃ笑いごとじゃねぇよな。

 

 

「でも国中の貴族が探索してる真っ最中で、しかも是が非でも維持したい迷宮なんだろ?幾ら【浄血】の貴族だからって、何も出来やしないだろ」

「おっしゃる通りです。なのでアガットランドは二つの要望を出しました。一つは一刻も早い最下層への到達。そしてもう一つが犠牲を出さない探索です」

「・・・・・・うん?結構なことじゃないか。競争が激化してて現場が大変なんだろ?有力貴族の言質が取れて万々歳、だよな」

 

 

 つい視線を投げたが、二人とも頷いてくれた。良かった、変なこと言ってないよな?あちらもてっきり無茶な要望が来たと思ってたらしい。とはいえ表情は硬いままだけど。どうやら俺の知らない事情が絡んでそうだ。

 

 アガットランドとしては迷宮踏破って実績で、迷宮の難易度は想定内だって既成事実が欲しいんだろ。当然犠牲者多数じゃ誰も納得しない訳で、だからそれも条件に盛り込んだ。

 

 支部長としちゃ滞在が長引くの誤算としても、無謀な突貫させられるよりずっとマジだろう。だけどトマスさまの表情も渋いままだ。

 

 

「カーツ氏の言っていることは何も間違っていません。実際現場はその通達に安堵したそうですよ?少々競争が過熱していましたので。ただ、そんなタイミングで更なるトラブルが発生しました」

「まだあるのかよ・・・・・・あっ、失礼しました」

「構いませんよ、僕も全く同感なので。それでその問題というのはですね───魔物の死体から()()()()()が現れるようになったそうです」

 

 

 

 

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