異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第二十一話 カミングアウト

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

「そんなに警戒しなくても・・・・・・さっきも言いましたが、別に取って食べたりしませんよ?」

「・・・・・・・・・・あの、その敬語やめません?立場逆って話じゃないし背筋が寒いんですけど」

 

 

 主に居心地の悪さで。『あの子爵令息が敬意を持ってるなんて───!?』みたいなイメージ付いても色々怖いし。

 

 

「そうかい、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。あっ、ちょっと待った。コレも使って良いかな?後で不敬とか言われるのも嫌だろうし」

「いやもちろん勘弁してほしいですけど・・・・・・ソレ何ですか?」

「消音シート。こうしてドアに貼り付ければ、貼った方向に向かう音を吸収してくれるんだ」

 

 

 こっっっわ!?じゃあもし俺が騒いでも外には全然聞こえないってことだろ。え、なにもしかして俺今だけ孤立無縁???

 

 というか、さっき丸腰ですって感じのポーズ取ってたよな?その癖こんな物騒な物仕舞ってたあたり、やっぱり油断しちゃ駄目な人だわマジで。

 

 

「だから怖がることないって。お互い他人に聞かれたらマズいだろうって僕の心配りさ」

「え・・・・・・俺は一体何を吐かされるんです?」

「いやほら───君()地球からの転生者だろう?多分だけど僕と同じ日本人」

 

 

 ・・・・・・君『も』ってことは、やっぱりこの人も元現代人だったか。事前情報からもしやとは思ってたけど、いきなりぶっ込んで来たな。

 

 いや待て、俺はヒントがあったから兎も角として、何でこの人は俺がそうだって気付いたんだ?ボロを出した覚えはないんだが。

 

 

「不思議そうにしてるけど、君結構分かりやすかったよ?有り体に言えばロールプレイが不十分」

「ロール・・・・・・?」

「カーツって少年は貴族でもなければ商人でもない、芋臭さ100%の純田舎出身者の筈だ。それなのに君は教養が少し有り過ぎる。身なりは出来る限り清潔にしてるし、さっきもあんな難しい話にちゃんと相槌打てるくらい付いてきてる。普通はじっと座ってることすら出来ないものなんだよ」

 

 

 ───え、ああ・・・・・・いや、ええぇッ!!?

 

 はっ、しまった!そうだ、真面目に生きてた筈のカーツ少年ですら文字の読み書きが出来ないんだぞ!!そんな教育水準じゃ、マナーや聞く姿勢なんてお上品な作法を教わってる筈がない。

 

 うわぁ、ミスった。これまでの行動を思い返すと頭を抱えたくなった・・・・・・もしかしてだけど、ラングレー副支部長が色々目を掛けてくれてたのも()()()()()()か?

 

 多分期待してくれてるのは本当だけど、どっかのスパイか疑われてもいた?あるいは、ご落胤みたいな厄介事抱えた奴と思われてた??

 

 

「黄昏てるところ悪いけど、もう一点注意した方が良いよ。僕達この世界の言葉を元いた世界みたいに流暢に使えてるよね?だけどカタカナというか和製英語というか、そういう単語は全く流通してないみたいだ。名前は洋風なのにね」

「・・・・・・・・・・そういえば?」

「なのに君は『消音()()()』って言葉に反応すらしなかっただろう?どうしてだろうね、普通なら『しーと?』ってオウム返しするのに」

「・・・・・・降参です、認めます。俺はいつの間にかカーツ少年に憑依してた日本人です」

 

 

 両手を挙げて全面降伏する。これ以上淡々と掘り下げられたら悶死してしまう。主に自分の至らなさの所為で。

 

 今まで自分はちゃんとこの世界に溶け込めてるって信じて疑わなかった。思い返せば思い返すほど、自分の行動のアラで震えてくる。うわぁ、辛い・・・・・・。

 

 

「まあ、虐めるのはこの辺にしておこうか。僕も今日まで同類は見たことがなかったことだしね。さて、密談した理由の半分はこれで仕舞いだ。さっさともう半分も片付けよう」

「あの、これは何です?」

 

 

 さも当然の様に差し出された一枚の書類。凄く高そうな材質だし、俺の持ってる免状と似た押印がされてるんだがもしかしなくても・・・・・・。

 

 

「何って、どう見たって契約書だろう?『僕と契約して専属契約冒険者になってよ♪』ってね」

「カミングアウトした途端、同郷のミームで喋るの勘弁してくださいよ」

「いやぁ、つい懐かしくてね」

 

 

 思わず上体を仰け反らせてしまった。書類から全力で逃げようとする俺を、トマスさまは意地悪く笑ってやがる。

 

 この野郎・・・・・いきなりこんなモン出されりゃ誰だってビビるだろうが!

 

 

「いやあの、こっちがお貴族サマの争いに巻き込まれたくないのはご存知ですよね?その為に色々コソコソ動いてたんですけど」

「健気な抵抗だったね・・・・・・でも今のうちに旗色を決めた方が賢明だと思うよ。だってこのまま上手くいけば、次期当主はおそらく僕になるだろうし」

 

 

 トマスさまが妙なことを言い始めた。色々引っ掻き回してようやく五分の跡目争いで、しかも長男が嫡子って伝統がある分不利だった筈だ。

 

 何か情勢に変化でもあったんだろうか?その辺を聞いてみると───。

 

 

「いやあ、最近やんちゃしてたからね。父上から仕置きも兼ねたお達しを喰らってね。君達に言った北部の件、僕も現地に行くことになったんだ」

「・・・・・・いや、思いっきりラリマーから離されてるじゃないですか。長男サマの地盤を固める為に、一時的に放り出されたの間違いでは?」

「思っていたよりズバズバ言うね君・・・・・・まあその思惑はあるかもしれないが、逆にこの難事を上手く纏められたら誰にも文句が言えない功績になると思わないかい?」

 

 

 それはまあそうだろうな。何せお父上である子爵閣下ですら、人材を吸われていくのをただ見てるしかなかった訳だし。

 

 ただまあ、そんな案件をどうやって纏めるかってのが最大の問題だ。そこを具体的に解決する案がなければ絵に描いた餅だろう。

 

 

「詳細については契約書も結んでないし、今はまだ言えないかな。でも大丈夫かなぁ、君の情報はおそらくアガットランドにも共有されてるだろうし?何の後ろ盾もないまま北へ行くのは危険じゃないかな」

「・・・・・・そういうやり方してるから『手段を選ばない人間』なんて噂されるんですよ?」

「説得するよりも相手の困る状況を作った方が話は早いじゃないか。それより、その噂話もきっかけが酷いんだよ!」

 

 

 ・・・・・・何かさっきまでと態度が全然違うな。今は年相応というか、言動に何処か無邪気さを感じる。これがこの人の素の反応なんだろうか?

 

 いやまて、そう思わせる為のポーズかもしれない。別に敵対するつもりなんて微塵もないが、あんまり隙を晒して良い相手でもない。少し疑ってかかるくらいがちょうど良いだろう。

 

 

「これでも異世界チートには人並みに憧れてたからね。特に食の衛生面や農耕具の改革は鉄板だろう?僕は【細工師】の能力もあったし、最悪理屈は分からなくても何とかなったのが大きい」

「そういえば、その【細工師】ってどんな能力なんです?いや、やっぱり良いです。後が怖いんで」

「言ってみれば、"作った物の能力を拡張する力"かな。例えばあの消音シートは、糊の吸着力に『音も吸い付かせる』ようにしてる感じ」

「言わなくて良いっていったじゃないですか!?」

 

 

 ホントにやめて!?貴族の秘密とか絶対碌なことにならないから!!

 

 

「この僕の秘密を知ったからには───半分冗談だから本気で逃げようとしないで。カーツ氏の協力が不可欠なのは僕の方なんだから頼むよ」

「・・・・・・・・・・」

「ふう、話を戻そうか。自分の能力と前世を有効活用しようと思った僕だけど、最初は下心とか全然無かったんだよ?単純に次男坊っていう微妙な立場から存在価値を示す為だった。なのに、僕がやった成果がいつの間にか全部兄上のモノになってたんだ。酷くないかい?」

 

 

 溜息を吐いたトマスさまが不貞腐れた様に格好を崩す。なんとまあ、同じ元現代人としては同情を禁じ得ない内容だ。

 

 しかも、報告を捻じ曲げた人間には()()()()()()()()()()だろうから性質が悪い。長子相続が基本である以上、弟妹は下手に功績をアピールした所で睨まれるだけだ。

 

 だから弟妹から嫡子たる長男へ功績を捧げるのは、貴族社会にとって常識なんだろう。将来当主となった兄から、家に置いておきたいと思ってもらう為にも。寧ろ家の人間からすれば良い仕事をした、くらいの感覚かもしれないな。

 

 

「そういう訳だから、兄ではなく自分の功績だってアピールするのは『兄上から功績を奪った』って解釈されるのさ。どっちもどっち論に持っていくのに、僕がどれだけ苦労させられたことか・・・・・・」

「でもそれは貴族の学校にも通ってたんだし、トマスさまもご存知だったんでは?裏で実権を握るとかって方法もあるのに、どうして肉親と争ってまで当主の座を?」

「・・・・・それを君に言うべき理由が僕にあるのかな?」

 

 

 おっと、1オクターブほど声音が下がったな。流石に踏み込んだ話題なのは俺も理解してる。

 

 だけどさっきの秘密(【細工師】の話)と違ってこれは絶対に聞いておかないと駄目な話だ。トマスさまの行動指針にもなってるこの部分をはっきりさせとかないと、肝心なところでこの人の行動が読めなくなる。

 

 

「えぇ、お互いに協力し合う為に必要だと俺は思います。貴方が()()()()()()()()()なのか。そこを判断し損ねると致命的なすれ違いになるかと」

「・・・・・・ふぅん。まあいいか、先に助力が不可欠だと言ったのはこっちだ。なら譲歩するのも仕方ないか」

「はい、ご不快にさせたことは何重にもお詫びします」

 

 

 脚を組み直し眉間に皺も寄せながら、トマスさまはじっと目を瞑っている。頭の中では色んな算盤や天秤が忙しなく動いていることだろう。

 

 10秒ほど経った頃だろうか。重そうに目を開けた彼は、静かに口を開いた。

 

 

 

 

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