異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第二十二話 結論出しました

 

 

 

 

「───まず始めに断っておく。僕に兄上を疎んじる意志はない。取り巻きについては・・・・・・もう少しどうにかならないかとは思うけどね。ただ、『あの人に次期子爵は無理だ』というのが僕の結論だ」

「・・・・・・また随分と可燃性の高い言葉ですね」

「そうだよ?もし今の言葉が外に漏れたら最期だ。僕か兄上どっちかが潰れるまでの全面戦争───そのリスクを背負った上での発言だと思ってくれ」

 

 

 自然と背筋が伸びる。さっきまでのふざけた空気は既にない。そこに居たのは矮躯の少年ではなく、慣例をぶち壊してでも椅子に手を伸ばそうとする野心家だった。

 

 

「さっき話したことを覚えてるかい?───『俺、貴族なんですけど?』のくだりさ。アレをもう少し丁寧に説明すると、その場に兄上も居たんだ。確か特待生として入学してた平民を虐めてる現場だったかな」

「それは、よくある光景なんですか?」

「ああ、単に気に入らないという理由から、その人物のパトロンが敵対派閥の貴族だったりと色んな動機があるからね。件数で言えば本当によくある話さ」

 

 

 なるほど、理解は出来るがされた側は堪ったモンじゃないな。誰かに推薦もらって王立学校へ、なんて目標にしなくて良かった。心からそう思う。

 

 

「一応言い含めておくけど、全部の貴族がそんなんじゃないからね?ラリマーみたいに地方へ行くほど平民とは上手く付き合ってるんだ・・・・・・この街の外壁は覚えてるかな」

「え、えぇもちろん。あんなに立派だと忘れようったって忘れられません」

「それは光栄なことだ。だけど今じゃ信じられないかもしれないが、昔この辺りは相当な危険地帯だったらしいよ?」

 

 

 トマスさま曰く、現ラリマー領はかつて比較にならないほど強力な魔物が跋扈していてとても人間が住める土地ではなかったらしい。そこで建造されたのがあの外壁だという。

 

 あんな堅牢な壁がなければ休むことすらままならない魔境なら、完成までに当然多くの血が流れただろう。それでも初代ラリマー子爵とその一族はやり遂げたらしい。

 

 そうして、さながら前線基地といった風貌の街を武器に近隣の魔物を駆逐していった。根気強く凶悪な魔物を間引きし続け、ついに王都から行商が来れるほどの平穏を勝ち取ったとか。

 

 

「───当たり前だけど、そんな一大事業を貴族とその直臣だけで出来る訳ないよね。未来の子爵閣下に着いてきた開拓者や原住民との血と汗の結晶が今のラリマー領だ。だから地方貴族ほど平民との融和を重んじてるそうだ。まあ偶に忘恩の輩も生まれるみたいだが」

「それで、ご長男さまと貴方が特待生を虐める狼藉者へ注意したと。その返答が───」

「そう、『俺、貴族なんですけど?』に繋がる訳だ。その時の兄上の表情がとても印象的でね・・・・・・ああ、この人は無自覚の加害性に耐えられないんだなって思ったよ。それに顔に感情が出過ぎるのも問題だ」

 

 

 なるほど、地方と中央では対平民教育が随分と異なるらしい。ラリマー子爵家では平民は統治される存在ではあるが、あくまで同胞で同じ人間なんだと。そう考えればあの会食であんなにフレンドリーだったのも頷ける。

 

 だが中央ではそうじゃないのかもしれない。平民と貴族は羊と羊飼いの関係であり、同じ人間と見なしているかも怪しい。長男さまは実直な性格らしいし、その認識の差異に強く反発したと。

 

 

「肝心の従者達との相性も微妙だからね。お優しい主人を口先で動かすだけの行動力もないから僕に好き放題されるんだ。指示さえあればそれなりに有能らしいんだけど」

「長男さまは自分の地位を脅かされてるのに動かないんですか?そういえば取り巻きもそうですが、本人の動向も全く聞きこえてきませんでしたね」

「さて、そこも正直頼りないところだ。兄上は甘さと優しさを混同してる。嫡男を名乗るなら、生意気な弟を手ずから躾けるくらいの気概は見せて欲しいものだよ」

 

 

 騒動の話を聞いた時は、家を割らない様に立ち回ってるのかと思った。だがこうして聞いていると、どうも後先を考えてるというより単に弟と対立したくないって感じだな。

 

 あくまでトマスさま視点での情報によるとだが。とはいえ、大きく間違ってはいないだろう。身を引くにしろ弟と戦うにしろ、旗色が全くの不鮮明だ。そのせいで部下もどう立ち回って良いか分からないんじゃないか?

 

 

「北部行きについても、僕に対する試金石なんだろうけど兄上への最後通牒でもあると思う。僕が居ない間に嫡男として戦うのか引き下がるのか、いい加減はっきりしろっていう父上のメッセージさ」

「子爵閣下は長男さまの能力に不安、あるいは不満を感じている・・・・・・?」

「そりゃそうさ、僕の所為で表面化したとはいえあの鈍重さは当主として問題だ。しかも原因が本人の心の弱さときたら、父上も考えものだろうさ」

 

 

 うわぁ、そこまで閣下の評価が動いてたのか。確かに俺がラリマーに来てもう三週間は経つけど、知らない間にそんなことになってたとはな。

 

 なまじトマスさまがあれこれ動き回るから余計に比較されるよな。それに色々邪魔されてるのに動かないんじゃ、領民を護る立場としちゃ考えものだろうな。

 

 

「───あれ?でもそうなると長男さまは兎も角、その取り巻きは相当焦ってますよね。後先考えない妨害とかしてきそうじゃないですか?」

「だから君と専属契約を結びたいんだよ」

「あ、そこでその話に繋がるんですね」

「君がどう認識してるかは知らないけど、父上の免状はラリマー子爵領および子爵家関係者にとっては絶対だ。つまり君と目的を同一にしてる限り、どれだけ内心不満があろうと僕の行動に手出しは出来ないんだよ」

 

 

 ・・・・・・なるほど。俺とトマスさまが一緒に北部の迷宮へ行った場合、外野がトマスさまの用事と俺の医療行為を線引きするのは不能になる訳だ。

 

 トマスさまの邪魔をしたら、結果的に俺の治療まで阻害された。そうなれば邪魔をした人間は子爵閣下直々の命令に逆らったことになる。現嫡男の従者といえどタダではすまなくなるだろうな。

 

 

「───あの、ちょっと情報を整理させてもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ、ご自由にどうぞ」

「トマスさまは長男さま自身に恨みはないし、暗殺だとか薄暗い手を使う気はない。そのつもりならわざわざ北部に行くまでもなく話が終わってるだろうし」

 

 

 トマスさまは無言で首肯する。あくまで跡目争いは現当主の決定を賭けて行うつもりだと。修復不可能な対立を生んででもって考えはなさそうだな。

 

 

「その理由も権力云々ではなく、当主の適正を鑑みて兄上に任せておけないからってことですよね?このまま流れに任せても碌なことにならない、だから自分が泥を被る形になっても当主の座から降ろしたいと」

「・・・・・・随分とまあ、おめでたい解釈だね。特に不都合もないから訂正しないけど」

「そして北部の迷宮関係でトマスさまも同行される。何する気なのか知りたくもないですけど、この騒動への対応策があるんですよね?」

「もちろんだ。後でちょっと面倒ごとになるかもだけど、このまま人材を使い潰される状況よりずっとマシだろう」

 

 

 ふむふむ、ちょっと怪しいこと言ってるのは気になるが・・・・・・このままじゃトマスさまが言ってた通り、俺が巻き込まれるのはほぼ確定だろうな。しかも伝え聞く現場の空気的に、褒賞とか名声は全部上の人達に持ってかれそうだ。

 

 正直に言うと、どう動いても不安だ。あの暗殺者みたいなセレストゲイルのおっさんが情報共有してた場合、俺の北部行きは免れないだろう。ラリマーから逃げたとしてもどっかで拉致されそうだ。

 

 だからといって、このまま流れに従うのも怖い。トマスさまの北部行きが最終試験ってのもあくまでこの人の推測だ。直接そう言われたなんて一度も言わなかったし。

 

 とはいえ行ったこともない北部で動くなら、貴族の庇護を得られるのは凄く魅力的だ。子爵閣下の命で赴く以上、トマスさまは子爵閣下の名代って訳だ。取れる手段の数は段違いだろう。総合的に考えると・・・・・・・・・・よし。

 

 

「───分かった、トマスさまと専属契約を結びます。契約書を確認させてください」

 

 

 俺はそう決断した。あとは野となれ山となれ、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───という訳で、健闘虚しく専属冒険者になりました」

「・・・・・・まあカーツさんが納得されているのなら。もし無理矢理契約を結ばされたのなら吹き飛ばしますけど」

「ねぇ、何を吹き飛ばす気?トマスさま??それともまさか御屋敷諸共???」

 

 

 クインが物騒なこと言ってる。それだけ心配してくれてるのは嬉しいが、どうか俺の為に手を汚したりはしないで欲しい。いやマジで。

 

 色々疲れた俺達は、副支部長の図らいで高そうな食事処にやってきている。口が硬いと評判の店主が経営する店で、内緒話がしやすい個室になっている。

 

 

「冗談は置いておいて、本当に良かったんですか?結局しがらみに巻き込まれていますが」

「まあその辺は割り切るしかないよな。直接話した感じだと、少なくともトマスさまは俺を使い潰す気はなさそうだ」

 

 

 滅茶苦茶働かされそうではあるけどな。ただ今のままじゃ他所の貴族に無責任なやり方で酷使されそうだし。その点専属契約してればある程度の牽制にはなる。

 

 トマスさまや子爵閣下と話して実感したが、あの方々の自負心というか歴史に裏打ちされた矜恃はハンパじゃない。幾ら器が大きかろうと、ソレを傷つけられたら一切容赦しないだろう。

 

 どんな手段を使ってでも、どれだけ時間が掛かっても後悔させる。そう感じられたから傘下に加わるのも吝かじゃないと思えた。

 

 

「・・・・・・なるほど、脅されて渋々という感じではなさそうですね。安心しました」

「悪いな心配掛けて。あと勝手に後先を決めたのも」

「それこそ気にしないでください。貴方に断られでもしない限り、私は着いていくつもりなので」

 

 

 本心から言ってるのを表情から読み取ったのか、言葉通り安心した様に微笑み掛けられる。いやはや、本当に良い仲間に巡り会えたもんだよ。

 

 

「しかし別の意味でも心配してましたが杞憂だったみたいですね。ほら、以前話してもらったじゃないですか。元同僚の冒険者を殴り飛ばしたって話。正直に言うと今回も爆発しないか心配してました」

「・・・・・・そういえば、そうだな。『結局選択肢ねぇじゃねえか!?』って普段の俺ならキレててもおかしくないのに」

 

 

 言われてみれば確かに、我ながら不思議だ。別に思い通りにならなきゃ癇癪起こす訳じゃないが、回避しようと色々手を回した事態を結局台無しにされた形になる。

 

 少なくとも地球に居た頃なら死に物狂いで抵抗してた筈だ。間違っても『野となれ山となれ』なんて受け入れたりしなかっただろう。

 

 

「───あ、もしかしたらもう一人のカーツさんが宥めてくれたのかもしれませんね?其方のカーツさんは滅多に怒らない方みたいなので」

「・・・・・・なるほど、その可能性は考えもしなかったな」

 

 

 ストレスも突き詰めてしまえば身体の反応、アレルギーみたいなもんだ。ならカーツ少年の身体になった今じゃ負荷の掛かり方が昔と違うのも納得出来る。

 

 また気付かない間にカーツ少年に助けられてたとはな。改めて世話になりっぱなしだよ本当に。言われてみれば、【触媒】の作業してる時も昔みたいにイライラしなかった気がするし。

 

 初心を思い出させてくれたクインに感謝しながら、美味い料理を堪能させてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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