異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第二十五話 もしかして詰んだ・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

「───やれやれ、ラリマーの冒険者は優秀だなぁ。まさか仕事が始まる前に此処まで辿り着かれるとは。お陰でやることが増えたよ」

 

 

 ウォルフとライルが俺達を庇う様に前に出るが、目の前の男はまるで意に介した様子はない。そりゃそうだ、俺程度じゃ視界にも映らない速さだった。その気になればコイツは何時でも殺せる筈だ。

 

 

「さて、自己紹介でもしとくか?【献言する毒蛇(サマエル)】で『大蛇衆』ってのをやらせてもらってる・・・・・・えーっと、そうそう"コアトル"ってもんだ」

「───『大蛇衆』。結社の中でも実力を認められた精鋭あるいは幹部の名称、ですか」

「お、よく知ってるな。その博識ぶりにさっきの凄い風属性魔法・・・・・・なるほど、お前さんセレストゲイルの防人か」

 

 

 一歩前に踏み込んできたのを見て、慌ててクインの前に立つ。コイツらにとっちゃクインは目の敵にしてる【浄血】の一員だ。今この瞬間に始末しようとするかもしれない。

 

 だがそんな俺を見て、"コアトル"と名乗った男は手を横に振って笑いだした。何だ何だ?

 

 

「ああ、違う違う。俺は所詮戦力目当てでスカウトされた外様だからな。【浄血】の首脳陣とかなら兎も角、末端の防人さまに恨みとかねぇのよ。今日も同僚に見回りしてこいって言われて来ただけだし」

「見回り?この骨共を連れて冒険者を襲えの間違いだろ」

「いやいや、さっきも言ったが俺は興味ない奴まで殺すほど酔狂じゃねぇっての。ただまあ北の帰還組が何時までも帰ってこなけりゃ、南部との不和を作り出せるって意図はあるかもしれねぇな?アイツはそういうやり口好きだし」

 

 

 ケラケラ笑ってるが、こっちとしちゃ全く笑えない。もしトマスさまから聞いてなけりゃ、少なくともラリマーと北部の信用は完全に破綻するとこだった。

 

 北は先に引き上げたって言うだろうし、ラリマー領は捜索しても遺体すら見つからない。これまでの横柄な態度も含め、虚偽報告と判断しても不思議じゃない。

 

 

「・・・・・・随分景気良く喋るじゃねぇか?その調子で檻の中でもペラペラ歌って貰えると助かるんすけど」

「おいおい、俺だって手ぶらで帰れなんて言うほど鬼じゃない。土産話はそれなりにしてやったろ?怪我しないうちに帰んな。()()撫でるだけじゃすまないぞ」

 

 

 更にもう一歩、コアトルが足を運ぶ。それと同時に【一番星】の面々が迎撃に動く───瞬間、全員が崩れ落ちた。

 

 慌てて駆け寄ろうとしたが、起き上がろうと踠くのを見て立ち止まる。あんまり意味がないかもだが、コイツから意識を逸らすのはヤバ過ぎる。

 

 見た感じ生命に別状はなさそうなのですまんが放置だ。せめて【治癒魔法(キュア)】だけは掛けておくが。

 

 

「うん?夢の世界へご招待したつもりだったんだが、もう目が覚めるのか。君の仕業か少年?」

「・・・・・・だったらどうする」

「年若い防人に治癒士の組み合わせ・・・・・・ああ、"バシュム"が仕留め損なったってのは君たちか」

 

 

 また知らない名前が出てきたな。話の文脈から察するに、おそらくあの村で襲撃してきた怪物の黒幕だろうな。

 

 

「あー面倒だなぁ。アイツが自分の獲物だって言うから俺も下位の構成員も放置してたってのに」

「・・・・・・あれだけの期間同じ場所に居て襲撃がないのは不思議でした。そういう事情だったんですね」

「そういうこと、お陰で良い休暇になったろう?俺も自分の標的以外とやり合う趣味はないしな。とはいえ、退いてくれないってんなら手早く済ませようか」

 

 

 そう言ってまた奴の姿が掻き消える。一瞬俺の視界が掌で塞がれ掛けるも、割って入ったウォルフが背に隠す形で俺を庇った。

 

 

「へぇ・・・・・・意外と動けるじゃないか。見たところ二等か三等級ってとこだろうに」

「ぐっ───!?此処で身体張らずに何時張るってんだよ!!」

「うーん筋は悪くないし若い割に頑張ってる方だけど、まだまだ功夫が足りないかな・・・・・・おっと危ない」

 

 

 ウォルフが必死に食い止めてる隙にクインが風の刃を差し向ける。だがまるで蜃気楼を攻撃するみたいに全部すり抜けていく。幻影じゃないのは、今も槍とぶつかる衝突音からして間違いない筈だが。

 

 その音にしてもかなりやばい。花火の発射音みたいな腹に響く金属音が止まらない。ウォルフは槍で受けてるから分かるとして、何でアイツは素手でこんな音が出せるんだよ!?

 

 

「やれやれタフだなぁ、治癒士込みとはいえこんだけ殴ってるんだからいい加減倒れてくんない?」

「嫌っすね、仲間が必死でやることやってんだ。前衛の俺が先に倒れる訳にはいかねぇだろうが」

「心意気だけは買うけど───っ」

 

 

 そこで初めてコアトルのニヤケ顔が止んだ。防戦一方だったウォルフが攻勢に出たからじゃない。

 

 彼の四肢が鈍く光ると同時に今日一番の速度で斬り込んだのと、コアトルの動きが一瞬だけ鈍くなったからだ。それと同時に倒れてた【一番星】が起き上がり弓や投擲で応戦し、クインもそれに続く。

 

 

「よっ、はっ、ほっと・・・・・・いやぁ悪くない連携だ。ラリマーの未来は明るいねぇ」

「あーもうっ!?会心の不意打ちだってのに!!」

「泣き言は後だ!カーツさんがやられたらお終いなんだ。死なない程度に死ぬ気でかかれ!!」

 

 

 ウォルフの槍撃が僅かに首筋を掠めたものの、依然として相手はピンピンしてる。俺はひたすら治癒と体力回復で手一杯なのが歯痒くて仕方ない。

 

 

「俺の動きを鈍らせる魔法、それから加速の魔法による速度差で間合いを見誤らせる戦法か。相手が俺じゃなかったら危なかったかもな」

「流石に自信無くすよ、速攻弾かれた上に最初の一発以降まるで当たらないし」

「いいやエリオット、格上相手に一秒でも遅らせたんだから見栄を張れ。相手がわざわざ避けてるってことは、決まれば有効打になるってことさ」

 

 

 ああ、コアトルが一瞬鈍ったのは【一番星】の魔法使いくんのお陰か。経験と『階梯(レベル)』を積めば本当に良いパーティになりそうだ。

 

 とはいえそんなこと言ってる場合じゃない。向こうが縛りプレイしてるから何とか保ってる均衡だ。あっちがやる気ならとっくに全滅してる。どうにかしないとって焦っても状況は変わらない。それは分かってるんだが焦燥感は増すばかりだ。

 

 打てる手は、ある。あの出鱈目な動きも『階梯(レベル)』の暴力だけでやれる筈がない。恐らく魔力を使った仕掛けがある訳で、【不全魔法(マルファンクション)】を当てられれば勝機はある。当てられれば、なんだが。

 

 

「いやはや、冒険者とガチンコやる経験はあんまり無かったからなぁ。それにこうした諍いに干渉する物好きな治癒士も滅多に居なかったし・・・・・・とはいえ、そろそろ終わらせようか?」

「───ッ、ぐ・・・・・・あ"ぁ"っ!?」

「君はこの中じゃ一際頑丈みたいだからな。少し強めにしても問題ないだろう?」

 

 

 ウォルフの全身が歪んだと同時に吹き飛ばされる。水飛沫が聞こえないってことは沼より奥に着地したんだろう。マズい、前衛を支えてた主柱を引っこ抜かれた!!

 

 

「下がって、カーツさん!!───【大気よ、我に従え】!!」

「仲間への被弾上等で来るか。防人の本気は骨が折れる・・・・・・なっと!!」

 

 

 さっきスケルトンにやってみせた"大気の鉄槌"、だが威力はアレの比じゃない。しかも奴の言う通り、ライル達を巻き込んででも無理矢理抑える気だ。アイツらも逃げようとしないし・・・・・・ああもう、回復は俺に任せとけ!

 

 視界が歪む程の風圧に対し、コアトルは正面から掌底を叩き込みやがった。爆弾でも爆発したのかってくらい衝撃が走り、奴とクインを除いた全員が地面を滅茶苦茶転がり回った。

 

 

「む、無茶するなぁ。【範囲治癒(ワイド)───い"ぎっ!?」

「やっぱり防人の魔法は堪えるな。だけどこれで漸く詰み、かな」

 

 

 土煙の中を転がりながら、何とか魔法を行使しようとするも遮られ視界が廻る。微かな首の痛みと浮遊感から、自分が持ち上げられたんだと気付いた。

 

 流石に無傷とはいかなかったらしい。風災に突き立てた右手は指がへし折れ、拳も砕けてるに違いない。だがそれでもその蛇の眼は全く揺れていなかった。

 

 

 

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