異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第二十七話 まさかの初顔合わせ

 

 

 

 

 

 身体の中で荒ぶってる魔力に意識を集中する。もうあちこちに浸透しまくってて、魔力がない場所を探した方が早いくらいだ。

 

 

「───カーツさん。今貴方の症状が少し落ち着いているのは、身体が順応し始めているからです。その流れに逆らわず、大事な器官へ衝突しないよう緩やかな流れへと変えてください」

「ゆ、緩やか・・・・・・?あだだっ!?」

「意志に反して漏れ出た以上、魔力の手綱を握り直すのは困難です。それでもある程度誘導することは可能な筈。無理を言いますが・・・・・・」

 

 

 クインの言葉を聞き逃さないよう必死に脳裏へ刻み込む。何度も練習した魔技の感覚を思い出しながら、充満する魔力へと干渉する。

 

 流石にこれだけヒントを貰えば俺でも理解出来る。今この瞬間に俺が身に付けなければならないもの───それは【硬気丹術】だ。

 

 結局指導者の紹介は棚上げされたままだが、泣き言は無しだ。この技術の入り口に指を掛けなきゃ俺に未来はない。ならすべきことは一つだ。

 

 

「ふーっ、ふーっ!自分の、輪郭を・・・形取るように・・・・・・」

「そうです、塊ではなく砂の波を浸透させるように魔力を細分化するんです。貴方なら出来る!」

 

 

 以前魔技を習った際に聞いたアドバイスを何とか反芻する。【硬気丹術】が魔技と光属性魔法の合作なら、ノウハウを流用出来る筈だ。

 

 だがどうにも上手くいかない。パニックを起こした人間の行動が予測不可能な様に、荒れ狂う魔力をどうにか抑えようとしても予想外の方向へ擦り抜けてしまう。

 

 とにかく集中力が細部まで保たない。痛いし気持ち悪いし吐き気も込み上げてくる。これ以上ない最悪のコンディションで初めての作業はストレスがやばい。難易度も相当やばいんだから泣きたくなってくる。

 

 

「やばいよ、どんどん顔色が悪くなってる!か、回復薬とか───」

「駄目ですっ!!此処で魔力を回復させても暴れ馬が活気付くだけなんです。カーツさん自身に何とかしてもらうしか・・・・・・()()()()()()()()()()()、今暫く耐えてくれれば!」

 

 

 戦闘から解放された【一番星】の面々が周りに集まってくる。何とか手助けしようとしてくれてるが、上手い手段が見つからないらしい。

 

 そんな皆の姿を見て何とか気持ちを奮い立たせるが、気合いでどうにか出来る状況じゃあ・・・・・・ん?掌握、出来てるのか??

 

 遠のく意識にもう一度喝を入れ、自分の内側に集中する。すると僅かだが、確実に統制が取れ始めていた。だが当然俺自身は全く何も出来てない。なら、これはいったい───っ!?

 

 

 

 

『───だいじょうぶ、ぼくも君みたいにがんばるから』

 

 

 

 

 縦横無尽に駆け巡る『光』を何とか捕まえながら、此方に気付いた『彼』が困ったように笑いかける。そんな姿が脳裏をよぎった。

 

 もしかしたら俺の妄想かもしれない。都合の良い白昼夢かもしれない。それでも、たった今感じた感覚と感触に身を委ねる。

 

 

「───ッ、その調子ですカーツさん!」

「え、なになに!?どしたのクインさん!」

「カーツさんの魔力が急激に安定してきました。これなら・・・・・・!」

 

 

 不安げに伺う周囲に引き攣った笑みを返せる程度には余裕が出て来た。まあ余裕というか、腹括っただけなんだけどな。

 

 俺は条件を間違えてた。荒れ狂う魔力を御せばこの苦痛は終わると・・・・・・御せるものだと思い込んでいた。

 

 だがそうじゃない。漏れ出た魔力はそれこそ腹に風穴でも開けなきゃ消えはしない。御せもしない癖に半端に干渉した所為でカーツ少年の足を引っ張ってしまった。必要なのは"適応"だった。

 

 

「(───出来ないなら一切合切放棄すれば良い。俺は一人じゃないんだからな。カーツ少年で駄目なら、俺なんかじゃもっと無理だ)」

 

 

 魔力を宥めるのは少年に任せ、俺は身体を染め上げるのに専念する。生地が染料を吸収するみたいに、細胞がエネルギーを消化するイメージだ。

 

 こりゃ確かに、まず魔技を習ってなきゃ無理だったな。身体に一度も魔力を馴染ませてなかったら拒絶反応を抑えられなかった。

 

 そんな風に考えてたら、懐の痛みはごく僅かまで減っていた。鏡を見るみたいにそっくりな少年が、方手を上げてきたのでハイタッチを交わす。そんな幻を見届けてから俺は何とか立ち上がった。

 

 

「───悪い、随分待たせた」

「・・・・・・お疲れさまです、カーツさん」

「良かった、何とか持ち直してくれて。はいこれ、回復薬!」

「お、ありがたい」

 

 

 一気に飲み干してから、改めて戦局へ目を向ける。うん、さっきまでの争いが児戯に見えるインフレ対戦が勃発してるよ。

 

 拳の風圧で地面が抉れ、風の刃が木々を豆腐みたいに斬攪する。もう森の原型保ってねぇな。しかもその状態で二人とも汗ひとつないときた。

 

 

「・・・・・・やっぱ強かったんだな、あの失礼なオッサン」

「おっ!?治癒士さん、流石に【浄血】の防人にそんなこと───いやでも、クインさんに酷いこと言ってたしなぁ・・・・・・」

 

 

 会ったばっかの【一番星】にも俺と同じ様な感想持たれててウケる。まあコイツらもこの世界じゃかなり良心的で仲間想いな連中だしな。

 

 死地においても仲間を見捨てないコイツらからすれば、アデルとかいう野郎の言葉は聞き捨てならないだろうな。

 

 

「さて、なんとか復活したことだし・・・・・・まずはウォルフの回復を───」

「あ、お構いなく」

「───ってうおっ!?何時の間に戻って来た・・・・・・って何で全身ずぶ濡れなんだ?」

 

 

 しかも濡れてるだけじゃなくブスブス焦げたみたいな音もしてるし。もしかしてだけど、まさか呪いの泥沼突っ切ってきたのか??その割にはピンピンしてるけど。

 

 

「・・・・・・もしや、それが貴方の言っていた呪詛対策ですか?」

「おっ、ご明察っす。そういう『恩恵』か何からしくてね。カーツもやばそうだったし、文字通りの荒療治でさ。俺のことは良いから、あっち何とかした方がよくないか?」

 

 

 まあお前が大丈夫なら構わんけど、後で絶対治療は受けさせよう。

 

 さて、改めて正面の戦場に集中する。さっきまでは影すら見えなかった戦闘がある程度眼に映るようになった。単純な強化だけでなく、魔力操作もかなり向上してる。技術が増したというより、身体が活性化してやれることが増えた感じか。

 

 

「今の状態ならやってやれそうだな───【吸魔魔法(ドレイン)】」

「「───ッ!?」」

 

 

 やってることは【譲渡魔法(ディバイド)】を逆さにした魔法だ。生命力は困難だったから魔力を奪う魔法になってるけど。これも攻撃魔法に分類されるのか、今までは全く形にならなかった。

 

 なのに今は何故出来なかったのか不思議なくらいスムーズに発動出来た。今まで意識したやってた魔力操作を無意識でやれている。お陰でこれまで気が回らなかった細部まで操作が行き届いてる。

 

 あ、【浄血】の高ビーを巻き込んだのは不可抗力だ。高速戦闘を追い掛けるより周囲一帯に魔法を行使した方が確実だしな。ワザとじゃないよ、ホントダヨ?

 

 

「あっちのオッサンは誰か知らんが、この機を逃す手はねぇ。さっきのお返しだオラァッ!!」

「マジで克服しやがった───がはっ!!?」

 

 

 魔力を削げば強化魔法や魔技の性能が落ちる。そういった狙いはあったが、効果は想定以上に劇的だった。まるで手足が鉛にでもなったかの様に"蛇"の動きが鈍った。

 

 疑問の解答はすぐに寄越された。殴られた仕返しとばかりに繰り出された槍撃に、"蛇"は使い物にならない右腕を差し出す。両断された腕からは、血と骨の代わりに半透明の液体と歯車が飛び出していた。

 

 

「・・・・・・まさか、義手か?首を絞められたり抵抗した時にそんな感触は全然なかったが」

「動きが鈍ったのは魔力を失ったことで制御出来なくなったから、でしょうか?それにしても・・・・・・【献言する蛇(サマエル)】にはとてつもなく優秀な【細工師】も居るということですか」

「───【細工師】じゃねぇ、【錬金術師】の仕事だよ」

 

 

 義手と引き換えに吹っ飛ばされるに留まったコアトル。切り株の上で力なく倒れており、戦闘続行は不可能に思える。だが降伏する素振りもない。

 

 アデルの野郎も残心は解いてないが、本人より周囲への警戒を強めてる。一瞬ジト目をこっちに向けて来たが黙殺してやった。

 

 つーか、派手に戦い過ぎなんだよ。結構森の奥だった筈なのに、俺達より向こうが伐採されたハゲ山みたいになってるじゃねぇか!

 

 

「───漸く観念したか、手間取らせてくれる」

「あーん?後から出て来た癖に、手負いなんぞに手間取ったアンタが間抜けなだけさ」

 

 

 懐から紙巻煙草を取り出そうとした奴に、暗殺者擬きが鎌鼬を嗾ける。だが左手を斬り飛ばす筈の風は、"蛇"の目前でひん曲がり明後日の方向へ飛び立っていった。

 

 一驚するアデル、俺達も訳が分からない。義手も満足に動かせないコアトルが防げるとも思えなかった。それに肝心の本人が苦虫を噛み潰した様な顔で不本意をアピールしてる。

 

 

「あーあ、あのイカれ野郎の手なんざ借りたくなかったってのに・・・・・・治癒士さんよ、最後に忠告しといてやる。世の中にはマジでヤベェのが人の皮被って暮らしてやがんだ。生まれてきたことを後悔したくなけりゃ、あんまり目立つのはやめといた方が良い」

「───まさか、『空間転移』の【触媒】か?術者以外の人間でも完全発動させるとは・・・・・・狂人の戯言ではなさそうだな」

 

 

 なんだそりゃ、見たことも聞いたこともないぞ。クインにも確認してみたが、どうやら空間転移は神話に出てくるレベルの神秘とのこと。

 

 何でそんなもん持ってるとか、気軽に使えるのとか聞く前に"蛇"は姿を消した。まるで動画のフェードアウトみたいに透明になっていった。

 

 

「・・・・・・ひとまず脅威は去った。後はこの呪詛についての調査だが───」

「ああ、なんか沼の底に呪具らしきモンがあったっす。潜ったついでに取ってきましたわ」

「思い切り良過ぎだろ・・・・・・」

 

 

 真っ黒な釘みたいな呪具を掌で遊ばせるウォルフ。流石に解析すらしていない代物に触れる気が湧かないのか、暗殺者擬きも接収せず『そのまま持ってろ』と身振りで追い払う。

 

 ふと違和感を感じ足元を見ると、真珠みたいな宝石のペンダントが落ちてた。誰かの落とし物かと屈もうとしたが、身体が言うことをきかずそのまま地面にキスするハメになった。

 

 

「か、カーツさんっ!?」

「騒ぐな出来損ないめが。魔力飽和による一時的な不随だろう」

「あ・・・・・・なん、だっ、て・・・・・・?」

「未熟者が・・・・・・魔力を食った程度で【硬気丹術】を習得したつもりだったか?魔力は毒にもなると知っているだろうに。とっとと喰らった魔力を臓器へ還元してみせろ」

「さ、さいしょに・・・・・・言いやがれ・・・・・・!?」

 

 

 やっぱコイツ、俺の諸々の態度について根に持ってるだろ!?とはいえ文句を言う元気がある筈もなく、クインと【一番星】に介抱されながら引き上げることになった。

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