異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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※第十話ならびに第十一話が投稿漏れしていたので併せて更新しております。話が繋がっておらずご迷惑をお掛けしました。(12/21時点)


─幕間─

 

 

 

 

 

 

 ───カーマイン伯爵領にある迷宮深層。北の冒険者達からは"疫病迷宮"などと噂される魔窟の奥深くに『彼ら』は居た。

 

 

「ふんふん、ふふーん♪」

「相変わらずヘッタクソな鼻唄だなぁオイッ!一応隠れてる自覚あんのかよ」

「もー"ティアマト"ちゃんこそうるさーい。心配しなくたって、こんなとこまで来れやしないよーだ」

 

 

 見た目通り子どもの様な振る舞いをする少年と、全身に火傷痕を残す気性の荒い狐耳の令嬢。およそ迷宮には似つかわしくなく、本来であれば魔物に襲われとっくに死んでいることだろう。

 

 しかし二人に怪我はおろか、服の汚れすら存在しない。魔物に感知されていない訳ではなく、寧ろ遠巻きで恐怖を滲ませながら気配を窺っていた。

 

 

「テメェが急に予定変更しやがった所為でこっちは良い迷惑だ。後方を掻き回させるのにウチらがどんだけ苦労したと思ってやがんだぁ?」

「わーこわーい!『信者』の人達も仕事熱心だねー。どーせ【浄血】には解析され始めてるだろうし、今更流出したところで構いやしないよー」

「チッ・・・・・・これで成果が出なけりゃタダじゃすまさねぇぞ?」

 

 

 露骨に苛立ちを見せる"ティアマト"に、しかし少年は取り合わない。青筋を一つ増やしながら、食って掛かろうとする前に新たな闖入者が姿を見せる。

 

 

「よっ、相変わらず喧嘩ばっかしてんなお前さん達」

「───あ"ぁ"っ!?コイツがもう少しマトモに会話する気ならウチも声荒げたりしねぇよ!!」

「お、"コアトル"じゃん。おつかれー」

 

 

 割とボロボロになって帰還したのに、二人とも心配するどころか気付いているかすら怪しい。トホホと内心溜息を吐きながら、二人の近くへと腰を降ろす。

 

 

「フォウちゃん義手無くしたから新しいの頼むよ」

「・・・・・・はあ?ウチ自慢の逸品をどうしたってぇ??返答次第じゃケツの穴増やすことになんぞ。あと名前で呼ぶんじゃねぇよ、二つ名の意味ねぇだろが」

「麗しのレディがケツとか言わないでくれよ。はぁ、油断もあったが【浄血】の次期当主候補と坊やの獲物に虐められてこのザマだよ」

「・・・・・・セレストゲイルが?御家の役割しかやらねぇあの化石みたいな連中が出てきたってのかよ」

 

 

 "ティアマト"は首を捻る。"コアトル"に押し付けた仕事に連中が自分から首を突っ込んでくるとは思えない。

 

 だが彼女が自ら手掛けた義手に無数の斬り傷を付けられる魔法使いなどそうは居ない。訝しみながらも、嘘ではないと彼女は判断した。

 

 

「・・・・・・へー、"コアトル"を追い払えるなんて、強くなってるんだー」

「ああ、しかもあの様子だと近いうちに此処へ来るぞ」

「ふふふ、その為に呪詛を撒いたからねー。それは楽しみだなー」

「その棒読み気味な語尾で言われても、ちっとも楽しそうじゃねぇな」

 

 

 不気味に笑う少年から目を離し、今度は令嬢へ頭を下げる。手ぶらな様子で薄々察していた彼女は、どうでもよさそうに手を振るだけだった。

 

 

「辛気臭ぇツラすんなっての。どうせブツも回収出来なかったんだろ?」

「・・・・・・すまん」

「はっ、コイツと違ってウチのは傑作だからな。愚図が何人雁首揃えようが解析すら出来ねぇっての。やれるモンならやってみろってんだ。成果さえ分かりゃそれでいい」

「そっちは上々だったぞ。管理者も魔法使いも要らずに呪詛を精製し続けてた」

 

 

 男の報告に対し、当然とばかりに頷く"ティアマト"。だがその反応とは裏腹に、彼女に生えた尾はご機嫌に揺れていた。

 

 

「アンデットが勝手に徒党を組んで暴れたのだけは誤算だったが・・・・・・悪くねぇ。これで連中は嫌でも森や山へ意識を割かなきゃだしなぁ!」

「ああ、貴族の直轄領ですらこっちの不備無しじゃ発見もままならなかった。その事実は絶対に無視出来ないな」

「ああ、あるかどうかも分からない"爆弾"に怯えて戦力を無駄に温存しなきゃだなぁ。これでもっと悪巧みがしやすくなっちまう。アハハッ!!」

 

 

 着々と準備が進んでいる事実に"ティアマト"が狂喜する。彼女の『悲願』を知る男は若干引きながらもその様子に理解を示す。

 

 "見て見ぬフリ"という大人の対応を取りながら、"コアトル"は少年に話の矛先を振った。

 

 

「"バシュム"、そっちの進捗はどうだ?」

「そだねー、だいたい6割ってとこじゃないかなー?『信者』も足引っ張るの限界っぽいしー、そろそろ此処も仕事納めだねー」

「りょーかい、まあそれなりに()()()()よな。しかし案外気付かれねぇもんだな」

「仕方ないよー、だって殆どの人間は【マナ】のことを真剣に考えたりなんかしないんだから。ぜーんぶ【浄血】に丸投げー」

 

 

 カチャカチャと手元の乳鉢を弄びながら、どうでも良さそうに少年は笑う。

 

 

「まあ難しい話は大人のみんなでやっといてー。僕は今新しいオトモダチに夢中だからさー」

「・・・・・・遊ぶのは構わないが殺すのだけはナシだからな。もしかすれば俺たちの計画に役立つかもしれないからな」

「良いよー、僕もじっくり見てみたいし。ふふふ、あの感じだと自分の魔法の真価に気付いてないんだろうなー。早く来ないかなー?」

 

 

 恋する乙女のように頬を赤らめながら邂逅を待つ少年。腹の中じゃどう解剖しようかとか考えてるだろうに、大した擬態だと"コアトル"は溜息を吐いた。

 

 一頻り妄想を楽しんだ後、少年は思い出したように懐から一本の無針注射器を"コアトル"へと投げ渡す。

 

 

「そうだ忘れてた、それ"ザット(あの人)"から渡されてたんだー。"ライアー"に渡したげてー」

「いや、お前が渡し・・・・・・たらややこしいことになるな。うん、俺が預かっとくわ」

「お願いー、僕たちのやってることって意外と世のため人のためだよねー?」

 

 

 秘密結社やってて何言ってやがる、と思いながらも男は否定し切れなかった。個人的な復讐の為に【献言する蛇(サマエル)】に居る彼だが、結社の吠える理念には一部共感していた。

 

 ・・・・・・もっとも、貴族が腐敗するように結社もまた理念から遠ざかってしまっているが。それでも先祖代々の目的がある分多少マシと言えるが。

 

 

「(でもまあ、目的ばかり見て俺やあのバケモノみたいなのまで懐に入れてるのはなぁ・・・・・・)」

「おら、とっとと診せろ馬鹿野郎。テメェはまだまだ馬車馬みてぇに働けオラッ!」

「えー、ちょっとは休ませてよフォウちゃん」

「だ・か・らッ!名前で呼ぶんじゃねぇ!!」

 

 

 暗闇の中で笑う蛇の群れ。本格的な衝突まで、あと僅か・・・・・・。

 

 

 

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