「───状況は?」
「オークが5体にゴブリンが約20、それから一ツ眼巨人が1だ。全く、とんだ団体サマだよクソッタレ」
「一ツ眼巨人が何でこんな所に居やがるんだ!?逸れの報告なんて無かったぞ!」
「泣き言は後にしろ。今は目の前のことだけ考えていろ」
冒険者パーティ【明星】らしき面々が閉じた門を前に言葉を交わしている。村の人達が忙しなく動き回り、非戦闘員が隠れるなか俺達部外者は蚊帳の外だ。やることないし命綱を握ってる冒険者の話に聞き耳を立てていた。
「・・・・・・チッ、分かったよ。だがコレが終わったらしっかり調べさせてもらうぞリーダー。"火持ち"の魔物なんざきな臭いどころの話じゃねぇ」
「構わん、寧ろ俺も同意見だ。だがまずは生き残ることを優先しろ。雑魚は兎も角一ツ目巨人は厄介だからな」
うーん、あの人達がマジになる案件だってのは分かる。だがこっちの知識が足りない所為でどのくらいヤバいのかが分からん。内心で首を傾げていると、疑問の答えが後ろからやってきた。
「ゴブリンやオークは粗雑な武器を自作する程度の知恵を持ちます。ですが篝火を扱うことは通常あり得ません。魔物はその殆どが火属性魔法にとても弱い特性を持ちますので、知識を得たとしても火への恐怖が勝ります」
「あ、トゥエルブさん」
フードの人が反応すると、「先程ぶりですね」と会釈を返してくれる。物腰は変わらず穏やかだが、その手にはゴツい長杖が握られている。
「・・・・・・魔物は火を恐れる。なのに篝火を手に持ってるってことは、異常個体かあるいは
「話が早くて助かります。もし予想が正しければ、この襲来は人為的に引き起こされたもの。そうするだけの理由が"積荷"の中にあるということですわ」
「村の方に何かあるって線は?」
「この村は貴方達が居た"スマルト"の街と"ラリマー"の間にある交易路です。定期的に冒険者が巡回しておりますし、ここ最近異常があったという報告はございません」
なるほど、そりゃ取り調べもしたくなるわな。多少の厄介事なら織り込み済みだろうが、冒険者パーティ相手に襲撃かます程のトラブルは許容範囲外だよな。
あれ、じゃあ何でそれを俺達に伝えるんだ?身構えられるだけだろうに。
「私としては、貴方達のどちらかが怪しいと踏んでいますの。人違いでしたら申し訳ありませんが、貴方は私達と任務で一度ご一緒しませんでしたか?先程思い出したのですが、どうして
うわ、マジか。ハンスは報酬が減るからって合同の任務はよっぽどじゃないと請けなかった筈だ。カーツ少年は全く憶えていないし、結構前の依頼だろう。
まさか顔まで覚えられてたとは・・・・・・なんて言ってる場合じゃない。冒険者パーティに居ながら登録しないなんて普通何のメリットもない。側から見りゃ怪しさ満点の肩書きじゃないか俺!?
「───そしてもう一人はこの状況でもフードを取らない性別不明の方。馬車の中でも外すまいと必死に被っていらっしゃいましたね?通常であれば口を出す程のことではございませんが、この様な状況ではそうも言っていられません」
「・・・・・・・・・・」
へぇ、馬車の中じゃ眼を瞑ってたから知らなかったな。自分の手も碌に見えない真っ暗な状況で神経質にしてれば目に付くわな。容姿でトラブルに遭ったとかでトラウマって可能性もあるが、何にせよ怪しく見えるか。
「もしご協力いただけるなら、私から彼らに口添え致します。ラッゾ・・・・・・あの喧しい野蛮人が騒いでからでは話がややこしくなりますので。今回の件にお心当たりはございませんか?」
「えーっと・・・・・・俺の方には全く心当たりはありませんね。冒険者登録してないのはパーティ内での都合と言いますか。話せばしょうもない事情なんですけど」
「・・・・・・」
パーティのリーダーらしき人に噛み付いていた男性への当たりがキツい。どうやらトゥエルブさんはあの人を好ましくは思っていないらしい。俺も疑いが先行する取り調べなんて受けたくないし、トゥエルブさんに話した方がまだマシだろう。
それは置いといて、フードの人は下を向いて微動だにしない。表情は見えないが、恐らく葛藤しながら悩んでいるのだろう。さて口を挟むべきかと思った矢先、意を決した風にフードを取り払った。
「そのピアスは───ッ」
「・・・・・・この後に及んで口を閉ざす無礼をお許し下さい。私には己の口で話す権限がありませんので。教会に属する貴女なら意を汲んでいただけるでしょう?」
美しい蒼色だった。短く切り揃えられた蒼髪もそうだが、耳元で煌めいて自己主張する宝石が美しく輝いている。旅での汚れをまるで感じさせない手入の行き届いた肌といい、この人を只者でないと感じさせる。
「・・・・・・分かりました。何故貴方が此処に、などと問うことも致しません。何とか馬の手配と離脱の機会を───」
「いいえ、この状況を生んだ責任は私にあります。貴女達を置いておめおめと逃げる訳にはいきません。どうか私も戦力に数えてください」
「しかし───いえ、問答をしている暇はありませんね。リーダーの元へお連れしますので、どうぞ此方へ」
トゥエルブさんは何か察した風だが、俺には何が何だかさっぱりだ。どう見ても平民じゃないってのとかなり厄介な事情があるのんだなーってことしか分からん。
そんな風に考えてたら、さくさく歩いていく二人を見逃してしまった。慌てて追い掛けると、ピリピリする冒険者の集まりへと合流する最中だった。
「リーダー、この方が協力を申し出ておりますわ。【防人】さま、此方が【明星】を束ねる"エッジ"です」
「イーグレット・・・・・・その髪、【浄血】の貴族サマだろう?やはり厄介事か、それも特大の」
「はい、容姿から察するに"セレストゲイル"に属する御方かと」
また知らん単語が出てきたな。冒険者パーティの人が知ってるってことは、ある程度常識なんだろうけど。うぐぐ、分からん情報ばかり増えてストレスが・・・・・・。
さっきまで気色ばんでいたラッゾとやらも、鳩が豆鉄砲喰らったみたいに口を噤んでいた。トゥエルブさんの反応も含めると、フードの人は二等級冒険者でも背筋が伸びる立場らしい。
「其方の御令息・・・・・・御令嬢?まあいい。貴人の協力要請は理解した。【浄血】の者なら優秀な魔法使いなんだろう?」
「は、はい。若輩ですが風属性魔法ならある程度・・・・・・」
「上出来だ。攻撃範囲が広く応用も効く風使いは助かる。ところで───そっちの小僧は何だ?」
ジロリ、とリーダーさんの視線が向く。睨んでる訳じゃないのに圧が凄い。ハンスなんかと比べるのも失礼なほどだ。二等級とやらがどの程度の格付けかは知らないが、上澄みの存在であることは充分体感出来た。
「おや、着いてきてしまいましたか・・・・・・えっと?」
「トゥエルブさん、俺のこと完全に忘れてましたよね?それはさておき、俺の名前はカーツといいます。独学ですが治癒と快復ならある程度やれるので、俺にも手伝わせてください」
独学と言った時に一瞬眉が動いたが、特に言葉にはせず鷹揚に頷かれた。実力を測る時間なんてないし、仮に味噌っカスでも回復役は居れば居るだけ良いという判断だろう。
「・・・・・・吐いた唾は飲めんぞ?見たところ冒険者でもなさそうだが、此方の指示には必ず従ってもらう。それで良いなら好きにしろ」
「あー、話を戻して良いか?連中がやって来るまでにゃまだ時間がある。松明で物見の発見が早かったのと、バケモノ共が何かを探す様に右往左往して時間がかかっているお陰でな」
ほうほう、それは良いニュースだ。一方的に奇襲されるのと、ある程度準備を整えてから挑むのとじゃまるで違ってくる。
しかし、櫓の警鐘は連中にも聞こえてるだろうに。それを無視して探し回ってるってのは不自然通り越して不気味だ。魔物相手にそこまで"探し物"を優先させるなんて可能なのか?
「・・・・・・・・・・」
「心配するな、詮索する気はない。何処まで俺達の邪魔になるかだけは聞かせてもらうがな?それよりまずは目先の厄介だ。一番の障害はやはり一ツ目巨人、それから投擲武器だろうな」
「この村の防備は同じ規模のソレよりゃ頑丈だ。だが所詮は木造の壁だ、火矢を射掛けられちゃひとたまりもねぇぞ。もちろん言うまでもなく、一ツ目野郎のぶちかましでもお陀仏だ」
リーダーの人曰く、一ツ目巨人は本来二等級冒険者パーティが複数で挑み討伐する魔物らしい。見上げる程の巨軀、そこから繰り出される怪力も相当なものだが一番の難点は再生力だ。
ただでさえ筋肉の鎧で剣や槍が通りにくいのに、多少めり込んだ程度では数秒とかからず再生してしまうとのこと。これを撃ち破るには再生を阻害出来る火属性魔法か、あるいは超強力な攻撃で再生する暇を与えず殺し切るしかないらしい。
「ま、どっちも俺達にゃ無理なんだがな!魔法使いは到着場所で合流する手筈で居ねぇし、俺やリーダーじゃ首を狙うしかねぇが・・・・・・あの巨大じゃ届く前に潰されちまうわな!!」
「・・・・・・悲観的観測しか出来ないならその汚らしい口をお閉じなさいラッゾ。此処は生き残る為の話し合いの場、死にたければどうぞ飛び込んでいらっしゃいませ」
「あ"あ"んっ!?」
「止めんか二人とも・・・・・・はぁ、一ツ目巨人の撃破は努力目標だ。最優先は雑魚の掃討と頭に叩き込んでおけ」
口振りから察するに、一ツ目巨人の撃破は難しいが無力化あるいは無害化ならアテがあるらしい。そうなると残る問題はゴブリンやオークか。
ラッゾさん言ってたが、幾ら村を門を閉じようと、火矢を射掛けられては堪らない。一ツ目巨人を堰き止めつつ、他の連中も壁に取りつかれる前に倒す必要がある訳だ。
「ラッゾ、協力者と共に物見台へ上がれ。風魔法で先制攻撃を仕掛けさせる。お前の"目"で補助してやれ。崩した所を俺以外の前衛で叩く。イーグレットは前衛の面倒を、俺はカーツとやらを連れて一ツ目野郎を足止めする」
「使いもんになるのかよ?腕も碌に見れてねぇってのに」
「使えんなら村に戻す。所詮元から勘定に入ってない面子だ、役に立てば御の字だろうさ」
おいおい、いつの間にか最前線送りが決定したんだが・・・・・・カーツ少年のボディじゃなきゃ震えて声が上擦ってたかもしれん。"俺"は初陣だし命の危機だしで内心割とパニクってるんだが、この身体は鉄火場に慣れっこなのか冷や汗一つかいてない。
ありがとうカーツ少年、君のお陰で醜態を晒さずに済んでる。おんぶに抱っこですまんが、もうちょっとだけ寄り掛からせてくれ。震え一つない指先が頼もしく、胸を張って宣言する。
「任せてください、決して足を引っ張る真似はしません」
「・・・・・・間違っても俺より前には出るなよ。魔法が届くギリギリの間合いを維持していろ」
「此方をお使いください。私の予備の杖で申し訳ありませんが、無手よりは遥かにマシかと」
トゥエルブさんがそう言って差し出したのは、剣の形をした杖だった。曰く、魔力と親和性の高い鉱石を削り出して作られた物で、咄嗟の護身用程度には近接戦もやれるとのこと。
正直凄く助かる。ハンスを殴った長杖は宿に置いてきちゃったし。偶々ダンジョンで拾った物だがそれなりの値打ち品だ、後で盗まれたとか言われたら面倒だったからな。
「壊してしまっても構いません。そんなものより、前途ある若者の命の方がよほど大事ですから」
「・・・・・・はい、それではご厚意に甘えさせてもらいます。ですが可能な限りちゃんと返します」
「えぇ、どうか御武運を」
剣杖を軽く素振りして調子を確かめる。うん、悪くない手応えだ。心強い。一緒に貰った鞘に納めてから、俺は最後の準備へと向かうエッジさんに着いていく。こんな時に何だが、ちゃんとしたパーティを間近で見られる良い機会だ。これからのことを思えば、少しでもこの経験を血肉に変えたい。
もちろん学ばせてもらった分は働きで返すつもりだ。一ツ目巨人とやらは再生力がウリらしいが、それならカーツ少年の