異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第三章 受胎迷宮攻略編
第二十九話 出発前に


 

 

 

 

 あれから数日が経ち、ゆっくり養生したお陰ですっかり良くなった。退院してからは医療スタッフに加勢し忙しい日々を送っていたが、ようやく治療も目処が付いた。

 

 既に治癒士の多くが自分のパーティに戻ったし、怪我人達も何とかリハビリに励んでる。子爵家からの緊急召集も解除され、そうなると今度は再遠征の準備に駆り出される。

 

 

「遠出の準備って何を用意すれば良いんだ?話に聞いてる感じだと補給が劣悪そうだけど」

「そうですね、ある程度はラリマー子爵家から提供されるでしょうが・・・・・・」

「上位貴族さまの横やりは想定しといた方が良いっすね。かといって自前で用意し過ぎるとカツアゲや盗みの標的にされそうだが」

 

 

 治療ついでに体験談も聞き回ってみたが、まあ酷いもんだった。特に現場管理の騎士や治安維持を努める憲兵の腐敗がヤバかったとか。

 

 平気で中抜きするし、徴収とかいって奪おうとするし、抵抗すれば寄親の高位貴族を盾に逮捕監禁。釈放に法外な身代金を要求されることもあったそうだ。

 

 ラリマー領は支部長が同行してたから被害は少ない方だが、そういった庇護下にない冒険者は悲惨だったらしい。何回聞いても、王都のお触れでやってきた相手への対応じゃないよな。

 

 

「私達はおそらくトマス殿と行動を共にするので大丈夫だと思いますが、予期せぬ面倒ごとに巻き込まれることもあるでしょう。警戒は怠らないように」

「もう既に巻き込まれまくってるっすからねぇ。まあ気張らずいきましょうや、全員手が届く範囲に居りゃ問題ないだろ」

「気楽だなぁ・・・・・・まあ良い加減不測の事態には慣れたし、そのくらいの気構えで丁度良いのかもな」

 

 

 多分だけど着いた当初はそこまで面倒でもないだろう。公爵さま直々の召集な訳だし、最初は呪詛被害者の治療からだろう。そこに変な横やりしてくる馬鹿は流石に居ないしどうとでもなる。

 

 となれば真っ先にすることは【明星】との合流だよな。あの人達がトラブってて無視出来る自信はない。

 

 

「そういえばカーツさんよ、一足飛びに習得した【硬気丹術】はどんな感じっすかね?」

「習得したって言って良いのかアレ。あの時の感覚を忘れないよう反復練習はしてるけど本格的な訓練はまだだな。今あの時みたいに倒れたら周りに迷惑掛けるし」

「それもそっすか。まあこのヤマが終われば流石にラングレーの爺さんも手が空くし、本腰入れて指導役を探すだろ。この件を上手く片付けりゃ、カーツはギルドの恩人だ。そんな相手を粗末に扱う人じゃねぇ」

 

 

 そうだな、【天門僧衆】ってとこを紹介してくれる約束だった。後のご褒美に期待して頑張るとしますか。

 

 一通りの買い出しも終え、最後にギルドへ向かう。出発までに顔見せろって副支部長に言われてたからな。

 

 

「───おう、来たか。ちょっと待っててくれ、コイツだけ片付ける」

「おいおい、まだ仕事してんのかよ。呑兵衛爺さんらしくねぇな」

「こんな時に呑んでられるかよクソガキ。お前さんらを無事にラリマーから放り出す準備で忙しいんだぞこっちは?」

 

 

 軽口を叩き合うウォルフと副支部長。前にもこうしてやり取りしてるのを見たが、気安いというか親しみがあるというか。付き合いも長そうだし、落ち着いたら昔話でも聞いてみたいな。

 

 

「よし、終わった!!待たせてすまなかったな。お前さんらも忙しいだろうによ」

「いえいえ、世話になってるんだから当然だよ」

「うむうむ・・・・・・お前さんもこういうとこしっかり学んどけよウォルフ」

「俺が雑に扱うのはアンタだけだよ爺さん。だから何学んでも変わんねぇよ、残念だったな」

 

 

 拳骨が一つ落とされた後、改めて応接室に案内される。執務室は機密情報も多いだろうし、こっちの部屋の方が開放的で気が楽だしな。

 

 

「───北に行っちまう前に礼を言っときたくてな。一連の指名依頼もそうだが、特に最後の依頼は助かった。お前さん達がやってくれなきゃ、今頃帰還組は土の下だったかもしれねぇ」

「冒険者として当然のことだよ。依頼を受けて完遂する・・・・・・何も不思議なことじゃない」

「はっ、謙虚な野郎だ。それで礼のついでに聞きたかったんだが、お前さん達とカチ合ったって男のことでちょっとな」

 

 

 ああ、"コアトル"とか名乗ってたオッサンな。妙にやる気がない癖に無駄に強いから滅茶苦茶やり辛かったわ。

 

 あれだけの実力者なら名前くらい知られてても不思議じゃない。副支部長には心当たりがあるんだろうか?

 

 

「瞬間移動の如く素早い、それでいて魔法の類いは使わない。そんでもって腕が義手だった・・・・・・この情報に間違いはないな?」

「ええ、間違いありません。ご存知の方なのですか?」

「いや、ワシが直接知っとる訳じゃない。ただ同じ特徴を持った男の噂を聞いたことがあってな。古い冒険者の間で有名な男さ・・・・・・"死んだはずの"という前置きが付くがな」

 

 

 ・・・・・・自分の死を偽装して闇に紛れる。秘密結社の一員としちゃベタな経歴だが、あれだけ強いのに裏方やってる理由としては納得だ。

 

 何か意図があって潜ってるのか、それとも止むに止まれぬ事情があるのか・・・・・・どっちにしても迷惑な話だ。

 

 

「もしワシの知っとる人物と同じなら、その男は元一等級の凄腕よ。遅れを取ったからといって何の恥にもならん」

「・・・・・・そんなにヤバい奴だったのか。それじゃあ手を抜いてたのは、古巣への義理立てだったってことか」

「おそらくそれもあるだろうが、お前さん達だからこそだろうよ。あの男も確か特定の防人さんと親しい間柄だった筈だ」

 

 

 おっと、意外な共通点が・・・・・・もしかしてあの時拾ったペンダントってあの男の持ち物か?軽く聞き回っても持ち主は名乗り出てこなかったし、もしかしたらとは思ってたけど。

 

 

「しっかし爺さん、随分と詳しいじゃねぇか?噂好きって訳でもねぇだろうに」

「まあ現役時代の知り合いがソイツと縁があってな。その伝手で知ったまでよ。それにギルド本部と貴族の仲が劣悪になったのも、奴が死んだことになったのがきっかけらしい」

「・・・・・・無闇やたらと話題に出すな、ということですか?」

「察しが良くて助かる。不用意に喋って敵を作っても損にしかならんからな。気を付けてくれるとありがたい」

 

 

 おっと、そういうオチに繋がるのか。まあ忙しいって分かってて呼ぶんだから大事な話だよな。

 

 けど教えてくれて助かった。俺なんか思いっきり聞いて回るつもりだったからな。自分からトラブル作っていくなんて御免だ。

 

 

「今日呼んだ理由はそんなとこだ。最後にもう一度言うが、依頼を完遂してくれて感謝する。北でも活躍してくれることを期待しとるぞ」

「・・・・・・任せてくれ。トマスさまも何か企んでるらしいし、次会う時は支部長さんも一緒だ」

「がっはっは!!良い具合に自信も付いてきたじゃないか。初めて合った時とは段違いの頼もしさだ。どうかワシや同行出来ん者の分まで───頼んだぞ!」

 

 

 力強く叩かれた右肩が地味に痛いが、それ以上に誇らしくなった。やっぱり期待されるってのは良いことだ。

 

 正直厄介ごとの気配しかしないが、トマスさまが言ってた通りこの件は上手くやれば箔が付く。カーツ少年が名声を得る第一歩として、出来る限りのことをしよう。

 

 

 

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