異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第三十一話 隔離と不和と分断と・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ウォルフが連れてきた人の先導に従い、トマスさまご一行は光属性魔法による強行軍を実施することとなった。冒険者らしき人物のあまりに疲弊した姿に、一抹の不安を覚えたからだ。

 

 彼の目的地はくだんの迷宮がある街から少し離れた場所に作られた集落・・・・・・いや、あれは隔離施設といった方が適切だ。血と膿みの悪臭が遠くからでも伝わるそこは、控えめに言って最悪の環境だろう。

 

 急拵えの柵に、外ではなく中へ武器を構える兵士たち。ラリマー家の家紋を見てすぐに態度を改めたが、アレは人間を見る表情じゃなかった。

 

 

「・・・・・・来てくれたか。これはトマスさま、この様な格好でお目汚し申し訳ありませぬ」

「いや、気にしないでくださいアイゼン支部長殿。それより、この有様はいったい・・・・・・?」

「見ての通りですよ。此処を治める男爵さまは我々を奴隷か何かと認識いるようでしてな」

 

 

 見た感じ支部長に目立った怪我はないが、疲労の色が濃い。彼が陣頭指揮を取っていたからか、他のラリマーの冒険者もまだ余裕はありそうだった。深刻なのはラリマー以外から来た冒険者だ。

 

 負傷もそうだがメンタルがそれ以上に不味い。物資の奪い合いも横行しているのか、重傷者の中には身ぐるみを剥がされた人もいた。

 

 

「こんなに酷いことになってるとは・・・・・・何故治癒士が居ないんですか?」

「むぅ?君は見ない顔だな。いや、今は些事か。彼ら彼女らは修道教会の所属だからな。我々下賤の冒険者と違って丁重にもてなすべし、だそうだ」

 

 

 ・・・・・・そういうことか。同じ平民だとしても、ヴィブギヨル王国全土に強い影響力を持つ教会を敵に回すことは出来ない。だから治癒士だけは隔離してまともな扱いをしてるってことか。

 

 だがそれは負傷者から治療手段を奪うも同然だ。応急手当ての用意もしてるだろうが、治癒士が居るならそう多くは準備してない筈。何より、待遇があまりにも違い過ぎればパーティ内の分断や不和を生みかねない。

 

 これじゃ迷宮攻略を妨害してるって言われても文句言えないだろうに。トマスさまが言ってたシンパの話も現実味を帯びてきたな。

 

 

「俺も治癒士です。体力回復と治療ならある程度やれます。俺以外にも何人か同行してます」

「おお、それは何よりだ。早速───」

「───いや、まずは俺たちに使わせろ!」

 

 

 突然話に割り込んできたのは、後ろに何人か引き連れた男だった。支部長に対してこの態度から察するに、他の街から来た冒険者だろう。

 

 目は血走っていて片手には抜き身の剣まで握っている。冒険者というよりならず者といった状態であり、見るからに追い詰められた危険な姿だった。

 

 

「此処に来て半年、もううんざりだ!!俺に着いてきた仲間はもう半分も残っちゃいねぇ。死ぬ思いで潜った迷宮で手に入れたブツも、全部クソ貴族が毟り取って行きやがった!」

「・・・・・・もちろん治癒士を独占するつもりはない。だがまずは此方の負傷者から───」

「じゃあ何時俺たちの番が回ってくる!?手遅れになってからか?ふざけんじゃねぇっ!!」

「───【鎮静魔法(セデイション)】」

 

 

 気持ちは分かるがこのままじゃ埒が明かない。ひとまず大人しくさせるために『一定以上に昂った感情を冷ます魔法』を掛ける。

 

 嫌な匂いがした時点で急遽用意したが、やっぱり【硬気丹術】擬きを使ってると魔法の掛かり具合が段違いに良い。この場に居た面々もあっという間に落ち着いてくれた。

 

 

「───支部長。俺が彼らの治療にあたってもよろしいでしょうか?今ご覧になってもらったように、複数人に魔法を行使するのも苦手じゃありません」

「私に異論はない。こうして手を拱いている間に生命が零れ落ちていく。他の者も、手が空き次第彼の治療を手伝って欲しい」

「それじゃあウォルフと、それから動ける人たちはコレを負傷者に配ってくれ!最優先の重傷者に、出来れば2、3個ずつ握らせてほしい」

 

 

 馬車に揺られながら作ってた【触媒】を、ありったけ布袋から取り出し押し付ける。ちょっと乱暴なやり方になるが、今はスピード重視だ。

 

 最初は不信感丸出しだったが、四の五の言ってられる状況じゃない。すぐに動き出してくれた。治療が遅れれば本当に手遅れになるかもしれないからな。

 

 

「───行き渡ったかな?それじゃクイン、ぶっつけ本番で悪いが頼むぞ」

「はい、微力ながらお手伝いさせてもらいます。事前にある程度練習はしてますし、カーツさんなら大丈夫です」

「相変わらず君は俺をのせるのが上手いよな。それじゃ期待に応えないと───【吸魔魔法(ドレイン)】」

 

 

 クインから膨大な魔力が流れ込んでくる。もう限界ってくらい飯を食った時の圧迫感に似てる。早く手放さないと本当に破裂しそうだし、さっさと次の魔法を撃たないと。

 

 これからやることは至極単純、俺の魔力や腕が足りないなら他所から借りてこようって作戦だ。クインには負担を掛けるが本人曰く微々たるモノらしい。そもそもの魔力キャパが全然違うからな。

 

 

「まずは【解呪魔法(ディスカース)】、その次は【衛生魔法(サニタイザー)】。最後に【治癒魔法(キュア)】・・・・・・っと」

 

 

 この大量の魔力を直接ぶつけたら反動がエグいことになるからな。まずは呪詛や有害物質に直接作用する魔法をぶつけよう。

 

 その後は【触媒】を遠隔起動し治療を続行する。同時にこれほど魔法を発動させたのは初めてだが、ここまでで使ってようやく前借りした魔力とトントンだった。【浄血】ってホントに規格外なんだな。

 

 

「よし、あと二回だ。行けるか、クイン?」

「任せてください、あと10回頼まれても余裕です」

「おおマジか・・・・・・大船に乗った気分で行かせてもらうよ」

 

 

 クインの存在ありきとはいえ、我ながら有用な戦法を思い付いたもんだ。もちろんカーツ少年の魔法も欠かせないが。

 

 これが済んだらあとは個別の治療だ。まだ迷宮攻略にすら辿り着いてないんだし、他の治癒士にこれ以上消耗させる訳にはいかない。

 

 可能な限り最速で治療を終わらせる。本番はこれからなんだからな。

 

 

 

 

 

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