クインやトマスさまと別れ、少し時間をズラして街へと入った。迷宮へ挑む前に情報収集といきたかったが、成果はあんまり芳しくない。
街そのものは迷宮が齎らす経済効果なのか結構栄えている。だがあちこちに憲兵が配置され物々しいし、雑貨や飯屋ですら立ち入りを見咎められた。
文句を言われず入れるのは御用達のお店か、迷宮に併設された公営施設だけだ。けど値段が露骨過ぎて普通にドン引きした。おそらく迷宮で手に入れたブツの買取りも底値以下だろう。
「・・・・・・何というか、聞きしに勝るってのはこういうことか」
「そっすね、昨日支部長んとこで色々聞いてみたんすけど、銭貸しがこの街で一番ホットな仕事らしい。相場のうん十倍で回復薬やら宿泊費を吹っかけて、それで出来た借金を理由に迷宮へ縛り付けてんだと」
「劣悪な環境でも離れられないのはそれも理由か・・・・・・」
何だか『独裁政治の悪いとこ全部乗せ』みたいな状況だな。権力に悪意を乗せて運用されたら、一般人はもうどうしようもないよな。
我の強い冒険者がこの状況で問題を起こさない筈もない。多分何人かは見せしめにとっ捕まってると思う。さっき奴隷用の首輪を付けられた団体が迷宮のある方向に連れていかれてたし。
「しかしこんな状況じゃ治癒士も後ろめたさで碌に休めないだろ。宿泊を断る奴も出てくるんじゃないか?」
「そこは教会を言い含めてるんだろ。連中は別に平民や冒険者の味方って訳じゃない。治癒士だけは別待遇ってんなら、貴族と正面からコトを構えるのも難しいだろうし」
そういうリスクマネジメントはちゃんとしてるのか。それじゃ教会からの圧力は期待するだけ無駄だな。
寧ろ巻き込まれないよう不干渉の通達が教会から出ててもおかしくない。呪詛の対処に腰を据えたくても、二重の板挟みに合ってちゃ現場もやってられないわな。そうなると、やっぱりトマスさまの案に乗るしかないか。
「───けどまあ、無所属の治癒士にはそんな軋轢関係ないよな?」
「そりゃもう、好きにやっちゃってください。けど魔力の使い過ぎは不味いっすよ」
「そこは心配ご無用、ライルに以前頼んでたブツがギリギリ納品されたからな」
「ああコレっすか?・・・・・・なるほど、何で同じモン幾つも用立てたのか不思議だったがそういうことか」
ウォルフが揺すった皮袋の中には10本の杖剣が入ってる。俺が借りてるヤツを量産してもらったんだ。
ライルにはこの杖剣の材料である鉱石と職人の紹介を依頼してた。最初はトゥエルブさんに買って返そうと思ったのがきっかけだ。そこから指名依頼で懐も温まったので、大量注文へ変更した。
他の杖もそうだが、多少の魔力を貯蔵・保存が出来る便利な機能が備わってるからな。ちょうど帰還組の冒険者が材料になる鉱石を持って帰ってたのと、帰還組の酷さに激昂した鍛治師が超特急で仕立ててくれたお陰で間に合った。
「そこまで珍しい鉱石じゃないし、辛うじて没収を免れたんすかね」
「あるいは、二束三文にすらならなかったから残したのか・・・・・・まあ俺は助かったし、代金には色も付けたし問題ないってことで」
発掘品で人寄せしてただけあり、質は上物だったとか。少しは治療費と生活費の足しになれば良いんだが。
それはさておき、こいつらでちょっと試してみたいことがある。迷宮攻略はうってつけの職場だ。ちょうど人もそれなりに入ってることだし、調査はこの辺にして俺たちも参加してみよう。
「───見ない顔だな。新入りか?」
「はい、ラリマー子爵令息と専属契約を結ばせてもらってます」
「ラリマー・・・・・・?ああ、一度領内へ逃げ帰った連中か。そのまま引き篭もると思ったが、戻ってくるとは見上げた心掛けだな」
「・・・・・・」
絵に描いたような挑発をどーも。お陰でテメェらの収入源ぶっ潰すのに遠慮がなくなったよ。
こんな連中に構うのもアホらしいのでさっさと手続きして迷宮へ入場する。入ったのは初めてだが、中身はまんま地下に建設された神殿って感じの風貌だった。
「・・・・・・凄いな、これが自然現象で生み出されたなんて信じられない」
「しかも大昔に作られたモノの複製ってんだから余計にっすわ。【マナ】ってのは本当に何でもアリだな」
入り口は流石に安全みたいだか、既に奥からは金属が衝突する音や獣の咆哮が聞こえてくる。早くもおっ始めてるらしいな。
「どうやら憲兵も迷宮の中までは居ないらしいな。好都合だな」
「同感っす。支部長たちとは打ち合わせも碌に出来てねぇし、今日の飯代ついでに人助けで時間潰しといくか」
よし、意見も揃ったことだし早速攻略開始だ。俺たちがコソコソ動く為にも、他の冒険者達には活発に探索してもらわないと困る。その為なら多少の"慈善活動"は許容範囲内ってことにしておこう。
音のする方向へ向かうとすぐに追い付いた。そこには見るからに疲労の色が濃い前衛に、同じく息が荒い治癒士の姿があった。
多分だけど合流してすぐに治療を行ったんだろう。一日置いて悪化した傷の治療は通常より多く魔力を持ってかれるからな。開始早々疲れてるんじゃ効率よく稼ぐなんて夢のまた夢だな。
「───ほい、【
「・・・・・・え?ちょ、アンタ誰っ!?」
おぉ・・・・・・物凄く警戒されてる。そりゃこんな環境じゃ人間同士のトラブルなんてあって当然か。況してや女性ばかりのパーティだ、見ず知らずの相手なんて恐怖の対象だろうな。
でもそれじゃ困る。仲良しこよしなんて無理難題だろうが、この有様じゃ背中から刺されそうで探索どころじゃないしな。
「武器を下ろしてくれ、こっちに敵意はないよ。この迷宮に来たばかりでね、情報欲しさにお節介をさせてもらったんだ」
「・・・・・・何の用かしら?教えてあげられるような情報なんてないわよ」
「そう警戒すんなって。俺が欲しいのは『浅い層で得られる成果の相場』だよ。もちろんこの街じゃなくて一般的な方の額だ」
「・・・・・・?潜る時間にもよるでしょうけど、金貨10枚ってとこね」
ふむ、やっぱり希少資源が取れるだけあって本来の見入りは悪くないな。それなら"商売"もやり易そうだ。
「ありがとう。質問を重ねてすまんが、もし帰りに『銀貨5枚分の対価か情報で治療を請負う』って商売始めたら需要ありそうか?」
「・・・・・・は?」
「やっぱ値段が強気過ぎるかな?相場よりちょい高いし」
「いや、そりゃ地元の治癒士より高いけど・・・・・・阿漕に稼ぎたいなら街の連中に迎合すれば良いじゃない」
あ、良心的って意味で不思議がってるのか。商売はまだまだ素人だから勝手が分からないな。
「いやいや、恨みまで買いたいと思うほど酔狂じゃないんでね。それにこっちは貴族とのコネで帰ろうと思えば帰れる立場だ。危険を侵さず通常業務で発掘品をもらえるならそうするさ」
「・・・・・・」
「まあ夕方にはこの辺でうろうろしてるから、困った時は使ってやってくれ。それと、もしよければ他の親しい冒険者にも宣伝してくれると助かる。さっきの治療はその宣伝代ってことで」
「・・・・・・・・・・・・取り敢えず、話だけは聞いとくわ」
最後まで警戒心は解けなかったが、話を聞いてくれるようになっただけ上々だろう。多分話し合いにすらならない連中も居るだろうし、幸先は良いと思う。
「よし、これで少しでも協力を得られれば御の字だな。それに発掘品があればアリバイ作りもし易くなる」
「ほー・・・・・・色々考えてんすねぇ」
「まあトマスの坊っちゃまの入れ知恵だけどな。さあ、支部長達と合流するまでどんどん押し売りしていこう」
そう言ってる間に新しい戦闘音が聞こえてくる。どうやら仕事には事欠かなさそうだ。