「───ふむ、言ってみれば治療院の出張所のようなものか。実に興味深い試みだ」
「治癒士の冒険者は通常ギルドあるいはパーティ単位で契約しますからね。見ず知らずの冒険者を治療して対価を得るなんて発想、私は思い付きもしませんでした」
迷宮内をフラフラ彷徨うこと約一時間、ようやく支部長さん達と合流出来た。収容所じゃ緊急事態過ぎて碌に話も出来なかったな。副支部長より歳上、かつ歴戦の冒険者と聞いてたが・・・・・・見た目は優男の
「ははっ、南部に居たら私のような風貌は見慣れぬだろう?そういえば初対面では挨拶もままならなかったな・・・・・・冒険者ギルドラリマー支部の支部長を務めるアイゼナッハだ。見た目の通り『第一世代』の
「カーツと言います。最近ラリマー支部にて冒険者登録をさせてもらいました・・・・・・第一世代?」
「やはり馴染みはないか。俗に言う"純潔のエルフ"はほとほと数を減らしていてな、一昔前に"ハーフエルフ"と呼ばれていた子達が今はエルフとして扱われておる。その区別として便宜上第一世代、第二世代と呼称している」
私は気にしないが周りがうるさくてな・・・・・・そう言って苦笑する支部長の所作はとても洗練されていた。無駄がなく、それでいてスマートだ。
「ふむ、本当にパーティを組んでおるのだなウォルフ。昨日も耳にしたが、とうとう幻覚の友を生んだとばかり・・・・・・」
「そりゃないっすよ師匠・・・・・・まあ正式にパーティを組んだ訳じゃねぇっすけど、意外と居心地が良いもんでね。トラブルが向こうからやってくるんで退屈しないしな」
「魔物の襲撃・・・・・・貴族絡みの指名依頼・・・・・・突然出てくる秘密組織・・・・・・うっ、頭が」
深く考えるのは止めよう、精神衛生的に良くない。
「若いのになかなか苦労しておるのだな。新人冒険者の見聞録は是非拝聴したいところだが・・・・・・先に用事を済ませようではないか」
「うっす、トマスの坊ちゃんからは何処まで聞いてんすか?」
「うむ、昨日は碌に挨拶もままならなかったが、要点をまとめたメモ書きは頂戴しておる。故に今後の動きについてもある程度は把握したつもりだ」
おお、流石に仕事が早いな。面倒の気配を察して速攻雲隠れしたってのに、いつの間に情報共有してたんだ?
「冒険者ギルドが矢面に立たされるのは些か癪だが、私も強硬手段が最善だと思う。北部と中央の一部にしか利益が還元されておらず、どれほど此処へ縛り付けられるか分かったものではない」
「貴方なら呪詛を退けられると聞いたが可能なのですか?・・・・・・失礼、支部長の補佐を任されているマリエッタです。以後よろしく」
スッと前に出てきたのは男装が似合いそうなキリッとした顔立ちの美人さんだ。支部長と揃うと華やかで絵になるが、補佐を任されるくらいだから文武両面で優秀な人なんだろう。
「此方こそよろしく頼みます。呪詛については【漆烙の汚泥】を機能停止させた経験があります。迷宮の呪いにどの程度成果が出せるかはこれから検証する予定です」
「【浄血】の防人を数多く葬ったあの呪物を・・・・・・!?なるほど、トマスさまがわざわざ出張ってくる訳です」
「呪詛を無視出来るのであれば迷宮踏破の可能性は大いに高まる。私とマリエッタくんも自衛出来る程度には光属性魔法の心得はある。それに専門の治癒士もある程度は揃えられる。君は安心して呪詛対策に集中してくれ」
え、この人ウォルフより白兵戦強いのに回復まで出来んの?やっぱ上澄みの冒険者って化け物揃いなんだな。
それはさておき、支部長達の話からすると道中の魔物そのものは充分対処出来るみたいだな。呪詛の存在だけがネックって感じか。だが問題はそれだけじゃない。
「───呪詛対策はもちろん必須です。しかし最深部には万全の状態で待ち構えてるヤツが居るらしいんです。"バシュム"とかいう、【漆烙の汚泥】の創造者とか」
「・・・・・・最も悪名高い『大蛇衆』の一人だな。随分と厄介な男が絡んでいるな」
「少なくとも王国で100年以上活動記録のある妖魔が相手ですか・・・・・・生半可な戦力では足手纏いにしかなりませんね」
それについては同感だ。迷宮の最深部まで同行出来て、かつ"コアトル"の野郎と同格の相手とやり合えるだけの余力を残せるのが最低条件だからな。
俺も【
「なるほど、懸念点については此方も承知した。それで肝心の迷宮踏破は何時実行するつもりかね?」
「取り敢えず一週間は時間を取って欲しいとトマスさまから要望を貰ってます。現着して早々踏破されたんじゃ怪し過ぎますし。それに、競争相手が予想以上に疲弊していて隠れ蓑になりませんので」
「そうだな、容疑者が少な過ぎては誤魔化し切れんか。了解した。ではそれまでの間は力を蓄えつつ君たちの支援に回るとしよう。他に何かあったかなマリエッタくん?」
「いえ、今のところは特にございません」
よし、それじゃ此処からは迷宮攻略に戻るとしよう。せっかく冒険者の大先輩が居ることだし、ご指導ご鞭撻をお願いしたいところだ。
「───しかし、随分景気良く光属性魔法を施しているようですが、どうやって魔力を保たせているのですか?」
「ああ、それはですね・・・・・・ちょうどいい。今から実践します。ウォルフ、頼んだ」
「了解っす」
都合よく兎型の魔物が現れたので、ウォルフに槍で生け取りしてもらう。ふわふわモコモコで可愛らしいが所詮は魔物、人間なんて簡単に死ねる相手だ。見た目に惑わされず油断大敵が大事を心掛けよう。
完全に縫い止めてるのを確認した後、【
「・・・・・・魔力を吸収する魔法、か。君は
「いえ、れっきとした光属性魔法ですよ?まあ俺のは我流ですし、【硬気丹術】擬きを使ってる間しか使えませんけど」
小出しで運用して合計一時間が安全ラインなんだよな。合流するまでに使い切ってなくて良かったよ。
【
こうしておけば他所の冒険者には杖に蓄えた魔力で治療が出来るし、俺自身の魔力は使わなくて済むから疲弊もしない。適度に魔物から補充すれば出張治療院の出来上がりだ。
「流石に物資についてはお手上げですけど、冒険帰りに治療が間に合えば多少状況も良くなる筈です。万一貸しに感じてくれれば万々歳だ」
「これが、光属性魔法・・・・・・?しかし・・・・・・いえ、部外者が余計なことを言うものではありませんね。素晴らしい魔法です」
「ありがとうございます。そういえば気になったんですけど、マリエッタさんは敬語使うんですね?ラングレー副支部長から冒険者は舐められるから使うなって聞いてたんですが」
「・・・・・・はぁ。あの人は本当に知識の更新が出来ない人ですね。確かに昔はラリマーもまだ荒くれ者が多く、そういったトラブルはありましたけど。私からすれば礼儀正しい人の方が仕事の紹介で───っ!」
遠くから微かにだが悲鳴が聞こえてきた。真っ先に反応した支部長を追って、全員で現場に急行する。途中で何度か魔物に遭遇したが、全部支部長が一瞬で蹴散らしてた。スゲー。
そうして最速で到着した場所では、首輪をしたボロボロの冒険者が戦っていた。入り口で見かけた『訳アリ』の連中だろう。
「まあ相手が誰でも、まずは治療だな───【
「───ッ、その魔法はっ!?」
「あん・・・・・・?何か言った───あっ」
弱ってそうだし、負担の少ない魔法を使った瞬間───物凄く虫唾の走る声が聞こえた。誰かと思えばお前か、ハンス・・・・・・何でこんなとこに居るんだお前??