「・・・・・・何で自分から疫病神と縁結んじゃうんですか」
「ええと、返す言葉もございません・・・・・・」
あれから迷宮探索も一区切り付け、詰所まで戻ってきたらクインが出迎えてくれた。その両脇にはトマスさまが連れてきた兵士が固めていて、俺たちの発掘品をいそいそと運び始めてる。
此処で処分しても対価は雀の涙だからな。トマスさまが責任持って買い取るとのことなので、支部長立会いの元引き渡すことになった。
そんなあれこれを終えたあと、宿泊施設へ移動し一息吐いた俺に待っていたのはお説教だった。うん、何も考えずに情報共有した俺が悪い。
「まあまあ、長年傅かされてきた相手です。無意識に言うことを聞く習慣が残ってても仕方ないでしょう。明日からは防人さまにも同行してもらいますし、今日のようなことは起きないでしょう」
「ええ、カーツさんの身は私が守ります」
「・・・・・・美人に男前が加わると眩しくなるんだなぁ」
わーソファがふわっふわだぁ・・・・・・やっぱ貴族御用達の施設は違うなぁ。俺此処でも充分安眠出来そう。
「はいはい、現実逃避はその辺にして帰ってきてくれ。まずは迷宮探索お疲れさま、初日から良い仕事してくれたみたいで大変喜ばしい」
「そういうトマスさまも、収容所で盛大に炊き出しを催して慰撫してくださったとか。道中クインから聞きましたが、物資的に大丈夫ですかね?」
「なぁに、君たちが随分稼いできてくれたから問題なく黒字経営だよ。貴族令息、しかも名代で来てる男に吹っ掛ける馬鹿は流石に居なかったからね」
「・・・・・・戦争でもないのに、自領土からこんなに離れた場所まで来る貴族なんて普通居ませんよ」
そりゃそうか、殿様商売やってる連中だってそんな命知らずな真似はしないか。幾ら地方で派閥に別れてるといっても、貴族と平民には不可侵の一線がある。
需要過多や原材料不足といった常識の範囲内での値上げなら兎も角、意味不明に吊り上げたら最悪詐欺で訴えられる。どこまで公正公平か怪しい貴族院の裁判機関も、平民による貴族階級への侵犯は決して許さないだろうし。
「それにラリマー領は南部の食糧庫として有名だからね。発掘品は適正価格に色付けて買ってもらえたし、食料についても以下同文だ。その代わり君たちに渡せる金額が少なくなったけど」
「それはしょうがないですよ。先任冒険者も医療と食事が足りて少し冷静になってくれそうだし、感謝しかありません」
最初はお家騒動に巻き込まれたと思ったし今でも多少そう思ってる。けどこの人が現場に居るのと居ないのとじゃまるで結果が違っただろうな。多分初日から資金難に陥っていた可能性が高い。
今俺たちが居る宿泊施設だって貴族御用達だ。クインが居るからもしかしたら借りれたかもしれないが、セレストゲイルは市政には口を挟まないことで有名らしいし。権力でゴリ押しされた時の対応なんて俺はお手上げだ。
「まあ安心したまえ、小切手はちゃんと用意してある。ラリマー領に戻ったら残金は利子付けて返すよ」
「なんか・・・・・・至れりつくせりで後が怖いんですけど」
「気にしなくて良いよ、必要経費だ。何度も言うけど、目的達成には君の力が不可欠なんだ。端金を惜しんでケチが付くなんて本末転倒さ。迷宮踏破に尽力してくれればそれで良いよ」
「痛み入ります───ところで、そっちの話はどうだったんですか?此処の管理者と早速会談したみたいですけど」
俺の方の報告は一段落したし、今度はクイン達で起こった話が聞きたい。直接は関係ないし関わりたくもないけど、冒険者活動に何処まで支障が出るかが掛かってるからな。
「ああその件だね。結論から言うと、迷宮の外での妨害は今以上には起きないだろうね。反乱分子の手が伯爵本人にまで及んでないって予想は当たりだろうし」
「・・・・・・ってことは、連中に迎合してるのは管理者あるいはその周辺までで確定ですか?」
「おそらくは。私もこっそり魔法で確認してみましたが、あの屋敷に分不相応な魔力や能力を有した人間は居ませんでした。数についても騎士爵相応だと思います」
「普通爵位が上の貴族が来るなら、派閥や親類から同格の貴族を呼ぶものだ。じゃないと爵位や軍事力を盾に好き放題されかねないからね。伯爵を抱き込んでるなら本人かその配下が到着してる筈だ」
トマスさまは出立直前にだが自分が直接向かうことを伝えていたらしい。もちろん失礼に当たるが、上司を呼ぶだけの猶予はあったとのこと。その動きが全くないってことは、直属の上司にすら現状を見られたら困る───即ち情報を隠匿してるって訳だ。
まあそれも当然か。幾ら平民の力を削ぎたいとはいえ、冒険者ギルドに錦の御旗を握らせたまま関係破綻は御免だろう。それにラリマー子爵家のような、ギルドと良好な立場を保つ貴族も激怒する筈だ。街の防衛に冒険者を頼れなくかるからな。
そこまで炎上が拡大すれば教会も尻馬に乗る可能性が出てくる。そうなれば誰も庇わないだろうし、詰腹を切らされて身の破滅だ。北部だって派閥内競争もあるだろうし、身内といえどそう簡単には呼べない状況なのかもしれない。
「まあ今のところ予定通りという訳だ。この街の管理者くんは二重の意味で僕に釘付けになる。とはいえ長いこと滞在する訳にはいかないし、良い感じに迷宮を踏破しちゃってくれ」
「あんまり早いのも不味いんでしたよね?何時ごろに決着付けるのが理想ですかね」
「最長なら一ヶ月までってとこかな。帰りの旅程もあるし、二週間後からそれ以内が理想だよね。難しい塩梅だけどよろしく頼むよ」
その辺りで話し合いはお開きとなり、トマスさまの部屋から退室した。本来なら俺は収容所行きだが、またしてもクインの従者設定が発動しこの施設の別室に泊まれることになった。あとウォルフも。
「・・・・・・前回で味しめてませんかね、クインさんよ」
「ははは・・・・・・流石に土地勘のない場所で一人は心細かったもので、すみません」
「え、何で俺も?いやまあ、上等な寝床をいただけるのはありがたいっすけど」
「今更そんなこと言うなよ。これでも同じ死線を潜った仲じゃないか。同じパーティで一人だけ除け者はクインも良心が痛むだろうし」
うん、一人だけ収容所なんて最初から選択肢にないだろ。他の同行した冒険者には悪いが、その辺は依怙贔屓させてもらう。
さて、用意してもらった個室だがまず真っ先にやることがある。クインが部屋の中央に立つと、緩く擽る程度の風が部屋の隅々へと行き渡らせていく。表情を見た感じ、問題はなさそうだな。
「・・・・・・何やってんすか?」
「ああ、風属性魔法を利用した"調べ物"らしい。何でも盗み聞きや遠見とかの不届きな魔導具なら触れただけで看破出来るらしい」
「へー、流石防人さま。便利な魔法を持ってるっすねぇ」
本当にな。攻撃は凄くてサポートも満点、その上探知まで出来るとか俺の相棒が有能過ぎてヤバい。とはいえ【漆烙の汚泥】の所為で【
それはさて置き、部屋の安全も確保出来たことだし日課を終わらせますか。俺も慣れない迷宮探索で疲れたし、これが済んだら今日は早く寝てしまおう。
「・・・・・・やっぱ部屋出た方が良いっすかね?」
「何勘違いしてるか知らんが、れっきとした治療だぞ。そうだ、お前もちょっと受けてみろ。治験は件数が多ければ多いほど良いからな」
「おっと藪蛇っすか」
そんなこと言いながら、言われるがままベッドに転がってるじゃねぇか。乗り気なのは結構だし俺も助かるが。【浄血】以外に効果があるのか知りたいと思ってたからちょうど良かった。
「そんじゃあいつも通り─── 【
「お、おぉ・・・・・・!?なんだこの珍妙な感覚は?食い過ぎた後に来る心地良さに似てるような・・・・・・??」
クインは正座した後の足みたいな感想だったけど、やっぱ個人差は出るよな。ウォルフは健康そのものみたいな身体してるし。
因みに俺が【
「うおぉ・・・・・・一気に動きたくなくなってきたっすわ。このまま寝そ───っ!?」
「ど、どうした!?何か副作用でも───」
「あ、ああそういうんじゃない。誤解させて申し訳ないっす。ただ・・・・・・コイツが薄くなっててな」
そう言って掲げた右腕には、タトゥーみたいな赤褐色の模様が刻まれている。確かによく見てみると、二の腕に近いほど薄くなってる気がする。
「・・・・・・コイツは、あの蛇野郎とやり合った時に使った『恩恵』の名残りっすわ。喰らった呪詛を力に変換出来るんだが、無制限って訳にはいかねぇもんで。時間が経てば勝手に消えてくんで、放置してたんだが」
「その入れ墨みたいなのが許容量を示してるって訳か。じゃあそれが薄くなったってことは───」
「腹に溜まったままの呪詛が少し消えたってことだよな、普通に考えれば。生命力が増えた分無視出来てるからか、あるいは本当に中和してんのか・・・・・・面白い魔法っすね」
まさかの新事実が発覚した。【漆烙の汚泥】に蝕まれたクインには逆効果だったし、直接呪詛に作用してるというより"呪詛を中和する能力にバフを掛けてる"って感じなのか?免疫力を高めるヤ◯ルトみたいな??
正直これだけじゃはっきりしたことは言えない。それに検証する為に呪詛を喰らえとも言えないしな。まあ愉快な副次効果があると分かったのは収穫だな・・・・・・それはそれとして、だ。
「・・・・・・これからはお前も当分俺の患者だこのおバカ。何しれっとヤバい
「いやぁ、あんまり世話になるのも悪いと思って・・・・・・じゃあよろしく頼むっす───ん?」
「どうした、まだ他にも影響が出たか?」
「───いや、気のせいか。そんじゃゴチになるっすわ」
まったく・・・・・・最深部に挑むまでには治療を終えとかないとな。まあ最悪、杖剣の魔力も注ぎ込めば問題ないだろ。