異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第三十七話 活性する迷宮

 

 

 

 

 

 

 迷宮探索初日を終え、俺たちは活動を本格化させた。とはいっても派手に攻略するのは【明星】の人達の担当で、俺たちはその裏でひっそりと情報収集に勤しんでいた。

 

 彼らが人と魔物両方の注意を引いてくれたお陰で調査は順調だった。お陰で中層以降に出現した、くだんの呪詛についても調べることが出来た。

 

 やり方は【漆烙の汚泥】と同じく、【不全魔法(マルファンクション)】で停止させ持ち帰るという方法だ。名乗りを上げたウォルフに『恩恵』を使わず呪詛を回収してもらった。

 

 

「・・・・・・また何とも豪胆な方法ですね。ですがこれ以上なく確実な調査が行えるでしょう。私にお任せください」

「はい、またあの時のように頼りにしてしまってすみません」

「いいえ、礼を言うべきは此方です。ご協力ありがとうございます」

 

 

 あの村の時みたいに、こっそりトゥエルブさんに呪詛を引き渡しておいた。治癒は出来ても調査は専門外だからな、俺は。

 

 だけど【不全魔法(マルファンクション)】が対策されてないのは助かった。流石に短期間でそこまで改良されなかったらしい。戦力外通告されずに済んで何よりだ。

 

 

「───では実地研修といこう。君は我流である上に感覚派らしいからな。口頭で長々と語るよりやって見せた方が身につくだろう」

「はい、よろしくお願いします支部長。それからマリエッタさんも」

 

 

 攻略の合間には俺への指導も行われた。トップクラスの冒険者からほぼマンツーマンで教わるなんて相当な贅沢だろうな。

 

 

「君は魔法を使うにあたって重要となる『魔法を扱う自負心』、それから『完成図の予測』がしっかり出来ているね。これなら既に扱っているものと同質の魔法より、まだ見ぬ魔法を見せた方が良いな」

 

 

 実のところ他人に教わるのも、魔法をじっくり見るのも初めてで少しワクワクしてる。え、クインの魔法はよく見てるだろって?アレは参考にならなさ過ぎるからノーカンで。

 

 

「魔法に必要なことは『識る』ことです。小難しい学問も、実技演習も結局はその延長になります。あとは才能さえあれば、魔法は自ずと発動します」

「なるほど・・・・・・魔力操作は目に見えるものじゃないし、感覚で掴むしかありませんからね。それでも俺は光属性魔法が使えてる訳で・・・・・・目的を定めて、魔法で実現可能かを知るのが大事ってことですか」

「その通りです、実に物覚えの良い生徒で大変結構です。しかしその理解力は一体何処で学んだのか・・・・・・いえ、詮索は無粋でしたね」

 

 

 マリエッタさんの発言に一瞬ヒヤッとしたが、深く突っ込まれることなく指導が再開される。

 

 

「───今の魔法は一体?」

「簡潔に言えば『万全の状態を知る為の魔法』になります。光属性魔法はその殆どが、"元の状態へと戻す"ことで治療を行っています。これはその技術の延長にある魔法といえるでしょう」

「対象を診察する魔法・・・・・・それを『相手の能力を盗み見る魔法』へと転じている訳ですか。面白いですね」

 

 

 創意工夫で結構裾野が広がるんだな。細部を弄れば万全だけでなく、今の状態を知ることも出来そうだな。

 

 光属性は回復系の魔法しか使えないって先入観があったから正に目から鱗だな。やっぱり勉強は一人でやるもんじゃないな。

 

 しかしこうして教わってみると、【譲渡魔法(ディバイド)】ってやっぱり変わってるよな。あれどう考えても『元に戻す』って感じじゃないし。光属性魔法だと思って使ってたが、もしかして別属性だったりするのか・・・・・・?

 

 

「───どうかしましたか?」

「ああいえ、新しい発見がありそうだなと。そういえば、同じギルドの一員だからってこういう技術を教えても良いんですか?」

「そうですね・・・・・・【魔技】のような"弱者の財産"はおいそれと教授されないでしょう。ですが、こと魔法においてその理屈は適用されません。そもそも"教えてもらえる立場"に立つことこそが最も困難ですから」

 

 

 はて、簡単に教えてもらえるのに教えてもらうことが難しい?どういうことだろうか、という疑問を察したのかマリエッタさんが言葉を続けてくれる。

 

 

「まず魔力の過多、それから制御能力(先天的才能)。続いて|想像力を支える知識量に、それを育める教育環境《後天的素質》・・・・・・魔法使いに求められる素養はとても多様で質も妥協出来ない。なので教えたいと思う人間は、そもそも教えれば出来る人間なんですよ」

「ほー・・・・・・魔法にも階梯(レベル)がある訳だし、足切りが滅茶苦茶多いのは納得です」

 

 

 【一番星】のミナみたいに、魔法使いじゃないけど特定の魔法なら得意ってパターンもあるしな。人それぞれだけど、生活が掛かってる以上努力の取捨選択は大事になってくる。

 

 魔法で身を立てようって人間は、自惚れじゃないなら相応の才能も持ってるだろう。なるほど、他人の教えが必要な時点で上澄みしか残らないってことか。

 

 

「───魔物が出現しましたね。それでは実践といきましょう」

「はい、やれるだけやってみます!」

 

 

 学んだ後はすぐ実習の時間だ。敵は放っておいても勝手に湧いてくるし、それに応じて怪我人もまた増える。臨床試験の相手には事欠かないな。

 

 

「えーっと、【転写魔法(クリビング)】で万全の状態を把握してから【検査魔法《インスペクト》】で現状把握。それから【治癒魔法(キュア)】をすると───おお、傷の治りが良くなったな!」

「へぇ、手間が増える代わりに被験者の負担を減らしたまま回復効果を増やせるんすね。戦闘の最中は兎も角、安全な場所でならかなり使えそうだな」

 

 

 やっぱり漠然と治療するより、状態を把握した方が段違いの効率性だ。俺の場合は【反転魔法(ネガ・スペル)】で光属性魔法の階梯(レベル)はもう上がらないらしいし、効率性の有無は他の治癒士よりずっと重要になってくる。

 

 それはそうと、ここ一週間で迷宮内での戦闘もそれなりに慣れてきた。お陰で魔物以外にも目を向ける余裕も出てきた。

 

 

「───そういえば、少し階を降りた辺りから急に増えてきたなコレ。御神体か何かか?」

「うむ、考古学者によると再現された時代じゃありふれた像らしいな。ここまで多いのは珍しいが」

 

 

 あちこちに鎮座しているガーゴイルの石像。戦闘の余波で壊れてるものも多いが、どうやら勝手に動いたりはしないらしい。

 

 物珍しい技術も使われてないし、素材も取り立てて貴重なものでもないらしい。こんなもので荷物を埋めるより、貴重なものは幾らでも転がってる。その所為か新参者以外は見向きもしなくなったとか。

 

 

「───そういえば、発掘品ってどうやって持ち帰るんだっけ?確か専門家が必要とか聞いたけど」

「そういえば、戦闘と治療ばかりで見る暇もありませんでしたね。迷宮で再現された物は特殊な処置を施さないと霧散してしまうんですよ」

「かなり精密な魔力操作が要るらしいっすね。冒険者やりながらの習得は無理だそうで」

 

 

 クインとウォルフが解説してくれた。冷静に考えてみると、何処から魔物が現れるか分からん迷宮に素人同伴って無茶な話だよな。

 

 しかも迷宮探索がメインのパーティなら兎も角、それ以外だと碌に付き合いのない相手と組むことになる。うん、踏破専門のチームで良かったよ。いやマジで。

 

 

「大変だな、冒険者も技術屋も───『やんのかテメェッ!!?』───なんだなんだ?」

「すぐ近くからですね、どう対応されますか?」

「せっかく治療して回ってるのに、余計な怪我増やされても迷惑だしなぁ・・・・・・支部長はどう思われますか?」

「つい先日まで諍いが絶えなかったのだ。体力がある状態で遺恨を増やせば碌なことにならん。やむを得まいな」

 

 

 声のする方に行けば、複数人の冒険者が言い争いをしていた。片方はまだ冷静さを保っちゃいるが、その手には得物が隙なく握られていた。俺たちが仲裁に来なければ刃傷沙汰になってたかもな。

 

 話を聞いてみると、偶々同時に発掘品を見つけたことによるトラブルらしい。取り敢えずトマスさまから預かった銭で俺たちが買い取り、代金をそれぞれに折半することで折れてもらった。多少不満そうだったが、俺たちの顔を立ててくれるとのことだ。

 

 

「・・・・・・やれやれ、多少元気になったかと思えば」

「活力が戻っても冒険者間での争いは減りませんね。騒動の火種が変わるだけで」

 

 

 支部長とマリエッタさんは同時に溜息を吐いた。まあ俺たちも同感だ。仲良しとはいかなくても、もう少し協力して挑めば良いだろうに。

 

 

「とはいえ、皆さんの迷宮探索が活発化しているのは狙い通りです。一歩ずつ前進出来ていると考えましょう───カーツさん、どうされましたか?」

「いや、俺たちも此処でそれなりの時間を過ごしてるけど、"黒幕"の狙いがさっぱりだなって」

 

 

 当初は冒険者と北部貴族の関係悪化だと推測していた。間違ってるとは思わないが、現状それを妨害してる俺たちに何のアクションも送ってこない。

 

 それはつまり、俺たちを無視して"何か"に取り組んでるってことだ。だけどそれが何かが全く見当も付かなくて座りが悪い。

 

 

「あんまり考え過ぎるもんじゃねぇっすよ。どうせ俺たちの予定は変わらないんだ。状況が悪くならないよう祈るしかないっすわ」

「無論、些細な変化も見逃せないのは確かだ。だが気負い過ぎるのも逆効果だろう。我々は出来ることを熟していこう」

 

 

 ウォルフと支部長の言葉に頷きながら───俺は足裏から"脈動"が伝わってくる錯覚を拭えないでいた。

 

 

 

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