異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第三十八話 最終調整

 

 

 

 

 

「遅いっ!!俺が呼んでるのに何処をほっつき歩いて───ぐえっ!!?」

「はいはい、迷宮ん中とはいえ治療施設で騒ぐのは御法度っすよー?」

「そのまま圧し折っても構いませんよ、というかもうやっちゃってください」

「いやいや、やっちゃわないで。こんなバカの血で手を汚すとか嫌だよ」

 

 

 クインが塵屑を見る目と共に吐く暴言を宥めながら、俺は迷宮の一階層に用意した特設治療院を運営していた。まあ長旅用のテントと寝床を用意しただけの簡素な代物だが。

 

 相変わらず迷宮内での出張治療は盛況だ。この街の役人も多少譲歩を見せ始めたそうだが、まあ今更何言ってんだって話だよな。最近は治療だけでなく発掘品の買取りも始めたから漸く危機感をもったらしい。まあ手遅れなんだが。

 

 権力で潰したくても、トマスさまが専属契約相手だからそれも難しい。それに治療のバックアップもそうだが、仮設住宅や娯楽物も用意して収容所の環境を改善してくれたらしい。

 

 お陰で冒険者の態度が大分柔らかくなった。今も舐めた態度取ってくるのはハンスの馬鹿野郎くらいだ。

 

 

「あ、そうだ!あの貴族のボンボンお前の契約相手なんだろ。なら俺の仮住居も作らせろよ」

「・・・・・・そのまま不敬罪で捕まれこの馬鹿野郎。あの人確か、発掘品を対価に格安で作るって言ってたぞ?」

「何で俺が動くんだ?お前が何とかするに決まってるだろ」

 

 

 治療に来るたびこの調子だ。もうお前に従う義理は無いって何度言っても聞きやしない。毎回ウォルフかクインに蹴り出されてるってのに・・・・・・彼らもいい加減不愉快だろう。

 

 かつてカーツ少年がこの馬鹿に従ってたのだって文字を書けない、読めない状況でどうにもならなかったからだ。しかもギルド登録すらさせてもらえなかったから社会的地位も皆無。コイツに衣食住を握られてた所為で従うしかなかった。

 

 でも今は三等級冒険者だし、貴族さまの後ろ盾もある。俺が従わなきゃいけない理由はもう存在しないし、それを分かってないのはこの馬鹿だけだ。

 

 

「お前さ、まともに冒険者やる気がないならもう故郷に帰れよ。お前の階梯(レベル)なら幾らでも仕事はあるだろうが」

「はぁ?お前を見出してやったのは俺だろ!?いや、お前の魔法が俺に夢を見せやがったんだ。なら最後まで責任取れよ!お前にはその義務があるんだ!!」

「・・・・・・流石に呆れる通り越してムカついてきたっすわ。最悪の事態になる前に殺してやった方が、お互いの為ってヤツじゃねぇか?」

 

 

 ウォルフが槍に手を伸ばす。冗談混じりの空気が消えたのを悟ったのか、ハンスが目の色変えて退散していった。同郷の醜態とその対応を任せた申し訳なさに、俺は穴があったら入りたい気分だった。

 

 

「・・・・・・ありがとな。お陰で少し溜飲が下がったよ」

「心にもねぇこと言うもんじゃないっすよ。アンタも大変だな」

「しかし顔を合わせる度に、口を開けば無心ばかり。加えて武器の摩耗具合から察するに、あの方碌に戦闘もせず貴方を探しているみたいですね」

「こんなとこまで来て、やることは昔馴染みへのタカりっすか。ちょろちょろ纏わりつかれてちゃ攻略の邪魔になりかねんでしょ?」

「かといってトマスさまに相談したらマジで消されそうだしなぁ。死ぬなら俺の知らない所で勝手に居なくなってほしい・・・・・・」

 

 

 俺は実感湧かないが、カーツ少年の記憶によると昔は多少マシだったんだがなぁ。ある程度階梯(レベル)が上がって、冒険者を雇って指示だけ飛ばすようになってから堕落していったらしい。

 

 村長の息子としてちゃんとしたモン食ってたし、やる気があった頃は鍛えてたお陰でそれなりの地力もあった。今じゃ見る影もないけど、そういうのを知ってるからか切り捨てるのも後味が悪い。

 

 

「・・・・・・まああと二、三日の辛抱です。この街で犯罪を行った罰で迷宮探索に従事しているみたいですし、聞いた話だと借金もあるようです。我々が帰還してしまえば、もう会うこともないでしょう」

「仮にどさくさに紛れて脱走したところで、ふん捕まえて憲兵に突き出せば良い。確かに、手を汚す価値もねぇっすわ」

 

 

 二人ともバカが居なくなって冷えてきたのか、そういって平静を取り戻してくれた。そうそう、あんなのに頭のリソース費やすだけ無駄だからな。さっさと他のことを考えよう。

 

 これまでの探索のお陰で、とうとう迷宮踏破の日が決まった。アガットランドが公表してる迷宮の最深部は15階層で、その道筋も支部長達が切り拓いてくれた。

 

 経路は頭に叩き込んだ。10階層から現れる、呪詛を孕んだ魔物の対応も問題なく遂行出来る。決行に向けて調整を済ませた俺達は、今日の探索を終えて迷宮を後にした。

 

 

「───やれやれ、まさか奴の手紙が全て事実とはな。南部に付け入る隙を与えるなど、何を考えている───む?君たちは・・・・・・」

 

 

 宿泊施設に帰る途中、ゴテゴテと鎧を着込んだ集団とすれ違った。この街の憲兵とは違い、金の掛かった実戦的な武装だ。

 

 その一団の中心に居たのは、トマスさまと同じくらいの年若い青年だった。顔立ちは幼いがトマスさまと違って体格は立派で、絵に描いたような貴公子だ。

 

 当然俺にはこんな貴族顔に覚えがない。クインとウォルフの方を向くが、こっちも面識は全く無さそうだ。

 

 

「防人さまをお連れした一行・・・・・・君がトマスと専属契約した冒険者だね?僕・・・・・・失礼、私は"ベリル・ルベライト"。ルベライト子爵家の現当主で、トマスの同窓だよ」

「トマスさまの・・・・・・?いや、それより───」

「随分若い当主だろう?父上が急病で已む無く当主を辞されてね。家臣達には苦労を掛ける」

 

 

 いや、何でそんな人が此処に居るんだって聞きたかったんだけど・・・・・・まあ現当主ってのも驚きだけどさ。

 

 

「詳しい話はトマスのところでするよ。見たところ、君たちも帰りなのだろう?同行させてくれないかい?」

「え、えぇ・・・・・・俺達は構いませんが」

「よし決まりだ、道すがら君たちの話を聞かせてほしい」

 

 

 そういう訳で、中々の大所帯で宿泊施設へ戻ることになった。何で突然子爵サマが来たのかとか、色々気になることはあったが誰が聞いてるか分からない。大人しく部屋に戻るのが賢い選択だろう。

 

 

「やぁお帰り、待ってたよってあれ?何でベリルまで居るの??」

「君ねぇ・・・・・・『北部貴族は挨拶の礼儀もまともに習ってないのか』って連絡入れてきただろう」

「ははっ、冗談だよ。君の到着も首を長くして待ってたんだ」

 

 

 盛大に溜め息を吐きながらも案内されるがまま入室するベリル子爵。若いのにどうやら苦労人気質っぽいな。何処となく親近感を感じる。

 

 

「───それでトマスさま、ルベライト子爵を呼ばれたのは貴方と伺ったのですが・・・・・・」

「うん、そうだよ?先代子爵だったらつい気後れしたけど、ベリルが後を継いだんなら別に良いかなって」

「突然かつての級友から連絡があり何事かと思ったがな。まあ此処の管理者には手を焼いていたから都合が良かった。偶々管理地に迷宮が生えただけの分際で、ルベライトの職分を侵そうとする不届者だからな」

 

 

 込み入った事情は知りたくないが、どうやら(管理者)の敵ではあるらしい。もしかしてだけど、迷宮攻略に時間指定をしたのはこの人の到着に間に合わせる為だったのか?

 

 

「僕から直接苦情を入れたら角が立つし、火中の栗を拾いたくもない。だから利害の一致するベリルに任せることにしたんだ」

「まさか、王都の看板に泥を塗ってまで目先の儲けに奔走しているとは思わなかった。一等級冒険者が訪れていないのは不幸中の幸いだ」

「そういう訳で、僕からこの件を口外しない代わりに事態の介入を依頼したんだ。証拠になりそうな魔導具付きでね」

 

 

 なるほど、北部の子爵さまが直属の上司である伯爵に陳情するのは何も不思議じゃない。南部貴族が出張るよりよほどスムーズに進むかもしれない。

 

 だがトマスさまはそれでこの状況が解決するとは考えていないんだろう。そうでなきゃわざわざリスクを侵して迷宮踏破を命じたりはしない。

 

 

「───それでどうかな、君の陳情と僕の書状で現状は変わると思うかい?」

「・・・・・・おそらく形だけの改善にしかならないだろう。はっきり言って此処の管理者は、突然の幸運と巨万の富に酔っている。例え伯爵直々の訓戒を賜ろうと、実際に処罰されるまで事態を舐めてかかると思う」

 

 

 俺の疑問を汲んでくれたんだろう、トマスさまが言葉にして答えを引き出してくれた。そしてルベライト子爵の予想だが、俺も同感だ。

 

 王都や上司が求めるだけの発掘品を掘らせながら、他地方への利益を抑え冒険者も消耗させる。この難題を成せるのは自分しか居らず、その仮定で発生する問題は全て必要経費・・・・・・そんな風に自分を過大評価し、やらかしは矮小化する奴を前世の会社で何人も見てきた。

 

 結局そういう奴は、会社が庇えない事態になるまで止まらない。パワハラだのコンプライアンス違反だの、デカい不祥事を作るだけ作って自爆する爆弾なんだよ。しかもテロリストに籠絡されてるから余計に止まりようがない。

 

 

「───だが、釘を刺すことは出来るし私が介入するきっかけも作れるだろう。監視下に居ながら改善の兆しがなければ、領地経営の適正無しと弾劾することも出来る。そういう訳だから、早速愚か者の所へ行ってくるよ」

 

 

 そう言い残し、ルベライト子爵は颯爽と出ていった。碌に休憩も取らず働き詰めとは、貴族って大変なんだなぁ。

 

 

「───よし、これで準備万端だ。もう何時踏破しちゃっても良いよ。遠慮なくやっちゃって」

「・・・・・・まあそんな気はしてましたけど。良いんですか?あの人やる気満々で出ていきましたけど」

「良いの良いの、ベリルの役割はあくまで"証人"だ。今回の一件が終わった時、その責任の全てがこの街の管理者にあると証言する、ね」

 

 

 この人は本当に、こういう所が怖い。他人を利用することに一切の躊躇もないし、呼吸のように悪気なく行ってみせる。

 

 今は俺を裏切れない理由があるから信用してるが、正直関わりたくない類いの人間だ。

 

 

「伯爵が手紙を受け取った時点でこの話は終わりだ。事実無根と糾弾しなかった時点で事実と認めたも同然だからね」

「・・・・・・カーマイン伯爵が手紙を握り潰すって可能性はないっすかね?」

「そんな迂闊な真似、ベリルが意地でも阻止するだろうね。彼は僕が『細工師』だって知ってるから。さっきまでの会話も録音されてる前提で動くと思うよ」

 

 

 部屋の調度品に溶け込んでいた木彫りの鳥が自己主張するように鳴くのを見て、俺達は渋い顔を止められなかった。この人最初から最後までルベライト子爵を利用する気なんだろうな。

 

 

「まあそういう訳で、無事後顧の憂いは晴れたと思ってくれたまえ。カーツくん、無断で迷宮踏破した後のこと不安がってたでしょ?」

「いや、まあ・・・・・・それはそうなんですが」

「万一カーマイン伯爵が犯人探しを始めるなら、僕の方からギルド本部に証拠を横流しする。わざわざ書かなかったけどそのくらいは察する筈だ。だから安心して迷宮に挑んでほしい」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・うん、迷宮だけに集中出来るとポジティブに考えよう。最深部には『大蛇衆』がほぼ確実に待ち構えてるんだし、余計なこと考えてる暇はない。

 

 だけどこの騒動が済んだら、別の街へ移動したいなぁ!貴族のゴタゴタはもう懲り懲りだよ!!

 

 

 

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