異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第四話 成功と誤算

 

 

 

 

 

 

 村の門から出た俺達は、木々や藪が作る死角を縫って魔物の群れに接近していた。10秒で斬り込める距離まで近付いたから肉眼でもはっきり見える。確かに連中はしらみ潰しといった風に忙しなく動き回っている。

 

 ベテランの付き添いがあるとはいえ、碌に光源もない道を歩くのは骨が折れた。虫の鳴き声や虎落笛がある程度誤魔化してくれるとはいえ、危うくすっ転んでバレそうになった。

 

 

「おっとと、危ない危ない。やっぱり月明かりだけを頼りに動くのは難しいですね」

「・・・・・・こんなものは慣れるしかない。今回は畜生共が目印を持ってるだけマシだ」

 

 

 此処まで接近しておいて村が見えていないとは思えない。人間を襲う本能を塗り潰して探し物を優先する姿は、俺が考えていた以上に不気味かつ不自然に映った。

 

 

「おい、【浄血】の魔法が来る。吹き飛ばされたくなければ伏せてろ」

「は、はいっ!」

 

 

 エッジさんの言葉とほぼ同時のタイミングだった。重力が倍になった錯覚を一瞬感じた後───暴風という言葉すら生温い『風の暴虐』が目と鼻の先で炸裂した。

 

 まず強烈な風圧が自由を奪う。その後不可視の刃が魔物の肉を弄び、最後にソレらを上空へと巻き上げ無慈悲に落下させる。一ツ目巨人は兎も角、その他の魔物は一匹残らず挽肉へと姿を変える───ことはなかった。

 

 

「───馬鹿な、あんな強そうな魔法で一匹も死んでないなんて!?」

「何を驚いてる、相手は最初から【浄血】が狙いなんだ。得意魔法を対策するなんざ当たり前だろうが」

 

 

 言われてみればそりゃそうか。目的が殺害にしろ誘拐にせよ、標的が強力な魔法使いならそのメタを張らない訳がない。簡単な話なのに思い付きもしなかった。

 

 

「だが、それでも三割食っちまうとは流石だな。シメに自然落下を選んだのも良いセンスだ。アレなら風に耐性があっても効く。さあ行くぞお前ら、止ん事無い貴人に鉄火場で遅れを取るんじゃねぇぞ!!」

『おおおおッ!!』

 

 

 リーダーを先頭に、屈強な男達が吠えるままに突撃する。彼らの鋭い切先が、傷付きながらも探し物を見つけ狂喜する魔物達へと叩き込まれる。慌てて弓を構え始めたが既に剣の間合いだ。ゴブリンに獲物を持ち変える暇も与えず斬獲する。

 

 あっという間にゴブリンを片付けた【明星】は、続いて連中を捨て駒に態勢を整えたオークとぶつかり合う。数と消耗具合からみて優勢だが、不意打ち出来たゴブリンと違って少し時間が掛かりそうだ。そんな彼等を横目に、俺達は最奥に鎮座する巨人へと対峙する。

 

 

「───腕が一本無くなってる・・・・・・?」

「はっ、大した仕事ぶりだ。【浄血】の名に偽り無しってことか。あの目立つ魔法は囮で、本命の風刃を一本忍ばせてやがったのか」

 

 

 えっと、それはつまりアレですか?さっきの凄い暴風の魔法は片手間にやったことで、しかも一撃に集中すれば一ツ目巨人すら真っ二つに出来るってこと??

 

 

「で、でもこれなら努力目標にしてたコイツの討伐も───うわ、キモッ!?何ですかアレ!!一ツ目巨人って両断されても再生する不思議生物なのか!!?」

「阿呆が、んな訳ねぇだろ。こっちの魔法使いは連中の想定外の腕前だったが、コイツらを使役してる術師も埒外の腕前ってことだ」

 

 

 す、すげぇ。魔物を操るテイマーの存在は予想してたけど、こんな無茶苦茶なことも出来るのか。綺麗とすら表現出来る傷口がぐにょんぐにょん鳴動して、もう既に指先を形成しつつある。魔法を使った際の魔力反応は全く感じないし、多分巨人の再生力を強化・・・・・・って、考察は後だ!

 

 

「しかし弱ったな。ぶった斬られても元通りになられちゃ手の施しようがないな」

「いえ、俺に任せてください。とっておきの魔法があります」

「何だと?光属性魔法でどうやって・・・・・・いや、まさかお前───」

 

 

 申し訳ないが最後まで聞いてる暇はない。コイツはカーツ少年が最後に習得した魔法だ。一応光属性に分類されるみたいだが、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

「───【回復阻害魔法(アンチ・キュア)】」

『GIiiiッ!?GAAAAAAAッ!!!』

 

 

 みるみる再生してた筈の腕がピタリと制止する。よし、一ツ目巨人相手に試したのは初だが大成功・・・・・・ってヤバっ!!?

 

 目は追いついたが身体が着いて行かない。瞬く間に俺の前へ躍り出た一ツ目巨人が、怒りのままに拳を振り下ろす。目を瞑る暇もなかったが、迫り来る拳は当たる直前で横に逸れた。いや、()()()()()()()のは俺の方だ!

 

 

『UuuGAAAAAッ!!!』

「あ、ありがとうございます。お陰で助かりました」

「前に立つなって言っただろうが。まあいい、大手柄に免じて説教は無しだ」

 

 

 さっきまで立ってた場所は巨人によってクレーターが出来ていた。リーダーさんが脇に担いで離脱してくれなきゃぺしゃんこだった。

 

 肩からバッサリいってた腕は肘の手前まで再生されたが、アレじゃ戦闘には使えないだろう。依然奴の力は削がれたままだ。

 

 

「おい、カーツとか言ったな。再生力の阻害はいつまで出来る?」

「一回の発動でおよそ3分くらいです。まあ切れたらすぐ掛け直します。あの図体なら見逃すってことはないでしょ多分」

「はっ、上等だ。再生力さえなけりゃ、あのデカブツは大して怖かねぇ。俺の仲間が加勢するまで保たせるぞ!」

 

 

 俺を担いだままエッジさんが疾走する。接近する時は凄く早くて息が止まったが、そこからは緩急を付けた絶妙な動きで巨碗も蹴りも躱していった。体力温存もあるだろうけど、担がれてる俺が加速で生じるGで消耗しない為だ。

 

 しかもただ避けてるだけじゃない。片手とは思えない全身のバネを使った大剣の一閃で巨人から小指を奪った。再生しない身体という未知の経験からか、デカブツはすぐにバランスを崩し効果的な反撃を行えていない。

 

 

「───団長ッ、こっちは片付けた!今加勢する!!」

「急ぎ過ぎだ馬鹿野郎ッ!準備運動にもなりゃしねぇ!!」

 

 

 そう言って俺を降ろしたリーダーさんは、さっきまでの動きがお遊戯に見える程のスピードで突貫した。四つん這いになって握り潰そうと伸ばした巨人の腕が、肘を支点に叩き折られる。

 

 これが二等級冒険者の実力なのか。リーダーは頭二つ抜けてるとして、その他の面々も凄いな。リーダーが作った僅かな隙を縫って、各々質量武器で着実に傷を作ってる。一撃は小さくても折重なれば、損傷はとうとう巨人の脚の腱にまで及んだ。

 

 

 

「───ふぅ、漸く身動きを止めやがったか」

「まさか再生する力を奪っちまうなんてな!あの細っこい魔法使いがこっちの切り札だと思ってたが、とんだダークホースが隠れてやがった!!」

「おっとと。ちょ、痛いですって!?」

 

 

 リーダーから俺のお守りを代わった人がバンバン背中を叩いてくる。カーツ少年が評価されたのは凄く嬉しいけど、二等級の労いは俺達にはちょっと痛過ぎるんだって!もうちょい加減して!!

 

 

「戯れ合いはその辺にしとけ。首級を上げるまで油断するな」

「そうは言ってもリーダー、ここから逆転ってのは無理でしょ。まあさっさと片付けるのは賛成っすけど」

 

 

 それについちゃ同感だ。これで襲撃が終わりって保証は何処にもない。リーダーの人は返事をすることもなく、身の丈程の大剣で一ツ目巨人の首を刎ねた。

 

 呆気ない幕切れだった。想定外は起こらず、木から落ちた果物の様に首が転がっていく。数秒周囲を警戒してみたが、新手がやってくる音もなし。ゆっくりと全員が残心を解いた直後───首無し死体が()()()()

 

 

「な、何だっ!?」

「下がれっ!どう見てもマトモじゃねぇ、今すぐ村へ引き返せ!!」

 

 

 死体がまるで風船の様に膨らみ、灰色の肌もドス黒く変質していく。ボコボコと内側から押し上げる中身を気にする間もなく、俺達は全速力でその場を離れた。

 

 だがこんな悪趣味な仕掛けを施す奴が、逃げられるだけの猶予を残す訳もない。限界を迎えた皮が呆気なく裂け、巨人の中身を溶かし尽くした黒褐色の液体が散弾の様に迫ってくる。

 

 

「〜〜〜〜〜ッ!!?・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 

 歯を喰い縛って衝撃を覚悟したが、いつまで経っても液体は降ってこない。薄っすら目を開けてみれば、落ち葉を巻き上げる『風の壁』がタールを思わせる液体を全て叩き落としていた。

 

 

「あの魔法使いがやったのか・・・・・?貸しを作るつもりが命の借りが出来ちまったな」

「───ッ、いいえ!()()()()()()()()!!」

 

 

 そう言って跳ねる様にその場を駆けたのはトゥエルブさんだ。一瞬遅れてエッジさんも彼女に続く。

 

 俺も嫌な予感はしたが、トゥエルブさんが抜けたのに俺まで勝手に離れる訳にはいかない。死傷者こそゼロだが怪我人はそれなりに出た。戻るのはせめて治療を終わらせてからだ。

 

 

「どういう意味だイーグレット!?あの汚ねえ液体が何か関係してんのか!!」

「アレは()()です!魔物への対魔法工作が不完全だったのも、恐らくこの奸計を通す為の罠です!!」

「チッ、そういうことかよ!!あの貴人が単独で挑めば確実に殺せる。仮に前衛を用意出来ても、ソイツを守る為に魔法を使わざるを得ないってか。舐めやがって・・・・・・!」

 

 

 事態を周りに伝える為か、二人が大声で話しながら動いてくれたお陰で内容は理解出来た。要するに、俺たちはフードの人を嵌めるダシに使われたってことかよ!

 

 魔法を発動した後も意のままに操れる以上、完全に終了するまで術者と何らかの繋がりがあるんだろう。もちろん毒や菌を魔法越しに触った所で問題はないだろうが、相手が"呪い"となればそうもいかないのだろう。

 

 あっという間に門に辿り着いた二人が一息で飛び越えていった。リーダーは兎も角、トゥエルブさんの超人振りに唖然としかけるが、そんなこと考えてる場合じゃない。急いで応急処置をして回った後、俺も他の団員さん達と共に村へ引き返した。

 

 俺達が辿り着く頃には、安全が確立された為門が開いていた。息を切らせた俺達の目に飛び込んできたのは───腕を押さえて苦しむフードの人と、懸命に治療するトゥエルブさんの姿だった。

 

 

 

 

 

 

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