異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第四十話 受胎迷宮攻略戦②

 

 

 

 

 

 マリエッタさんが高階梯(レベル)の光属性魔法を使う横で、俺は【検査魔法《インスペクト》】で支部長の状態を把握───しようとして二人に止められた。

 

 

「待つんだ、マリエッタくんが呪詛に汚染された。恐らく魔力の繋がりを辿って穢れを伝播する呪いだろう」

「うげっ、村で喰らった呪いと同じかよ・・・・・・でも今なら大丈夫です。お任せを」

 

 

 まずは強行して【検査魔法《インスペクト》】で支部長の状態を確認する。うん、やっぱり俺の使える魔法の階梯(レベル)じゃ詳細は分からない。

 

 だが呪詛という異物そのものははっきり知覚出来た。ならそいつ目掛けてピンポイントで【不全魔法(マルファンクション)】をぶち込んでやる。これなら俺や支部長自身の魔力操作を邪魔せず、呪いの進行だけ食い止められる筈だ。

 

 

「・・・・・・よし、上手くいった。高位の治療系魔法で負った負荷はどうすることも出来ないけど、体力回復なら───」

「───へえぇ、コレが僕の呪詛を止められる魔法かぁ。面白いねぇ───あぷぅっ」

 

 

 突然脇の下から顔面が生えてきた。思わず反射で鷲掴みしたが・・・・・・あれ、特にダメージとか無いな?

 

 そのまま無駄に柔らかい肉に力を込めてみるが・・・・・・むにむにするだけで変化なし。何かに阻まれる感じもしない。"膜"とやらが壊れたままって可能性もあるが、あんな性悪魔法に自己再生機能や掛け直しが出来ないとは思えない。

 

 

「───なるほど、悪意の有無が呪詛の発動条件か」

「おっ、冴えてるぅ〜♪やっぱり面白いねキミは。その魔法も凄いけど、アッチの玩具を()()したのもキミなんでしょ?」

 

 

 ぷるぷると顔を振って離れたコイツは聞き捨てならないことを言いやがった。親指の先に居たクインは驚いて目を見開いてるし・・・・・・何を言うつもりだ?

 

 

「【浄血】・・・・・・特に西の"オニキスフレア"が血眼になっても成果が出てないのにねえぇ?流石に生えてきたりはしないだろうけど、寿命は随分伸びたんじゃなあいぃ?」

「───答える義理はありません」

「まあそだよねぇ。いやぁますます欲しくなってきゃったぁ・・・・・・ああそうそう、迷宮の最深部が変わった理由についてだったねぇ」

 

 

 飄々と俺たちの間をすり抜けていく"バシュム"。問い糺したいことが幾つもあったが、向こうはもう興味が失せたのか話を変えちまった。

 

 しかも狙ってなのか、割って入れない話題をねじ込んできやがる。やっぱりコイツ性格悪いな、ホントに。

 

 

「説明する前に聞きたいんだけどぉ、そもそも迷宮災害が何か知ってる?」

「・・・・・・確かマナが土と結び付いて、土地の記憶と魔物を再現する災害だったか?」

「うーん、それだと赤点だよぉ?間違ってないけどさぁ、【迷宮具現化現象】の本質はマナを分離させることぉ。つまりはぁ、僕たち人類の尻拭いをしてくれてるんだよねぇ」

 

 

 ・・・・・・俺たちの尻拭い?どういうことだ??こういうのは【浄血】の専門だと思うが、クインは深刻な表情のまま無言を貫いてる。答え合わせはしてもらえそうにないな。

 

 

「ああ、そっちの子は多分話せないよぉ?必死にひた隠しにしてることだしねぇ。僕たちが魔法を使ったり魔導具を使うたびにぃ、魔力が大気中に漏れちゃうんだよね。魔力はマナと違って無機物とは結び付かないけどぉ、動物とは合体しちゃうんだよねぇ」

「・・・・・・まさか、その成れの果てが魔物・・・・・・なのか?」

「だいせいかーい!つまりぃ、人類が魔法文明の恩恵を受ける限り災害も魔物被害も無くならない。それどころかぁ、人口が増えれば増えるほど被害も増えるよねぇ?そんなこと一般人には聞かせられないと思うよぉ」

 

 

 ・・・・・・とんでもない爆弾発言だ。俺にとって夢や浪漫を現実に変えてくれる魔法が、大災害の引き金だったなんてな。しかもこいつは解決しようのない問題だ。

 

 マナが引き金になって起こる災害は普通じゃない。もし【浄血】が居なけりゃ一発の被災で文明が吹っ飛ぶレベルらしい。魔法技術の衰退は文化的な生活を手放し、万単位の犠牲者を黙認することと同義だ。

 

 仮に何らかのブレイクスルーが起きたとしても、魔法技術を手放す上で真っ先に皺寄せを喰らうのは【浄血】だ。なるほど、無理矢理にでもクインの口を塞がせるには充分過ぎる動機だな。

 

 

「・・・・・・そうなると俺たちもマナを集め過ぎりゃ、魔物みてぇなバケモンになるってことっすかね?」

「人間はマナや魔力を制御する臓器を持ってるからねぇ、魔物みたいなことにはならないと思うよぉ。ただし、マナを魔力と生命エネルギーに分解する能力はどっちも持ってないんだよねぇ」

「何で自然はマナを分離させようとするんだ?放っておけば人間や魔物が勝手に取り込みそうなもんだが」

「あのねぇ、マナに組み込まれてるのは生命エネルギーだよぉ?これが無いと生命が形を持って生まれられなくなる。自然がマナを分解しないと、栄養があるのに作物が育たない"冬の時代"が来ちゃうんだよぉ」

 

 

 ゾッと背筋に悪寒が走った。今の時代では魔力だけで作物を作ることは出来ない。もしマナの生産量が自浄作用を超えたら・・・・・・最悪の未来が頭を過ぎる。

 

 

「───御高説はその辺にしてもらおうか。我々が剣を向けていないのは、貴様が悪事の告白をすると言ったからだ。まだ裏取りのしようがない妄言で若人を惑わすのなら、これ以上は時間の無駄だ」

「・・・・・・・・・・・・ああそうだね、話が脱線しちゃったみたいだ」

 

 

 俺たちに生じた迷いや混乱を、支部長が一喝し霧散させる。そうだ、この話が何処まで事実なのか俺には確認しようもない。無視するには重過ぎる話だけど、今考えることじゃないな。

 

 話を遮られた蛇は、心底軽蔑した視線を向けるがそれも一瞬だった。すぐにさっきまでの不快な口調に戻しやがった。

 

 

「僕たちがやってたのは実験さぁ。具現化が済んだ迷宮をマナで過剰に満たせばどうなるかってねぇ」

「・・・・・・ではやはり、階層が増えていたのは迷宮が()()()したからか」

「そういうことぉ、上の階に撒いた呪詛もそのためなんだぁ。魔力を無理矢理搾り取ってぇ、死なない程度の穢れで何度でも再利用出来るようにさぁ」

「此処の管理者に無茶な運営をさせたのも、魔力の供給量を減らさないためか。情報封鎖もあるだろうが、嫌でも迷宮に潜る理由を作らせたのか」

 

 

 目の前の蛇はにっこりと無言で笑ってる。少なくない犠牲者が出たのも、貴族と平民の対立と亀裂を煽ったのも、全て自分たちだと態度で認めやがった。

 

 魔力だけ搾り取ってもそれだけじゃマナにはならない、そんな疑問は些末事だ。どうせ結社脅威の技術か何かで解決してるんだろ。そんなことよりどうしても無視出来ないことがある。

 

 

「可哀想なことしたと思ってるよぉ?流石に僕もそこまで鬼じゃないし───」

「───嘘吐くなら、せめてその汚ねぇ笑みを隠せよ。魔力云々は置いといて、あの人たちを不必要に苦しめたのはお前の八つ当たりだろ?」

「・・・・・・」

 

 

 さっきからこっそり【検査魔法《インスペクト》】をコイツ相手にも使ってた。まあバレバレなのか格上だからなのか、肝心な情報は何一つ入ってこなかったけど。それでも収穫はあった。

 

 この蛇はどういう訳か、自分以外の人間の価値を毀損したくて仕方ないらしい。思えばコイツの呪詛も、殺意の高さと同じくらい苦しめることにも偏執的だった。

 

 何か理由があるんだろう、じゃなきゃテロリストになんてなってないだろ。それでもテメェが仕出かしたことを、思ってもない言葉で嘲笑うのは勘弁ならねぇ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・く、くふふふ、あはははははあぁははぁっ!!もう本当に、何処までキミは健気なのさぁ!一から十まで敵でしかない僕を理解してくれようだなんて、そんな子はここ100年見なかったもん。実験対象としてしか興味なかったけど、別の意味でもお持ち帰りしたくなったじゃないかぁ!!」

「・・・・・・たとえお前が絶世の美女だったとしても、断固お断りだ馬鹿野郎」

「ああ、そこは普通の趣味なんだねぇ。安心してよ、僕にとっては性別なんてどうとでも変えられるし見た目も自由自在さぁ」

 

 

 か、会話になってねぇ・・・・・・あの挑発の何処に、このヤベェ奴の琴線を擽ぐる要素があったよ。クインとウォルフが前に出て視界を遮ってくれるが、あの野郎二人を欠片も視界に入れてねぇな。

 

 

「───ふぅ、ちょっと落ち着こう。別に此処でやり合っても良いけどぉ、もうすぐなんだから大人しく着いておいでよぉ。いまとぉっても良い気分だしぃ、言うつもりじゃないことまで話してあげちゃう」

「・・・・・・此処にきてまだ喋ることがあんのかよ」

「もっちろん♪人工的に増築出来た階層だけどさぁ、この通り狭いし構造も単純。発掘品もないけどぉ、とっても素敵な成果があったんだよねぇ。さっきからさぁ───魔物、居ないと思わない?」

 

 

 全員がはっとさせられた。思わず周囲を見渡してみても、魔物は何処にも居ないし気配も感じない。それどころかこんなに人間が居て縄張り意識の強い魔物も居ないのに、上層から新手が降りてくることもない。

 

 

「もっとじっくり研究すればぁ、魔物の脅威も災害も存在しない"楽園"を産めると思わない?【浄血】を否定する最高の材料じゃないかぁ」

「やっぱりお前も【献言する蛇(サマエル)】だけあってクイン達が憎いのか」

「僕は"コアトル"や"ティアマト"ちゃんみたいに直接恨みがある訳じゃないけどぉ、気に入らないよねぇ。人類を()()()()()()()()()なんてさぁ」

「・・・・・・は?それってどういう───」

 

 

 言い切る前に、"バシュム"がドス黒いアメーバみたいなのに包まれて運ばれていった。慌てて追いかけると、ギリシャのコロッセオみたいな大広間に到着した。どうやら此処が最深部らしい。

 

 奴はこの空間の中心に立っている。パッと見た感じ、迷宮にある【魔核(コア)】ってのは見当たらない。分かってたことだが、やっぱりそう簡単にはいかねぇよな。

 

 

「───さ、始めよっか。観客が居ないのは寂しいけど、その分僕がじっくりと堪能してあげるねぇ?君たちが悶え苦しむ姿をさぁっ!!」

「・・・・・・来るぞっ!」

「周囲から気配多数っ!恐らくこれまで以上の呪詛を孕んだ魔物です!!」

「マリエッタくんは探索魔法で【魔核(コア)】を捜索してくれ。アレを破壊してしまえば此方の勝ちだ」

 

 

 迷宮から引き摺り出してしまえば、【明星】の戦力もアテに出来るからな。目的を見失わず、とにかく戦線を維持することが肝心だ。まず何よりも、この迷宮騒動をさっさと終わらせたい。

 

 

 あのニヤケ面に拳を叩き込むのはそれからだ。

 

 

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