四方八方からウジャウジャ湧いてくる魔物の群れ。直前の階層に居なかった所為で油断したな。質は大したことなさそうだが、呪詛付きなのが面倒だ。
"バシュム"は黒いアメーバをビーズクッションみたいに尻に敷いて観戦の構えだ。鬱陶しい薄ら笑いは変わらねぇが、ちょっかい掛けてこないなら後回しだ。
「クイン、魔法で援護頼む!出来るだけ広範囲を、呪詛対策は俺に任せろ!!」
「言われなくても、頼りにしてますよカーツさん───【大気よ、我に従え】!!」
「へえぇ、【真言】使えるんだぁ・・・・・・それに消耗してる風でもないねぇ。やっぱり直ってるのかなぁ?」
なんか聞こえた気もするが無視だ無視。こっちは今、両手に持った剣杖をオタ芸みたい振り回すので忙しい。
貯めに貯めた魔力は、此処で使い切るつもりで大盤振る舞いだ。【
ウォルフ、クイン、支部長が魔物の圧力を食い止め、俺が魔法を撃つと同時に反撃する。今のところ均衡は保っちゃいるが───。
「───足りないねぇ。カーツくんの魔法・・・・・・【
「・・・・・・っ、言われなくても知ってるよ!」
そう、【
だがその所為で、クインや支部長の殲滅力を活かし切れてない。間違って魔法が効いてない奴を倒したら、マルチタスクが増え過ぎて俺のキャパが保たなくなる。
効果を絞る味方向けの【
「マリエッタさん、どうですか?」
「・・・・・・非常に高度な迷彩によって魔力を隠されています。ですが、先ほどの話が本当なら相当の魔力を蓄えている筈です。痕跡を追うのに、あと少しだけお待ちください」
やはり鍵はマリエッタさんだな。此処はまだ無理をするタイミングじゃない、もう暫く様子見と行きたいが───向こうがそれに付き合う義理も無いよな。
「あれれぇ、もう膠着させちゃうのぉ?なら"劇薬"を投入してみようか?おーいみんなぁ、これ被っちゃってぇ!」
「───は?おいおい、まじかよ・・・・・・」
ウォルフが思わず溢した言葉に全面同意だ。懐から試験管を取り出したかと思えば、そいつを魔物の群れに放り投げる。その瞬間、怪物達が
さっきまでゴブリンみたいなヒョロガリだった奴が、ゴリラも真っ青なガチムチに進化しやがった。他の奴も大体一〜二回りほどデカくなってる。お前そんなことも出来んの!?
「・・・・・・"バシュム"は呪詛を吐く大蛇と聞いていたが」
「いやいやぁ、呪詛だけで【
確か『天職』は【細工師】みたいな、特殊な魔力操作で独自の成果を出せる先天的素養だっけか?鑑定系の魔導具で調べられるのは属性魔法の適正と同じだった筈。
いや待て、【呪詛師】だって『天職』だろ!?呪いは闇属性魔法を修めれば使えるらしいが、物に呪いを込めたりとかは魔法だけじゃ無理だ。
・・・・・・まさか『天職』二つ持ってんのか?そんなの聞いたことねぇぞ!?魔物を使役出来る、第三の『天職』があるってオチだけは勘弁してくれよ!
「ほらほらぁ、考えごとしてていーの?ちゃんと守ってあげなきゃぁ」
「───うおっと!?流石に抜けてくるのが出てくるか」
ただでさえ数が多いのに、質が一律で上がったんだ。三人の防衛網にも綻びが出てくる。とはいえ抜けたといっても満身創痍だ。長杖に【魔技】を載せてぶっ叩けば俺でも倒せる。
だが消耗戦に持ち込まれたらこっちは圧倒的に不利だ。まだ【
「全員退避してくれ!───【
「そいつは───了解っす!」
よし、ウォルフ達もすぐ範囲内まで下がってくれたな。コイツは呪詛を"予防"する魔法を試行錯誤してた時に生まれた副産物だ。
残念ながら予防魔法は無理だったが、偶然"呪詛を帯びた魔物への忌避剤"みたいな魔法は出来上がった。念の為練習しておいて正解だった。
「あれれぇ?魔物が虫除けスプレー喰らった害虫みたいに下がっちゃったぁ。おっかしいなぁ、さっきまでの魔法をみるにキミの魔法って
「専門家なんだろ?当ててみろよ」
「・・・・・・結界、はないよねぇ。そんな便利な特技があるならとっくに使ってるでしょ。光属性で攻撃力がある魔法なんて聞いたことないし、避けるだけで見失ったり苦しんだりもしてない。となると、これはどうかなぁ?」
近くに居たゴリラに指示して瓦礫をぶん投げてきた。流石に対応が早いな、この魔法の弱点を早速見抜いてきやがる。
この魔法はあくまで虫除けならぬ魔除けに過ぎない。呪詛付きの魔物は自分から近寄れないが、投擲なんかの遠距離攻撃なら特に支障はない。とはいえこっちにはクインが居るから大した問題じゃねぇが。
大事なのはあの蛇の思考リソースを奪うことだ。実は俺自身もこの魔法の仕組みはよく分かってないからな。思い付きのアイデアだったが、プライドを刺激されたのか思考の沼にどっぷり浸かってやがる。
「・・・・・・やっぱり属性魔法じゃないよねぇ。でもそうなると・・・・・・理屈としては可能だけど、本当に出来るものなの───って、あ・・・・・・」
「───随分と長い考えごとでしたのね?お陰で
ついさっき頂戴した嘲笑を、そっくりそのまま返してやる。ようやく突き止めたマリエッタさんが、ずっとチャージしてた魔力を拳に纏って地面を砕く。飛び散った破片に紛れて、ブリキの小鳥が空を飛んでいった。
一瞬だけ時が止まったように静止し、すぐさま足元が崩落していく。クインの風に守られながら落下する先は、さっきまで居た空間とそっくりのコロッセオだ。
「───随分と手の込んだ嫌がらせっすね。さも此処が最深部ですよって顔しときながら、まだ下に階層があったなんてよ」
「・・・・・・誰もあそこが最深部なんて言ってないよぉ?けどまぁ、よく見つけれたねぇ。褒めてあげるよ」
「ええ、想像以上に手を煩わされました。しっかり熨斗つけてお返ししますよ」
本当によく見つけてくれたよマリエッタさん。俺みたいに、先入観にやられてあの層だけ調べてたら一生見つからなかった。
どうやら迷宮に楽園を作るなんて話も、丸っ切り吹かしって訳じゃないらしいな。最深部と全く同じ作りの階層を上に用意するなんて前代未聞だ。人工的に増やした階層は思ってた以上に融通が効くみたいだな。
ただ一点、さっきまでの階層とは決定的に違うものがある。上の階で"バシュム"が居たコロッセオの中心───そこに俺たちが破壊しなきゃいけないモノが鎮座してやがる。
「あれは・・・・・・私も見たことがない大きさの【
「なぁクイン、【
「・・・・・・いいえ、本来なら鉱石のように無機物の形をしている筈です。手を加えた、などと可愛らしい所業ではなさそうですね」
まるで心臓のように脈動・・・・・・いや、胎動する振動には覚えがある。俺たちが迷宮に通ってすぐの頃に感じたアレだ。
クインの言う鉱石とは似ても似つかない。クソデカい蛹だって言われた方がしっくりくる。中で何が起こってるのか知らないが、碌でもないことだけははっきり伝わってきた。