異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第四十三話 受胎迷宮攻略戦⑤

 

 

 

 

 

 目の前に不思議な光が漂っている。此処が迷宮じゃなけりゃ綺麗だって褒めてるところだ。だが今の俺には悍ましい血飛沫にしか見えない。

 

 【魔核(コア)】が突然破けた、それもあっけなく。思わず"バシュム"の方を見るが、あっちも完全に埒外だって表情が雄弁に語っていた。

 

 

「・・・・・・本当に最悪だよ。まさか、【魔核(コア)】に魔法が適応されたら爆弾に切り替わるよう細工されてたなんてさぁ」

「ばっ、爆弾!?い、いや比喩表現か・・・・・・大量生産したマナを地上へぶち撒ける為の装置って訳か」

「アイツ、この状況も先に"視て"たんだろうなぁ───うっそ、やばっ!?」

 

 

 注意が逸れた一瞬の隙を突いたクインが突風で蛇を吹き飛ばした。最初に披露した"呪詛の障壁"対策に思いっきり魔力を込めた一撃だったが、アイツは碌に防御もせずモロに喰らいやがった。

 

 目を白黒させながら宙を舞った"バシュム"をトゥエルブさんが氷漬けにする。多分"コアトル"が逃走に使った魔導具対策だろうな。ああやって両腕を塞がれれば流石に使えない筈だ。

 

 

「───うっそぉん、集積装置までマナの所為で故障してるよぉ・・・・・・」

「テメェの悪運もここまでってこった・・・・・・一応聞いとくが、この状況を何とか出来る手はあるか?」

「あるなら逃げようとなんかしないだろぅ?分かってて聞くなんて───」

「───なるほど、なら貴様にもう用はない」

 

 

 最後まで言わせず、支部長が首を刎ね団長が胴体を氷諸共両断した。しかも用心のため、脳天と心臓を何度も貫くおまけ付きだ。

 

 100年以上生きたバケモノの終わりとしちゃ呆気ないが、そんなこと気にしてる場合じゃない。迷宮全体が揺れ始めてるし、石壁もまるで液体みたいに波打ってるよ。

 

 

「───全員地上まで退くぞっ!!どうなるか検討も付かねぇが、此処に居たところで生き埋めだ。お前らもとっとと戻ってこい!」

「りょうか───うおおぉっ!!?」

「なっ・・・・・・ウォルフさんだけでも戻ってくだ───」

「出来るかよんな真似ぇっ!!」

 

 

 【魔核(コア)】を中心に、滝壺みたいに地面が溶けて落ちていく。当然【魔核(コア)】に触れてた俺たちは逃げられる筈もない。

 

 辛うじてクインがウォルフを逃そうとするけど、マナの乱流に魔力を乱されて魔法が成立しない。多分【魔核(コア)】のすぐそばでしか使えないし出力も無茶苦茶だ。控えめにいって最悪過ぎだろ・・・・・・。

 

 今はゆっくり気球みたいに落下する【魔核(コア)】に、俺たちが必死でしがみついてる有様だ。クインが何とか発動させた僅かな風で速度を緩めてるが、このままじゃ奈落の底まで墜ちていきそうだ。

 

 

「トゥエルブさんや支部長達は無事かっ!?」

「姿は見えないっす!!あの人たちの居た場所まで液状化してなかったし多分問題ねぇ!それより一番マズいのはぶっちぎりで俺たちだ!!」

「いずれ迷宮の再活性は止まるでしょうが、このままでは何階層まで掘り進めるか分かりません!ですが間違いなく私たち三人だけでの脱出は不可能です!!」

 

 

 おいおい冗談じゃねぇ!?此処まで来て迷宮で迷い死になんざ御免だ。それに万一脱出出来たとして、地下深くで再現された大量の魔物が迷宮を這い出て侵攻してきたら俺たちはお陀仏だ。

 

 兎に角やれることは全部やらねぇと!!【硬気丹術】擬きを全力で纏って、【魔核(コア)】の空いた穴へ右腕を突っ込む。

 

 直接触れながらの【検査魔法(インスペクト)】と【転写魔法(クリビング)】なら、少しはマシな情報が出るだろ!

 

 

「カーツさん、なんて無茶を!!?そんなことしたら私みたいに───」

「今無茶しないで何時すんだよ!それに君とお揃いなら悪い気はしないよ。不思議と腕は無事だし、お陰で状況を打破出来そうな作戦が見つかった!!」

「マジかよ、これを片付けりゃ間違いなく北部の英雄っすわ。トマスの坊ちゃんに凱旋式でも開いてもらうか?」

 

 

 ウォルフの冗談に軽く笑って応えながら、腕越しに【魔核(コア)】への同調を試みる。俺が見出した活路は、コイツに施されたっていう後付け能力だ。

 

 純度100%マナで形取られた生命の創造。間違いなく倫理観も宗教観もぶっ飛んでる馬鹿(悪魔)の発明だ。もちろん俺には何一つ仕組みは理解出来やしないが、一つだけ干渉出来る余地がある。

 

 

「コイツを当初の予定通り誕生させる。もちろん人間サマの迷惑にならない形に、だ。肝心な部分を空欄にしてたこと後悔させてやるぜ!」

「おいおい正気か!!簡単に言ってるっすけど、使い魔とか自動人形の知識とかの知識ないだろアンタ!?」

「ああ、全くねぇな!だけど最高に格好良くて健気な生命についてならアテがあんだよ!!」

 

 

 頭に浮かべるのは、"コアトル"とやり合って以来何十回と反芻したあのイメージ。この世界に来て初めての顔合わせで掴んだ恩人の輪郭だ。

 

 とにかく思い出せるだけの情報を注いで、魔力をスターター代わりに叩き付ける。漏れそうになるマナは俺自身を蓋代わりにして押さえ込む。

 

 その際マナが勝手に俺の身体に入り込もうとしてきたから、慌てて【不全魔法(マルファンクション)】を薄く纏う。階梯(レベル)が上がるのはいつもなら大歓迎だが、こんな身体に悪そうな質と量のマナを取り込んだら人間辞めさせられそうで滅茶苦茶怖い。

 

 

「───っ!?今度は何だ!」

「見てください、墜ちていった地面が戻ってきます!!」

「本来の機能ってやつが稼働したんすかね・・・・・・いやまて、アレが迫り上がってきたら俺たち潰されんじゃね!?」

 

 

 物凄いスピードで戻ってきた地面に思わず目を瞑るも、想像した痛みは襲ってこない。液状化してるのに沈み込まない足元を不気味に思いながら、今は俺たちを受け止めた石畳がエレベーターみたく運んでいくのを見守るしかない。

 

 

「石壁だったモンがどんどん【魔核(コア)】に吸い込まれていくっすね。カーツ、間違っても魔物を作らんでくれよ」

「嫌な想像させんな、マジでそうなるぞ?・・・・・・正直魔法の構造がちんぷんかんぷんだからどうなってるか予想が出来ないんだよ。最悪の時は頼んだからな」

「大丈夫です、迷宮の外には【明星】の皆さんや【浄血】の誰かも待機してるそうですから。安心して魔力操作に集中してください」

 

 

 クインに励まされるも、一抹の不安が頭から離れない。もしカーツ少年とは似ても似つかないナニカが生まれたら?あるいは人間と魔物の合いの子みたいな形で生んでしまったら??俺は果たしてそんな彼を死なせてマトモで居られるのか???

 

 ・・・・・・いや、こういう時にネガティブはダメだ。無理矢理にでもポジティブで上書きしないと。まずカーツ少年と話せたら、何より最初にまずお礼を言わないと。

 

 それから恩返しだな。美味い飯に服とフカフカのベッド、本人が望むなら学校でも何でも学ばせてあげたい。そのくらい今までの報酬があればどうとでもなる。

 

 

「───体感的に、墜ちる前の階層あたりに戻ってきたか?」

「揺れも勢いも大分落ち着きましたが、それでも上昇を止めませんね・・・・・・カーツさん、集中してるところ申し訳ありませんが戻ってきてください!【魔核(コア)】が振動してますよ!!」

「───はっ!?すまん、ちょっと意識が飛んでた!」

 

 

 危ねぇ、つい明後日の方向に行っちまってた。クインの言う通り、【魔核(コア)】が初めて見た時みたいに胎動し始めた。どうやら此処から本格的に稼働するらしいな。

 

 ピシパキと、殻が割れるような音が聞こえてくる。見た感じ繭みたいに見えるがどっから鳴ってるんだ?隙間から溢れる光で目が眩むが、避けようもないし甘んじて受けるしかない。

 

 

「なあカーツ、突っ込んだ腕から何か変化とか伝わってこないんすか?」

「・・・・・・実は少し前から感覚がない。あと引っこ抜かれたらちょっとダメなものが抜かれた気がする」

「なっ、どうして何も言わなかったんですか!?」

「いや言ったところでどうしようもないし・・・・・・多分生命に別状とかはない筈だから大丈夫だと思う・・・・・・おそらく」

「滅茶苦茶ふわっふわな回答っすね!?」

 

 

 何か光が漏れ出した辺りから眠気と虚脱感が凄い。例えるなら2時間ダラダラ長風呂した後みたいな、布団に入ったら2秒で寝れそうな感覚だ。

 

 すると前触れなく繭が支えを失ったみたいにぺしゃんこになった。突然の変化に、疲れた俺たちが反応出来る訳もなく地面へ顔面からダイブする羽目になった。うん、まあ良い眠気覚ましだって思おう。

 

 

「いたたた・・・・・・終わった、のですか?」

「絹糸みてぇな外殻の所為で手元が見えないっすわ・・・・・・何処に埋もれてんだ??」

「───ああ、終わったよ。ちゃんと」

 

 

 まるで握手のように俺の手を握り込む右手は、間違いなくちゃんと人間の手だった。まだ感覚が全く戻ってこないが、千切れてもないし変色もしてない。きっとその内元に戻るだろ。

 

 あの時と違うのは髪の色くらいだ。元々の黒髪から、ダイヤモンドを散りばめたように綺麗な銀髪に変わってる。

 

 でもそれ以外は記憶と何も変わらない。事情を知らない奴からは俺と双子にしか見えないそっくりな顔立ち。でも性格の違いか俺より穏やかそうな雰囲気で眠ってる。

 

 

「───まさかこんな形で夢が叶うなんてな・・・・・・おかえりカーツ少年。ようやく君と話が出来る」

 

 

 ポタポタと水滴が零れ落ちる。こんな時に鼻水か?それとも汗だろうか??滅茶苦茶疲れたし仕方ないよな。

 

 そっとクインが差し出してくれたハンカチを借りて目元を覆う。こんなみっともない顔を見せたらカーツ少年が心配する。早く元に戻さないとな。

 

 

 

 

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