「・・・・・・それで、連れ帰ってきたと?マナから生まれた人間??とやらを」
「・・・・・・はい、おっしゃる通りです」
対面に座るトマスさまが顔を覆ってる。まあ訳が分かんないよな、前例がないってレベルじゃないし。
"バシュム"とやり合った階層まで戻れた俺たちはその後死に物狂いで駆け上がり、何とか地上へ生還した。石壁だった迷宮が土に還って崩落していくサマは軽くトラウマになった気がする。
生き埋めにならずに済んだのはクインが全力で風を使って俺たちを運んでくれたのと、救援にやってきたセレストゲイルの防人さん達のお陰だ。
今回は"蛇退治"ということもあってそこそこの人数で来てたらしい。そのままトマスさまの所までドナドナされて、こうして逃げるように馬車で運ばれてる訳だ。
「しっかし、俺たちは兎も角トマスさままで出てきちゃって良かったんですか?こういう非常事態こそ音頭取りそうだと思ったんですけど」
「此処が南部ならそうしたよ。けど爵位が下の相手なら兎も角、【迷宮氾濫】は伯爵直々に出張ってくる案件だ。僕が居てもトラブルにしかならないし、こういう時は冒険者ギルドの方が柔軟に働ける」
当事者の俺たちは知らなかったんだが、トマスさまによると迷宮が再活性化したタイミングで、中の魔物が一斉に外へと飛び出してきたらしい。
本来迷宮から魔物が溢れるのは、間引かれなかった魔物が過密になったことで発生する大移動───【迷宮氾濫】でしか起こらない。でも散々【
「アイゼナッハ支部長殿には印璽を押した委任状を託してある。今まで管理者にされてたような扱いはまずないだろう。そもそも連中は今口が聞ける状態じゃないし、今まで散々好き勝手してきた報いを受けてもらおう」
「・・・・・・口が聞けない、とは?地上は私の同胞達が待ち構える万全の布陣だったと聞きましたが」
「如何に防人さまが優秀だろうと、既に体内に仕込まれた爆弾はお手上げでしょうね。死なない程度に脳まで少し破壊する念の入りようなので、これ以上の情報はおそらく期待出来ません」
「それならほぼ確実に尻尾切りされるでしょうね。【迷宮氾濫】を未然に防げなかった時点で十中八九取り潰しでしょうけど・・・・・・」
結社への捜索は何処まで行われるんだろうか?最悪の場合、"バシュム"が居たのも偶々って決着もあり得るな。たとえ管理者以外の貴族が関与を否定しても、北部貴族全体でみれば最悪のスキャンダルだ。
それなら何もかもを闇に葬ろうって考える奴は居そうだな。なんなら救援にやってきた伯爵さまが、騒動のどさくさに紛れて直々に始末するかもしれないな。それでも俺たちにやれることはもう何もない。
「もちろんやれるだけのことはするさ。たとえ深く首を突っ込めなくても、当事者として証言を求められはするだろうし。幸い防人さまとも"業務提携"の機会が得られたことだし、お土産を持ち帰るつもりで関わってくるよ」
「"業務提携"、ですか?トゥエルブさんが秘密兵器を受け取ったって聞きましたが、トマスさまにも接触があったんですね」
「あぁそうそう、バタバタしてて渡しそびれたけどはいコレ。今の話にも関わってくる指名依頼だよ」
・・・・・・え、このタイミングで?どうしよう、受け取りたくない。未だ目覚めないカーツ少年の側を離れたくないし、当分ゆっくり休みたいんだけど。
「あ、僕からの指名依頼じゃないよ。念の為言っとくけど」
「・・・・・・・・・・・・話の流れ的に絶対断れない相手じゃないですか───失礼します」
くそっ、緊急事態で来たくせに無駄に豪勢な便箋でやんの。剣杖で乱暴に蝋封を解くと、思った通りの名前が記載されてた。
「『王都滞在許可証』・・・・・・保証人はセレストゲイル家当主さま、か。これが欲しい奴は、一体どれだけの銭を積んで手に入れるんだか」
「まあ少なく見積もって数億カラーは出すんじゃない?僕もしばらく滞在しなきゃいけないし、困ったことがあったらいつでも頼って良いよ」
両肩から覗き込んでたクインとウォルフが固まった。うん、俺も意識を手放して横になりたい気分だよ。
王都は滅茶苦茶差別意識の高い場所だって以前聞いたからな。何日も掛けて北部に来た俺たちが、行きがけなのに補給も小休止も諦める場所なんだから相当だ。
そんな場所にこれからお邪魔しなきゃいけない。しかも田舎の平民風情が王様すら頭を下げる、【浄血】サマからの正式招待ときた。木っ端役人に絡まれることはまずないだろうけど、何か嫌な予感しかしない。
「・・・・・・見なかったことにしてトンズラとか───」
「そんなことしても、馬車の外で待機してる防人さまが
「こんな売れ方、誰も望んでねぇよ・・・・・・ああでも、カーツ少年がこんな目に遭わなくて良かった。そう思うことにしましょう」
スヤスヤ眠るカーツ少年の髪を優しく撫でる。俺の記憶と違って、この世のキューティクルを集めたようなサラツヤヘアーだ。癒される。
念の為他の治癒士さんにも、カーツ少年を含めた俺たち全員を診てもらってある。異常事態に次ぐ異常事態に晒されたが、寧ろ前より健康になったとお墨付きをいただいてしまった。
カーツ少年の身体の構造は、俺たちと殆ど差はないらしい。肉体がマナで出来てる影響は、目覚めてから実際に動かしてみるまで詳細は何も分からないそうだ。
「───あ、そうそう。今は良いけどくれぐれも人前でフードを取らせないでね?凄いことになっちゃうから」
「え、ああ・・・・・・銀髪って珍しいし目立ちますよね」
「目立つとか珍しいどころの話じゃないんだけどね。君やウォルフくんは知らなくても無理ないけど、クインさまはご存知ですよね?」
そういえば、この世界に来て銀髪は見たことなかったな。特別な意味がある感じなのか?
「───私としたことが失念していました。本来なら真っ先にお伝えすべきなのに申し訳ありません」
「いやいや、あの状況じゃ仕方ないだろ。生命の危機の連続だったし、優先順位も落ちて当然だ」
「お気遣いありがとうございます。ですがもう一人のカーツさんの安全に関わることなんです。次はないように気を引き締めます───話を戻しますと、銀の御髪はこの大陸に魔法を齎した"始祖の魔法使い"にのみ許された色なんです」
おっと、そりゃ確かに珍しいで済む話じゃないな。道理で一回も見たことない訳だ。
最初の魔法使い、か。この世界じゃ銀髪は自然発生せず、カーツ少年はマナで構成された"迷宮で生まれた器"が今の肉体だ。
そうなると色々邪推してしまうが・・・・・・口は災いの元だ。余計なことは言うまい。
「───そういうことだ。ついでに、馬車の外に居る方々の頭数が多いのもそれが理由だったりする」
「あぁ・・・・・・一応確認なんですけど、カーツ少年に何かしようってのは───」
「落ち着け、君の考え過ぎだ。寧ろ保護の意味合いの方が強いだろうね。セレストゲイルは何処までも規則に準じる御家だ。調査はされるだろうけど、無体な真似はまずないだろう。そうですよねクインさま?」
「そうですね。我々の一門は身内には多少厳しいかもしれませんが、外部の・・・・・・特に要保護性のある方を無碍にすることはないかと」
いや、あれは厳しいんじゃなくて、人間扱いしてないんだと思うが。流石に本人に直接言わないけど、人間相手に"出来損ない"呼ばわりする奴を俺は真面なんて呼びたくないな。
とはいえ俺達に選択肢はないか。どう考えてもギルドや子爵家が抱え込める話じゃなさそうだし、アガットランドは今回の件で信用出来そうにない。
「・・・・・・あまり脅すようなことは言いたくありませんが、西部のオニキスフレア家に知られるより恐ろしいことはありません。身内贔屓もありますが、此処はセレストゲイルに頼るしかないかと」
「・・・・・・はぁ。俺がもっと、カーツ少年を護れるくらい強かったらなぁ。まあない物強請りしても仕方ないか。ところで、そのオニキスフレアって相当ヤバいのか?」
「ヤバい、と言いますか・・・・・・彼らは【浄血】の業に最も蝕まれていますので。我々を含めた他の同胞とは、必死さが違うのでしょうね」
業、ときたか。そういえば"バシュム"の奴も修理だの直っただの、妙なこと口走ってたな。
もしかしたらアデルの野郎の発言にも、クインが雷風魔法を使えない以外の意味もあんのか?まあそれであのクソ馬鹿の発言が許される訳ねぇけど。
「───此処から先の込み入った話は王都のお屋敷でしましょう。お耳を汚してしまいますが・・・・・・」
「いや、俺に話してくれる気になったのは嬉しいよ。信頼を勝ち取れたのかなって」
「まさか、カーツさんのことはずっと信頼させてもらってますよ。ただ私が臆病だっただけですから」
「はいはい、話は纏まったようで何よりだ。王都に着いてからが本番なんだし、ちょっとでも休んでおきなよ」
トマスさまの言うことも尤もだ。意識した途端、忘れてた筈の疲労感が一気に押し寄せてきやがった。
カーツ少年が膝の上で寝てるから横になるのは無理だな。申し訳ないけど、クインの肩を借りて休ませてもらうことにしよう。目を閉じた途端、数分と経たずに意識がブラックアウトした。すやぁ・・・・・・。