第四十五話 藪蛇だった・・・・・・
───突然振って湧いた王都行きの任務。正直行きたくなさ過ぎるが、嘆いていても仕方がない。気持ちを切り替えた俺たちは、防人さん達に
案内されるがまま馬車で運ばれていく。
選民思想というか中央至上主義と噂の街だ、田舎市民にどれだけ厳しい場所なのか戦々恐々としてたんだが・・・・・・拍子抜けするほど何事もなく門を潜ることが出来た。
「───やっぱ【浄血】の権威って凄いんだな。文明の守護者の肩書き舐めてたわ・・・・・・この格好はちょっと派手過ぎるけど」
「お互いに自衛するためなのでどうか我慢してください。少し歩けばお屋敷が見えてくる筈なので」
指紋が付きそうなほど澄み切った"蒼"のローブの所為で落ち着かない。馬車を降りると同時に別れた防人さんに押し付けられた"身分証"だ。
クインによると、セレストゲイルの特別な魔力で染め上げられた超高級品らしい。偽造も複製も不可能で、しかも下手な鎧より遥かに頑丈で相当な対魔法防具とのこと。
そんな代物を『セレストゲイルの賓客としての証』に使っちまうんだからとんでもない。そんな便利なモンがあるなら防人さん方に装備させてやれよ、と思うのは俺だけだろうか?
「それにしても、せっかく馬車に乗ってたんだから屋敷まで走らせれば良いだろうに」
「王都で馬車を走らせて良いのは、伯爵以上の上位貴族のみだそうです。ご不便をお掛けします」
「いや、愚痴っぽくなって悪かった。何か前向きになれる話題に変えよう・・・・・・そうだ、ウォルフの土産は何にしようか?」
「一足先にラリマー領へ戻されちゃいましたからね。まあ本人も嫌がってましたけど。地方では売っていない手入れ道具なんて如何でしょうか」
二人で他愛ない話をしながらのんびり進む。時間指定なんてされてないし、こっちは疲れてるんだ。寄り道さえしなきゃのんびり行っても構わないだろう。
そういえば二人だけで行動するのも久しぶりだな。賑やかなのも悪くないけど、こうして静かな時間も気楽で良いな。
王都なだけあってただの街道も雅で金が掛かってる。色取り取りの花々も見てて飽きないし、変に絡まれたりしなきゃ観光に持ってこいの景観だ。
「手入れ道具なんて売ってるのか?冒険者ギルドとかなさそうな街だけど」
「王室近衛や騎士団を相手にする道具屋がありますから、用事を済ませたら寄ってみましょう。我々も旅装等でよく利用するので、品質は保証しますよ」
た、高そう・・・・・・いや貴族と御用商人しか居ないこの街に安い店なんてないんだろうけど。そうこうしてるうちにお目当ての場所へと辿り着いた。
豪邸の中の豪邸って感じなのかと思ったけど、無駄を省いた機能美重視のお屋敷だった。まあどうせ建材とかは目玉が飛び出るほどお高いんだろうけど。
「───お待ちしておりましたカーツさま。子爵令息さまももうお着きになられております。どうぞこちらへ」
「わざわざの出迎え感謝します。これからお世話になります」
門前で待機してた"THE・執事"って感じの人に案内され、そのまま中庭へと通される。其処に居たのは、クインと同じ蒼髪を肩まで伸ばしたイケオジだった。
「───ようこそ、よくぞおいでなさった。今代の当主を務めるシュナイゼル・セレストゲイルだ」
「冒険者ギルドラリマー支部所属のカーツです。本日はお招きいただき感謝申し上げます」
付け焼き刃の一礼で挨拶する。本物の貴人から見れば無作法そのものだろうが、特に見咎められずに席へ通される。
改めて庭に目を向けると、辺り一面蒼い薔薇に囲まれた幻想的な趣きだった。芸術方面の知識は皆無だけど、相当手入れされてるのは何となく理解出来た。
「自由を愛する冒険者にはいささか窮屈であろうが、今しばらくは我慢してもらいたい」
「いえ、私如きに出来ることなら喜んでご協力します。カーツ少年・・・・・・俺の大切な人の後ろ盾になっていただけるとお聞きしてますので」
「・・・・・・報告は耳にしている。此方としても渡りに船であった。一つ間違えば騒乱の火種になり得る存在故な」
うん、まあそれは否定出来ないな。非常に心苦しいことだが、言葉を飾っても仕方がない。
前代未聞の"迷宮で生まれた人類"。しかもその全てがマナで構成された未知の存在。魔道に生きる人間なら喉から手が出るほど欲しがるだろうな。
「───ふむ。その顔を見るに、我々の認識には些か齟齬があるようだ。無論かの新人類の価値は絶大だ、しかし我々【浄血】にとっては君もまた値札を付けられない人材なのだよ」
「・・・・・・・・・・・・俺が、ですか?」
「知らぬは本人ばかりなり、か。まあ無理もあるまい。市政に生きる者であれば必要のない能力だからな」
はて、【浄血】の御当主直々に賞賛される謂れはない筈だが。光栄だけど心当たりがないと座りが悪い。
【
「───どうやら本当に覚えがないようだ。君は魔法をもってマナと生命の繋がりに干渉した唯一の治癒士だ。少なくとも表の人間では。その価値は我々にとって決して無視出来るものではない」
「もしかして【
「今は、な。だが将来的にはどうだろうか。魔法を行使する上で知識、想像力、そして経験がどれほどの格差を生むかは君もよく知っているだろう?」
将来性、ときたか。確かに俺は『膨大なマナと超高度な術式があれば生命を創造出来る』と身をもって知った。それに言語化も書き起こしも不可能だが、あの術式に触れた感覚は身体が覚えてる。
もし俺がこのままあの時の記憶を忘れなければ、マナから肉体や生命を生み出すことは万に一つだが可能かもしれない。だが何で【浄血】がそんなモノを欲しがってる?
寧ろ俺から取り上げる方がよほど納得がいく。どう考えても個人でどうこうして良い技術じゃないし、悪用すれば無尽蔵の軍事力を得られる訳だからな。
「畏れながらシュナイゼル様、やはり俺には貴方のお考えが分かりません。部外者が土足で踏み込んで良い話でないのは承知の上ですが、俺に何をさせたいのでしょうか?」
「───そうだな。君の視点では意味が分からぬであろうな。気分一つで国の行末を決められる一門が、今更何を求めているのか。そうだな、これから巻き込むであろう貴殿には教えておくべきだな。我々【浄血】が直面する危機についてを」
───え、そんなの求めてないんですけど。俺はただ指示か命令が欲しかっただけで・・・・・・あ、待って席を立たないで!?屋敷の奥へご案内とか勘弁してくれ!!
嫌だ、国どころか世界に影響持ってる一族の闇に触れるとか絶対引き返せなくなるじゃないですかヤダー!!?