セレストゲイル家当主さまに連れられて屋敷の中を進んでいく。内装は印象に違わず派手さより機能重視のようだが・・・・・・普通の家具に扮した魔導具がかなり多いな。ただの屋敷に見えるが中身はまるで要塞だ。
使用人らしき人たちもかなり洗練された動きだ───家人としてだけでなく、戦士としても。迷宮で滅茶苦茶
そんな人たちが御当主だけでなく俺にも礼を尽くしてくれる。セレストゲイルは身分で差別しない、付き合いやすい人たちなんだな・・・・・・なんて安易に考えてはいけない。
俺に敬意を払ってくれるのも、このクソ高い蒼衣を貸してくれてるのも俺の快や不快に値札が付いてるからだ。だからフィルタリングしてくれてるんだって自覚を忘れちゃいけない。そういう分別も良好なコミュニケーションには不可欠だからな。
「───時に冒険者殿、君は我々の肩書きである【浄血】の由来はご存知かな?」
唐突にぶっ込んできた当主の言葉に思考を回す。由来か・・・・・・普通に考えれば『清浄な血族』とかの選民思想的な感じに思える。
だがさっきまでの話ぶりからしてまずあり得ないだろうな。"業"だの欠陥だの当人達が好き放題言っちゃってるし。だとするなら───。
「・・・・・・"血を浄める一族"でしょうか?他の誰も担えない重責を抱える一門ですし、何かしら原点回帰に繋がる儀式を行っているのでは?」
「───ふむ。やはり君は聡い人間だ。それに物怖じしない姿も実に頼もしい」
どうやら及第点以上は貰えたらしい。さっきより幾分機嫌が良さそうな声音で返事が返ってくる。
ファンタジー系の物語で世代を重ねた一族を"血が薄まった"なんて表現することがある。様々な遺伝子を作る過程で原点から遠ざかるのは生物の必然だが、受け継げないと文明が滅びるんならそうも言ってられない。
そういった大義名分で相当無理してるんじゃないだろうか。その献身を指して【浄血】と呼ばれた。俺はそんな風に予想したが、的外れじゃなさそうで少し安心した。
「君は儀式と称してくれたが、そんな上等なものではない。だが口で説明するより見てもらった方が早かろう。場所はこの階段の下だ」
「・・・・・・地下、ですか」
屋敷にある地下とかポジティブなイメージがちっとも湧かないんだが・・・・・・隣りを歩くクインの表情もいつもより暗い。
だけど同行を遠慮してもらうのが正解とも思えない。クインにとっては自分を"出来損ない"呼ばわりする生家だからな。今日一度も心無い言葉をぶつけられてないのも、俺の傍に居るからだろうし。無理をさせるがこのまま付き合ってもらうしかないな。
ジメッとした階段を降りると、これまた重苦しい扉が俺たちを待ち構える。使用人さんが開けてくれた先にあったのは、大広間と巨大な機械───そしてそれに繋がれる子どもの姿だった。
「・・・・・・アレが、"血を浄める儀式"ですか?」
「魔導具によって胎児の段階から血を抜き加工し、再び肉体へ戻し循環させ肉体を改造している。今は風との親和性を高める段階だな」
事もなげに説明する御当主の表情は微動だにしていない。"加工"なんて言い回しも含めて彼らを物としてしか見てないんだろう。
・・・・・・冷酷、とは言わない。文明の維持はあらゆる非道を肯定する大義名分であり"義務"になり得る。あの子たち一人一人を人間として見ていたら到底立ち行かないんだろう。
まあ好きか嫌いかで言えば反吐が出るほど嫌な光景だけどな。とはいえ部外者が口を挟んで良いもんでもない。そういう訳だから早く俺を解放してくれ、マジで。
「この光景を見せたってことは、俺に求められていることと関係があるんですよね?」
「うむ、間接的にだがな。この加工そのものは徹底的な管理によって最大限安全に配慮してある。加工過程で犠牲が出たことはない」
「"過程で"、ということは問題はそれから先・・・・・・となると後遺症ですか?」
クインを罵倒する連中の動機もそこにあるんだろうか。パッと見てる感じでは欠陥らしき要素は見当たらないが。
御当主は俺の質問に答えず、代わりに入り口で案内してくれた老執事さんが後を引き継ぎ、そのまま機械の近くへ誘導される。あれ、遠目じゃわからなかったけどこの子等全裸じゃねぇか!?
「───どうぞ、此方をよくご覧ください」
「いやいやいや、本人の許可なく陰部を覗くなんて───「失礼致します」───うおっ!?」
セクハラなんて概念が通じるか不明だが、自認紳士の俺としてはノーサンキューだ。だけどたおやかな表情に反して、目にも止まらぬ速さで無理矢理引き寄せられてしまう。
文句を言いたかったが、飛び込んできた光景の所為で声が出せなかった。
「───何時の時代からかは不明ですが、我々【浄血】にはかような欠陥が発現するようになりました。当代ではもはやこの欠落がない者を探す方が困難な状況です」
「・・・・・・道理で初対面の時に性別を言ってくれなかった訳だ」
クインには本当に失礼なこと言ってしまってたんだな。知らなかった、じゃすまないだろこれら。
トラブルや分断の元になったりもするが、性差は家族以外で最初に帰属出来る枠組みの一つだ。男らしさや女らしさ、着る物に関心事。これから先の人生に関わってくる重要な指針だ。
だからこそ俺は、ソレがないことによる弊害を想像すら出来ない。特に自分の次世代を遺せない気持ちなんて考えることすら失礼だろう。
「───ありがとうございます」
「・・・・・・何で、感謝されるようなことは───」
「我々を慮ってくださる人が居る、それだけで嬉しいのですよ。きっと貴方の傍にいた防人は心穏やかに過ごせたことでしょう。それに何より、貴方は我々の希望になってくれるかもしれない御方だ」
その言葉で此処に来てからの疑問が氷解した。何故生命に干渉する術式に触れただけの俺にここまで期待を寄せるのかを。
既にアデルの野郎から【
上手くいけば【浄血】の欠陥を修復出来るかもしれないって考えた訳か。仮にそこまでいかなくても、青田買いする動機としちゃ充分過ぎるか。
「長年魔導具を使用し続けた弊害か、もはや一族同士でなければ子を成すことすら叶いません。それでも一昔前であれば、血の遠い者達で番うことも可能でしたが・・・・・・」
「───近親婚、とまではいかずとも血が濃くなってしまった。その所為でより悪い遺伝が起きやすくなる悪循環が起きてる訳ですか」
もしや、テロリスト共が言ってたのはこのことか?"自滅に巻き込む"とか言ってたけど。
絶対に絶えてはいけない一族が子孫を遺せなくなってきている。それを公表せず隠したことを裏切りと捉えたのか?
だがこんな情報表に出してもパニックになるだけだ。それに有効打を見つけられてなくても、セレストゲイルは何とかしようと足掻いてるように見える。他にも何かあるんだろうか?
「私からお伝えすることは以上となります。どうぞ、御当主さまがお待ちです」
「───えぇ、辛いことを話してくださりありがとうございました」
まあこれ以上は考えても答えは出ない。なら取り敢えず目の前のことを片付けないとな。入り口に戻ってくると、御当主は俺を見て満足そうに頷いてくる。
「ふむ、先程より良い表情になられた。それでこそ期待が出来るというものだ」
「・・・・・・恐縮です。それでは御当主さま、改めて依頼内容をお聞かせ願いたい」
「我々からの依頼は三つだ。【浄血】の遺伝的疾患の改善───これは最終目標故に当面は無視してくれて構わない。二つ目はこの屋敷に暫く滞在し、我々の指導を受けてもらうことだ」
・・・・・・ふむ。最初の一つは兎も角として、二つ目は寧ろ俺が大枚叩いて頼む内容に思えるが。報酬の前払いみたいなものか?
「そして最後の三つ目、これが最も重要なのだが───貴殿には強くなってもらう。無理矢理にでも・・・・・・最低でも西の業突張りに攫われぬ程度には、な」
「えっと、畏れながらどういうことでしょうか?セレストゲイル家の庇護を無視出来る存在なんてこの世に───まさか、いやでも同じ【浄血】相手に仕掛けてくるなんてあり得ない・・・・・・です、よね・・・・・・?」
「・・・・・・」
いやいやそんなまさか、狂犬にも程があるだろ・・・・・・御当主が申し訳なさそうに目を伏せるもんだから、声が尻すぼみになってしまった。
え、何で?いや本当に何で??自分で言うのもアレだけど俺って相当協力的だと思うんだけど?嫌いなアデルに対しても、思うだけに留めてるし。
「・・・・・・同胞が申し訳ない。しかしオニキスフレアはヴィブギヨル王国におけるタカ派の最先鋒。そして【浄血】の地位にも固執しておる。何よりその手段が少々過激でな」
「ぐ、具体的には・・・・・・?」
「───そうだな。西部にとある【錬金術師】の名家があったのだが、偶然開発された新技術を得るために色々暗躍したらしい。最終的にその家は国家反逆罪で一族郎党処刑されたそうだ」
・・・・・・想像の数倍ヤバかった。え、この話って【
「彼等の根底にあるのは"被害感情"だ。それ故に過剰な攻撃性を隠そうともせん。オニキスフレア以外の全人類は、自分達に負担を押し付けた加害者という認識だ」
「・・・・・・・・・・・・いや、確かに犠牲を担ってるのは事実だし理解出来ますけど。でもそれにしたって───」
「───そうだな、その理屈も振り翳せばただの暴力だ。しかし最も過酷、かつ不可欠な役目を担う彼等の行動は、全てにおいて優先されてしまう。増長を止めることはもはや誰にも叶わん」
・・・・・・南部って平和な地方だったんだな。すぐ再起動するから、ちょっとだけ現実逃避させてくれ。