異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第四十七話 知らぬは本人ばかりなり

 

 

 

 

 

 

「───オニキスフレア?また随分物騒な名前が出てきたもんだ」

「あ、やっぱり貴族界隈でもそんな認識なんですね」

「そりゃそうだよ。目に付いたら人であれ物であれ攫ってくんだもの。付いた渾名が【強欲竜(ファフニール)】さ・・・・・・まあ面と向かって言う命知らずは居ないから君は知らないだろうけど」

 

 

 あれからひとまず解散となり、何故か俺の客室に居座ってたトマスさまへ報告させられている。先に来てたのは知ってたけど、どうせならあの場に同行して緩衝材になってくれたら良かったのに・・・・・・。

 

 

「お疲れのところ悪いけど、もう少しだけ付き合ってもらうよ?僕としても今後の身の振り方に関わってくるんだからね」

「・・・・・・それって今のうちに縁切りの相談ってことですか?」

「流石にそこまで薄情じゃないさ、迷宮騒動も無事終わらせてくれた訳だし。とはいえ相手が相手だ。最悪の事態には備えておかないと」

「そ、そんなにヤバいんですか・・・・・・?」

「そうだね、過激思想もヤバいけど何より厄介なのはその軍事力さ。同じ【浄血】の中でも抜きん出てる」

 

 

 そう言って逸らした視線の先にはクインが居る。律儀に付き合わないで先に休んでくれても良かったんだけど。

 

 ただでさえ安らぎとは程遠い実家だろうし。今日はもう切り上げるべき悩んだが、クインが話出す方が先だった。

 

 

「───そうですね。あくまで私の主観になりますが・・・・・少なくとも一対一ではまず敵いません。他の【浄血】と合同でなければ牽制もままなりません」

「そこまで差があるのか。そんなに力があるなら【献言する蛇(サマエル)】もさっさと片付けてくれりゃ良いのに」

「片付けるどころかわざと泳がせてるフシがあるんだよね。何かしら成果を出してくれたら万々歳って感じだろう」

 

 

 自分達を殺せるし、殺す動機を持ってる連中まで利用するのか・・・・・・豪胆とも取れるけど、それだけなり振り構ってられない必死さも感じるな。

 

 

「───だからこそ、"彼"の存在だけは何がなんでも隠し通さなきゃいけない。そのための隠れ蓑が君だ」

「・・・・・・そういうことか。道理で急にアレコレ求められる訳だ」

「まあもの凄く都合の良い立ち位置に居るからね。以前から防人を通じて唾を付けてて、しかも研究が上手くいけば【浄血】に滅茶苦茶恩を売れるんだろう?詳しくは聞いてないけど」

 

 

 ようやく合点がいった。というより俺の頭が回らなさ過ぎた、要反省だな。

 

 セレストゲイルが全然話題に出さないから勘違いしてたが、彼らもカーツ少年には相当注目してた訳だ。ただし研究材料としてじゃなく、()()としてだが。

 

 間違ってもカーツ少年に注目がいかない為の囮、俺にその白羽の矢が立ったってことか。【譲渡魔法(ディバイド)】って実績もあるから丸っきり嘘って訳でもないし。

 

 

「それにしても、君も随分買われたもんだね。本来ならわざわざ【浄血】同士でやり合うリスクなんか背負わず、さっさと"彼"を引き渡した方が早いのに。君を敵に回すリスクは同じくらいデカいって訳だ」

「うーん、煽てられたり隠れ蓑にされたり、またまた持ち上げられたり・・・・・・自己認識が混乱する」

「いやいや、君には【不全魔法(マルファンクション)】って切り札があるでしょ?何言ってるのさ」

 

 

 トマスさまが呆れを隠さずそう言い、クインもうんうんと頷いてる。え、ちょっと待って?何か致命的に認識がズレてる気がする。

 

 

「あの魔法ってそんなに便利じゃないですよ?その辺の魔法使いなら兎も角、【浄血】相手なら魔力の質と量でゴリ押されそうですけど」

「・・・・・・だ、そうですけど専門家のご意見は?」

「そうですね、"バシュム"と名乗った蛇の言葉を元に、私なりに考えた推測になりますが───」

 

 

 クインによると俺の【不全魔法(マルファンクション)】を含む一部の魔法は、魔力との衝突や相殺が発生しないらしい。理由については不明みたいだけど。

 

 普通なら俺の考えた通り、魔力を阻害する術式であっても魔力格差でゴリ押されれば跳ね返される。だがその理屈が通るなら、俺の魔力程度じゃ"バシュム"の呪詛を阻害するのは不可能とのこと。

 

 

「・・・・・・可能性は幾つか考えられます。一つは『技術体系が異なるために魔力による防御が機能していない』可能性。言っておいて何ですが、この可能性はとても低いと思います」

「だろうな。確かに俺の魔法は我流だけど、クインや支部長達から教わった技術も取り入れてるし。完全に別体系ならそもそも参考に出来る筈がないな」

「おっしゃる通りです。他の可能性としては『阻害ではなく、魔力を無力化している』というもの。とはいえあり得なさは似たようなものですが」

 

 

 はて、どういうことだ?電化製品を止めたければ、モーターを力尽くで止めるより回路を断線させればいい。あるいは絶縁シートを噛ませるか、コンセントを塞ぐ方が何倍も手っ取り早い。

 

 それと同じで、魔力そのものを止める発想は別に珍しくもないと思うが。同じ考えだったのか、トマスさまも不思議そうに疑問を投げかけた。

 

 

「・・・・・・専門外なので分からないんですが、何故その可能性は低いと?」

「理由は二つあります。まず一つ目は、魔力の不活性をイメージすることが困難だからです。魔法や魔技を扱えない人は少なくありませんが、魔力を完全に持たない人はこの世に居ないと言われています。我々は意識的にも無意識的にも、魔力に干渉し干渉されます。ですので『魔力が機能しない世界』をイメージすることは至難の業でしょう」

 

 

 なるほど、この世界の人達は目に見えない形であっても、魔力が何かしら影響を与えていると知覚してるのか。だから"魔法が機能しない状況"は想像出来ても、"魔力が完全に停止している現実"をイメージ出来ないってことか。

 

 だが俺やトマスさまは別の世界を知ってるし、そこで生きてきた。だから"魔力がそもそも存在しない現実"を経験として知覚出来るし、漫画やゲームを通じて"魔法は空想(フィクション)"とも認識出来る。

 

 だから一つ目の理由は何も問題にならない。ならもう一つの方はどうだ?

 

 

「そして二つ目の理由ですが、カーツさんが()()()()()()です。魔法を行使しその恩恵を受けていますし、カーツさんを語る上で欠かせない要素になっています。それを否定するということは、魔法使いにとって致命的な瑕になります」

「・・・・・・【反転魔法(ネガ・スペル)】がまさにそれだもんな。一回挫折しただけで、今後その系統の魔法は階梯(レベル)を上げられなくなる。魔力や魔法を否定するなんて一体どうなるんだって話だよな」

 

 

 兎に角魔法を使うならイメージが大事だって何回も言われてきたもんな。よくよく考えれば、"魔力が全く使えなくなるイメージ"なんて危険物以外の何物でもない。

 

 じゃあ何で俺が使えるんだって話になるが・・・・・・魔法がアイデンティティじゃない?いやいや、あれだけ特訓してきたし、今の立場があるのも俺が治癒士だからだ。幾らカーツ少年からの借り物だからって──────あっ。

 

 

「おや、何か思い当たることでもあったかな?」

「・・・・・・はい。ちょっと話せない内容で申し訳ないんですけど、俺が【不全魔法(マルファンクション)】を使えるのは納得しました」

 

 

 そうだった。俺にとって光属性魔法はあくまでカーツ少年のものだ。俺はあくまで彼の骨折りに乗っかってるだけで、寧ろ盗人猛々しいとすら思ってた。

 

 だからどれだけ"魔力が使えないイメージ"を定着させても問題ないのか。"俺"にどれだけ魔力を行使出来ないイメージが定着しても、この身体も魔法も『カーツ少年のもの』なんだから。

 

 

「・・・・・・それでは話を戻しましょうか。あの迷宮騒動より前であれば、カーツさんの魔法は効果範囲も低いのでそこまで問題にはなりません。ですが少量とはいえ超高純度のマナを取り込んだカーツさんの階梯(レベル)は、もはや別人と言えるほど上昇しました」

「そうですね、僕も最初は誰かと思いましたよ。だからもし君がこの屋敷を魔法の効果範囲に収められるなら、今この瞬間セレストゲイルを全滅させることも不可能じゃない」

「私たちの力は魔法に大きく依存してますからね・・・・・・魔力が使えなければどれほど貧弱かは、カーツさんもよく知ってるでしょう?」

 

 

 そういえば、馬車に揺られただけで腰砕けになってたな。仮に魔法も魔力による強化も無しなら、ウォルフクラスの冒険者同伴なら一方的な戦いになるだろうな。

 

 まあ一人でも効果範囲に出た瞬間、俺がミンチにされるのは確定するけど。とはいえ俺が【浄血】視点ではどんな存在かは多少理解出来た。

 

 ・・・・・・今後はもう少し発言に注意しよう。危険分子と思われたら、弁明する余地もなく始末されそうだし。

 

 

「さて、それじゃあ次はこれからの話をしていこうか。セレストゲイルのお医者さんに聞いたけど、カーツ少年とやらが目覚めるにはもうしばらく掛かるらしいよ?」

「え、そうなんですか?まさか、何処かに不具合でも───」

「───落ち着いてくれ、ちゃんと目覚めるそうだから。ごつい機材で調べてくれたけど、どうやら身体の細かい部分を最適化してる最中だそうだ。ずっと眠ってるのはそれが理由らしいよ」

 

 

 トマスさまの言葉に思わず安堵の溜息が溢れた。カーツ少年は文盲だったし、俺も人体の知識は保健体育で止まってる。だから何か失敗してないか不安だった。

 

 まあ結局カーツ少年に負担掛けてるから全然笑えないんだが。それでも致命的な不具合はなさそうで一安心だ。

 

 

「どうせ君のことだ、カーツ少年が目覚めたらパーティに加えるつもりなんだろう?なら万一彼の秘密がバレても護れるくらい強くならないとね」

「・・・・・・ですね。せっかく目覚めても追われる日々なんてあんまりだ」

「まあ、とはいえあんまり気負うことはないさ。目下一番危険なのはオニキスフレアだ。今後の修行も連中相手に特化した内容になるだろうね」

 

 

 俺もそう思う。セレストゲイルの看板相手でも喧嘩売るのなんてそいつくらいだし。仮想敵が絞られてる分、何をすれば良いか具体的なのは多少気が楽になる。

 

 

「クイン、その辺のこと何か聞かされてたりする?」

「ひとまずは、カーツさんが何処までやれるのか調べるそうです。迷宮騒動の余波が落ち着くまでは、座学と光属性魔法の研究が中心になるかと」

「ああ、それもあったな。一息吐く間もなく連れてこられたもんな。しばらく大人しくしとくか」

 

 

 流石に【浄血】の屋敷まで来て事情聴取されたりはしないだろう。管理者も始末されちまってるし、騒ぎも早々に鎮火しにかかるだろう。それまでの辛抱だ。

 

 しっかし強くなる方法、か・・・・・・相手は過激な連中だしこっちも自重しなくて良いよな?やれそうなことは手段を選ばす検討しよう。

 

 

 

 

 

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