異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第五話 悪意の泥沼

 

 

 

 

 

「・・・・・・それで容態は?」

「様々な要因が重なった結果、奇跡的に命を繋いでおります。呪物に触れたのが本人ではなく魔法だったこと、魔法との距離が相応に離れていたこと、そして防人さま自身の類稀な対呪術適性。どれか一つでも欠けていれば、手の施しようがありませんでした」

 

 

 トゥエルブさんが淡々と説明する。相変わらず感情の読めない瞳だが、その手元は凄まじい速さで薬を調合していた。1秒も惜しいと言わんばかりの手際であり、口調も心なしか早口だった。

 

 

「【解呪】は可能か?」

「結論から言えば、()()()()()()()()()()()()。【浄血】の貴族が抱える欠点はリーダーもご存知でしょう?」

「・・・・・・そういうこと、か。ああ、その様子じゃカーツは知らんか。【浄血】の看板を掲げる貴族サマは、強力な魔法を扱う為に例外なく身体を弄り回してる。その結果はさっき見た通りだが、代償に著しく身体が弱くなるそうだ」

 

 

 エッジさんの話を聞いて、自分の顔が歪んでいくのを感じる。トゥエルブさんの力量なら、時間を掛ければ呪いを解くこと自体は可能らしい。しかしそれではフードの人が保たないと二人は判断している。それでも出来る限りのことをしてくれているが。

 

 ただでさえ体力が低いのに強力な魔法を連発したんだ。弱っていた所を呪いに蝕まれ、もう一刻の猶予もないらしい。俺にも何かしてやれないか、足りない頭で必死に考えてみる。

 

 

「そうだ、俺が光属性魔法で保たせます!それならトゥエルブさんの【解呪】も間に合い───」

「残念ですが、高位の光属性魔法は身体への負担が大きいのですよ。そして低位の魔法では呪いによって阻害され無効化されます。中位の魔法であればあるいは───ですが、中和された効能では10や20で効かない数の発動を求められます。貴方だけでは無論、たとえ私と二人がかりだとしても到底不可能です」

「───ッ」

 

 

 クソッ、トゥエルブさんの言う通りだ。魔法は発動に一番コストを持っていかれる。そして光属性は発動後数秒で終了してしまう。半端なアイデアじゃ駄目だ、もっと柔軟に思考を回さないと。

 

 【快復魔法(ヒーリング)】の持続時間を延ばす───そんなことが出来るなら先人がとっくにやってる!どうすれば良いんだ!?このままじゃ・・・・・・っ!

 

 

「───ですが、世にも珍しい我流の魔法使いであれば、或いは別の結果が出るかもしれません。貴方は既に、私には不可能な芸当をお見せ下さいましたし」

「・・・・・・はい?」

「そもそも諦めてしまっては奇跡も起きようがありませんものね。私は此処を離れられませんし、防人さまの知り合いは貴方しか居ない。どうか、最期まで側に居てあげてくださいませ」

「一応言っとくが、別にお前が何かしてやらなきゃならん義務はねぇ。だが何かしてやりてぇってんなら、此処は手が足りてる。変に気張らずやりてぇようにやってみろ。どんな結果になろうが責任は俺が持つ」

 

 

 二人の声に背中を押されて、俺はその場を後にした。何をすべきか、何をしてやれるのかなんてまだ何も分からない。それでも、ただ止まって嘆いてるだけなのは嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フードの人は、村のご厚意で一番上等な宿の世話になっていた。ベッドの上で魘されていて意識は無いらしい。右腕を黒いモヤみたいなものが覆っており、コレが呪いの具現なのは疑う余地もない。

 

 部屋には村の人達や【明星】の団員さんが用意した道具で溢れていた。必要なら使って良いと許可も貰っている。俺だけじゃなく、みんながフードの人に助かって欲しいと願ってる。それが分かって自然と両腕に力が入る。

 

 エッジ団長達のの言う通り、泣き言や後悔は全部試してからで良い。剣杖に魔力を込め、これから発動させる魔法を頭の中で反芻させる。

 

 

「まずはコレだ───【持続快復魔法(リジェネレーション)】!」

 

 

 カーツ少年の記憶からありったけの魔法をサルベージした。まずはハンス達の魔法による負荷の軽減(ワガママ)で考案した、一回あたりの快復効果は少ないが段階的に作用する魔法だ。トゥエルブさんが使えないとは思えないが、果たして効果は───ッ!?

 

 

「───ふっ、ぐぅ、ううゔぅっ!!?」

「しまった、【消魔魔法(ディスペル)】!!・・・・・・分かってたことだが、随分悪辣な呪詛だなおい!?」

 

 

 急いで自身の魔法を強制終了する魔法で鎮静化させた。黒いモヤは小揺らぎもせず、ただ状況が悪化しただけだった。トゥエルブさんの見立てじゃ光属性魔法と呪いは相殺し合う筈だったが、コイツは魔法に対して反発・・・・・いや"反応"する様に細工されていた。

 

 イメージとしては水に触れただけで爆発するリチウムみたいな感じだ。フードの人からすれば、体内で突然発火した様なもんだ。症状を緩和するどころか苦しめてどうするんだ、俺!!

 

 

「直接魔法をぶつけるのが駄目なら───【譲渡魔法(ディバイド)】ッ!!・・・・・・うえっぷ。これも要改善だなこりゃ」

 

 

 瞬間、貧血になったみたいに身体から力が抜ける。魔法で回復させるんじゃなく、俺自身のエネルギーを分け与えるのがこの【譲渡魔法(ディバイド)】だ。

 

 俺自身への負担が大きい代わりに、魔法による反動はかなり抑えられる。失った体力はそれこそ【快復魔法(ヒーリング)】で補えば良い。俺の方は何も制約が無いんだから───はぁっ!!?

 

 

「嘘だろおい、呪いの勢いが増してる!?まさか、被呪者の体力を媒介に威力を増幅する仕組みまで用意してたのか?まるでウィルスか何かみてぇな仕組みまで備わってるのか!!」

 

 

 殺す為のギミックを次から次へと、偏執的にも程があるだろ!此方の対応を見透かしたみてぇなこの作用・・・・・・何が何でもこの人を殺そうってのかよ!?

 

 手を出せば出す程悪化する状況に狼狽えていると、さっきまでピクリともしなかった目蓋へ僅かに力が籠るのが見えた。慌てて魔法を使おうとする手を止め様子を見てると、フードの人は辛うじて意識を取り戻した。

 

 

「・・・・・・あ、此処は───?」

「───ッ、目が覚めたか!此処は村の宿だ、何処まで覚えてる?」

 

 

 呪いは依然勢いを増し、真っ黒に染まった箇所は右手から肘まで広がっている。それでも僅かに体力が戻ったのかフードの人は意識を取り戻した。それが良かったのかは・・・・・・兎も角として。自分が刻一刻と蝕まれる感覚なんて、俺には想像することも出来ないから。

 

 

「・・・・・・そうですか。咄嗟のことで記憶はっ、朧げですがこうなる覚悟は・・・出来ていました。そんな顔を───ッ、し、しないでください。こうなることも、私の任務に・・・含まれてます、から・・・・・・」

「な、何言ってんだよ!?アンタには誰にも明かせない使命があるんだろ?それなのに・・・・・・まさか───」

「その節は・・・・・・不義理を致しまして申し訳ありません。ですが私の使命はッ、既に果たされました。我が身に呪いを宿すことこそ私の最後の務め。なので・・・・・・貴方達はどうか気に、病まないでくだ・・・・・・さい」

 

 

 喋るのも辛そうな姿が見ていられない。気休めにしかならないが【麻酔魔法(ディスペイン)】を掛ける。ただ痛みを誤魔化すだけで、寧ろ他の光属性魔法を邪魔する失敗作らしい。それでもフードの人の表情を幾分か和らげることが出来た。

 

 しかし言われた言葉の意味が全く頭に入ってこない。呪いを受けるのが目的だって??そんなもの命を捨てろと言われたも同然じゃないか。俺の困惑を読み取ったのか、今も凄く辛いだろうに笑みすら浮かべて詳細を語ってくれた。

 

 

「【浄血】という言葉を、貴方はご存知ですか・・・・・・?」

「・・・・・・触り程度なら」

「そうですか・・・・・・【浄血】の貴族は大陸中に散らばる国家そして教会から多大な権力を授けられた御家です。その対価として・・・・・・『貴族の模範として生きる』こと、そして何より『浄化』の務めを負うのです」

「そ、それなら尚更ッ!そもそも何でアンタが今一人で───」

「"クイン・セレストゲイル"です。どうか、名前で呼んでいただけませんか?」

 

 

 喉から搾り出す様な声と潤んだ瞳に、俺は何も言えなくなった。最後にせめて自分の存在を残したいって望みを、無碍になんか出来るかよ。フードの人改めクインは、"ありがとう"と言って自身のこれまでを語り始めた。

 

 【雷風】の異名を持つセレストゲイルは台風や竜巻、稲妻といった天災を"歪める"ことで国難を防ぎ、それを人間にとって都合の良い恵みの風に変えることで国を豊かにしてきたのだと。そうして各地を巡る彼らを人々は【防人】と呼び畏敬の念を送ったという。クインもまた、その一員として各地を回って務めに従事してきたらしい。

 

 もちろん災害を防ぐなんて、普通は逆立ちしたって不可能だ。だから【浄血】の貴族は胎児の段階で呪術・魔法を用いた"改造"を行い、生まれてからも外科手術・薬学とかを使って"調整"されるらしい。()()()使()()()()()を産むのではなく、()()()使()()()()()()()を生産する。それが【浄血】の貴族に課せられた義務なのだと、クインは言った。

 

 

「・・・・・・ですが、それらの活動を快く思わない人間も居ます。人を、自然を、国を自分達の都合で歪める私達を"世界の歪み"だと敵視すること存在が」

「それが、この呪いを作った連中か」

「はい・・・・・・この呪物【漆烙の汚泥】は蝕まれれば最後、骨すら残らず呪いの痕跡諸共この世界から消滅します。私はこの呪いを『持ち帰る』為に専用の調整を施され、今日この時のために生きてきたんです。」

 

 

 クインはただ事実を告げる様に、淡々と口にした。自分は敵を誘き寄せる"餌"であり、そして呪いに蝕まれて死ぬことを命じられた"捨て駒"だということを。

 

 

 

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