「───以上がことの顛末です。まあ、俺の見てきた範囲での話っすけど」
「いや、大いに参考になった・・・・・・まさかセレストゲイルと個人的な誼を得に、王都に寄り道してそのまま留まるとは思わなかった」
カーツや防人さんと別れて先に領土に帰ってきた俺は、副支部長へ報告する前にラリマー子爵から呼び出しを受けた。まああっちはマリエッタさんも居るし別に良いんすけど。
南部から吸い上げられてた冒険者たちの帰還。加えて他派閥である北部にとって金の卵だった迷宮の消滅。改めてみても、通算一ヶ月にも満たない期間で破格の成果だ。
だが今まで近寄らせもしなかった俺から聞き出した報告に、当の子爵は顰めっ面だ。まあ気持ちは分かるっすけどね。
「・・・・・・はぁ、相変わらず掻き乱してくれるな。たかが地方の一子爵家が首を突っ込める話でもあるまいに。有言実行以上の成果を挙げるだけに始末に終えん」
「まあまあ、トマスにも考えがあるんでしょう。あの子は型破りですが、余計なことをしたりはしませんから」
「ひとのことを心配している場合かカイツ。アレが無理難題をやり遂げた以上、今度はお前が選択を迫られるのだぞ?」
父親を宥めてるのは、長男のカイツさまか。顔立ちはトマスの坊ちゃんとよく似た童顔だが、体格の良さは正反対っすね。
競争相手の弟を庇う優しい兄さんなんだろうが、どうも穏和ってより軟弱な印象になるな。部下に舐められて汚職されそうっすね。初対面で失礼だけど。
「───俺の心はずっと前から決まっていますよ。これまでは立場的に言えませんでしたが、流石にこの状況なら周囲も鞍替えに走るでしょう?不出来な兄では無理でも、トマスならきっと上手く扱ってくれると思います」
「・・・・・・お前は性格もそうだが、何より諦めが早くていかんな。よく私に今日まで隠せたものだ」
「優柔不断なだけですよ・・・・・・父上の期待に応えたい、でも分不相応な我が身は退かせたい。結局トマスに貧乏くじを引かせてしまいました」
・・・・・・あー、なるほど?坊ちゃんから評判落とされても対決を避けるし、焦った部下を掣肘したりもしない。それでいて後継者争いを降りもしないし、確かに中途半端って感じだな。
「まあトマスも身一つで俺を放逐したりはしないでしょう。あの子の周りにはまだまだ人が足りてませんし、得意の肉体労働で手助けしたいと思います」
「・・・・・・分かった。腹が据わっているのならもう何も言わん。ただし、嫡男でなくなる以上今までのようにはいかん。何を言われようと、自分の選択の結果として受け入れなさい」
「───お話が纏ったようなので、俺からも良いっすかね?」
新聞屋でもない俺には他人の内輪話なんざ興味がねぇ。それでも残ってたのは子爵に用があるからだ。
俺の聞きたいことに予想が付いたんだろう。カイツさまを退席させ、居住まいを正した子爵が視線で促してくる。話が早くて何よりっすわ。
「貴方が仰った通り、俺の過去を詮索してくる奴とはこれまで距離を置いてきました。まあ何一つ覚えてないんで、聞かれても答えようがないんすけど。でもそろそろ向き合った方が良い気がしてきましてね」
「───カーツ君の影響かね?」
「まあそうっすね。自分の人生をマジになって生きてる人たちが眩しいし、羨ましいとも思いました」
思えば、こうしてちゃんと話すのも初めてっすね。思い返せば顔を合わせるのも、俺がいつの間にか居た孤児院に慰問で訪れた時以来か。
死人でも見たような顔で驚きながら、すぐに養子縁組の手続きがされたらしい。けどラングレーの爺さんに押し付けた後は、関わるどころか屋敷に近寄らせもしねぇ。
明らかに何か知ってる風だが、別に興味もなかったから俺も放置してた。冒険者として生きられるよう手配してくれた恩もあるっすからね。
「彼との出会いが良き交流となったようだな。だがすまない、私からは何も話せないのだ」
「『話すことはない』じゃなくてっすか・・・・・・俺もカーツのことを言えねぇな。割と面倒な案件抱えてた訳ですか」
「だが手掛かりに繋ぐことは出来る。トマスを通じて、君がこれまで通りカーツ君に同行出来るよう調整させよう。彼に着いていけば、おそらく己の過去を知る機会が訪れよう」
「・・・・・・なるほど、貴族ってのも大変っすね」
俺の希望に添いつつ、ちゃっかりカーツに恩を売って自分の利を生む。これを自然に出来なきゃいけないってんなら、確かに坊ちゃんの方が向いてるわな。
まあカーツにとっても悪くない話っすね。超が付くお貴族さまの家で、知り合いが一人じゃ息も詰まるわな。俺としてもセレストゲイルの鍛錬ってヤツには興味がある。
「しっかし、カーツの側ってことは【浄血】絡みっすか?」
「・・・・・・無関係ではないが、おそらくセレストゲイルは関わってはいまい。それより君の報告で気になる人物が居てな。私の予想が正しければ、何かしら理由を付けて接触してくる筈だ」
「なるほど、俺の役目には番犬代わりも含まれてる訳ですか。了解っす・・・・・・そんじゃあ用も済んだんで、俺はこの辺で失礼します」
「ああ、後のことは追って知らせる。ご苦労だったな」
思ったより収穫はあったな。子爵さまがテメェの縄張りの自室ですら言及を避ける案件とはね・・・・・・面倒臭えな。
こういう時は身体を動かして気分転換しよう。あの騒動の所為で感覚にズレが出てるし、仕事の前に調整しときたかったとこだ。
「隣りで突っ立ってた俺ですらマナの過剰吸収でこのザマだ。直接干渉してたカーツや、間接的に繋がってたクインはこんなもんじゃないだろうが───コイツは何の冗談だろうな?」
伸びをしながら、服の上から尻の付け根に触れる。産まれてこの方一度も存在しなかった感触と触覚に、思わず舌打ちが漏れる。
「・・・・・・俺は間違いなく
見慣れた扉を開けて入ると、見慣れない連中が受付嬢と口論してやがる。この中途半端な時間に、飲んだくれ以外の冒険者が居るのは珍しいな。
「ようマリア、今日も相変わらず人気者だな。すまねぇがそっちの嬢ちゃんはウチの看板でしてね。こわーい兄さん方に絡まれる前に語気抑えた方が良いっすよ?」
「「「───っ!?」」」
なんでぇ、ちょいと睨んだだけで固まりやがって・・・・・・威勢が良いのは娘っ子にだけっすか。
取り敢えず邪魔だから一人肩を掴んで、待合の方へ引き摺っていく。流石に見捨てて逃げる奴はいねぇか。纏めて着いてくんなら手間が省けるっすわ。
「そんで、何を騒いでたんだお宅ら?」
「・・・・・・人を、探してるんだ。カーツっていう治癒士だよ。俺たちソイツの元パーティで───」
「───へぇ?依頼に連れ回しておいて、冒険者登録もさせてなかった奴のお仲間か。どの面下げてパーティとか抜かしてやがる」
あぁ、ハンスとかいう塵屑野郎の仲間か。アイツも確か見捨てられて北に行ったんだったか?つーことは、コイツらは簡単にケツ捲る日和見連中ってところか。
「しょ、しょうがないだろ!?俺たちは知らなかったんだ!ハンスが奴隷とか───」
「───うるせぇ。聞いてもねぇことペラペラ喋んじゃねぇよ。次イラつかせたら力尽くで黙らせるぞ」
聞けば聞くほど不愉快になんのはアイツど同類だな。類は友を呼ぶとはよく言ったもんだ。カーツがコイツらみてぇなのに染まらなくて本当に良かったっすわ。
正直これ以上時間の無駄は御免だ。とっとと目的だけ聞き出して叩き出そう。子爵さまかラングレーの爺さんにでもチクっときゃ、すぐにこの街から追い出されんだろ。
「・・・・・・く、口利きして欲しいんだよ。北に行ったハンスに」
「あん?何でテメェらが見捨てたヤツに、よりにもよって愛想尽かして出てった奴が口利きしなきゃなんねぇんだよ」
「だって、その・・・・・・まさかアイツが
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
改心?アレが??・・・・・・アレの何処が!?
「・・・・・・他人の空似じゃねぇか?俺が北で見た時は分かりやすくロクデナシだったんすけど」
「ホントだって!この目で見たんだよ!!俺たちも迷宮に行こうって話になって、途中のカイヤナイト領でバッタリ会ったんだ」
「あの時はまさか迷宮がぶっ潰れたなんて知らなくてさ・・・・・・確か6日前だった筈だ」
───6日か。カイヤナイトなら此処から3日ほどだし、時間的に矛盾はしないか。北部からでも、そのくらいには到着してても不思議じゃない。
だがそれは、南部へ一直線に来たらの話っすわ。ほぼ俺らと同時期に出発してるってことじゃねぇか。カーツが王都に行ってなきゃ最悪鉢合わせしたかもな。
野郎の尻追っかけてる暇があんなら、その時間を鍛錬にでも使えってんだまったく。迷宮から逃げ出す時にゃ、見える範囲に居なかった筈なんだがなぁ。
「いきなり『今まですまなかった』って俺たちに頭下げてよ。それだけじゃなく、突然街を襲ってきた魔物を魔法で一網打尽だ。俺もこの目で見なきゃ信じられなかったぜ」
「ますます俺が知ってるハンスと一致しないっすね。魔法を使ってるとこなんて見たことねぇぞ?」
「・・・・・・言われてみればそうだな。あの時は焦ってて気にしなかったけど、ハンス
闇属性魔法?なんか引っかかるな・・・・・・いや待て、魔物の襲撃って言ったかコイツ。
王都側に近い領土ほど治安維持には力を入れてる。治める実力がねぇって見做されりゃ領地の召し上げだってあり得るんすから。
定期的に間引きや討伐をしてるだろうに、街へ襲撃する程の数を見逃したってのか?
「・・・・・・なぁ、魔物の種類はどうだったんすか?あの辺は
「えっ、えぇっと・・・・・・確かにデカい蟷螂とイノシシは居たなぁ。いや、でもそれだけじゃなかったよな?俺の位置からは見えなかったけど」
「何か後ろの方にちょろちょろ動いてるのが居たなぁ。何だっけアレ───そうだ、アンデットが混じってた!」
・・・・・・一気にきな臭くなってきやがったなぁ。間引かれて居ない筈の魔物の群れに、それを颯爽と片付ける嫌われ者。まるで最初から用意されてたみてぇに都合が良いじゃねぇか。
"バシュム"が死んで置き土産が暴発した・・・・・・そう考えるのが一番平和だけどな。でも此処で面倒臭がると後で響いてきそうっすね。
「ホントはその時パーティを再結成しようって言いたかったんだけど・・・・・・流石に手ぶらじゃあ、なぁ?」
「そうそう、それで別れ際に『カーツにも会って謝りたい』って言ってたからさ。だから口利きを口実に引き合わせれば寄りを戻せるかなって・・・・・・へへっ」
ふざけやがって、結局甘い汁を吸うためにカーツを手土産にしようって魂胆じゃねぇか。此処に爺さんが居たらぶっ飛ばされてんぞ。
俺としても口より先に手が出そうだが、もう一つ聞いとかなきゃならねぇことがある。一番重要な話だから、もう少しだけ理性を振り絞ろうか。
「一つ聞いて良いっすか。何でカーツが
「はぁ?何でってそりゃあ・・・・・・あれ??」
「それもハンスから聞いたか?そりゃねぇよな。カーツが言う筈もねぇし、俺が知る限り口を滑らせた様子もねぇ。そもそも知ってたらお前らより先に此処へ出向いてんだろうが」
「・・・・・・・・・・・・言われてみれば、確かに?」
そうだ、俺がこの街に着いたのだって昨日の深夜だ。たった1日でコイツらが追い付けてんのがそもそもおかしいんだ。
北の迷宮から抜け出せなくなってたのはラリマー領だけじゃねぇ。南部に絞ったって他に幾らでもある。さっき話題に出たカイヤナイトだってラリマーほどじゃねえが、北で捕まった冒険者は居た筈だ。
他所の街を回ってたんならこんなに早くラリマーには着かねぇ。偶々最初にラリマーに来たって可能性もゼロじゃねぇが、コイツらの反応を見てる限り違うな。無意識のうちに誘導させられてんのか?
「・・・・・・お前らには教えといてやるが、カーツはしばらく戻ってこねぇ。諦めて別の方法探しな」
「あ、あぁ・・・・・・何か気味が悪いし、活動拠点に戻るよ。行こうぜ、みんな」
よしよし、大人しく出てってくれそうっすね・・・・・・それは兎も角、この件は俺にゃ荷が重過ぎる。お暇したばっかだけど、もう一回子爵さまのとこに行くとするか。
「仕組んだのは【
この調子だと今まで通りって訳にはいかねぇな。柄じゃねぇが、情報収集の真似事でもするか。ついでに本腰入れて鍛え直さねぇと。
仲間が王都で修行してんだ。指咥えて見てる場合じゃねぇや。