異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第四十九話 束の間の休息です

 

 

 

 

 

 

 

「───生きてますか、カーツさん・・・・・・」

「な、何とか・・・・・・いや待て本当に生きてるのか俺・・・・・・?」

 

 

 ベットの上でボロ雑巾になりながら、辛うじて口を動かす俺とクイン。いや、【浄血】の特訓舐めてたわ・・・・・・。

 

 

「『貴殿等は階梯(レベル)については及第点だから肉体強化が先だ』とか言ってたから嫌な予感はしてたんだよ・・・・・・」

「特訓というより拷問でしたね・・・・・・」

 

 

 最初に連れて行かれたのは地下のプールだった。もちろん温水なんて温情はなかった。

 

 

「いきなり叩きまれたと思えば、文句を言う暇もなく風で大時化再現しやがるしさ・・・・・・」

「しかも合間に雷を流す鬼畜───失礼、容赦のなさですもんね・・・・・・」

 

 

 クインのオブラートも破けつつあるな。まああれだけ酷い目に遭わされたらそうもなるよな。

 

 『【硬気丹術】がきちんと機能していれば痛いだけで済む』とか見下しながらやりたい放題やりやがって。いつかお礼参りしてやるからな・・・・・・絶対私情込みだろこの訓練メニュー。

 

 

「他にも、訓練場の真ん中で風に耐える修行とか・・・・・・どう考えても風じゃなくて暴風だろうが」

「カーツさんはまだ良いじゃないですか・・・・・・【不全魔法(マルファンクション)】の応用で、無効効果を肉体に纏う魔法を習得してからはマシになったんですから」

「いや、その後は魔力操作の鍛錬とかいって持久戦やらされてるから・・・・・・【浄血】の上位者と魔力量勝負とか勝ち目ねぇだろ」

 

 

 そもそも俺が正面から相手しても勝負にならないんだわ。風属性に耐性のあるクインで耐えられないんだから。

 

 しかも対策を編んだら編んだで、じゃあそれを維持し続けて耐えてみせろってふざけんなよ。改造手術で魔力もロスの少なさも桁違いなの分かってて言ってやがるし。

 

 オマケに一度でも吹き飛ばされたら、怪我しない代わりに三半規管をこれでもかってくらい虐められる。最初は吐き気と揺れで身体を起こすことも出来なかった。なのにすぐ起き上がらないと、勝手に再開して追加でボコボコにされるし。

 

 

「文句を言おうにも、『オニキスフレアも同じようなことが出来るぞ?その泣き言を聞いてくれれば良いな』だしな。本当のことだけどさぁ、もうちょっと他に言い方はねぇのかよ・・・・・・」

「・・・・・・アデルさまですから。あの御方の辞書に容赦の二文字はありません。それに明日はようやく休息日なんですし、愚痴はこの辺にしておきましょうよ」

 

 

 そうだな、地獄の特訓も今日で一段落だ。明日は此処にきて初めての休日になる。嫌なことよりやりたいことを考えよう。

 

 

「確か執事さんも着いてくるんだよな?必要なら荷物を送ってくれるらしいけど」

「何時ラリマーに戻れるか分かりませんし、お言葉に甘えましょうか。迷宮から碌に挨拶も出来ずのお別れでしたから」

 

 

 確かに俺もちょっと不義理かなと気になってたところだ。支部長やマリエッタさんには魔技やら魔力操作の指導やら世話になったし、副支部長も心配してるかもだし。

 

 よし、モチベーションが少し上向いてきたな。折角出掛けるのに疲労を残したら勿体ない。そうとなれば、鉛のように重い身体に鞭を打って起き上がらせよう。

 

 

「───【快復魔法(ヒーリング)】。性能が落ちても時間を掛ければ問題ないな。今日中にしっかり回復させないと」

「・・・・・・はぅ、軋む身体に沁みますね。いつもありがとうございます」

 

 

 この10日間で、魔力操作は嫌ってほど学ばされたからな。効率も多少は良くなってきた筈だ。

 

 しかし、流石に治癒士を名乗っててこれじゃ心許ないな。何とか性能を上げる方法を見つけるか、あるいは他の長所を増やすか考えないと───駄目だ、最近のスパルタ修行の所為でワーカーホリック気味だな。

 

 その辺は明後日に棚上げしよう。明日はしっかりリフレッシュするのに集中しないと・・・・・・。

 

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 ───そして迎えた翌日。俺たちは馬車に揺られながら、目的地である冒険装備の専門店に向かうことにした。

 

 最初はのんびり徒歩で向かおうかと思ったが、執事さんから王都の広さを聞いて好意に甘えることにした。他に回りたいところともかなり距離があるみたいだしな。

 

 

「専門店を回ったら、目抜き通りの市場に寄るんだよな。その後は職人街を通ってから中央にある総合書店に行くと」

「ええ、商業ギルドの中でも最精鋭が軒を連ねていますので、此処でしか買えないものも多いでしょうね。私もこうした観光は初めてなので楽しみです」

「あれ、そうなのか?」

「王都に常駐する【浄血】は当主とごく一部ですから。アデルさまも私も、普段は南部にある拠点に居るか各地を回っていますので」

 

 

 まあそりゃそうか。ことが起こる前にマナのガス抜きして、災害を未然に防ぐのが防人だもんな。異常が見つかってから動いたんじゃ遅いのか。

 

 しかしそうなると、次世代問題ってかなり深刻だよな。人海戦術が前提の任務なのにその実務担当者が補充されないってことだし。

 

 セレストゲイルの当主がこんないち平民を厚遇してるのも、オニキスフレアが形振り構わないのもその危機感の現れだよな。

 

 彼らの気持ちをちょっとだけ実感出来た気がする。振り回される方は溜まったもんじゃないが。

 

 

「しかしカーツさま、よろしかったのですか?貴方さまが王都に滞在するのは我らの都合ゆえ。旦那さまからも費用負担のご裁可をいただいておりますが・・・・・・」

「いえいえ、生活費は兎も角娯楽や遊興費まで世話になるのは申し訳ないんで・・・・・・お気持ちだけいただきますね」

 

 

 執事さんからの問いにそう返す。ちゃんと事前に御当主にも断ってる話だ。

 

 期待されてるのは嬉しいがアレもコレもと世話になるのは後が怖い。将来寄子的な立場になるとしても、節度というものは大事だろうし。あと使う機会がなかった所為で貯金も充分にあるから。

 

 

「───あれ、そういえば王都って冒険者ギルドなかったですよね?ギルドに預けてるお金で決済って出来ないんじゃ・・・・・・」

「ご安心をカーツさま。商業ギルドが提携しておりますので、王都でも買い物に不自由はございませんよ」

「よ、よかった・・・・・・大見得切っときながら金の無心する羽目にならなくて」

 

 

 何事も確認は大事だと身に沁みました。もう少し動く前に調べる癖を付けよう、ホントマジで。

 

 そう決意を改めていると馬車が停止した。どうやら到着したらしい。御者が扉を開けてくれた先には、まさに老舗といった風貌の店が佇んでいる。

 

 

「おお、中の装いも凄いな。何か急に気後れしてきたな」

「何をおっしゃいますか。貴方さまは御当主さまが認めたお客人なのですから。胸を張ってくださいませ」

「そうですよカーツさん。せっかく来たんですから買い物を楽しみましょうよ」

 

 

 うぅ、小市民でごめんな二人とも。前世でも高級店なんて縁がなかったからなぁ。滅茶苦茶手入れの行き届いたシックな装いに圧倒されてしまった。

 

 まあそんな反応も最初だけで、商品を見て回ってるとすぐに夢中になったんだけどな。我ながら現金なことだよ。

 

 

「王都からはそう簡単に補充も出来ないし、長持ちする道具の方が良いよな?」

「そうですね、もしくは消耗品でも年単位で使えるものが良いかと。開封しても使用期限の長いもの・・・・・・こちらなどはいかがでしょう?」

「何か分からないことがございましたら私にお申し付けくださいませ。店員にお繋ぎしますので」

 

 なんて和気藹々としながら土産物を買い込んでいく。百戦錬磨の店員さんと渡り合える気がしないし、執事さんの気遣いは本当に助かった。

 

 ちょっと買い過ぎで予算オーバーしたけど、やっぱり世話になった人への買い物は良いもんだ。自分用とはまた違った充足感を得られる気がする。

 

 

「───本日はお買い上げありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

「ありがとうございました・・・・・・あ、そうだ。これから職人街を回る予定なんですけど、おすすめのお店はありますか?治癒士関連で良い店探してて」

「ああ、なるほど・・・・・・それでしたら、『オークス商会』がよろしいかと。教会とも業務提携しているので、実用性においてとても信頼のある名店です」

 

 

 へぇ、業務提携か・・・・・・技術開発とか試供品の提供とかしてんのかな?生のデータを揃えてるなら製品の質も良さそうだな。次は其処に寄ってみるか。

 

 

 

 

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