───専門店を出た俺たちは、その足で目抜き通りの市場へ向かった。流石に馬車で市場を回るのはアレなので、一旦徒歩に切り替えだ。
「へぇ凄い活気だな。見たことない物でいっぱいだ」
「ええ、それぞれの地方から特産品が持ち込まれます。食べ物以外ですと工芸品や楽器等がございますね」
「あれ、そういうのって御用商人が直接売りにきそうなもんですけど」
「おっしゃる通りです。なので此処にある品々は、貴族に仕える使用人向けになりますね」
ああなるほど。貴族当主を相手にする商人じゃグレードが違い過ぎるもんな。貴族さまより人口も多いだろうし、需要は充分ある訳か。
休日の余暇でひやかしに来てる人、今日の献立に必要ない食材を買に来た料理人、それからお忍びなのか目立たない服を着た貴族令息も居る。後ろに従者っぽい人を連れた平民なんてそう居ないよな。
「それじゃあ遊びの醍醐味、食べ歩きといきますか。クインはどれが食べたい?」
「そうですね・・・・・・あの屋台が気になりますかね」
どれどれ、見た感じはケバブっぽい屋台だな。自動で回転する魔導具に吊られた肉をゴツい包丁でスライスしていってる。
意外と肉食なんだよなクインって。儚げな美貌だから、いつもギャップが凄い。まああれだけ凄い魔法を使うんだからカロリー消費も大変なんだろう。全然体型も変わらないし。
「すみません、二ついただけますか?」
「それでは折角ですから、私もご相反に預かりましょう。全部で三ついただきましょう」
「はいよっ!少し待っててくだせぇ!!」
手慣れた感じでサッとナンみたいなパンに肉を削ぎ落としていく。最後にニンニクみたいに、何とも食欲をそそる匂いのするソースを加えて渡された。
「───んんっ!やっぱり出来立ては美味いな」
「はふはふ・・・・・・ふぅ。はい、刺激的な香辛料が効いていてとても美味しいです」
「ええ、偶にはこういった食事も良いものですね」
あっという間に平らげ、その後も串焼きや焼き芋、デザートに氷菓子と次々買い食いしていく。食べ盛りの食欲はこんなもんじゃ止まらないんだ。執事さんは途中でリタイアしたけど。
「あー、食った食った。ラリマー領は子爵がかなり食に力を入れてたけど、王都でも庶民向けの飯が美味いのは意外だったな」
「はい、私もこうしてゆっくり食べるのは初めてです。それに気心の知れた仲間といただくとより美味しく感じますね」
「いやはや、若いお二人に釣られてつい食べ過ぎてしまいました。なかなか得難い時間でした」
さて、腹も満ちたことだし職人街へ行こうか。気に入ったものや、気になった奴は次来た時に試してみよう。多分まだまだあの修行からは解放されないだろうし。
腹ごなしも兼ねて歩いていると、前から新聞を売り歩く子どもが見えた。売り文句から察するに、迷宮騒動や北部に関する内容らしい。折角だし一部買うか。
「ふむふむ・・・・・・やっぱり表向きには殆ど公表されてないよな。【迷宮氾濫】があった事実すら何処にも載ってない」
「冒険者に紛れて国家不穏分子が侵入し、偶々それを追っていた【浄血】の防人が不可抗力で迷宮を踏破した・・・・・・そういう筋書きに収まったようですね」
手柄を横取りされた、なんて今は思わない。依頼を受けた当初なら兎も角、今は変なのに目を付けられてるからな。目立つ要素を持ってってくれるなら寧ろありがたい。
他のページもつらつら読んでみたが、特に目を引く内容は無かった。真相はさて置き、事態は順調に収束してるみたいだ。この分なら支部長も直にラリマーへ帰れるだろう。
───そんな感じで呑気に読み流してたけど、最後のページで目が飛び出そうになった。
「───『北に新星現る!?ハンス・リヴェル氏、アンデシン子爵家令嬢を救い出し最年少二等級冒険者へ!!』・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
クインも呆けたような顔で新聞を覗き込んでる。魔導具で撮影された顔は確かに俺の知るハンスだった。
素寒貧だった頃とは比べ物にならない充実した装備。しかもあの目立ちたがりで見栄え重視の馬鹿とは思えない実戦向きのソレだ。
「・・・・・・迷宮で頭打って記憶喪失にでもなったか?」
「カーツさん、ふざけてる場合じゃありませんよ・・・・・・気持ちは分かりますけど」
「いや5割くらい本気だったんだけど。まあそれは置いといて・・・・・・露骨過ぎるよな?」
アイツとは嫌々とはいえ長い付き合いだ。俺の記憶が確かなら、あの馬鹿が闇属性魔法を使ったことは一度もない。
何より違和感を感じるのはコイツの態度だ。北で見た時のアイツは自己顕示欲に飢えてた。そもそも自分を持ち上げられるのが大好きだから、インタビューを受けてて拒絶を感じさせる笑みを浮かべるとは思えない。
「偽物、でしょうか?それにしては手が込みすぎてますが・・・・・・」
「ああ、アイツの知名度なんて地元や冒険者やってた街で鳴らした程度だ。態々騙る価値もない」
「そうなると、カーツさんの知り合いだからでしょうか?ほら、『昔酷いことをした治癒士に償いたい』と書かれてます」
それにしても迂遠過ぎるし今更過ぎる。ラリマー支部のいち冒険者の頃なら、二等級と誼を得たい商人やギルド関係者が仲介を名乗り出たかもしれない。
だけどセレストゲイルがこんな怪しい奴との面会を許すとは思えない。かといってオニキスフレアなら噂的にこんな手は使わないだろう。
「誰が裏で手を引いてるかは知らないが・・・・・・一応アデルには相談しとくか。もしかしたら既に手を打ってるかもしれねぇけど」
「そうですね・・・・・・億が一ですが本当に改心した可能性もありますから。此方から何かする必要も意義もありませんし、頭の片隅に置いておくくらいで充分かと」
ひっでぇやクイン、まあ残当だけどさ。確かに考えても疲れるだけだし、必要になったら考えることにしよう。
「───では話も一段落したことですので、オークス商会へ向かいましょうか」
「あ、お待たせしてすんません執事さん」
「いえいえ、滅相もありません。オークス商会は目抜き通りの近くですので、そのまま徒歩で向かいましょう」
そのまま案内されること数分、やってきたのはこれまた見事な装いの建物。一見さんお断りの厳しい入り口に、ガードマンらしき人も立ってる。
また入りたくなくなってきたが、俺たちを見た瞬間ガードマンがさっと道を譲ってきた。多分クイン達の身なりや俺の来てる蒼衣でアタリを付けたんだろう。
「一目見ただけで即応するなんて、教育が行き届いてるなぁ」
「王都の名店は伊達じゃありませんね。きっと品揃えも期待以上でしょう」
「───いらっしゃいませ。おお、これはこれは・・・・・・ようこそおいでくださりました」
入り口で待ち構えていたのは恰幅の良い男性だった。一部の隙もない立ち振る舞いはまるで高級ホテルのコンシェルジュだ。
「さあ此方へどうぞ。本日は何をお求めでしょうか?」
「カーツさま───我らのお客人に相応しい杖を探しに参りました」
「かしこまりました。それでは上の階へご案内致します」
そのまま昇降機に乗せられ、着いた先はまるでバーのような一室だった。けどよく見てみると、戸棚に収められてるのは酒じゃなく杖だ。
長杖から掌サイズまで、多種多様な杖が所狭しと並んでる。店っていうかまるで博物館だ。
「───さて、それでは注文を頂戴致します。足音、歩き方からカーツさまは魔技を併用される治癒士とお見受けしました。動き易さや武器としての有用性を持ち合わせた杖をご所望でしょうか?」
「・・・・・・ちょっと歩いただけで分かるもんなんですか?」
「それが我々の仕事ですので」
プロってすげぇ・・・・・・流石教会御用達の名店だわ。それはそうと俺の新しい杖について、か。
杖剣か長杖かで言えば後者だよな。やっぱりインファイトって性に合わないし。魔力操作には多少自信があるし、魔法の発動速度にバフが乗る奴とかあったら助かるな。
「なるほど、発動すれば勝負を決められる魔法をお持ちということですね。それでしたら───此方などいかがでしょう?」
「これは・・・・・・」
「西部地方にある迷宮の深層から発掘された槍杖です。魔力を流せばこの通り、先端から穂先のように魔力が放出されます。何より、一つだけでございますが魔法を"装填"しておくことが可能です」
ブゥン、と音を立てて光刃が飛び出す。槍っていうか薙刀みたいだな。実体のある刃だと手入れやら刃毀れやら管理が重要だけど、これならその心配は要らないな。
何より魔法を事前にストック出来るのはありがたい。【
「えーっと、とても魅力的ですがその・・・・・・お値段は?」
「ご明察の通り、一点物なので価格も相応のものとなります。金額ですとこのくらいかと」
ひぇっ、見たことない数の0が付いてやがる。こんなの買える訳・・・・・・お?
「お支払いは此方で宜しいですかな?」
「畏まりました。それでは翌月銀行より引落させていただきます」
「では貴店が推奨する追加項目も全てお願い致します」
「ありがとうございます。それではカーツさま専用に調整した魔法石と杖の同調、並びに追加加工をさせていただきます」
「・・・・・・え?」
話に着いていけず執事さんをジッと見つめるも、俺の視線なんて爽やかに黙殺して真っ黒なカードで会計を済ませてしまった。あの・・・・・・出世払いって可能ですかね?
え、先行投資?勘弁してください、せめて立て替えってことで・・・・・・って待って奥に連れてかないで!?まだ話は終わって───。