「それではカーツさま、利き腕を前へ。此方の魔導具にて貴方の【魔力波形】をお調べ致します」
「・・・・・・はい」
どうしてこうなった・・・・・・俺はただ、貯金を奮発してちょっと背伸びしたランクの杖を買いたかっただけなのに・・・・・・!?
杖ってのは剣や鎧と違って、オーダーメイドは超が付く高嶺の花だ。もちろん武具も一からフルオーダーすると滅茶苦茶高いが、やっぱり杖とは比べ物にならない。
その原因の一つがこの魔導具だ。
「やっぱりコレって教会からの提供ですか?」
「ええ、おそらく教会以外でこの魔導具を保有している組織は、ヴィブギヨル王国でも両手で足りる数でしょう」
そう、今俺の魔力を一生懸命測ってるこの魔導具は教会のお偉いさんしか作れない貴重品だそうだ。オークス商会さんだって、相手がセレストゲイルでなければこんな無茶振りには応じないだろうな。上級貴族から一等級冒険者まで予約でいっぱいだろうし。
だから魔法杖ってのは普通使い手の方が合わせるもんだ。まあ【浄血】の皆さんは調整された肉体そのものが杖みたいなもんだから、そもそも道具に頼る必要がないみたいだけど。
「指と掌の大きさは・・・・・・なるほど。これなら柄の太さはあまり変える必要がありませんね。握りの部分のみ誂えましょう」
「───波形の一部出ました。芯材に適した最も相性の良い鉱石を手配致します」
「【調律師】の予定を押さえてください。最高級の魔法石を扱う仕事と言えば喜んでやってくる筈です」
沢山の職人さん達が一糸乱れぬ連携で作業を進めていく。軽く10人以上抱き込んだ事実に、改めて自分の注文が常識外れなんだと認識させられる。
「支配人、注文主は白兵戦もされるのですよね?魔力刃だけでは、懐に入られた時の備えがありません。仕込みを加えますか?」
「勿論手配してください、漏れのないように。セレストゲイルさまは我等の技術の粋をお求めなのですから」
「いや、確かに追加項目は全部って言ってたけど───」
「───全部ですと!?これはいけない、開発部門にも声を掛けねば!!」
「・・・・・・やっべ、墓穴掘った」
杖単体であの値段だってのに、高級店のオプションフルコースとか一体幾らになるんだ・・・・・・?内心で震えてると、クイン達も遅れて作業部屋に入ってきた。
「すみませんカーツさん、突然連れて行かれたので反応が遅れました。ああ、もう仕事が始まったんですね・・・・・・」
「・・・・・・俺の生涯年収で返し切れんのかな、これ」
「此方は御当主さまからの先行投資でございます。ですので、そう重く受け止める必要はありませんよ」
「そうは言っても畏れ多いですよ」
まあ俺にこの話を受けない自由なんてない。現状だと【浄血】と正面切っての戦闘じゃ勝負にならない。身分不相応な杖で下駄でも履かないと戦いの土俵にすら上がれないだろう。
使えるものは使え、向こうも慈善でやってる訳じゃない。それは分かってるんだが・・・・・・小市民な俺としては出来るだけ重たいモノは背負いたくない。
「───どーも、お遣いに呼ばれて参上したよー」
「よく来てくれましたモーガン。この方がご依頼人のカーツさまです」
「はいはいよろしく、オークス商会のお抱え【調律師】のモーガン・ファントムクォーツって言います」
紹介されたのは砕けた口調をした白髪の青年。俺よりちょっと上くらいか?
「ファントムクォーツ・・・・・・王都貴族のファントムクォーツ伯爵家の方ですか?」
「おやご名答・・・・・・といっても四男坊なんだけどね。ただのいち職人として扱ってくださいな」
「わかった、よろしく頼む」
そう言ってから差し出された右手に握手で応じる。へぇ、中央貴族の出だから平民や地方民に偏見持ってるかと思ったけど。やっぱり良いとこの商会が抱える人材は違うんだな。
「───おっと、これは驚いた。随分と面白い適正を持ってるんだね」
「手を握っただけで分かるのか?」
「これでも色んな魔法使いを見てるからね。魔力の波形や適正って多種多様なんだ。君は・・・・・・いや、詮索は御法度だった」
上機嫌な様子で、杖と石を手に取るモーガン。彼が魔力を込めた途端、俺たちでもはっきり分かるくらい魔力の形状が浮かび上がった。
まるで年輪みたいに、それぞれ別の波形を取っていたものが徐々に同じ形に変遷していく。それが重なった瞬間、まるで倍の魔力を流したみたいに輝きが増した。
「───分かるかな?魔力波形って指紋みたいに一つ一つ違うんだよ。杖や魔導具も、魔力を流すと個々が持つ波形に変化していく。それらの"ズレ"が魔力の消失や損耗を生む」
「だけどもしその無駄がなければ、流した魔力が100%適応される・・・・・・いや、それだけじゃこの増幅された魔力は説明出来ない」
「その通り!こうして一切のズレなく重なった魔力波形は『共振』を起こす。その結果まるで増幅器のように機能するんだ。まあ量が増えた訳じゃないから、長時間運用には向かないけどね」
簡単に言ってのけるが、発掘品でしかお目に掛かれない杖本体に天然の魔法石相手だぞ?しかも此処からフレームに仕込みまで絡んでくる。
支配人と呼ばれたおじさんに視線を移すと、満足気に頷きながらモーガンの肩を叩いた。
「彼はこの通り年若いですが、オークス商会自慢の【調律師】でございます。今ご覧いただいように、腕もとびっきりですが何より仕事が早い。どうやら気分も乗ってきたようですので、最速なら10日もあれば完成するでしょう」
「と、10日・・・・・・『共振』まで調整した杖は、熟練の職人を束ねても一年は掛かると聞きましたが」
「ええ、ですのでごく一部のお客さまにのみこの特急仕事を紹介しております。勿論他言無用ですが・・・・・・さもなければ国中から引抜き合戦が起きてしまいますから」
そりゃあ一年掛かりの仕事を10日でやっちまうんだから納得だ。しかも馬鹿みたいな金額が動く仕事とくれば尚更だ。
「それじゃあ工房に籠らせてもらうよ。完成楽しみにしててくれ」
「ああ、どうやら想像の何倍も凄いことになりそうだかはな。期待して待つさ」
「おっと・・・・・・つい自分で目標を引き上げちゃったな。まあ僕も良い刺激になったし、腕を振るってあげようじゃないか」
それだけ言い残して部屋から出て行った。職人ってもっとムッツリしてるイメージあったけど、かなり親しみやすい人だったな。
・・・・・・さて、と。用も済んだことだしそろそろお暇しよう。さっきから聞こえてくる単語が精神衛生的に非常によろしくない。最高級って言葉を安売りするんじゃないよ、いやマジで。
「・・・・・・しかし意外でしたな。モーガンが客人に興味を持つのはとても珍しい。それにあのように自身の技術を披露することもまずありません」
「へぇ、確かにそういうのって職人の財産ですもんね」
「【調律師】の名に恥じない、素晴らしい魔力操作技術でした。正直参考にしたいほどです」
うへぇ、クインにそこまで言わせるほどか。俺にも見ただけで魔力を読み取れる感受性があれば・・・・・・いや、待てよ。
「それでは来週に仮調整を行いたく存じます。ご都合の方はいかがでしょうか?」
「同じ時間の頃に我々が伺いましょう。アデルさまにもお伝えしておきます。それではお二方、我々も失礼することにしましょう」
「はい、わかりました。もうこんな時間ですから、今日はそろそろお屋敷に戻りしょう」
おっと、思った以上に時間が押してたか。まあ書店は逃げたりしないし、次の休みに行くとしよう。
リフレッシュも充分できたし、ちょっと試したいことも思い付いた。アデルの野郎に仕掛けるのがちょっとだけ楽しみだ・・・・・・そう思わないと修行を思い出して膝が笑いそうだ。