異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第五十二話 知らないなら尋ねてみよう

 

 

 

 

 

 ───さて、楽しい休日は終わった。なら次に待っているのが何かといえば、そう地獄の特訓の再開である。

 

 だが今日の俺たちは一味違う。あの後屋敷に戻ってから寝るまでの間、クインと二人で相談し考案した策を披露する時だ!

 

 

「・・・・・・ほう?半端な休息で却って気落ちするかと思ったが───悪くない顔付きだ」

「その台詞を言うのはまだ早いんじゃないか?」

「それもそうだ、なら早速試してやる」

 

 

 うおっ!?言うが早いか、いきなり突風吹かせてきやがった。だけどこの奇襲ももう見慣れた動きだ。示し合わせるまでもなくクインが盾になろうと躍り出る。

 

 単純な魔法使いとしてのスペックだと、アデルの方が遥かに上だ。今までのクインなら力尽くで捩じ伏せられてたけど、今はほんの少しだが拮抗してのけた。

 

 

「少しは頭を使えるようになったじゃないか。有象無象であれば魔力のゴリ押しでどうとでもなる・・・・・・だが"風"の本質は変幻自在だ」

「───はい、自分がどれだけ頭が硬いのか思い知らされました。カーツさんが魔法を編み出す姿を何度も見ていたのに、情けないですよ」

 

 

 それはちょっと自虐が過ぎるけど、言わんとすることは分かる。仲間の贔屓目かもだがクインは魔力操作ならアデルにも負けないくらい秀でてると思う。

 

 だけど運用方法は束ねて鈍器にするか、風刃にして飛ばすか。良く言えば堅実だが、悪く言えば搦手に欠ける。まあ普通に防人やってる分には問題なかっただろうし、クインに落ち度があるとは思えない。

 

 しかしそれも【献言する蛇(サマエル)】だのオニキスフレアだのの所為で、今のままではいられなくなった。そして連日連夜ボッコボコにされたことで、クインの才能が全力で躍動し始めた。

 

 まず吸収力が凄い。目の前に居るアデルから、使えそうな技術をガンガン盗んでる。多分アデルもわざと誘導してるんだろうけど。じゃなきゃボロボロにされるだけで成長したりはしない。

 

 

「先日のオークス商会は実に参考になりました。ただ防ごうとするのではなく、相手の損耗が激しくなるよう工夫する。当たり前の話ですよね」

 

 

 ()()()()()魔力波形の『共振』から着想を得たんだろうな。噛み合わせが悪ければ悪いほどロスが大きくなる。ならそれを風で再現すればどうなるかって。

 

 叩き付けられる風の暴力を受け流し、ぶつけ合わせ相殺する。相手の嫌がる流れを作って決して力勝負に付き合わない。そんなクインに、ほんの少しだけアデルが口角を上げた。

 

 

「───なるほど。まだまだ硬さも荒もが目立つが、先日までの貴様よりずっとマシだ。だがそれでどうする?潰されるまでの猶予を多少伸ばした程度で及第点はやれんぞ」

「急かすなって、クインにだけカッコ付けさせたりしねぇよ─── 【転写魔法(クリビング)】」

「・・・・・・?折角稼いだ時間で何の真似だ」

 

 

 まあ妨害でも攻撃でもなく、突然『万全の状態を確認する魔法』なんか使ったらそんな反応になるよな。将来的には前準備なしで使いたいけど、今はこれでいい。

 

 魔力波形を合わせれば魔力のロスが減って魔法の性能が上がる。杖で劇的な効果が出せるんなら、【硬気丹術】や普段の魔法運用にも応用出来るんじゃないか?この魔法が出来たのはそんな思い付きからだ。

 

 自身の魔力波形と魔法を行使した際のズレを"異常"に見立て、波形に合わせた"正常な形"へ無理矢理矯正する魔法。万全に機能するのは5秒が精々だが、瞬間的に魔法の威力を増大させられる。

 

 

「─── 【調律魔法(アジャスト)】。やっちまえクイン!!」

「はい!───【大気よ、我に従え】!!」

「・・・・・・【大気よ、我に───っ!?」

 

 

 確か【真言】って言ったか。でも詠唱したからって大業を撃つとは限らないよな?迎撃の為にほんの少し甘くなった魔力制御の隙に、限界まで厚みを減らした風刃が捩じ込まれた。

 

 咄嗟に展開したらしい【硬気丹術】で阻まれたが、それでも数滴の鮮血が宙を舞う。擦り傷でも、此処に来て漸くアデルに一矢報いられた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・驚愕だ。まさか10日と経たず手傷を負うとはな」

「へっ、どんなもんだ!下に見てた奴に一杯食わされた気分はよぉ」

「ふっ、そうだな。此処まで意地を通されては撤回せざるを得んか。及第点だ───クイン」

「お、おう・・・・・・すす、素直じゃねえか・・・・・・」

 

 

 自分で言っといてアレだが、本当に改めやがった・・・・・・色んな要素込みの言葉らしいし、てっきり意固地になられるかと思ったけど。やっぱり思ったことをすぐ口に出すと駄目だな。顔から火が出そう。

 

 クインの方は───うえっ!?泣いてる!!慌ててクインのポケットからハンカチを取り出してみたが、次から次へと雫が溢れて止まらない。

 

 

「午後の訓練は無しだ。及第点を出せたのなら予定を繰り上げる。明日に備えて休むがいい」

「・・・・・・だそうだ。取り敢えず、部屋に戻ろう」

 

 

 言われた通りクインを連れて自室に戻る。途中すれ違った人にちょっと驚かれたけど、すぐ何も見なかったようにスルーしてくれて助かった。

 

 ただ静かに泣いて、憤ったり喜んだりといった反応はない。感情に頭が追い付いていないんだろうか・・・・・・人生の経験値が足りなさ過ぎてどう慰めたら良いか全然分からん!?

 

 

「・・・・・・落ち着けそうか?」

「ぐすっ───す、すみませんカーツさん」

「いやいや、急に掌返しされたら感情が追いつかないよな。どうする?側に居た方が良いか、それとも───」

「───はい、申し訳ありませんが少しの間一人にしてください」

 

 

 クインの頼みを了承し部屋を出る。上手いフォローの仕方が分からない我が身が憎い・・・・・・。

 

 今の俺はまだまだセレストゲイルのことを知らない。だからクインに寄り添ってやることが出来ずにいる。下手な憶測や上辺の言葉じゃ、却って傷付けるだけだ。

 

 

「───なら、知ってる人に聞けば良いか。そうと決まれば・・・・・・あ、居た居た。すみませーん」

「おや、如何なさいましたカーツさま?」

 

 

 ちょうどお目当てだった老執事さんがやってきた。初日に色々教えてくれたのもこの人だし、年の功も含めてこの家のことは熟知してる筈だ。

 

 後で上役の人達にも聞いてみるつもりだけど、まずはこの人に話を聞いてみよう。クインのことだけじゃなく、これから沢山世話になるんだ。与えられるだけじゃなく、自分から動いて知っていきたいと思う。

 

 

「ちょっと踏み込んだことをお伺いしたいんですけど、お時間ってもらえますか?」

「少々お待ちください・・・・・・そうですね。これから地下での作業がございますので、ながら作業でよろしければ今すぐにでも」

 

 

 おっと・・・・・・地下っていうと多分、【浄血】の身体を調整するあの魔導具関連だよな。最初のインパクトがデカくて気後れするけど、こっそり話を聞くには丁度いい場所か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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