異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第五十三話 "持たざる"という重さ

 

 

 

 

 

 

「───なるほど。クイン殿がそのように取り乱されるのは珍しい」

「ええ、それに喜びとか憤りとは違うみたいです。正直クインの感情をどう汲み取ってやれば良いか分からなくて・・・・・・」

 

 

 再び陰鬱な空気の地下にやって来た俺は、執事さんに今日のことを説明した。魔導具に繋がれてる子に聞かせるのはちょっと・・・・・・と思っていたが、どうやら彼らは今眠ってるらしい。

 

 しっかり目が開いてるから起きてるとばかり思ってたけど、視覚の調整の為に閉じてないだけなんだとか。いや、怖いよ・・・・・・。

 

 

「推測にはなりますが、抑圧されてきた自己認識が"普通"の扱いをされたことで悲鳴を上げているものかと」

「・・・・・・というと?」

「以前の振り返りになりますが、我々"欠陥"を持った者は性別の特徴となるものを持ち合わせておりません。遺伝子的にもそれらが薄く、自己認識が曖昧なままでいることが殆どになります」

 

 

 それは初めて執事さんに会った時聞いたな。それに思い当たるところはある。

 

 迫力美人であんまり意識しないけど、クインや使用人さんはかなり子ども顔というか・・・・・・『どっちの特徴もある』んじゃなくて『どっちの特徴もなさ過ぎる』からどっちにも見えるって感じ。

 

 

「・・・・・・ですが、"薄い"と"皆無"は表明上似ていてもまるで異なります。無意識であっても根底には性自認が隠れているもの。しかしそれを認識することは誰にとっても不幸でしかありません」

「───もしかして、アデルがクインを"出来損ない"呼ばわりしてるのって・・・・・・」

「ご明察です。そもそも自分達にそんな機能は存在しない、性機能がある人間と自分達は別の生き物だと擦り込む暗示の鍵なのです」

 

 

 言われてみれば、アデルが出来損ないって呼ぶ時は周りに人が多い時だったな。それ以外だと関心すら寄せないから、今まで気付かなかったけど。

 

 

「セレストゲイルが世間と距離を取っているのもそれが要因の一つです。最低限の関わりであっても、カーツさまとクイン殿のように良き出会いがある。それが日常となれば、悲劇に繋がることもあるのですよ」

「悲劇・・・・・・」

「───昔の話になります。とある【浄血】の防人が一等級冒険者と恋仲になり・・・・・・自殺によって幕を閉じました。我が身を呪って逝ったと伝え聞いております。冒険者の方も後を追ったとのことですが・・・・・・」

 

 

 執事さんは口じゃそう言ってるが、自分で口にした内容を信じてなさそうだ。そりゃ【浄血】の肉体に関する秘密を知ったかもしれない相手だ。オニキスフレアあたりに口封じされても不思議じゃない。噂通りの連中なら疑われもするだろう。

 

 しかし元一等級で防人と親しくて、しかも公的には死んでる奴・・・・・・どっかで聞いたような・・・・・・駄目だ、全然思い出せん。

 

 

「───話は分かりました。ですがそれなら、アデルがクインの扱いを急に変えた理由は何でしょう?」

「それはクイン殿のお立場が変わられたからですよ。カーツさまの補佐を務める以上、彼はただの防人では居られません」

「・・・・・・それで急に掌返しか。振り回される方は溜まったもんじゃないですね」

「お気持ちはご尤も、しかし後回しにして良い話でもございません。クイン殿を秘書業務に秀でた同胞と交代させるのは本意ではありますまい?」

 

 

 それはそうだ、絶対納得しない。というか心配になって仕事どころじゃない。『好きにしろ』って言質取ったんだ、安心して任せられる相手じゃない限りクインを手放す気は一切ない。

 

 

「───そうである以上、クイン殿はこれまでのように暗示で誤魔化して過ごす訳には参りません。手荒な対応にはなりますが、何卒ご理解いただきたい」

「・・・・・・クインにとって必要な通過儀礼だってのは、まあ理解しました」

 

 

 法衣貴族の真似事をするってんなら、気ままな冒険者暮らしとはいかないだろう。色んな人と関わるだろうし、その中にはクインが惹かれる相手も居るかもしれない。

 

 だけどそうなった時、自分の身体を呪うことになるかもしれない。だからその前に暗示に頼らなくても大丈なように訓練する必要はあるだろう。

 

 ・・・・・・もっと段階踏めよとは思うけどな!この人に言っても仕方ないけどさぁ!!

 

 

「取り敢えず、俺に出来る範囲でクインの手助けはするつもりです。それはそれとして・・・・・・貴方達の言う"欠陥"を何とかする研究とかはされてないんですか?それこそオニキスフレアとかがやってそうですけど」

「・・・・・・おそらく水面下では研究しているでしょうね。そして何一つ情報が上がってこないということは、そういうことなのでしょう。他でもない、【治癒士】である貴方なら理由はお分かりの筈」

 

 

 まあ、期待はしてなかったけどな。怪我や病気による欠損とかならともかく、元々ないものを生やすとなると・・・・・・身体の何処かに障害が出てるとかならそれがフックになったかもだけど。

 

 人間社会で考えれば障害と見立てられなくもない。だが一から器官を創造、しかも機能的にも問題ない出来を求められる訳だ。難易度が高いってレベルじゃない。

 

 

「───結局今出来ることは、クインが自分で上手く折り合いをつけてくれるのを祈るだけか。不甲斐ないな・・・・・・」

「私からも旦那様に相談してみましょう。カーツさまがこうしてセレストゲイルの下に居られるのもクインさまの存在が非常に大きい。より細やかな対応をお願い出来ると思います」

「よろしくお願いします。それじゃあこの子達に【譲渡魔法(ディバイド)】を使ってから戻ります」

 

 

 役立たずの自分を慰める代替行為でしかないけど、相談に乗ってくれた執事さんに出来ることはこれくらしか思い付かなかった。

 

 ───ふと、【献言する蛇(サマエル)】の存在が頭をよぎる。そして同時に、連中に縋る人はこんな気持ちかとも思った。

 

 どうしようもない現実を前に、信じられないような技術を持った組織を知れば・・・・・・たとえ相手がテロリストであっても縋りたくもなるか。

 

 利権目当ての屑が多かったけど、連中の根が深い理由が分かった気がした。俺は絶対近付くつもりはないが。

 

 

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