異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第五十五話 特注品は心躍るもの

 

 

 

 

 

 

「───いらっしゃいませカーツさま。よくぞお越しくださりました」

「お世話になります。ちょっと早かったですかね?」

「いえいえ滅相もない。既に準備は整っております。どうぞ此方へ」

 

 

 オークス商会の支配人に促され、建物の奥へと案内される。前回連行された作業場ではなく、通されたのは店の一角だった。『本日貸切』って看板が見えたのは気のせいだと思いたい。

 

 室内は所狭しと杖や魔導具が並んでたが、武器庫といったむさ苦しい印象は皆無だ。寧ろ博物館や美術館を思わせる気品すら感じる。

 

 その中央に堂々と用意されていたのが、先日お買い上げされた長杖だ。見た目も儀礼用で通じるレベルだが、中身がまるで別物だ。その辺鈍感な俺でも一目で分かったほどだ。

 

 

「よーこそカーツさん、どうかな僕の仕事は?」

「モーガン!ああ、とんでもない出来だよ」

「気に入ってもらえたなら何よりだ。ほら、早速魔力を流してごらんよ」

 

 

 部屋で待ってた【調律師】のモーガンが出迎えてくれた。挨拶もそこそこに、子どもが玩具を自慢するような笑顔で試運転を勧められる。

 

 正直気後れが凄いけど良い加減慣れた方が良いな。これから嫌ってほど使い倒すんだし。遠慮なく魔力を流してみると、今までとの違いが如実に伝わってきた。

 

 

「おぉ・・・・・・貴族や一流の冒険者が大枚叩く訳だ。魔力の通り方から流れる速さまで、まるで別物だ」

「そーでしょー?自然に波長が合う魔導具に出会うなんて、天文学的な数字の確率だからね。仮に万一合ってたとしても、いつまでそれが続くのかって話だし」

 

 

 そう、それが【調律師】や魔力波形を調べる魔導具に高値が付く理由だ。最初に使われた魔導具が書き写したのは昨日今日の波形だけじゃない。

 

 俺のバイオリズムによる振れ幅を特定し、その時々に合わせてドンピシャの波形を杖に出力させる。俺の魔力波形は間違いなく前回訪れた時と違ってるけど、それでも杖は完璧に応えてくれてる。

 

 

「・・・・・・駄目だな、波形にズレが出てる。再調整が必要だね」

「えっ、そうなのか?『共振』って現象はちゃんと起きてると思うけど」

「甘い甘い、髪の毛一本もズレが出ちゃってるじゃないか。こんなものお出ししたら恥だよ」

 

 

 ・・・・・・それ、1ミリより薄いよな?そのレベルでこんな不満顔になるもんなのか??

 

 支配人の方に向き直ってみたが、首を傾げて呆れ顔を隠さない。良かった、どうやらモーガンの発言は【調律師】界隈の常識とかではないらしい。

 

 

「どんな状況でも『共振』を起こすためには、ほんの僅かな誤差も駄目だよ。んー、いつもは仮調整の段階でも完璧なんだけどな。やっぱり君は興味深いよ」

「え、いや・・・・・・オレハ何ノ変哲モナイ治癒士デスヨ?」

「うっそだー。何処にでも居る治癒士が【浄血】サマに貢がれる訳ないじゃない」

 

 

 うん、紛れもない正論ですね。ガッデム。

 

 

「───モーガン、お客様への詮索は御法度ですよ?」

「もー、分かってますって支配人!でも気になるんだよなぁ、その無色透明な魔力」

「無色・・・・・・」

「そうそう。ちょっと目を離せば、まるで元から存在しなかったかのような不思議な色」

 

 

 へぇ、そんなことになってるか俺の魔力って。【不全魔法(マルファンクション)】が魔力で抵抗されないのもそれが原因なのか?

 

 いや、光属性魔法は呪詛に阻まれたりしたよな?じゃあこの二つの違いは何だろう。

 

 

「多分だけど、魔力への感受性が鈍いとか言われたことない?そりゃあこんなに見え辛い魔力なら仕方ないよ」

「おいおい、【調律師】さまにはお見通しって訳か」

「あ、気に障ったのならごめんよ?でも言い換えればね───もし自分の魔力を"見る"ことができれば、きみの魔法は飛躍的に向上するよ」

 

 

 魔力が伝播した杖を触りながら、穏やかな表情でこっちを見つめてくる。だけどまるで、玩具を見つけた猫みたいに見えるのは目の錯覚だろうか?

 

 

 

「お得意様から聞いたことあるんだけど、魔力の"味"を知ってるか否かで使い手の腕は段違いなんだって」

「・・・・・・言われてみればそれはそう、か。木材の質も知らずに家建てたら大変なことになるだろうし。でも良いのか?そういうのって外に出させない技術だろうに」

「別に構いやしないよ、何処の技術だとかは話してないし、僕も門派に属してる訳じゃない。寧ろ真似出来るものならしてみればってところかな?」

 

 

 そういうもんか。まあ俺もクインやウォルフに聞かれれば何でも答えるだろうな。此処は素直に礼を言っておこう。

 

 

「ありがとう、遠慮なく参考にさせてもらうよ。参考といえば・・・・・・杖に魔法を通してから、魔力の流れが妙に良いんだよな。まるで杖みたいに調整された気分だ」

「ああ、他のお客さんも似たような感想をくれるね。魔力で直接繋がる所為か、本能的に感じ取れるみたいだよ」

 

 

 なるほど、魔法越しに呪詛を喰らっても呪われるんだ。肉体と魔力や魔法の繋がりは相当深いんだろう。

 

 そこへ最高級の手本と接続されたなら、確かにブレイクスルーの一つや二つ起きても不思議じゃないか。こんな副次効果があるんなら、どれだけ高価でも杖のフルオーダーに需要が尽きないのも納得だ。

 

 

「杖の持つ回路の最適化、芯材や装飾品になる魔導具の素材を厳選することで魔力の反発を防止、そして核となる魔力石の魔力波形を調整・・・・・・最終調整前ですがお気に召していただけたようで

「ええ、想像以上です。こうして触ってみても、褒める言葉が見つかりません」

「今日は間に合わなかったけど、完成品はもっと凄いから楽しみにねー」

 

 

 こ、これより凄いの・・・・・・?そういえば接近戦用の追加機能がどうとか言ってたな。もうお腹一杯なんですけど。

 

 

「はい、これオマケ。芯材や装飾に使った材料の目録だよ。触媒を作るときの参考にどーぞ」

「え、良いのかここまでしてもらって」

「どーせ納品書に記述する内容だからね。さーて、それじゃ工房に戻らせてもらうよ───"無の存在証明"か、興味深い命題だね」

 

 

 ・・・・・・意味深なこと言って去っていったな。あの声の大きさ的に聞かせるつもりで言ったっぽいし。

 

 

「───それではカーツさま、本日はお越しいただきありがとうございました。完成は予定通り3日後となりますので、お屋敷の方へお届けに伺います」

「はい、よろしくお願いします」

「お疲れ様でした。それでは戻りましょうか」

 

 

 護衛さんに連れられ、いつの間にか手配されてた馬車へ乗り込む。目抜き通りから距離はあるし充分停められるだろうけど、わざわざ呼ばなくても良かったのに。

 

 まあ良いか、好意は素直に受け取っておこう。それにこの時間を利用して、トマスさまに相談する内容を纏めておこう。色々あったことだし、聞きたいことも増えたからな。

 

 

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