「面白い話だよね。こんな異世界なのに英数字が大陸共通文字だし、長さの単位とかも違和感がない。やっぱり僕たちの"同類"の仕事かな?」
「・・・・・・いや、確かに気にはなるけどそこじゃないでしょ」
「ははっ、ごめんごめん。僕もちょっとこの話題は、茶化さないと話し難くてね」
思わず身分差の敬語が飛びかけたが、お互い気にする空気じゃない。お互い推定前世日本生まれには中々刺激的過ぎる内容だから仕方ない、うん。
「・・・・・・南部は、どうだったんですか?」
「うん?さあねぇ、僕も授業で知った以上のことは知らないから。興味もなかったし。だけど以前も言った通り、昔のラリマー周辺は人が住める場所じゃない。それより手前に『ナンバーズ』の地区はなかったと思うよ」
「なるほど、セレストゲイルが市政に干渉したがらないのって、もしかして・・・・・・」
「関係してそうだよね。実際のところは分からないけど」
そうか、南部にはそもそも『ナンバーズ』の地区がないのか。道理でやばい案件だってのに、今まで聞いたこともない訳だ。
「前提の話は理解出来たけど・・・・・・実際のところはどうなんです?やっぱり差別とかあるんですかね」
「いや、基本的に『ナンバーズ』地区の管理はアガペレ修道協会が担ってる。協会の権威に守られてる以上、安易な差別は貴族であっても危険さ。同情もあるだろうけどね」
「・・・・・・と、いうと?」
「これもさっき話したけど、彼らは同化政策として文化破壊を徹底された。文字、宗教シンボル、伝統工芸・・・・・・ああそれから、
は、肌・・・・・・?いやでも、イーグレットさんは
「気付いたようだね。トゥエルブ女史の見た目は全部作り物さ。何処まで弄ってるかは定かじゃないけど」
「・・・・・・残酷過ぎませんか」
「同感だ。『本当の自分』を塗り潰されるなんて悲劇そのものだ。まあ昔ならいざ知らず、今は物心付く前に"処理"されるから認知してないだろうけど」
一見すると酷く合理的で"慈悲深い"沙汰だろう。見た目や言語といった『差異』を無くし、差別の原因を排除する。本人が自己申告でもしない限り、イーグレットさんを『ナンバーズ』だと外見から判断するのは無理だ。
だけど隠れキリシタンが弾圧されても滅びなかった事実を俺は知ってる。それに"バシュム"は氷の魔法を見た途端、イーグレットさんが『ナンバーズ』だと看破した。
つまり現『トゥエルブ』地区の土着文化は間違いなく生きてるってことだ。失伝することもなく、迷宮深部の魔物にも通用する練度を保ったまま。
「・・・・・・厄介だなぁ。これ以上首突っ込むのも厳しいけど、知った以上無視するってのもなぁ」
「呑気だねぇ、もっと考えることがあるだろうに。実力があって、王国を恨んでてもおかしくない。しかも教会とギルドに顔が利く相手だよ?」
「まさか、イーグレットさんがテロリストに与してるとでも?」
「可能性の話さ。この屋敷でならともかく、外で急に接触してきたってのもあるからね。穿った見方と思えるくらい警戒した方が良いよ?特に今の君の立場なら」
うーん・・・・・・村でクインを解呪してくれたあの人が?迷宮騒動でも世話になったし、背後から刺す機会なんて幾らでもあったのに裏切らなかった。
とはいえ裏切ってもおかしくないバックボーンがあるのは理解した。それにカーツ少年っていう特大の爆弾を抱えてるのも事実。信頼は変わらないけど心構えくらいは───あっ。
「───どうかしたかい?何か心当たりでもあったかな」
「ああいえ、別件で悩んでたことで一つ思いついただけです。まあこれはこれで問題があるんですが・・・・・・」
「なんというか、君ってそういうとこあるよね。ヒトが真剣に相談乗ってるっていうのに、思考を他所に飛ばすかい普通?」
「も、申し訳ありません」
いやホントにすんません。だけど思いついたんだから仕方ないだろ!?
カーツ少年の件で思い出した。彼の身体を構築した時の術式についてだが、【浄血】の"欠陥"・・・・・・じゃなくて"悩み"の解決に転用出来ないか?
もちろんあんな複雑怪奇な術式の完全再現かんて無理だし、マナと人体の構成要素じゃ違いもあるだろう。それでも密接に繋がってたから、技術を一部流用するくらいは出来る。
「まあ良いさ、言いたいことは大体言い終えたし。それに君の考えごとって、どうせあの防人さまのことだろう?」
「えっ、何で分かったんですか?」
「そりゃ雛鳥みたいに君の後ろか横を着いてくる人物が居なければ目につくさ。相談してこないってことは、デリケートな内容なんだろう?」
・・・・・・そんなに分かりやすいかな、俺って。
「事情は知らないし知りたくもないけど、解決策が浮かんだなら良いことじゃないか。どうして嬉しそうじゃないのかい?」
「いや、確かに我ながら有効だと思うんすけど───下手に手を出したことが、却って追い詰めないかなって不安になりまして」
こういう話題だと自分の感覚は全然アテにならない。何せ、異世界転生しても全く葛藤とかなかったからな。
繊細なクインに同じ気持ちと視点で接しても上手くいく気がしない。ノンデリ発言する自信しかないし、下手なこというくらいなら時間が癒してくれるのを待つべきだと思う。問題は、その時間があるのかって話だけど。
それに加えて、仮に存在しない器官を生やせたとしても、それが望む結果に繋がるかは別だ。性同一性障害ならともかくとして、相手にそもそも性自認がない状態だから相談する以前の話だろう。
「ああ、前世でも聞いたことがあるよ。不治の病で未来を諦めていた患者が、技術の発展によって完治することが出来た。けれど突然押し付けられた、未来という名の"不安"に苛まれたって話を」
「そういうことです。漠然とした不安も怖いですけど、『自分人生を縛っていたものは、たった一人の治癒士がどうこう出来る程度の存在だったのか?』ってなっちゃわないか・・・・・・」
「情報の消化不良を起こして悪い方へ嵌るパターンか。まずはコミニュケーションをしっかり取れって言いたいけど、そのハードルが滅茶苦茶高い話題だよね」
そう、そこが頭の痛いとこだ。じっくり話を聞いて、クイン本人の口からどうしたいかを喋ってもらうのが正解なんだろうが・・・・・・内容が内容だけに、こっちから切り出して良いものかと。
それにクインの性格的に、話を聞いて欲しい時は自分から来る。休養日の外出すら控えるってことは、誰かを気遣える状況にないって自己分析したからだろう。
「・・・・・・いや、そうやって受身で居るのは甘えか。すみません、ちょっとクインのとこに顔出してきます。相談持ち掛けといてすんませんが」
「別に良いよ、さっさと行ってきな。君たちは別に仲違いした訳じゃないし、まだ立場に縛られてもいない。隣りに居てくれるだけでもありがたいものさ」
トマスさまの言葉に送り出されながら部屋を出る。しまった、土産くらい買って帰るんだったな。