・・・・・・それが、トゥエルブさんの言ってた"類稀な対呪術適性"の絡繰か。『危険である』ことしか分からない呪物を回収し解析しようって考えは理解出来る───何でこんな手段を取ったかについては欠片も納得出来ないが。それに説明を聞いても不可解なことがある。
「クインの事情については分かった。だけど君がお供も連れず独りで動いてるのは何故だ。君は貴族の子息で、今までずっと貢献してきた【防人】なんだろう?」
「それは私が"出来損ない"だからです。始祖から正しく力を継いだセレストゲイルは、風だけでなく雷も従えます。私は風しか操ることが出来ませんので」
「出来損ないって、あんなに凄い魔法を扱えるのに───」
「
同意を求めるクインに、いやこの人にこんなことを言わせた"誰か"への怒りで手が震える。上に立つ人間は時に非情な判断を下す時もあるだろう。だがこれはそんな高尚なモンじゃない。もっと低俗な、命で算盤を弾く下衆の所業だ。
さもなきゃ本人の口から"出来損ない"なんて言葉が出てくるかよ。クインの自己犠牲は
そうやって他人に云われもない負い目作らせて顎で使う奴が、俺は死ぬほど嫌いなんだよ!!
「・・・・・・そろそろ、ですかね。また意識が遠くなってきました。これで心置きなく逝けます。私の遺体は放置しておいて下さい。一門の人間が回収に来る筈ですから」
「なに、満足した顔してんだよ・・・・・・!?こんな、こんな───」
「だって、想像していたよりずっと穏やかな最期なんですよ。貴方のお陰です」
・・・・・・は、何言ってんだよ。指咥えて見てるだけの、カーツ少年の代わりも碌に務まらない俺がクインの何を救えたって言うんだよ。
「この世界で、私の生存を願ってくれる人が居る。ああ、それだけで今までの全てが報われます」
「───ッ、俺だけじゃない!!トゥエルブさんも、君に救われた村の人たちだって!クインが生きてくれることを望んでる!!」
「・・・・・・それは、とても素敵ですね。それに、私の名前を知ってる人が居る。きっと長く覚えていてくれる。だから、怖く・・・・・・ない・・・・・・・・・・・・・・・」
ああクソッ、また意識を失った。このままじゃ本当にお陀仏だぞ!?考えろ、気休めでも何でもいい!!トゥエルブさんの【解呪】まで何としても時間を稼ぐんだ!!
もう試せる光属性魔法は粗方試した!【
『───光属性魔法でどうやって・・・・・・いや、まさかお前』
『───貴方は既に、私には不可能な芸当をお見せ下さいましたし』
・・・・・・待てよ、そういえば俺の【
回復を阻害するって認識も、あくまでカーツ少年が自分で試したことで得た知見によるものだ。だが巨人は自己再生に魔法なんて使っちゃいない。それでも効いたってことは、阻害するのは【治癒】ではなく魔力そのもの・・・・・・!?
「───試してみる価値はある、な。それにこの魔法は人体そのものには無害だし。よし、集中しろ・・・・・・対象を回復に限定せず、魔力の作用そのものに設定し直す。いつも何となくで感じてる魔力の反応へ意識を研ぎ澄ませろ」
確かエネルギーってのは分子の振動で生じる───んだったか?ならそのイメージを拝借しよう。それからチャフ・グレネードも良いな。漠然と感じる"魔力"の振動を阻害し、更に術式に干渉する魔力片で呪いの志向性を狂わせてやれ・・・・・・!
「───【
右腕のモヤを取り囲む様に七色の破片が飛び散り舞う。少しずつ腕から先へ燃え移る様に侵食していた呪いが、一瞬だけ強く噴き上がりに質量を増す。
だがそこからは水をぶっかけられたみたいに勢いを無くしていき、数秒後には侵食が完全に静止した。1分ほどじっくり観察してみたが、さっきみたいに呪いがぶり返す素振りはなかった。
「や、やったぞ・・・・・・!あとは持続時間の問題だな。【
色々試した所為で流石に魔力が切れてきたっぽいな。クインからは目を離さず、机に手を伸ばしてガラス瓶を呷る。途中で紙が落ちる音が聞こえたが気にしちゃいられない。
瓶の中身はRPGで定番の回復ポーションだ。村の人達が提供してくれたものらしい。俺は私物以外スマルトに置いてきたからとても助かる。事前に使う許可もらっといて良かった。
「ん───ッ、何処となく栄養ドリンクを思わせる味だな。コレも多分あとで反動が来るんだろうなぁ、まあそんなこと言ってらんねぇけど」
少し余裕が戻ってきたので【
そうして魔法をかけ続けること数回、漸く待ち望んでいたノック音が聞こえてきた。真っ先に入ってきたのはトゥエルブさんだ。彼女にとっても想定外だろう光景に、温度を感じさせない瞳が僅かに見開いた。
「───ッ!呆けている場合ではございませんね。急ぎ【解呪】を試みましょう。右腕はもう手遅れでしょうが、これなら確実に命を繋げられます」
「・・・・・・あ!?そ、そういえばこの呪いは持ち帰るとか言われてたんだ!いや、勿論人命には変えられませんけどそのせいででクインが───」
「みなまで仰らずとも、これでも教会所属の治癒士です。【浄血】の事情はある程度存じておりますわ」
そう言ってから後ろへ目配せするトゥエルブさん。其処には彼女と似た格好をした女性が居て、清潔そうな刃物を松明で炙っていた。水を掛ければ音が鳴りそうなソレを受け取りながら、トゥエルブさんは何でもないことの様に言った。
「一応伺っておきますが、血の類いに抵抗はございませんよね?」
「・・・・・・・・・・はい?」
返事を待たず、トゥエルブさんは躊躇なく刃物を振り下ろした。
◇
「───セレストゲイルの者だ。呪物を引き取りにきた」
騒動から一夜が明け、薄っすら日が出始めた頃にソイツはやってきた。クインと同じく人目を惹く蒼髪とピアス、それから整った顔立ちだが風貌は貴族にも魔法使いにも見えない。冷たい雰囲気も相まって寧ろ"暗殺者"って印象だな。
「二等級冒険者のエッジだ、【明星】ってパーティの頭張らしてもらってる。襲われたアンタの身内は俺達が預かってる・・・・・・随分悠長な到着だな?」
「骸は動かんからな。潜伏しているやも知れん、身の程知らずの下手人を捜索する以上に優先すべき理由があるか?」
・・・・・・叶うならクインの"出来損ない"発言が、自尊心の低さや後ろめたさからくる思い込みであって欲しかった。今回の仕事も苦渋の決断で本当はクインを大事に思ってる、なんて少しでも期待した俺が馬鹿だったな。
そんな可能性は万に一つも無いんだろうな。悼むことはおろか、労いの言葉すらない。コイツらにとっちゃ、クインの献身はその程度の価値も無いってことだ。
「テメ───」
「どうぞ、此方になります。お納めくださいませ」
呪いを引っ付けたままじゃクイン諸共バラバラに解剖しかねず、それじゃ助けた意味がない。そう懸念した俺に対してトゥエルブさんは『呪いを右腕に集約して切り離す』ことを提案し実行した。
クイン自身に残った呪いはトゥエルブさん謹製の調合薬と魔法で解呪され、今は容態も安定している。本人はこの場に立ち会いたかったらしいが、絶対安静と言い含めてある。マジで正解だったな、こんな奴と引き合わせたら治るもんも治らん。
「・・・・・・どうやって呪いを押さえ込んだ?この程度の魔除けが太刀打ち出来るものではない筈だが」
「解析が目当てならお早めに。ご明察の通り、何時呪いに負け砕けるか分かりませんので・・・・・・其方の魔法使いさまのオリジナル魔法なのですが、どうにも感覚派らしく解説は不可能とのことで」
まあ俺は魔法どころか異世界初心者だし、カーツ少年も田舎の農民上がりだからな。専門家への説明なんざ不可能だ。やれたとしても絶対拒否するけど。
トゥエルブさんの言葉で初めて奴が俺を見た。怜悧な瞳から感じる圧はエッジ団長以上、向こうがその気なら俺を殺すのに一秒も要らないかもしれない。敵意が無くても膝が笑いそうになる。間違っても喧嘩を売って良い相手じゃない。
───だがそれがどうした?俺はコイツが気に食わねぇ。敵う敵わないなんて話じゃない。こんなことしか出来ない自分が憎らしいが、出来る限りの力で睨み返してやる。
「・・・・・・何故敵意を向ける。何処かで会ったか?」
「お生憎様、身内の不幸を嘆きもしない冷血感に知り合いは居ねぇよ。よくもまあクインみたいな良い子が育ったもんだ」
心が狭いなんて、勝手に言ってやがれ。命すら投げ捨てて全力を尽くした人間を敬えない奴に、払う敬意なんざ持ち合わせてねぇんだよ。
「・・・・・・そういえばそんな名だったな」
「───あん?」
「いや、此方の話だ。目的を果たせた以上、もう此処に用はない。
・・・・・・何だか怒るのも疲れた。もう別の言語で喋る生命体だと思った方が、精神衛生的にマシだな。ムカつくのは変わらんけど。
「おう、言質取ったからな?お前らが要らないっていうなら俺が貰う。後から返せなんてダサいこと言うんじゃねぇぞ」
「随分と変わった趣味をしているのだな。まあいい、お前の魔法は多少使い道がありそうだ。目印代わりに置いてきた、とでも報告しておこう」
それだけ言い残すと、嫌味男は一瞬で消えやがった。エッジ団長曰く【風雷魔法】による超高速移動だとか。村の人も【明星】の団員も、命の恩人へのぞんざいな扱いに無言で憤っていたがすぐ沈静化した。居なくなった人間に時間使っても無駄だもんな。俺もさっさと忘れよう。
───カタンッ。
「・・・・・・聞いてたのかよ。まだ起き上がるなって言われただろうが」
「す、すみません。目上の方がいらっしゃってるのに姿を見せないのはどうしても耐えられなくて・・・・・・」
「ああもう、良い教育されてんなまったく!ほら、肩貸してやるからとっとと寝てろ」
あんなヤツの為に無理したって何の意味もねぇだろうに。ああいう手合いはどれだけ骨折ったって『されて当然』としか思わねぇよ。ハンスの野郎といい、生まれた時から傅かれてるとああなんのか?
ちゃっちゃとクインをベッドに放り込み、ついでに【
「ふふっ、ありがとうございます。最初に話し掛けてもらった時もこうしてくれましたね」
「最初って言ってもまだ昨日だけどな。目まぐるしかったせいで遠い記憶に感じる」
そういや馬車の揺れに負けて悶絶してたな。まさかあの細っこいのが、とんでもない魔法使いだったとは微塵も思わなかったけど。
「・・・・・・本当にご迷惑をお掛けしました。アデル様───先程の方の言葉は忘れてください。足手纏いにはなりたくありませんので」
「いや何言ってんだ?寧ろこっちから着いてきてくれって頼みたいとこなんだが??」
「・・・・・・・・・・え?」
きょとん、とした顔を向けてくる。いや寧ろ本人の言質も取らず勝手に決めたんだし、謝りたいのはこっちなんだけどな。
本人はこんな調子だが、俺はクインさえ良ければ是非仲間になって欲しいと思ってる。隻腕ってハンデもあれだけ凄い魔法がありゃお釣りが来るどころじゃねぇし。何より人柄が良い。まだ短い付き合いだけど、信用出来ると思えた相手だしな。
「あとはほら、俺ってど辺鄙な生まれの上に社会経験が色々残念だからな。勢いで外に出てきたけど常識とか読み書きとか全く出来ん。なのでお願いします、色々教えてください。あと助けてください」
「え、ええっ!?取り敢えず顔を上げてください!」
腰から曲げて45度、全力で頭を下げる。夜行馬車の御者にネコババされた件もあるし、教養と社会的地位のある人は喉から手が出る程欲しいんだ。マジで。
「───ふぅ、分かりました。何処までお手伝い出来るか不安ですが、私で良ければ是非ご一緒させてください」
「よっしゃ!ついてきたのを後悔させないように、精一杯やらせてもらうよ。これからよろしく」
差し出した左手を優しく握り返される。肩貸した時も思ったが本当に細っこいな。これじゃ男にも女にも見え・・・・・・ん?
「・・・・・・嫌な気持ちにさせたらごめん。だけど不躾なこと聞いて良いか?クインって性別はどっちなんだ??ああいや、顔は中性的な美人だしどっちにも見えるというか───これから一緒に旅するなら色々気を付けないといけないこともあるし・・・・・・」
「ああ、別に気にしなくても良いのに。カーツさんにとって気安い方で扱ってもらって結構ですよ」
「・・・・・・え、どういうこと??」
にっこり微笑むばかりで返事は返ってこない。あ、これ深く聞いたら駄目っぽいな。まだまだ好感度が足りないらしい。まあそれはともかくとして、だ。
───魔法使いの"クイン・セレストゲイル"が仲間になった!
締まらない流れだが、幸先の良いスタートだと喜ぼう・・・・・・ちょっと、いやだいぶ波瀾万丈気味だけども。