第五十六話
「───落ち着いたか?」
「は、はい・・・・・・見苦しいところをお見せしてすみません」
あれから約30分経過したくらいでクインが再起動した。どうやら下ネタは相当負荷が高かったらしい。
まあ考えてみればそりゃそうだよな。セレストゲイルにとっては地雷でしかない話題なんだから、クインが今まで見聞きしたとは思えない。
流石に防人さま相手に、そんな話振る猛者はそう居ないだろうし。
「ま、まあクインにはあの話題はまだ早過ぎたよな。もうちょっと免疫が付くまでは止めとこうか」
「・・・・・・お気遣いいただきありがとうございます」
「───ただ、さっきの話は先走り過ぎだったけど、改めて未来について考えてくれないか?将来どうしたい、どうなりたいって気持ちが自主性の原動力になってくれると俺は思う」
やっぱり「命令でやらされた」と「進んでやる」は、結果が同じでも心理的には全然違うからな。やってみたいと思ってやった行動は、成功にしろ失敗にせよ自信に繋がるだろうし。
いや、待てよ?俺が未来の法衣貴族でクインがその従者ってんなら、ちゃんと給料が出るべきだよな。今の防人って立場じゃ個人資産があるかも怪しいし・・・・・・まずは「所有権」ってとこから学んでもらう方が良いのか?
「・・・・・・カーツさん?」
「───よし、次の休みまでにしっかり考えとかないとな。ああうん、どうした?」
「いえ、その・・・・・・ありがとうございます。私のために色々考えてくださって」
「お、早速自主性が出てきたか?どういたしまして」
やっぱり本人の口から自然と出てくる感謝は気持ちが良いな、うん。そうやって仲良く過ごしてると、入り口から割と強めなノックが響いてきた。
「入るぞ、ああ貴殿も居たか。なら都合が良い」
「うわ出た。アンタが自主的に顔見せに来るってことは、そこそこデカい話か?」
「その通りだが・・・・・・害虫を見たような反応は止めろ」
入ってきたのはアデルだった。俺の自室ならまだともかく、クインの部屋に顔を出すなんて何事だ?反応から察するに、目当ては俺じゃないみたいだし。
「北の旧迷宮街を探らせていた者から連絡が入った。"災害が来る"とな」
「───っ!?」
クインが驚愕に目を見開いた。こんなに分かりやすく驚いてるのは初めて見た。
「なあクイン、そんなにヤバいのか?"災害"ってのは【浄血】がこれまでずっと応対してきたもんだろ」
「慌てるな、ちゃんと説明してやる。貴殿の言う通り、"災害"への対処が我々の責務ではある。だが基本的には、"災害"を発生させない為の予防的処置が大半でな。大事にならないよう小出しに発散させるのが【防人】の"浄化"だ」
「へー・・・・・・ん?じゃあ何で"災害"が起きそうなんだ??」
【浄血】の皆さんが総出でマナのガス抜きやってたんだろ。この分野じゃ釈迦に説法だろうし、匙加減を見誤るとは・・・・・・北の旧迷宮街?それってまさか───。
「───気付いたか。忌々しい蛇共め、我々の顔に何処まで顔を塗れば気が済むのか・・・・・・!」
「やっぱりあの迷宮騒動が要因か。だけど今の今みで相当念入りに調べてたんだろ?」
「既知の技術や古い魔法については徹底的に調査していた。だが今回用いられたのは完全に未知の魔導だ。一体どうなっている・・・・・・近年の彼奴等は技術の発展が異常過ぎる」
アデルが言うには、マナの『具現化現象』によって発生していた迷宮が再度マナへと変換された。それが原因であの一帯のマナが一時的に異常値へと引き上げられたそうだ。
俺たちの視点だと【
「・・・・・・それってそんなにヤバいのか?」
「御当主や他の【浄血】にも確認したが前代未聞も良いところだ。例えるなら・・・・・・『火に焚べ灰となった存在をもう一度薪へと変生させる』ようなものだ」
「マナは生命力と魔力で構成され、『具現化現象』等の"災害"によって分離します。しかし人類や魔物の生命活動抜きに再び結び付くことはあり得ません」
なるほど、本来不可逆な筈の現象がひっくり返った訳か。そりゃ無茶苦茶だわ。
マナを分離させるだけなら【浄血】はもちろん俺だってやれなくもない。ただその逆となると・・・・・・そもそもやろうって考えにならない。
だって文明が滅ぶレベルのパワーがあるんだろう?空気から超弩級の核爆弾を大量生産出来るって言ってるようなモンだ。
「あれ、でも俺の魔法だってクインの"後遺症"を治せるよな。この騒動考えた奴がイカれてるのは俺も同感だけど、不可能って訳でもないんじゃないか?やろうってバカが居なかっただけで」
「・・・・・・そういえば貴殿の魔法も大概だったな。確かに魔法には未だ人智の及ばぬ領域が広がっている。それは道理だが今回は規模が規模だ。局所的とはいえ"災害"を人為的に起こしてみせるとはな」
どういう意味だコラ。まあ後で問い詰めるとして、言われてみれば確かに。迷宮をマナに戻したところで、普通はもう一回迷宮を発生させるのが関の山だ。寧ろ変換効率とかで規模が落ちる方が自然だろう。
しかもあの迷宮は、色んな思惑が絡んだとはいえアガットランドがちゃんと予定通りに出現させた代物だ。どう考えても、クインがビビるほどの厄災にレベルアップする理由がない。
「あの・・・・・・凄く嫌な想像が湧いたのですが。もしあの時、カーツさんが【
「・・・・・・寒気がしてきたな。最悪の場合、迷宮街どころか北部そのものが壊滅する規模になっていたやもしれん」
「うわぁ・・・・・・」
期せずして北部を救ってた件について。そんな冗談はさておき、
名前も知らねぇけどよ、地方単位の他人を思い付きに巻き込んでんじゃねぇよ。絶対会いたくねぇけど、もし会ったら迷宮の件含めて四、五発は殴ってやる。
「───話を戻すぞ。そういう状況故に、セレストゲイルを含め【浄血】は総力を以て事態を沈静化させる。此処へ来たのも貴殿等に参加を要請するためだ」
「ほうほう・・・・・・え?総力ってことはオニキスフレアも来るんだろ多分。俺が行ったら危なくないか?」
「いや、逆だ。手薄となった屋敷を強襲される方が遥かに不味い。防備や被害もそうだが、何より情報の隠蔽が不可能になる。それなら襲ってくる暇もない場所に連れて行った方がマシだ」
・・・・・・何回聞いても脳が受入れを拒否するんだよなぁ。国から特権もらってる大貴族がそこまで見境ないってのはさ。
「・・・・・・まあ丁度良い機会だ。その目で連中がどんな存在か確かめると良い。アレを見ずに正確な評価は下せまい」
「まあ、そこまで言うなら。アンタも来るんだよな?」
「当然だ、私を誰だと思っている。面倒のついでだ、貴殿のことも精々気に掛けてやる」
「・・・・・・畏れながら、アデルさま。カーツさんの護衛は私です。わ、私がこの身に替えてもお守りします」
よほど予想外だったのか、アデルは僅かに目を見開いている。親族だけあってか、そういう反応はちょっとだけクインと似てるな。
対するクインは凄く不安そうに目を揺らしてる。だけどしっかり目を逸らさずにアデルへと向き合ってた。
「・・・・・・少しは気合いが入ったようだな。己の役割を多少は理解したのか?」
「いいえ、未熟者なので理解には程遠く。私はただ、カーツさんの傍に居て恥ずかしくない行動を取ろうと思っただけです」
「そうか・・・・・・よく励め。ああそれから、オークス商会には俺から連絡しておいた。現地での引き渡しになるが、用意は間に合ったそうだ」
おお、それは良かった。せっかく(セレストゲイルが)大枚叩いて仕立てたのに、この大一番で間に合わないじゃ格好が付かないからな。
アデルも言ってたけど、最大戦力が集う場所で要注意人物を知れるのは悪くない。嫌味ったらしく扱かれた成果を測るのにも丁度良いしな。
「明日の朝には出立する。準備を抜かるなよ」
「言われなくても、厄ネタの見本市で手抜きするほど無謀じゃねぇよ」
「・・・・・・抜かるなよ、クイン」
「なあちょっと、お前にとって俺どんな風に見えてんだオイ」
「片手間に自分を殺せる男に喧嘩を売る阿呆」
ぐはっ・・・・・・!?そ、それを言われると何も言い返せねぇ。黒歴史ってこうして生まれていくんだろうな。
つーか、準備って俺を制止する準備ってことかよ!!いや待てよ、つまり俺が思わず口答えしたくなるネタがあるってことだよな?
・・・・・・急に行きたくなくなってきたな。