異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第五章 人造迷宮編
第六十話 出発


第五十七話

 

 

 

 

 

「・・・・・・他人に服を着せてもらうのって、どうにも慣れませんね」

「申し訳ありませんが、どうか慣れていただきたく。御当主さまの手続きが終われば、貴方は名実ともに貴族となられるのですから」

 

 

 顰めっ面してるのが鏡を見なくても分かる。必要なのは理解してるんだが何だかなぁ・・・・・・一人で綺麗に着られる自信は全くないんだけどさ。

 

 流石に着古したいつもの一張羅って訳にはいかない。セレストゲイルの"仕事着"を借りての出陣だ。着心地からつい値段が幾らか一瞬頭を掠めたけど、気にしてはいけない。どうせ破いたら弁償出来ない金額だろう。

 

 

「───失礼します。おはようございますカーツさん。もうじき出発だそうですよ・・・・・・とてもよくお似合いですね」

「おはようクイン、お世辞でも嬉しいよ。一人だけ黒髪だから違和感ねぇか?」

「いえいえ、ここ数日でしっかり手入れされたお陰か、引き締まった印象を受けますよ」

 

 

 うーん、見た目で褒められた経験がないから照れるな。まあ元の俺と違って、カーツ少年のお顔は愛嬌あるから似合うか。

 

 

「───さて、それでは今回の任務について改めて説明させていただきます。準備の最中に申し訳ありませんが、お付き合いお願いします」

「仕方ないよ、事態が急変した訳だし。クインも自分の準備があるのに悪いな」

「私は特に用意するものもありませんから・・・・・・事態は我々が巻き込まれた迷宮騒動まで遡ります」

 

 

 まずクインが話してくれたのは昨日のお浚いだ。俺たちが迷宮の消滅だと思っていた崩落は、迷宮が生まれる工程の"逆再生"だったこと。そして迷宮の消滅によって本来分解される筈のマナが滞留し、『災害』が起ころうとしているのだと。

 

 迷宮は大地と結び付いたマナが原因な訳だし、普通に考えればもう一度迷宮が出現するくらいで済む想定だった。ところが放出されたマナは大地と結び付かず、しかも迷宮の規模からは考えられない量らしい。

 

 極め付けは【献言する蛇(サマエル)】の痕跡を探ろうと【浄血】が秘密裏に調査していたのに、一切の予兆を察知出来なかった点だ。面子を潰された上に事態を重く見た【浄血】の貴族は総力を以て解決すると決定した訳だ。

 

 

「分かりやすい説明ありがとう。それで質問なんだが、解決するって言うけど具体的には何をするんだ?」

「はい、『災害』への対処は通常の"浄化"とは異なります。小出しの発散では到底追い付きませんから。基本的には持久戦となります」

「持久戦って、耐えられるのか?文明を滅ぼせる規模って話なんだろ」

「もちろん正面から受ける訳にはいきません。『災害』への対処は【浄血】がそれぞれ得意分野を駆使して挑みます」

 

 

 視界の端から執事さんが何かを持ってきた。どうやら俺に説明するために用意した説明図らしい。会話だけで理解出来る気がしないから凄く助かります。

 

 ほうほう・・・・・・まずはアガットランドが即席で"城塞"を作って拠点にすると。この時点で意味不明だが【浄血】を常識で考えるのは悪手か。出来るんならやれるもんだと認識しよう。

 

 そうして物資を運び込む活動拠点を準備したら、各々のやり方で被害を()()()のか。大気を操って暴風を捻じ曲げ、避雷針を生やして雷を誘導する。決壊した水は操って溝や人の居ない方向へ押し流し、飛来物は残らず焼き尽くす。

 

 

「カーツさんへ依頼する内容は、拠点での支援活動のようです。24時間体制で対処するためにも、疲弊して戻った人員を治療してほしいとのことです」

「なるほど、要するにいつも通りって訳だ。体力自慢の冒険者が相手じゃ治癒も大変だけど、【浄血】なら話は別だろ?」

「そうですね、おそらく出会った時の私と大差ない貧弱さかと。瞬間的な戦闘能力は高いですが、頻繁に交代することになるでしょうね」

 

 

 粗雑だったとはいえ荷馬車の揺れで立てなくなってたもんな。アデルは俺たちがぶっ倒れてもピンピンしてたけど、まあアイツは例外か。ノリノリで肉弾戦もイケる口だし。

 

 

「しかしそうなると、取り敢えず『災害』が治まるまでは大丈夫そうだな」

「そうですね、文字通り最後の砦で戦闘なんてしたら全滅ですから。選りすぐりの精鋭でも、何重にも防御魔法を重ね掛けないと出歩けないでしょうし」

 

 

 流石にそんな阿呆な真似はしないか。でも『災害』が終わったら話は別だ。もしアガットランドが抱き込まれてた場合、鉄壁の砦は袋の鼠に早変わりってことになりかねない。

 

 

「・・・・・・念の為【不全魔法(マルファンクション)】はいつでも撃てるようにしとかないとな。確か新しい杖に魔法を保存しとく機能があったんだったな。他に気を付けた方が良いことってあったかな?」

「あとは───杞憂でしょうが魔物についてでしょうか?マナの濃度が異常かつ活性化しているため、突然変異が起きやすいのです。とはいえ前線に居る御当主達を抜いて拠点にやってこられるとは思えませんが・・・・・・」

「一度出し抜かれてる以上、もう一回がないとは限らないか。【献言する蛇(サマエル)】が出張ってくる可能性もあるよな」

 

 

 連中の設立理由を考えれば出てこない方がおかしい。まあ最大戦力が一箇所に固まってる以上、嫌がらせ以上のことは難しいだろうが。

 

 

「連中については、寧ろ北の迷宮街以外の方が危険かと。王家は各地方の貴族に警戒を呼び掛けているそうですね」

「手薄になったところを狙う訳か。歯痒いけどそっちは俺達にはどうしようもないな」

「───お話しのところ申し訳ありません。準備が整いました。お荷物も全て馬車へ積ませていただきました」

「ありがとうございます。それじゃあクイン、続きは向かいながらにしようか」

 

 

 おっと、話に夢中になってるといつの間にか身嗜みが完璧になってた。姿見のところへ行きたくなったけど時間はない。メイドさんや執事さんの見立てなら間違いないだろ。

 

 

「それじゃ行ってきます。皆さんにはお世話になりました」

「此方こそ、カーツさまはお世話のし甲斐があるお客さまでした。クイン殿と共に、無事にお戻りくださいませ」

 

 

 深々とお辞儀する執事さんに応えながら、案内されるままに屋敷をあとにする。短い時間だったけど濃厚な日々だったな。

 

 来た時は憂鬱だったけど、至れり尽くせりで良い暮らしさせてもらったよな。まあちゃんと戻ってくるつもりだけどさ。

 

 少なくとも投資してもらった杖代分くらいは働いて返したい。借りっぱなしは性に合わないからな。

 

 

 

 

 

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