異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第六十一話 呉越同舟

第五十八話

 

 

 

 

 王都から出発して翌日、俺たちは再びカーマイン伯爵領の"元"迷宮街へとやってきていた。流石は【浄血】所有の馬車、スピードも相当だけど乗り心地が全然違う。揺れを全く感じなかったし、休憩を挟まなかったのに何処も痛くない。

 

 まあ快適なのはここまでだろうが。北部地方に入った途端、空気が変わりやがった。まるで台風の前触れみたいな生温い風に、()()()()()()空が異様を遠慮なく表現してくれてる。

 

 季節的にこれから秋らしいが、むせ返るような熱気が伝わってくる。前に居た時より気温が高くなってないか?

 

 

「───ん?蹄の音が変わったな」

「どうやら城塞まで間近のようですね。そろそろ降りる準備をしましょうか」

「俺の記憶が正しければ、管理者の邸宅周辺くらいしか整備されてなかったような・・・・・・」

 

 

 冒険者の収容施設周辺も酷かったけど、街の中も碌に金掛けてなかったよな?まだ城塞のシルエットが見えるくらいの距離なんだが・・・・・・やっぱり【浄血】ってやることが派手だな。

 

 そうして進むこと数分、やっと停止した馬車から降りた先には想像の何倍も立派な砦が待ち構えてた。え、災害対策の為だけに作ったんだよな?他の貴族が同じモン拵えたら叛逆を疑われるレベルの威容なんだけど。

 

 

「───ようこそおいでくださった、我らが"蒼"の同胞たちよ。おや、初めて見る顔も多いですな。【紅の防人】の筆頭を仰せつかっている、ランゴバルド・アガットランドと申します」

 

 

 城門を開いて俺たちを出迎えたのは、燃えるような紅髪が目立つ伊達男だ。アデルと同じく貧弱とは無縁そうな、それでいてより肉体派って感じの偉丈夫に見える。

 

 ただ、コイツは例外としても後ろに控える防人さん達もセレストゲイルとは大分印象が違う。目立つ赤色のローブはともかくとして、あちこちに散りばめられた金色の装飾品が成金趣味に見えるからか?

 

 

「久しいなランガ、派手好きは相変わらずか」

「おお、誰かと思えばアデルじゃないか。そっちこそ嫌味癖は変わらずだな」

 

 

 軽口を叩き合いながら握手を交わす二人。どうやら知らない仲じゃないらしい。

 

 挨拶もそこそこに、ランゴバルドさんの案内で砦の中へと招かれる。すれ違う人は殆どが防人さんみたいだったが、部外者も何人か居るらしい。

 

 

「───冒険者も連れてきているのか」

「ああ、最低限の自衛が出来る者だけだがな。雑用に割く余裕はない故、希望者を募った形だ。それなりの額が王都より掲示されたらしいが、思ったより集まりは悪いな」

 

 

 そりゃよりにもよって救援先の迷宮街がやらかしたからなぁ・・・・・・警戒もされるだろうよ。加えてギルドも、こんなやばい案件そう簡単に振ったりはしないだろうし。

 

 そう考えながら歩いてると、見覚えのある後ろ姿が視界の端に飛び込んできた。一瞬見間違えかと思って二度見したけど間違いない。アデルに一言入れて、ちょっとだけ列を離れさせてもらう。

 

 

「ウォルフ!来てたのか?」

「───おっと、びっくりした。お久しぶりっすねカーツ。いや、カーツ殿って呼んだ方が良いっすかね?」

「堅苦しいのは止めてくれよ。仕方なく受けただけで、俺は何処に出しても恥ずかしいただの平民だっての」

 

 

 運んでた荷物を降ろしてから、掲げられた右手にハイタッチを合わせる。トマスさまから何も聞いてなかったから俺もびっくりしたよ。

 

 

「さっきチラッと聞いた公募に呼ばれてきたのか?知ってる奴が居てほっとしたよ」

「いやいや、ラリマー子爵からの指名依頼っすよ。雑用係は暇してたから手伝ってるだけでさ」

 

 

 あ、そうなの?仕事の邪魔した訳じゃなくて安心した。声掛ける前に気付けば良かったんだが。

 

 パッと見た感じは、最後に会った時からあんまり変わってない。まあ1ヶ月と経ってないから当たり前なんだけど。

 

 けどよくよく注意してみると、なんかゴツくなってないか?大きくなったというより、厚みが増したというか・・・・・・。

 

 

「・・・・・・そんなジロジロ見られると照れるんすけど?」

「あ、悪い。ちょっと会わない間に変わったなぁって。もしかして鍛え直したとか?」

「そいつはこっちの台詞だな。胆力が付いたっていうか何というか」

 

 

 そうだね、短い間にしこたま特訓をぶち込まれたからな。これで変化なかったらアデルを恨んでるとこだよ。

 

 しかし腕利きの冒険者であるウォルフからそう評価されるのは良い気分だな。指導役がバケモンだから自己評価がいまいち上がらないんだよ。

 

 

「しかし参ったっすね・・・・・・こうなると俺が来た意味がなくなりそうだ」

「うん?そういや依頼内容を聞いてなかったな。子爵さま直々なんだっけ」

「そうそう、トマスの坊ちゃんからアンタがこの『災害』に巻き込まれるって聞いたもんで。『北部に行ってアンタとパーティを再結成する』ってのが子爵の要望っすわ」

 

 

 え、そのために態々こんなところまで来てくれたのか?

 

 

「・・・・・・何でウォルフが来た意味がなくなるんだ?寧ろそっちこそ、こんな危ない橋を渡る必要なかっただろ」

「水臭いこと言わんでくださいよ。二度も死線を潜った仲じゃないっすか。俺としては結構アンタらのこと気に入ってんすよこう見えて?まあ俺の加勢なんて今更必要なさそうだなって勝手に思っただけだ」

「おいおい、ラリマーが誇る二等級冒険者が随分弱気じゃないか。こっちは信頼出来る人間は幾ら居ても足りないくらいなんだ。寧ろ頭下げてでも頼みたいくらいさ」

 

 

 ウォルフは"コアトル"に吹っ飛ばされてもすぐに復帰してきたもんな。不安要素の多い任務に挑む以上、タフな味方が側に居てくれたら安心出来る。

 

 

「・・・・・・ま、そう言っていただけるなら、やれるだけやってみるっすわ。またよろしく頼みます」

「ああ、こっちこそよろしく」

「そんじゃ冒険者の管理役に話付けてきますわ。勝手に動いたらアンタにも迷惑掛かるだろうし」

 

 

 そう言って颯爽と人混みに消えていった。予期せぬ再会だったけど、ラリマー子爵には後でお礼言っとかないとな。

 

 よし、用事も済んだし早く戻ろう。遅くなったらアデルが五月蝿そうだし。

 

 

「・・・・・・戻ったか」

「ああ、悪かったな。そうそう、急で悪いけど一人頭数が増える。信頼出来る仲間だから安心してくれ」

「好きにしろ、此方の邪魔にさえならなければ文句は言わん」

 

 

 本当に愛想のない奴だな。大分慣れたつもりだけど、この点さえ直してくれれば付き合いやすくなるんだけどなぁ。

 

 

「あれ、さっき話してたアガットランドの人は?」

「ランガなら俺達の後から来た連中を迎えに───噂をすれば、か。よく見ておけ」

 

 

 アデルの視線を辿ってみれば、ランゴバルドさんが"黒衣"の一団を引き連れていた。俺たちに見せていた気安さは微塵もない、強張った表情から相手の素性が嫌でも分かる。

 

 ───セレスト(空色)ゲイルやアガット(赤茶色)ランドといった風に、【浄血】は家名に髪色と同じか似た色が混ざってる。だからオニキスフレアも黒髪だろうと予想してた。

 

 

「───ほう、やはり此方に連れてきおったか。懸命な判断じゃな」

「これはこれはジグムント翁。お目にかかれて光栄です」

「シュナイゼルの後釜か・・・・・・セレストゲイルも随分小粒となったものだ。これではもはや3代と続くまい」

 

 

 うっわ、開口一番とんでもない爺さんだな。アデルと配下の人たちの目から温度が消えたよ。言った本人は全くと言って良いほど気にしちゃいないけど。

 

 それは置いといて・・・・・・まるで燃え尽きた"灰"みたいだ。髪は真っ白で肌も病的に白い。かなり高齢そうなジグムントって人だけじゃない。後ろの連中も、アルビノ体質を更に極端にした感じの風貌だ。

 

 それだけでも異様なのに、どいつもこいつも骸骨みたいに細い。病弱通り越して虚弱だ。【浄血】が栄養失調な訳ないし、飯が食えないのか栄養を取り込めないのか・・・・・・。

 

 なるほど、こりゃ実際に見てないと理解出来ないな。手当たり次第で手段も選ばない訳だ。

 

 

「ほう・・・・・・儂等を真っ直ぐに見返してきおるわ。少しは骨があるらしい。貴様が西部で生まれておれば面倒がなかったものを」

「お戯れを、カーツ殿は非常に協力的です。悪戯に事を荒立てる必要など───」

「───手緩いのだよ若造が。残された時はあとどれほど残っている?人類の存続は、我等の犠牲の上で成立しておる。であれば我等に捧げられる犠牲は何をおいても優先されるべきであろうに。協力など、自惚れにも程がある」

 

 

 空洞のような双眸が此方へ向く。その瞬間、辺りが火の海に沈む光景を幻視した。いや、幻じゃない。空間が煮えているような、まるで爺さんが太陽にでもなったみたいに温度が上がってやがる。

 

 アデルが目を剥いて間に入るも、相手はお構いなしだ。いやいや、癇癪持ちってレベルじゃねぇよ!?耄碌してんのかこのジジイ!!

 

 敵対とかそんなこと言ってる場合じゃねぇ。【不全魔法(マルファンクション)】で応戦───する前に空間の震えが止まった。

 

 

「あらあら、歳を取るとどうしてこう我慢が効かなくなるのかしら?もう老害っていうか"老災"ね」

「・・・・・・コンスタンチェ」

「許可もなく名前で呼ばないでくださる?」

 

 

 呆れと侮蔑を隠さない暴言。それを発したのは少女と言っても通用しそうな翠髪の麗人だった。キツめの眦を吊り上げながら、真っ直ぐジジイのところへ向かっていく。

 

 

「邪魔立てするか、小娘風情が」

「オニキスフレアは品性すら失ったの?現当主にぶつける言葉じゃないわね。それはそうと、『災害』を前に仲間割れかしら。さっきご高説を垂れてらしたけど、人類を護らない私たちの存在価値を一体誰が認めてくれるのでしょうね?」

「・・・・・・良いだろう、事が終わるまでは待ってやる。それでもまだ茶々を入れるというのであれば、貴様ら纏めて灰にしてくれる」

 

 

 そう捨て台詞を残してジジイとその一行は去っていった。はぁ、寿命が縮んだよまったく。

 

 

「貴方たちも災難ね、さっさと死んでくれないかしら。あの老いぼれ」

「滅多なことを・・・・・・しかしご助成感謝します、"ヒュアランレイン"公」

「別に助けたつもりはないわ。単に生き汚い老人に虫唾が走っただけ」

 

 

 なるほど、この人が東部を守護する【翠の防人】の頭目か。ヒュアランレイン家の当主にして紅一点、コンスタンチェ・ヒュアランレイン。一見すると利休鼠のジャケットが似合う美人だけど、さっきのやり取りを聞く限り他の当主にも負けないパワフルさだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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