異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第六十二話 前門の虎、後門の狼

 

 

 

 

 

 ───オニキスフレアとのファーストコンタクトは最悪といって良いだろう。進んで身を捧げないなど非国民だと言わんばかりの暴君ぶりだった。何で『災害』と戦う前から脂汗浮かべなきゃいけないんだよ全く・・・・・・。

 

 とはいえ、尋常じゃない焦りの原因を確かめられたのは収穫だった。まるで幽鬼のような、暗がりならアンデットだと言われても信じそうな有様なんだから納得だ。

 

 

「ふぅ、疲れた・・・・・・まさか邂逅一番に喧嘩吹っ掛けてくるとは。どんだけキレやすいんだよ」

「あら、蒼のお客人にしては勉強不足ね。あの耄碌爺さんの傍迷惑は貴族社会じゃ常識よ?アイツの所為でどれだけの血筋が絶えたんでしょうね」

 

 

 明後日の方を見ながら指折り数えるヒュアランレイン氏。おいおい、指の曲げ伸ばしが二往復越えてんぞ・・・・・・"老災"って渾名の方が控えめなんじゃないか?

 

 

「───お手を煩わせてしまい申し訳ありません、ヒュアランレインの御前。次の合同会議に向けた資料を提出していたので、まさか恫喝から入るとは思わず・・・・・・」

「寧ろ火に油を注いだわね。私もその資料は目にしたけど、貴方達で改善傾向が出たんだからますます身柄を欲しがるに決まってるじゃない」

 

 

 ・・・・・・俺だけじゃなく、セレストゲイルの見積もりも甘かったってことか?いやでも、一番の関心事に光明が見えたら普通静観しないか??

 

 

「───どうやらまだ自覚が足りないようね。もう一度言ってあげるけど、あの爺さんはとっくに壊れてるのよ。【浄血】最凶の魔法使いじゃなかったらとっくの昔に謀殺してるわ」

「滅多なことを・・・・・・」

「これ以上ない本音だわ。アイツの所為でヴィブギヨル王家との仲も拗れるし、百害あって一利もないのよ。尻拭いさせられる方の身にもなってほしいわ」

 

 

 言うだけ言って満足したのか、その辺で女傑は離れていった。随分気の強そうな姐さんだったけど、前世の中堅管理職に通じる悲哀さも感じる人だったな。

 

 とはいえ、安易に警戒心を解くべきじゃないな。実は裏で繋がってて、飴と鞭を仕掛けてる可能性もない訳じゃないし。もし礼をするとしたら、無事に帰り着いてからだな。

 

 

「さて、想定外はあったが挨拶すべき相手とは全員会えた。割り当てられた部屋に行くぞ。内々で話したいこともあるだろう?」

「了解っと。クインに馬車の停留を任せたのは正解だったな」

「ここまで強引なのは想定外だが、多少の当て擦りは予想していたさ。アレがもし眼前を遮ったなら、ジグムント翁は"不敬"だとして消炭に変えただろうよ」

 

 

 ああ、なるほど。護衛って言っときながら俺から離れさせる訳だよ。もしそうなってたなら、俺は後先なんて一切考えずにジジイに特攻しただろうな。

 

 まあ此処でやることがないならさっさと移動しよう。また絡みにこられたら目も当てられねぇし。アガットランドの人に案内された部屋には、既にクインが到着して荷解きまでやってくれていた。

 

 

「あ、お疲れ様です・・・・・・どうかしましたか?」

「いや、濃い面子の相手で疲れただけだよ」

 

 

 俺たちの表情から疲れを察したクインがそう尋ねてくる。赤裸々に答えて怒りに燃えられても困るから、詳細は伏せることにしよう。俺もあんまり思い出したくない。

 

 

「───それで、貴殿はオニキスフレアをどう判断した?」

「そうだな・・・・・・答える前に聞きたいんだけど、あのやつれ具合は何が原因だ?明らかにあの家だけ損耗が凄過ぎないか。何より、どうしてあの家だけ若い奴が居ない?」

 

 

 見た目も大概だったが、それ以上に気になったのは連中の陣容だ。万一の後詰めとして王都に残ったアガットランド当主は例外として、他は現当主と筆頭が揃ってるのにオニキスフレアだけ()()()()()()()()()

 

 ヒュアランレインですら、うら若い女当主の側には後継者らしき年少の防人が居た。棺桶に片足突っ込んでる年齢の爺さんが、未だに隠居せず当主ってのも違和感に拍車を掛けてる。

 

 

「治癒士らしい着眼点だな。貴殿の言う通り、オニキスフレアはもう限界だ。その原因は、マナから"熱"を奪い続ける使命に殉じてきたからだ」

「・・・・・・熱を?」

「不思議に思ったことはないか?『災害』を起こし迷宮を作り出す程の力を持ったマナが、どうして動力源として利用されないのか。そしてそれほどの力を持っていながら、何故発火現象は起こらないのかを」

 

 

 ───言われてみれば、確かに・・・・・・かなりのエネルギーを溜め込んだ存在なのは明白だ。なら具現化現象を起こしたりするより、爆弾みたいに爆発したり燃えたりする方が自然に思える。

 

 まあそんなことになったら、火災が怖くて何処にも家が建てられないし何かしらの細工でもしてると思ってた。いや、その細工こそがオニキスフレアなのか?

 

 

「恐らくカーツさんが想像している通りです。彼らはマナが"熱"とならないよう、常時マナと接続しています。『浄化』の時のみ干渉する私たちとは違って」

「・・・・・・そんなに分かりやすいか俺って。正確に当てられ過ぎて怖いんだけど。まあそれはさて置き、身体に負荷が掛かってる時間が長い分他の【浄血】より消耗がデカいってことか」

「そういうことだ。もはや欠陥について議論する段階すら通り過ぎている。【浄血】へと加工する魔導具に耐えられる者が、現在全く産まれていないのが現状だ」

 

 

 そ、それはヤバいな。ジジイがああなったのも多少は共感出来る。【浄血】としての矜持が滅茶苦茶強そうだったもんな。

 

 プライドが焦りで反転したのか、どうせ自分達が滅べば人類も滅ぶんだからって感じにタガが外れてんのか。巻き込まれる方は堪ったもんじゃないけど。

 

 

「なるほど、よく分かった。それでどう判断したかって話だけど・・・・・・『セレストゲイルの依頼を達成して良いのか不安になった』かな。ぶっちゃけ聞きたいんだけど、遺伝子問題を解決したところであの人達が大人しくなるか?」

「───やはり、そうなるか。貴殿の考えは尤もだ。被害認知が過大に膨れ、手段を選ばない所為で遵法精神は見る陰もない。先程の御前ではないが、オニキスフレアの進退を危ぶむ声は少なくない」

 

 

 ・・・・・・色々言いたいことはあるけどさ、そういう重要な情報を後出しするの酷くねぇっ!?

 

 

「───アンタらの庇護下に居て良いのか、不安になってきたんだけど・・・・・・?」

「そうは言うが、我々の何れかが欠ければ取り返しが付かん。潰し合いが論外である以上、御当主は連中が経過報告に希望を見出す方へ賭けていた。それが一番丸く収まるからな」

 

 

 それはそう。俺だってオニキスフレアが良識的な対応をするってんなら、西部まで出張治療するのだって吝かじゃないんだが。

 

 【浄血】の一角がこの有様なら、【献言する蛇(サマエル)】に靡く貴族が出るのも納得だ。アガットランドにも迷宮騒動の遠因として迷惑掛けられたけど、オニキスフレアは度が過ぎてる。

 

 

「それでも、他の御当主や筆頭の方々からはご協力いただけそうなんですよね?」

「どうやらそのようだな。ヒュアランレインの関心は強く、アガットランドも話した限りでは抜け道の提供くらいはするだろう」

「だけど爺さんが砦に残ったらどうするんだ?待ち伏せされたらどうしようもないぞ」

「いや、オニキスフレアの現状を鑑みるに間違いなくジグムント翁は最前線へ向かう筈だ。孤立を深めている以上、力を示さねば身を守れんからな」

 

 

 ふむふむ、そうなると問題はジジイ以外の黒衣か。幾ら貸しが作りたいからって、他の【浄血】もドンパチまではしてくれないだろ。

 

 となると、連中に宣戦布告する口実を与えずトンズラしなきゃいけない訳か。事前に考えてた案じゃちょっと弱過ぎるな。

 

 

「───失礼します。カーツ殿はいらっしゃいますか?」

「はい、俺がカーツです。何か用事ですか?」

「オークス商会のモーガンという方がお見えです。お渡しするものがあると」

「・・・・・・間に合ったようだな。もうあまり時間はないが、受け取りついでに調整をすませておけ」

 

 

 言われずとも。前門の災害、後門のオニキスフレアだからな。使えるモノは全部万全にしておかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

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