異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第六十四話 呪詛の悪臭

 

 

 

 

 長杖の受け取りは無事に終わったし調整もバッチリだ。話すことも済んだしいざ『災害』へ・・・・・・と思ってたんだが部屋の外が妙に騒がしい。

 

 【浄血】のアガットランドが建てただけあって砦外の音は完全にシャットアウトされてる。ということは、砦内の騒ぎってことになる。

 

 

「一部冒険者も受け入れてるって言っても五月蝿過ぎないか?【浄血】の見本市みたいな城で度胸あるなぁ」

「度胸というより、何処かの誰か以上に無謀なだけだろう。砦の中なら誰が死んでも揉み消すのは造作もないのだが」

「・・・・・・怖いこと言うなよ」

「冗談で言ったつもりはない。元々悪用されないよう、砦は『災害』が済めば埋めて解体される予定だ。その時に"余計なもの"が混ざっていても確かめる方法はあるまい?」

 

 

 アデルの視線からは『だから絶対一人になるなよ?』と伝わってくる。だから大事なことは言葉に・・・・・・出来る訳ないよな、誰が聞いてるか分からんし。

 

 しかし、アデルの言葉が事実なら余計に謎だ。そんな無法地帯でバカやってるのは何処のどいつなのやら。

 

 

「カーツさん、余計な面倒は御免ですがそろそろ時間が迫っています。残念ながら避けて通るのは不可能かと」

「だよなぁ・・・・・・俺たちと無関係でありますように」

 

 

 意を決して外に出ると、まあ騒がしいことこの上ない。主に喋ってるのは女性みたいだが、相手への配慮に欠けた声はどれだけ質が良くても耳障りなだけだ。

 

 遠目に見えてきたのは派手なドレスを纏った女の子と、そのお付きらしき甲冑を来た男だ。相対してるのは・・・・・・えっ、あの後ろ姿はウォルフとアイゼナッハ支部長だよな!?支部長もこっちに来てたのか。

 

 

「───なぁクイン、確か支部長って結構立場のある森人(エルフ)だったよな。そんな人に喰ってかかってるあのお嬢は何処の誰なんだ?」

「あの方は確かカーマイン伯爵家のご令嬢だったと思います」

「カーマイン・・・・・・って、迷宮街を含めたこの一帯を仕切ってる奴じゃねぇか!?」

 

 

 直接何かされた訳じゃないが、俺の中じゃダントツで印象が悪い貴族だ。そもそもコイツが部下の管理を杜撰にしてなきゃ、あの迷宮騒動は起きてなかったんだからな。

 

 しかもその後は保身に走って捜査にも碌に協力しないし、寧ろ揉み消しに加担する始末・・・・・・俺視点で評価するとこ無くね?

 

 

「自分の縄張りなんだから兵隊が居るのは理解出来るとして・・・・・・何でお嬢がこんなむさ苦しいところに?」

「さあ、そればかりは私にも・・・・・・とにかく、道を譲ってもらうしかなさそうですね」

「外に繋がる一本道を陣取られちゃなぁ」

 

 

 本当に面倒なとこに居座りやがって。他人の迷惑にならないとこでやってくれよ本当に。

 

 

「───ですから!!この御方の望みを叶えていただければ、こんな場所すぐにでも去りますわ!貴方のギルドに所属する冒険者なのでしょう!?」

「・・・・・・此方こそ何度も申し上げておりますが、冒険者を兵士と同列に考えるのはお止めください。しかもこの非常時にそのような不躾───暫くぶりだな、お互い間の悪いことだ」

「このアレクシア・カーマインを無視するなんて───あら?その黒髪に【蒼の防人】を侍らせる冒険者・・・・・・貴方がカーツとかいう治癒士ね」

 

 

 うーわ、ラリマー支部の人間にウザ絡みしてたから予想は着いたけどさ、やっぱ俺絡みかよ。とはいえ、会ったこともないお嬢に執心される覚えはねぇぞ??

 

 

「アレクシアさま、何度も申し上げておりますが日を改めて───」

「いいえ()()()さまっ!!貴方のような素晴らしい御方に心残りがお有りになるなんて、私が耐えられないのです!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

「・・・・・・・・・・・・ヱ??」

 

 

 いま、なんつった??いや待て待て、きっと同姓同名の別人だろ。兜を目深く被ってるから人相は不明だけど、そもそもこんな立派な甲冑身に付けられる有様じゃなかったし、そうに違いない。

 

 

「それよりハンスさま、ようやくお望みの再会が叶ったのです。その物々しい兜をお脱ぎになって」

「・・・・・・そう、ですね。では失礼して───」

 

 

 そう言って手慣れた様子で防具を外す。露わになった顔と髪色は、確かに俺の知ってるハンスと同じだ。

 

 

 

 

 ───だが兜が完全に脱げた瞬間、全身に悪寒が走った。

 

 

「・・・・・・ふぅ、久しぶりだなカーツ。お互い元気そうで何よりだ」

「──────ッ」

「ちょっと!?ハンスさまの言葉を無視するなんてどういうつもり!!」

「横から失礼します。突然のことでカーツさんは動揺しているようです。この後のこともございますので、ご無礼をお赦しください」

 

 

 固まって動けない俺を、さっとエスコートして横を通り抜けさせるクイン。お嬢が追い縋ろうとしたけど、アデルが殺気混じりの威圧で黙らせた。

 

 ハンス───いや、ハンスの形をした()()()は追ってこなかった。ふらつくお嬢を抱き留め介抱してるらしい。

 

 

「お見事っす防人さん・・・・・・にしてもどうしたんだカーツ?顔色がやばいっすよ」

「・・・・・・・・・・・・少し落ち着いた。ありがとな二人とも」

「お気になさらず。しかし本当に大丈夫ですか?確かに急な接触ですし、同一人物か怪しい様変わりでしたが───」

「───アレはハンスじゃない。上手く説明出来ないんだけど・・・・・・()()がおかしいんだ」

 

 

 多分物理的な臭いじゃない。他の人は何も感じてなかったみたいだし。けど今まで嗅いだことのない、名状し難いモノを感じた。

 

 

「私は何も感じられませんでした・・・・・・ウォルフさんは?」

「俺も特には、ただ奴さんにゃチラチラと妙な話が付き纏いましてね。北部での作業の片手間に、個人で色々調べてみたんすわ」

 

 

 ウォルフによると、きっかけは迷宮騒動から帰ってすぐにハンスの元パーティがラリマーにやってきたかららしい。しかも内容は「ハンスに寄りを戻せるよう俺に仲裁してほしい」とか。ふざけてるにも程があるな。

 

 だが何故ラリマーに当たりを付けられた?確かにハンスにはアイゼナッハ支部長と一緒に居るところを見られはした。だけどあの馬鹿の前で支部長は肩書きを名乗りはしなかった筈だ。

 

 ただでさえ見た目で年齢が分かりにくい森人(エルフ)を、初見でギルドのボスだって見抜くのは難しい。しかも元メンバーはどうしてラリマーに来たのか理由が曖昧だったそうだ。

 

 

「・・・・・・きな臭いにも程がありますね。そして本人はあの変容ぶりですか。新聞で見たときは何の冗談かと思いましたが」

「ああ、アンデシン子爵令嬢の件を契機に大立ち回りの連続だとよ。今じゃ北部中の貴族令嬢が首っ丈で、カーマイン伯爵令嬢もその一人って話っすわ」

「アンデシン嬢がお礼と称して連れ回し、その縁で生じた護衛任務で不足の事態を解決し続けたとか。深窓の令嬢が勇者に憧れるのはよくあることだが、それでもあの熱狂ぶりは些か異常だな」

「アイゼナッハ支部長、ご無沙汰してます」

 

 

 そんな話をしてると支部長が追い付いてきた。そりゃあの場所にもう用はないよな。久しぶりに会ったのに、いきなりご心配をお掛けして申し訳ない。

 

 

「挨拶が遅れてすみません。それに、貴族相手に庇ってもらってありがとうございます」

「君には迷宮騒動を解決してくれた借りがあるからな。そうそう、借りといえば先日の王都土産だ!アレは陰鬱な作業を大いに助けてくれた。礼を言うのは寧ろ此方側だ」

 

 

 快活に笑っちゃいるが、一瞬物凄く目が荒んでたぞ。北部での居残りは相当ストレスだったらしい。お疲れ様です本当に。

 

 

「しかし先ほど君が語った内容だが、残念だが心当たりがある。杞憂であって欲しいが、念には念を入れた方が良いな」

「元々周辺の警戒は厳にするつもりでしたが、その心当たりとは?」

「下手に先入観を持つのも不味かろうが・・・・・・そうだな、呪詛に関する防備はより手厚くした方が良いかもしれん」

 

 

 支部長が歯痒そうに言葉を濁す。まあアデルも言ってたけど、最近の【献言する蛇(サマエル)】の手段は未知数過ぎるらしいからな。

 

 もし連中や、連中の息が掛かった相手だと先入観が足を引っ張りかねない。曖昧な物言いになるのは仕方ないよな。

 

 

「───それでは先に失礼する。前線の護衛を依頼されているのでな。もしかしたら君の治療を受けるやもしれんが、その時は頼むぞ」

「任せてください、ばっちり治療してみせます」

 

 

 俺の肩を軽く叩いてから、支部長は一足先に離れていった。それに続くようにアデルも無言で入口の方へ向かっていく。残ったのは護衛役の防人さんと、いつものメンバーだけだ。

 

 

「・・・・・・やれやれ、前門のオニキスフレアに後門の【献言する蛇(サマエル)】。こうして実感が湧いてくると頭が痛いな」

「頭痛がしてくるのはこっからっすよ。多分次から次へと急患が運ばれてくるだろうな」

「此方をどうぞ、お手製のドライフルーツです。悩みは尽きませんが此処からは長丁場です。今は一旦忘れて目の前に集中しましょう。私たちも全力でサポートします!」

 

 

 クインから受け取ったオヤツを一つ摘む。ちゃっかり手を伸ばすウォルフも、任せろと空いた手で背中を叩いてくる。

 

 ・・・・・・ホント仲間には恵まれてるよな俺って、ありがたくて涙が出るよ。頼りにしてるからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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