異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第六十五話 人造災害ー序章ー

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・まるでこの世の終わりだな」

「同感っすね、【浄血】の皆さんが居なきゃ世界中がこの光景なんだろ?『人類の庇護者』って肩書きも納得っすわ」

 

 

 隣りに立ってるウォルフの言葉すら聞き取り辛い。まるで弾丸のような着弾音を鳴らしながら、それ以上の威力で穴を穿ってる"雨"が原因だ。

 

 不吉な"紅い雲"から降り注ぐ、血のようにドス黒い魔弾。木々がバカスカ穴だらけにされ、風が吹くだけで輪切りになって倒木していく。俺たちがこの光景の一部になってないのは、アガットランド家当主の力作(城砦)と入り口を固める防人さん達のお陰だ。

 

 

「───見ての通り、我々や同胞の魔法抜きに外出するのは自殺行為です。また仮に魔法を付与された状態でも速やかに戻ってきてください」

「了解です、俺たちも生命は惜しいんで。さて、俺の仕事は『応急処置』だったな」

「はいカーツさん。高位の治癒士さんへ届ける前に、緊急を要する治療のみ行います。また怪我のない方々には【快復魔法(ヒーリング)】をお願いします」

 

 

 任せろ、得意分野だ。まあ最前線じゃとっくに始まってるんだろうが、此処はまだ猶予がある。この間に追加された情報を整理しておこう。

 

 当初は緩やかな連帯で『災害』に対処する手筈だった。下手に混成部隊を作っても、何処かの御家が主導権争いを始めそうだし。それぞれの派閥単位で行動し、その護衛に冒険者が付くってのを想定してた。

 

 だけど実際の規模が想定より激しく、若干の修正を余儀なくされた。このままだと『災害』を此処へ留め置く為の結界が保たないらしい。

 

 

「えーっと内輪揉めしないよう、東西南北にある結界の要点には現当主あるいは次期当主候補がそれぞれ配置されたんだよな?」

「はい・・・・・・アガットランド、ヒュアランレイン、そしてセレストゲイルからそれぞれ。オニキスフレアは遊撃に回っていますね」

「どうせ混ぜても揉めるだけなら、いっそ好きにやらせろって訳っすか。確かに筋は通ってるが、この状況で連中を野放しってのは怖いっすね」

 

 

 ウォルフとは情報共有を済ませてある。掻い摘んでしか話せなかったけど、それでも酷い状況に呆れと哀れみで見返された。まあ俺も自分ごとじゃなけりゃ同じ反応したよ、うん。

 

 連中が一家単独で動いてるのは協調性の低さだけが理由じゃない。熱と炎によって、最も効率的にマナを分離させられるからだ。

 

 ぶっちゃけオニキスフレアがどれだけ暴れられるかで、『災害』のリミットが決まるといっても良いらしい。傍迷惑だけど実力は本物だから本当にタチが悪い。

 

 

「───ん?」

「どうしたウォルフ?早速誰か戻ってきたのか」

「いや、アレを見てほしいっす」

 

 

 ウォルフが指し示したのはぶっ壊れた倒木だ。んなもんそこら中に転がって・・・・・・いや待て。何か動いてねぇか?鳥が巣でも作って───は??

 

 

「なぁ、俺の目がおかしくなったのか。丸太から手が生えたように見えたんだが・・・・・・?」

「───気持ちは分かりますが現実です。もっと言うと、手だけではなく足も生えてきました」

「言ってる場合っすか二人とも!?」

 

 

 ごめんって、けどこのくらいは許してほしい。目の前でただの木が()()()()()()なんて、冗談みたいなことが起きたんだからな。

 

 丸太を支えるには不安になる細い手足に、ヨタヨタと千鳥足で近付いてくる丸太の魔物。迷宮でガーゴイルとか無機物の魔物は経験済みだけどよ、流石に目の前で変態されたら驚愕するしかないだろ。

 

 

「なあクイン、魔物が活性化するってのは事前に聞いてたけどさ。こんなこともよくあるのか?」

「・・・・・・少なくとも私は見たことも聞いたこともありません。推測になりますが、結界に閉じ込められたことでマナが超過密状態になったことが原因かと」

「お話はそこまでっすよ二人とも。どうやら連中、この雨も風も効かないらしい。生まれたてを叩かないと不味い」

 

 

 どうやら悠長にしてる暇はないらしい。『災害』のマナで変異したからなのか、ウォルフの言った通り紅い雨に打たれても濡れるだけだし風で切り裂かれもしない。

 

 対してこっちは暴風に遮られる所為で、セレストゲイルの風魔法は真価を発揮出来ない。門番の人が試しに風の刃を放ってみたが、魔物に辿り着く前に解かれてしまう。

 

 

「どうやら此処は俺の出番っすね。援護よろしく」

「・・・・・・やむを得ません。アレを放置していては、消耗した同朋の帰還に支障をきたします。雨と風には指一本触れさせませんので、どうぞご存分に」

 

 

 門番の二人がそれぞれ防御魔法をウォルフに掛ける。水の膜が全身を包み、その上から風が覆い被さる。確かにこれなら(弾丸)が届くことはなさそうだ。

 

 一度門から出て、雨を凌げることを確認する。その次の瞬間、ウォルフは俺たちの視界から消えた。居場所に気付いたのは、魔物が槍でバラバラにされ断末魔を上げてからだった。

 

 

「は、速ぇ・・・・・・別行動してる間にどんだけ鍛えたんだアイツ?」

「迷宮騒動で我々と共にマナの乱流に晒されていましたが・・・・・・あの動きの説明には不足しています。北部に居たのなら、支部長殿に稽古をつけてもらえはするでしょうが」

 

 

 そうだな、俺やクインもあの時マナを吸収してたから階梯(レベル)はかなり上がってた。ウォルフも同条件だろうしアイゼナッハ支部長から手解きを受けることもあった筈だ。

 

 だけど調査やら何やらで忙しかったウォルフが、修行漬けの俺たちと遜色ない上がり幅なのはやっぱり不自然だ。まあ仲間が想定以上に強くなってるのは感謝こそすれ、不審がることじゃないな。

 

 

「まあ嬉しい誤算ってことで。本当なら俺も参戦した方が良いんだろうけど、まだ治療すら始まってないのに消耗しちゃ不味いからな」

「えぇ、現状ウォルフさんで充分そうですから。もしこれ以上数が増えて討ち漏らしが発生すれば致し方ありませんが。今は彼に任せましょう」

 

 

 そうだな、修行の成果を見せられないのは少し歯痒いが今は自重しないと。繰り返しになるがこの戦いは持久戦なんだ。ペース配分を見誤って被害を受けるのは俺だけじゃないんだからな。

 

 

「しっかし、アデル達も冒険者に随伴してもらって正解だったな。もし防人さんだけだったら大変だったな」

「この悪条件に加えて物量攻めですからね。元々は活性化した魔物への対抗策でしたが、今この状況では正しく命綱です」

 

 

 餅は餅屋、魔物退治なら冒険者に1日の長がある。防人さん達の援護付きなら特に問題ない筈だ。

 

 ・・・・・・こう不測の事態が続くと嫌でも心配になるけど。それでも今は信じて自分の仕事をしなくちゃな。

 

 

「───はい戻ったっすよー。どうよ、見違えただろ?」

「お疲れウォルフ、大活躍だったな。まさかあんなに強くなってるとは思わなかった」

「まあ俺の方でも色々あったんで。アンタらが武者修行してるってのに、ぼーっと突っ立ってる訳にはいかねぇっすよ」

 

 

 一通り八つ裂きにして戻ってきたウォルフ。魔技すら使わずの完全勝利で、これなら全く消耗してないだろうな。心強い限りだよ。

 

 

「お疲れさまですウォルフさん。今回は木の魔物のみでしたが、おそらく他の自然物も魔物化している筈です。貴方に負担が集中してしまいますので、砦内から交代要員を───」

「───安心しなって防人さんよ・・・・・・っと、今日はこの呼び方じゃ分かんねぇか」

「名前で呼んでください。他人行儀で心細いので」

「・・・・・・何かちょっと変わりました?俺としちゃ今の方が親しみやすいっすけど。そんじゃクインさんって呼ばせてもらうっすわ。心配はありがたいが中は中でカツカツでしょ?カーツの光属性魔法もあるし、此処は俺一人で充分っす」

 

 

 軽く胸を叩いてそうアピールする。確かに砦には()()()()()()対策として多くの人員が配置されてる。治癒士に被害が出たら教会が黙ってないし、そもそも拠点を落とされたら食糧難で詰む。

 

 とはいえ此処も落とされちゃダメな場所なんだが、見てる限りウォルフに虚勢の色はない。それでも予備の戦力は確保しといた方が良いと思うが・・・・・・いや違う。

 

 

「・・・・・・()()()を近寄らせないためか?」

「そういうこと。妙に北部上がりの冒険者から買われてるし、増援を頼んだら間違いなく名乗りを上げんぞ?いーから先輩冒険者に任せとけって」

「───あっ、考えが至らずすみません」

「気にすんなって、俺も頭から抜けてたし。けど変なこと仕出かされても怖いし、付け入る隙を与えないようにってのは賛成」

 

 

 あのハンスの皮を被ったナニカ。砦内に留め置くのもそれはそれで怖いけど、今のところボロを出す様子はない。

 

 杞憂に終わるならそれで良い。けど警戒し過ぎるなんてことはない。何度も言うが、『災害』はまだ始まったばかりなんだ。

 

 

 

 

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