第七話 新スタート・・・・・・アレ?
───カーツ少年は凄い。時間にしてまだ1週間も経っていないが素直に尊敬もしている。
クインを助ける為にアレコレ試した魔法も、名付けこそ俺だが【
ハンスのバカタレの所為で村を出て5年。ゼロからあれだけ編み出すには本人の才能は当然だが、相当な苦労と試行錯誤があった筈だ。つくづく公正な評価の出来ない無能には勿体ない男だった。
俺はかなり飽きっぽい方だし、とてもじゃないが真似出来る気がしない。もし俺が彼の身体を借りられず生身のままこの世界に来ていたらどうなっていたことやら。
まあ間違いなく野垂れ死にだろうな。俺だけじゃ魔法は勿論、野営のやり方とかも全く分からないんだし。
俺はカーツ少年を一人の男として尊敬している。そして現在進行形で異世界素人の俺を救ってくれている恩人でもある。なら少しでも何か返したいと思うのが人情ってもんだろう。
不可抗力とはいえ今は俺がカーツの名と肉体を背負ってるんだ。彼に泥を塗る様な真似は出来ない。セレストゲイルにやった喧嘩腰も後から振り返ってめっちゃ後悔したもんな。
あんなことやってる暇があるなら、彼が出来なかった分まで才能と成果を知らしめたい。いずれカーツ少年がこの身体に返ってきた時、彼をがっかりさせない為にも。
もしその時が来たら潔く返すつもりだが、どうにかこの世界に残れないものだろうか。『カーツ少年はワシがプロデュースした』って後方腕組みしてみたい。
その未来は遠くないと俺は確信している。腐っても超実力主義なセレストゲイルとやらをして『ほんの僅かでも見込みがある』判定されたんだからな。
これはかつて虐げたパーティへザマァしろという神様の啓示に違いない!いざ行かん冒険者ギルドへ───正当な方法で冒険者登録を済ませ、カーツ少年のサクセスストーリーの第一歩を踏み出すんだ!!
◇
流石に緊急依頼に間に合わないってことで、【明星】の面々とは村で別れることとなった。元々馬車の最終地点より前に下車するつもりだったし、ハンス達が万一追ってきてもそう簡単に追い付けない距離は稼げた。だから別に急ぐ旅って訳でもなくなった。
そういうことで【明星】から幾つか餞別をいただいた俺は、クインの復調を待ってから村を出た。魔物の襲来から護ったお陰か随分よくしてくれたので、想定より早い出発となった。しかも村の商人さんのご厚意で荷馬車に乗せて貰えることになった。
「───へぇ、この世界には獣耳をした人間や耳を尖らせたような人種も居るのか」
「えぇそうです。前者は【獣人】、後者は【
「同感だな、けど15年の人生で一度も見た覚えが無いな?」
「この辺りは"ヴィヴギヨル王国"の南部地方にあたりますからね。人口の九割は私達【
歩く必要がなくなった俺は、クイン先生の青空教室に出席していた。クインの説明はとても分かりやすく、名門生まれなだけあって教え込まれた知識も豊富だった。異世界素人にとって理想的な教育環境だろう。
「貨幣については銅貨、銀貨、金貨、白金貨と見た目通りに呼ばれることもありますが、正式名称は"カラー"です。まあこの呼び方は貴族の方々しか使いませんけど」
「庶民の俺達は一々何カラーって換算するより見た目で何枚って言った方が分かりやすいもんな。何百万カラーって言い方は金持ちがハッタリ効かせる時くらいか?」
「そんなところでしょうね。他に注意することと言えば・・・・・・カーツさんが冒険者になるおつもりでしたら、憲兵に目を付けられないようにしてくださいね」
クイン曰く、冒険者と憲兵は基本的に仲が悪いんだそうな。冒険者にとっては御上の権威を笠に口煩く、ヘイトの溜まりやすい税金徴収者。対して憲兵にとっても、冒険者は粗暴ですぐ騒ぎを起こすならず者と看做しているらしい。
これから向かうラリマーはそこまで両者は不仲じゃないらしいが、それはこの街が特殊なんだとか。此処に滞在する間はさほど気にしなくて良いが、そういう常識は知っておくべきとのこと。全くもってその通りだ。
「やっぱり似た職域だから喧嘩すんのか?ほら、魔物退治とか治安維持とか」
「そういう面もあるかもしれませんね。私はかつての仕事柄、どちらの方々とも接していましたが良い人ばかりでしたよ。ただお互いにしがらみや個々人の相性もありますし、信用出来る相手を作っておくと良いでしょう」
なるほど。ムカつくこと言われても相手にせず、話の分かる奴とだけ連めば良い訳か・・・・・苦手分野だな。とはいえそんなことずっと言い続ける訳にもいかないし、少しづつでも良いから矯正していこう。
「おーい、あんちゃん達!勉強も良いがそろそろ着くぞー」
「あ、はい!分かりました。それではあとは実地で頑張りましょう」
「そうだな、詳しい話は実際にやってみないとだ」
馬車を駆る商人さんの声がした方を向くと、巨大な壁が聳え立っていた。中身がまるで見えない高さだが、その威容から察するに決して小さな街じゃないだろう。
「あれで360°覆っているなら、この街は相当な力を持ってるんだろうな。貴族様のお膝元って言ったか?」
「ええ、あの街は"ラリマー子爵"の直轄地ですね。かの子爵家は代々穏やかな善政を敷く貴族として有名で、冒険者ギルドとの仲も比較的良好な筈です」
「そりゃ結構なことだ。【明星】の人達がお勧めしてくれるだけはある」
俺には行く宛もツテも特にないし、決まってるのは冒険者志望だけだと伝えたら口を揃えて此処が良いって言ってくれた。その時は詳しく聞く暇がなかったが、そういう事情なら納得だ。
「───そこで止まれ。ああ、ヤード商会さんか・・・・・・荷台の二人は見覚えがないが、新しい護衛かい?」
「どうも、今月もひと稼ぎしに来ましたよ。こっちの二人は冒険者志望だってんで、ついでに送ってやったんだ。といっても、下手なベテランより腕利きさ!何せウチの村を救ってくれた恩人なんだからな」
「ほほう───って!?あ、貴方は【蒼の防人】様ではありませんか!!え、冒険者志望!!?」
どうやらクインを知ってる人らしい。目を白黒させて頭にハテナマークを浮かべまくってらっしゃる。
「・・・・・・セレストゲイル特有の二つ名か?その【蒼の防人】ってのは」
「そうですね。単に【防人】だけでも通じますが、【浄血】の家紋によって呼び名を分けることもあります。私自身は防人など過分な評価だに思いますが」
「───はっ!お待たせして失礼しました!!ささ、どうぞお通りください」
「待った待った、ちゃんと検問しておくれよー」
商人さんの呆れた声に慌てて荷物を検める門番さん達。しかし思っていた以上にクインの自己評価が低過ぎて辛い。まあ分かっていたことではあるが。
それはともかくとして、【浄血】の貴族は想像以上に慕われているらしいな。そう言ってみたところ、クインからは微妙な反応が返ってきた。
「えっと、セレストゲイルは良くも悪くも職人気質と言いますか・・・・・・基本的に市政には干渉せず黙々と仕事に専念します。なので皆さまとも比較的穏当なお付き合いをさせていただけているかと」
「・・・・・・その言い回しだと、市政にやたら干渉する俗物的な【浄血】も居るみたいだな?」
「あ、はは・・・・・・私の口からはなんとも」
クインの反応でほぼ答えが出てる様なもんだが、深入りは辞めておこう。貴族の内輪話に首突っ込むもんじゃねぇしな。
そんなやり取りを他所に、問題なく検問を終えたことで俺達は外壁の中へと通された。そこには予想通り、いやそれ以上に活気に満ちた光景が広がっていた。
「えぇっと、まずはギルドに直行で良かったんだよな?」
「はい、冒険者登録を済ませればそれが貴方の身分証にもなります。宿を探すのはその後が良いかと思います」
なるほど、そういや俺って自分を保証してくれるもんは何も持ってなかったな。辛うじて保証になるのは、【明星】のエッジ団長からの推薦状だけだ。
「りょーかい。ああそういえば、冒険者登録する時に何か調べたりするのか?」
「ええ、【鑑定】のスキルあるいは魔導具を用いるのが定番ですね。冒険者ギルドは人材発掘にも熱心なので、信頼出来る方法で調べてくれる筈です」
「ほほう、それじゃ俺にも眠ってた才能がまだあったりしてな?まあそんなもん無くたって、俺にはこの光属性魔法があるからな!コイツを地道に伸ばしていけばいいか」
「あ、えっと・・・・・・まずは行ってみましょうか!専門家に聞くのが確実ですし」
クインから微妙に歯切れの悪い反応をされたが、コイツの言う通りだ。専門家に見てもらえるんだから、疑問はその時解消すりゃ良いだけだ。
「・・・・・・あー、非常に言いにくいことなんだがなぁ。お前さん、もうこれ以上治癒士としての伸び代は残っとらんぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで??」