異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第六十六話 それぞれの立場

 

 

 

 

side:アデル

 

 

 

「アデルさま、また魔物の増援です!今度は灰が魔物化しましたよ!?」

「騒ぐな、如何に数が多かろうと大した強さではない。陣形を崩さず応戦しろ。決して退路を塞がれるなよ!!」

「「「───承知っ!!」」」

 

 

 『災害』が本格化して今で3日目、状況はあまり良いものではない。当初の想定ではそろそろマナが枯れ始める頃合いだったが、この通り衰える兆候は見当たらない。

 

 治癒士達の奮闘もあり、今のところ布陣に綻びはない。俺も一度城砦に戻ったがカーツ殿とクインの活躍はなかなかだった。

 

 光属性魔法が衰えたと聞いたが、新調した長杖の賜物か特に不都合は感じなかった。どうやら共振だけでなく、杖そのものに魔法を補助する機能が仕込まれていたとか。

 

 

「───そのような技術は聞いたことがない。もし以前から可能であれば誰もがその機能を標準で求める筈だ。モルガン・ファントムクォーツ、稀代の【調律師】とは聞いていたが・・・・・・」

「アデルさま、『黒』の同胞から情報が届いております」

 

 

 ・・・・・・いかんな、任務の最中に考えごとなど。どうやら思っていたより疲労が溜まっているらしい。

 

 ふむ、ジグムント翁が魔力の集約地点を幾つか潰せたらしい。確かに言われてみれば、ごく僅かだがマナの奔流に乱れが生じているか?

 

 

「───報告に来たオニキスフレアについてですが。連中一向に持ち場へ戻る気配がございません」

「・・・・・・どうやら力尽くで我々を此処へ縫い止める算段らしいな」

 

 

 ざっと見た限り、数は此方の倍は居るな。寡兵であれば気絶させて押し通すつもりだったが・・・・・・面倒なことになったな。

 

 

「これだけ用意されては、手心を加えての制圧は難しい。かといって全面戦争は此方の本意ではないし、『黒』の総数を減らす訳にはいかん」

「自分たちの生命を脅しの道具に使うなどっ・・・・・・!?」

「それだけ必死ということだろう。見てみろあの双眸を、寧ろ脅しに使えるなら本望といった有様だ」

 

 

 しかしこうなっては助太刀どころではないな。恐らくオニキスフレアの中でも特に過激な一派なのだろう。本来の持ち場を手薄にしてくるのは此方も予想外だった。またしても見誤まったということか。

 

 此方が出し抜こうとする素振りを見せた時点で、『災害』すら無視して仕掛けてきそうだ。かといって此処で見捨てれば我々はカーツ殿に愛想を尽かされかねん。本当に厄介なことになったな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

side:コンスタンチェ

 

 

 

「お、お嬢さま!!いくら何でも無茶です!?」

「今無茶しなくていつ無理をするのです!!ああもうあのクソジジイ、本当に忌々しいですわ・・・・・・」

 

 

 ここ数日歯軋りが止まらない。淑女として恥ずべき有様ですが、今だけは外聞を捨てましょう。どうせ身内以外に見てはいないのだから。

 

 私たちの役割は西側の結界を保持すること・・・・・・ですが馬鹿どもが持ち場を投げ捨てた所為で戦力の分散を強いられています。冒険者達を全力稼働させてようやく交代要員を確保出来るかどうか。

 

 

「ただ『災害』を留めれば良いなどと、何て想像力のない連中かしら!?街道は正しく地方を生かす『血管』なのよ。これを守れないとどれだけの被害が出るか、少し考えれば分かるでしょう!」

 

 

 土弄りが得意なアガットランドを戦略予備に置いたのも、『災害』の事後処理を見越してのこと。それでも被害が甚大では復旧に時間が掛かり過ぎる。北部は南部のように食糧資源に余裕がないのよ!?

 

 寒冷な気候の所為で北部の食料自給率はかなり低い。その代わり豊富な地下資源が取れるとはいえ、街道が壊れてしまえばお仕舞いよ。金があっても食糧が手に入らないこの世の地獄が顕現することになるわ。

 

 

「しかし連中は何処に消えたのでしょう?あの戦争屋共の破壊音が全く聞こえてきませんが・・・・・・」

「きっと、セレストゲイルと城砦の方ね。よほどあの治癒士を逃したくないらしいわ」

「【浄血】ともあろう者が、使命を忘れて人攫いなど嘆かわしい」

「それについては同感だけど、あのジジイが居れば戦力としては十二分でしょうよ。多分アイツ一人で一門派分の戦果を上げてるはず」

 

 

 だからこそ余計に憎たらしくて仕方がない。一家で二家以上の力を持ってる癖に、余剰分を全て私利私欲に当てている。王家や貴族からそれがどう見えているか、分かってるのに改善しようともしない。

 

 【迷宮氾濫】は伯爵一門の不祥事に収まらない。まず間違いなく伯爵家の中にも共犯者が居る。殆ど捜査に絡んでない私でさえそれを掴んでるのに、事件そのものが闇へと葬られかけている。それが何を意味するかなんて子どもでも分かるわ。

 

 

「私たちへの敵意が抑えられないところまで来ている。そこに加えて【献言する蛇(サマエル)】の技術革新が著しい。戦えば何時でも潰せる相手とか思ってるんでしょうけど、油断出来る状況じゃないわ」

「し、しかしお嬢さま。我々の存在無しに人類の存続は───」

「その驕りが私たちの首を絞めてるんでしょ!?現実を見なさい!!奴らの"火遊び"を未然に防げてないから、今こうして往生させられてるのではなくて!!?」

 

 

 ・・・・・・はぁ、オニキスフレアの連中を笑えないわ。私たちには危機感というものが致命的に足りていない。かくいう私ですら、それを正確に把握出来てるとは思えないもの。

 

 人類の存続に不可欠、故に権力者は逆らえまいという傲慢。そして圧倒的な魔力故に現在まで天敵らしい天敵など存在しなかった。唯一煩わしいと言えるのは【漆烙の汚泥】くらいで、それもくだんの治癒士の功績でほぼ無力化出来たといって良い。

 

 ・・・・・・けれどそれが何の保証になるというの?その治癒士も訳分かんない成果を上げてるし、この状況を一片ですら説明出来る人間は私達の中に存在しない。

 

 

「・・・・・・時代の転換点、なのかしらね?最悪他国の同胞のところへ逃げ帰る準備もしておこうかしら」

「お嬢さま、滅多なことを言うものではありません」

「そうね、責任放棄なんてヒュアランレインにあるまじき醜態よ。けどあの耄碌ジジイの尻拭いも限界だって理解しておきなさい」

 

 

 きっと綻びが生まれれば一気に崩れる。私たちは無敵の魔法使いなんかじゃない。あの堅牢不落の城砦でさえ、私には脆い砂上の楼閣に見えたもの。

 

 

 

 

 

 

side:ジグムント

 

 

 

「───閣下、総員配置に着きました。アガットランドについては如何致しましょうか?」

「捨て置け。拝金主義者共に何が出来る」

「はっ、畏まりました」

 

 

 恭しく頭を下げる臣下を一瞥する。どいつもこいつも痩せ細り、儂の指示無しでは考えることも出来ん木偶ばかりになってしまった。

 

 我が一門だけではない。セレストゲイル、アガットランド、そしてヒュアランレイン。皆小粒に成り下がった。初代を知る身として、【浄血】の零落は直視に耐えん。

 

 

「・・・・・・他の結界はどうなっておる?」

「はっ、魔物は全て撃退しております。どの結界においても魔導具には傷一つございません」

「───撃退、か。この程度の有象無象に何とも情けない。やはり一刻も早く、かつての栄光を取り戻さなくてはな」

 

 

 我ら【浄血】は戦う生き物ではない、()()()()()なのだ。ただ其処に存在するだけで四大の力が頭を垂れ、敵は視線一つで永遠に沈黙する。少なくとも初代達はそういう存在で、それ故に"人類の守護者"足り得た。

 

 それが今はどうだ。力の衰退は著しく、何よりただ"産まれる"ことすら満足に成し得ない。己の子孫が()()()()()()()()()死産するなど、護られるしか能のない人類には想像も出来まい。

 

 

「お前たちも持ち場へ着け。儂が居る以上、この場で万一など起こり得ぬ」

「仰せのままに・・・・・・ですが、本当に宜しかったのですか?シュナイゼルさまやコンスタンチェさまは閣下の直弟子───」

「・・・・・・・・・・・・」

「───ヒッ!?し、しし失礼致しました!!」

 

 

 別に睨んだ訳でもあるまいに、骨と皮が更に先細りそうなザマで逃げていきおった。我が血脈ながら本当に情けない限りだ。

 

 人払いは済んだ。近くに誰か潜んでいる気配もない。ようやく口に溜まった()()()()を吐き捨てられる。

 

 

「・・・・・・不様な延命に縋ること数百年、か。それも限界かと諦めかけていたのだがな」

 

 

 目に付くものは片端から奪い、その全てをこの身で試してきた。実験の過程で数え切れぬほど犠牲にした。今更目先の情如きで止められるものか。

 

 よもや長年の衰退にああも容易く解を指し示すものが現れようとは。中興の兆しか、はたまた終わりの始まりか・・・・・・どちらにせよ時間がない。儂が死ねば全てが終わる。

 

 

「緩やかな破滅を甘受する敗北者共が・・・・・・我らが滅べば全てが無に帰する。これまで築き上げた屍の山も、始祖の賢者が遺した次代への灯火も、何もかもが無意味となる」

 

 

 コンスタンチェには僅かに期待した時期もあったが、アレも所詮口先だけの小娘であった。覇道の果てに栄光を取り戻す、あるいは新たな道を示すというのであれば、この細首喜んでくれてやったものを。

 

 だがそれももはやどうでも良い。あの治癒士の小僧を捕らえ、その才能を絞り上げる。その後決して劣化しない魔導具へと加工すれば、【浄血】はかつての力を取り戻すだろう。

 

 そうなれば薄汚い蛇共や、恩知らずの蛆虫共など如何様にも出来る。既に破滅が秒読みとなったオニキスフレアも蘇ろう。セレナ・・・・・・お前のように艶やかで美しい黒髪を持った者がまた産まれよう」

 

 

 かつて後継者と見込んだ愛弟子の名が口を突いて出る。はて、久しく思い出さなかったのに何故・・・・・・?

 

 浮かんだ疑問に囚われ、この時の儂は気付けなかった・・・・・・結界がほんの一瞬乱れたことを。そしてその遥か向こうから、この世のものとは思えぬ"銀の輝き"が煌めいたことを。

 

 

 

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