「───次の交代が来ました!数は4、怪我人はそのうち二人!!"
「
「はい、いつでもどうぞ!」
クインに一声掛けてから【
後から合流した連中を含めれば全部で12人。『迷宮騒動』前でも俺だけじゃ厳しい人数だし、出し惜しみせずお馴染みの連携魔法で対処する。
「───よし、これなら緊急時にも即応出来る。では予定通り砦で補給を終え次第休息に入る」
「お疲れさまです、あまり時間は取れませんがゆっくりお休みください!」
門番の人が砦内へと案内していく。入れ替わりが激しくなってきたけど、何とか均衡は維持出来てる。戻ってきた防人さん達の話を聞くに、もう少しすれば『災害』の勢いも落ちてくるんじゃないかって見通しらしい。
それは結構な話なんだが・・・・・・ちょっとずつ乱れが生じてる気がする。俺の気の所為なら良いんだけど、戻ってきた連中の顔触れとタイミングが妙だ。
「確か治癒士の器量を超えないよう、四方ごとに戻ってくる時間をズラしてる筈だよな?さっきから被りまくってるんだけど」
「・・・・・・言われてみればそうっすね。当たり前に治してたから気付かなかったが。それに、オニキスフレアの連中がやたら頻繁に戻ってきてねぇっすか?」
それは俺も気になった。見た目通り持久力が低いのか、それとも遊撃に回ってて消耗が激しいのか。どっちか、あるいは両方かと思ったけど疲弊した感じでもないんだよな。
「・・・・・・監視っすかね?カーツの居場所を小まめに確認してるのかもな」
「勘弁してくれよ・・・・・・頻度を増やしてるのは、魔法の回数を増やして疲労を溜めさせたいって魂胆かな」
「もしくはより万全な状態で
「いや、この立ち位置じゃ難しいだろ。オニキスフレアにだけ待遇が悪いって騒がれたら面倒だ。魔法の行使だけでなく精神的な負担まで増やされるのは御免だな」
装備が間に合ってて良かった。予定よりだいぶ魔法を使わされてるし、この長杖がなかったら明後日にはガス欠してたかもな。
それにしてもモーガンもヒトが悪いな。魔法の補助機能をこっそり搭載してるなんてよ。どんだけサービスが良いんだか。今度店に顔出す時は菓子折りの一つくらい持参しないとな。
お陰で相当魔力を節約出来てる。この分なら休憩込みで1週間は保つ───なんて考えてると、クインが突然後ろを振り返った。
「どうした、クイン?何かあったか」
「・・・・・・いえ、気のせいだと思います。一瞬結界が弛んだような気がしまして。魔導具に異変がない限り、とても外部から干渉出来るものではありません。やはり気のせいでしょう」
「───調べよう、事態が事態なんだ。考え過ぎくらいが丁度良い」
「全くもって同感だがそりゃ無理っす。俺たちは役割の都合上動けねぇし、他の冒険者も防人さんの援護なしに出歩くのは無茶っすから」
・・・・・・やっぱ無理か。砦に居る防人は予備戦力か休憩中だもんな。根拠もなしに外へ放り出す訳にはいかないか。
「警戒するくらいしか出来ることはなし、ね。歯痒いけど仕方ない。一応交代で出て行く人に注意喚起だけしてもらうか」
「それで充分っすよ。もし"招かれざる客"が狙うとすればこの城砦だろうぜ。此処を落としゃ前線の物資を干上がらせられる」
「カーツさんを含め、治癒士の皆さんがこの作戦の要ですからね。体力の切れ目が生命の切れ目になりかねません」
防人さん達、魔力は凄いけどモヤシだもんな。改めて比較すると、クインって滅茶苦茶健康になったんだなってつくづく思う。すれ違うとよく分かるけど、身体の厚みが全然違う。
「とはいえ普段の施療院業務より楽だと思うっすよ。元の体力が低いから強い魔法を使わずに済むし、何より怪我人が殆ど居ねぇ。山ほど薬品運ばされたっすけど、この分だと殆ど使わず仕舞いだな」
「使われないならそれが一番ですよ。盾役になっていただいてる冒険者さん達の被害も少ないのですか?」
「その辺は人選がしっかりされてるみたいっすわ。俺みてぇな頑丈さがウリって奴より、そもそも被弾しない技自慢が多いようで」
支部長とかその典型だもんな。自分より倍以上デカい魔物の一撃をさらっと捌いてたし。確かに集中力を魔法で補填出来るなら、攻撃を受けて防ぐ冒険者より負担は軽い。本人もだけど、治療する治癒士もな。
流石に支部長クラスは数えるほども居ないし、防人さんと比べたら怪我人も多い。けど重傷者は今のところ出てないお陰で物資の損耗は少ないらしい。
「・・・・・・とはいえ、油断は禁物です。紅い雨に打たれれば生命に関わりますし、魔物の数は無尽蔵に供給し続けています。此方は少数精鋭である以上、誰かが倒れれば一気に崩れかねません」
「替えが利かない以上、慎重過ぎる方が良いってことだな。知り合いには無事で居て欲しいし、このまま進んで欲しいんだが───」
───突然、視界が真っ白に染まった。まるで閃光弾でも喰らったみたいだ。
一瞬パニックになり掛けたけど、咄嗟に口から出た【
「───って悠長にしてる場合じゃないな!?クイン、無事か!!」
「は、はい何とか。しかしこれは・・・・・・炎?」
まるで夕暮れのように周りがオレンジで染まってる。原因は地平線の奥で燃える
「・・・・・・近くで物が燃えてる様子はないっすね。その代わり景色の向こう側が一色だが、まさか燃えてんのって───」
「いいえ、結界そのものに火は届いていません!ただし目と鼻の先で広がっているのでしょうが、火種もなしにどうやって・・・・・・?」
クインの言うことが本当なら無茶苦茶だ。そりゃ魔法の炎なんだから物理法則も関係ないかもしれない。だけど到底虚仮脅しに見えない紅蓮を、しかも地平線が見えなくなるレベルの規模を完璧に統制なんて可能なのか?
その上結界の中をまるごと包んでおきながら、一切傷付けることもない。そんな芸当が出来る奴は相当限られてくるだろう。
「少し前に聞いた、オニキスフレアの爺さんっすかねぇ?無理矢理抜けようとすれば、結界が壊れちまうぞってか??」
「・・・・・・確かに、これに【
・・・・・・ただ、タイミングがおかしくねぇか?『災害』はちょっと弱まってきたとはいえまだまだ終わりは見えない。幾ら最強の【浄血】だからって、これだけの魔法を何日も維持出来るとは思えない。
しかも熱で蒸発してるのか、さっきまで降ってた"雨"がやんだ。不可視の大鎌も同然だった"暴風"も落ち着いたし、寧ろ砦から離れられる分逃げ隠れしやすい有様だ。
「───おそらく、ジグムント翁ではありません。あまりにも仕掛ける時期が不自然です。それにもし彼方がその気であれば、我々が不動となった瞬間に制圧していなければおかしい」
「それはまあ、言われてみれば・・・・・・。だがあの爺さん以外に、こんな離れ業が出来る奴居るっすかねぇ?」
「・・・・・・」
クインも俺と同じ意見だったのか、クソジジイの関与には否定的だ。けどウォルフの言い分も尤もだ。
どう考えても【浄血】の最上位と同等じゃなきゃ無理だろう。もしかして俺たちが見つけられなかっただけで、次期当主になれる隠し球がオニキスフレアに居たのか?
「───おいおい、別嬪さんをあんま困らせんなよ。可愛いツラが台無しだ」
「・・・・・・今だけはアンタ等に会いたくなかったよクソッタレ」
「ひっでぇ言い草だなぁおい。元とはいえ君たちの先輩だぜ俺?もっと労わってくれよ少年たち」
声を聞くだけで、全身の魔力が暴れた時の痛みを思い出す。相変わらずフードの所為で分かり辛いが、あの時と変わらないニヤケ面なのは何となく分かる。
「その言い草だと、あの炎は【
「───ご名答。正面切っての殺し合いじゃ【浄血】には勝てねぇが、ウチの
「盟主って・・・・・・お前等の親玉まで来てんのかよ。てっきりこの隙に何処かで悪巧みでもしてんのかと思ったけど」
「いやまぁ、こっちもそのつもりだったんだがね。どういう訳かイカレポンチがやる気っつーか、ブチ切れっつーか?急遽予定変更で駆り出された訳よ」
ヘラヘラと聞いてもないことまで喋り出すオッサンだな。こんなやり取り前にもしたよな?
「・・・・・・随分口が軽いんすね。ラリマー領の時みてぇに、土産話やるから大人しくしてろって魂胆かよ?」
「そういうこと。そっちの
「どうせ答えられない質問ははぐらかすんだろ?たとえば、此処にはどれくらいの戦力で来てるのかって───」
「───ああ、『大蛇衆』は俺含め全員参加だ。それ以外は居ても犬死にだから連れてきてねぇが」
・・・・・・マジかよ、それは答えたら駄目だろ。門番さん達がギョッとした表情してるけど、多分俺も同じ顔になってると思う。
「幹部を総動員・・・・・・この『災害』を決戦の地と定めたのですか」
「いやいやまさか、さっきも言ったろ?ウチの"天災"サマの思い付きだって。こっちも準備がまだ足りてねぇからな、お宅らに潰れられたら困るんだよ。腹立たしいんだけどな」
「・・・・・・まるで、そのヤベーのが本気出せば【浄血】を皆殺しに出来るって言いたげっすね」
「
・・・・・・嘘は言ってない、な。"バシュム"もそうだが心底嫌悪してる感じだけど、実力については"盲信"ってレベルで信用してるみたいだな。
「それを聞かされちゃ尚更黙ってられないな。誰の首取りに来たかは知らねぇが、お前等の思い通りにさせられるか」
「同感っすわ。正直死んでくれた方が嬉しい奴も居るが、やっぱり死なれると色々不味いんだよな」
それぞれ得物を構えて意思表示してやる。その直後、突然足元が揺れると同時に爆発音が木霊する。
咄嗟に振り向くと、結界の丁度真ん中辺りで火柱が噴き上がった。炎の壁が護るように防いだけど、それはつまり結界への配慮もままならない状況ってことだ。
「おーおー、派手にやってるなぁ。今の見ただろ?俺たちが出る幕じゃねぇのさ」
「・・・・・・だからこそ、退く訳にはいきません。貴方達はカーツさんにご執心なのでしょう?此処で戦力を減らされては、遠くない未来でカーツさんを危険に晒すことになります」
「───そりゃご尤もで。あーあ、やっぱりこうなる訳か。後でどやされんのも嫌だし、ちょっと遊んであげますか」
"コアトル"の両拳から金属音が鳴り響く。そういやコイツの腕は義手だったな。まともに喰らったら痛いじゃ済まないな。
軽く両足を肩幅に開き、『掛かってこい』と言わんばかりに指を曲げてやがる。速さ自慢の癖に様子見ってことは、宣言通り遊んでやがるな。
まあいい、寧ろ油断してくれてる方がありがたい。"コアトル"が俺たちの本命じゃないんだ、可能な限り消耗を抑えられるならそれがベストだ。