異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第六十八話 人造災害ー再来ー

 

 

 

 

 

 ───あちこちで剣戟の音がする。爆撃が耳を揺らし、制御を失った暴風が視界を塞ぐ。時折りエアコンなんて鼻で笑うほどの冷気が横切っていき、周辺の混乱ぶりが見て取れる。

 

 正直な話、今すぐにでも何処かしらへ加勢に向かいたい。此処に居るのはどれだけ金貨を積んでも足りない、正しく替えの効かない"人財"達だ。私情(俺の庇護)云々を抜きにしても、失えば冗談じゃなくこの国の寿命に差し障ると言っても過言じゃない。

 

 

「あぁやだね、やだねぇ。ちょっと見ないうちに滅茶苦茶強くなってるじゃないか。若人を僻むなんてしたくないってのに・・・・・・」

「───どの面でそんな寝言ほざいてんすかアンタは。そう言うならとっとと倒れてくれよ大先輩さん、よぉ!!」

「そこはまぁほら、仕事だから───おっと危ない」

 

 

 ───だけどコイツを野放しにしておく方がよっぽど不味い。倒して拘束するか、最悪撤退させないと『大蛇衆』の暴力が他所で牙を剥く。さっきの"要人"って言葉もそれを意識させるためのものだろう。

 

 

『こっちが気を遣ってやるのはお前たちだけだぞ?』

 

 

 そう言葉だけでなく()()()()()()()()。俺たちの中で救援と足止めの二手に分かれるか、思考が逸れた一瞬の間に門番さんの一人がやられた。

 

 幸い気絶させられただけで命に別状はない。ただその際にわざとらしく、倒れた防人さんの首を踏み折るジェスチャーで挑発された。こっちが大人しく付き合わないと、他の連中がこうなるぞって訳だ。

 

 

「はいはい口より先に手を動かす。早くしないと他所が終わっちまうぞ?まあその方が助かるんだが」

「クソがっ!反撃の一つもしねぇで舐めやがって!?」

「そちらさんとは目的が違うからなぁ。今のキミじゃあ本気で殴っても止まらなさそうだし、この前喰らった魔法は流石にキツいからね。のらりくらりやらせてもらうよ」

 

 

 "コアトル"を放置するのは無しだ。だけどこっちが意図に気付いてからはこの通り逃げの一手だ。分かっちゃいたがとんでもない速さだなコイツ。

 

 前にやり合った時よりこっちの階梯(レベル)も上がってるんだが、だからこそこの蛇の実力が嫌でも分かる。肉体を強化してる【魔技】の練度もヤバい上に、こっちの意図や狙いを外すミスディレクションとアイソレーション技術も意味不明なほど練り上げられてる。

 

 しかも以前披露した範囲方の【吸魔魔法(ドレイン)】や【不全魔法(マルファンクション)】も対策されてる。まるでこっちの指定した領域が見えてるみたいに、発動直前にすり抜けやがる。

 

 

「ああもう、どうなってんだおい!?魔力感知なんて後から鍛えても全然伸びねぇ筈だろ!!」

「・・・・・・アンタも苦労してんだな。まあこっちには優秀な【錬金術師】が付いてるんでね。俺の身体が()()()なのは知ってんだろ?」

「同情してんじゃねぇバーカ!!」

「か、カーツさん落ち着いて!?」

 

 

 ・・・・・・可哀想なものを見る眼ってあんなにムカつくのな。どーせこっちはどれだけアデルにボコられても、魔力感知はからっきしだよこの野郎。

 

 それはさて置き、クインの言葉で我に返れたので一旦深呼吸する。無策で突っ込んでも時間の無駄だからな。どうにかして"コアトル"を出し抜かないと。

 

 まずは状況整理だ。奴の武器は【魔技】による異次元の速度強化で、まるで武器が透過したみたいな挙動で躱しやがる。とはいえそこまでの速度を維持出来るのは数秒だけみたいだ。

 

 

「───となると、息切れするまで連続攻撃が有効か?まだまだ手札もありそうだし、取り敢えずやってみるか。行くぞクイン、ウォルフ!」

「いつでもどうぞ」

「何やるか知らねぇっすけど、適当に合わせるんで任せるわ」

 

 

 そういやウォルフには見せてなかったな。アデルの野郎に一杯食わせたとっておきだ。

 

 

「─── 【転写魔法(クリビング)】、それから続けて 【調律魔法(アジャスト)】!あとは任せた、攻めて攻めて攻めまくれ!!」

「おん?何を───ってうおお!!?」

 

 

 ちっ、かなりの上がり幅なのに即応してきやがるか。だけど意表は突けたらしいな。『万全の状態を把握する魔法』と『擬似的な"共振"を発生させる魔法』のコンボ。

 

 爆発的に増えた魔力で強化された【魔技】は今までとは別物だ。さっきまで後追いするだけで精一杯だったウォルフは蛇の動きに追随出来てる。クインは物凄く精密な魔力操作で、滅茶苦茶に動き回るウォルフ越しに"風の鋼糸"で絡め取ろうと退路を塞ぎに掛かる。

 

 まあこんなドーピングは長続きしない。元々5秒しか保たなかったし、長杖の補助有りでも10秒にも満たない。だがそれでいい、コイツにはお誂えの機能が付いてるからな。

 

 

「─── 【再起動(リピート)】、【再起動(リピート)】!ついでにもう一回【再起動(リピート)】!!」

「お、いおい・・・・・・!?随分と景気良いなぁ!そんなんで魔力消費大丈夫かあ!!」

「採算度外視だよクソッタレ!!」

 

 

 もしもの為に用意してた杖剣から湯水のように魔力を搾り取る。別の武器の魔力でも完璧にサポートしてくれるとは、あと何回この長杖を褒めれば良いんだ?マジで買って良かったよ本当に。

 

 兎に角休む暇なく攻めに徹する。俺も前線に上がって魔力刃を振り回す。まあ相手がやり返してこないから出来る芸当だが、向こうの勝手な都合だし遠慮なく弱味に付け込ませてもらう。

 

 高速機動は細かい動きは可能でも距離を取るには不向きらしい。お互いすぐに動ける間合いを保ちながら、瞬間移動後に現れたと同時に襲い掛かる。少しずつだけど、回避し切れず防御する機会が増えていく。

 

 

「魔力もそうだが、身の丈以上の力なんざ反動が・・・・・・ってそういや坊主は治癒士だったな」

「当然回復も惜しみなく投入してるさ。こういう時階梯(レベル)の低い魔法は便利だよな」

 

 

 モーガンから貰ったレシピを元に作った上質な【触媒】で使用する【持続治癒魔法(リジェネレーション)】だ。今までとは効きが違う。

 

 後先考えない大盤振る舞いだが仕方ない。本当はクソジジイが仕掛けてきた際の保険だったけど、んなこと言ってる場合じゃないしな。捨て身の特攻が功を奏したか、ようやくウォルフの槍が"コアトル"の腹にクリーンヒットした。

 

 

「───ぐえっ。あーあ、やられちまったなぁ。まさか10分保たないとはオジサンちょっと凹むわ・・・・・・」

「・・・・・・ふぅ、結局一発もやり返さねぇでやんの。ガチで殺りにきてたらどうなってたことやら」

 

 

 ウォルフの言う通りだ。相手は反撃禁止の縛りプレイで、それなのにこっちは息が上がってる。王都での濃密修行がなかったら、まず間違いなく押し切れてなかったな。

 

 とはいえ決着は決着だ。見た感じまだやれそうだが"コアトル"は起き上がってこない。それどころか全身の力を抜いて降参の構えだ。

 

 

「何のつもりだ?まだまだやれんだろアンタ」

「なにって、言っただろ?俺の仕事はあくまで足止めだって。こんな任務に命令以上のことしてやる義理はないね」

 

 

 ・・・・・・コイツらの立ち位置がいまいち分かんねぇんだよなぁ。やる気があんのかないのか、大それたことやる癖に訳が分からん。

 

 

「ああそうだ、コレ返しとくぞ」

「───あぁ、やっぱアンタが持ってたか。でも返して良かったのかい?交渉材料にもってこいだろうに」

「大事な人の形見なんだろ。そういうのは俺の趣味じゃない」

 

 

 甘いって言われるだろうがな。これが"バシュム"とかなら別だけど、コイツには個別の恨みとかないしな。それに今まで教えられた情報に嘘はなかったし。

 

 あと下心がない訳じゃない。この件を貸しに思ってくれれば御の字だ。コイツ程の使い手に本気で敵対されたら、生命が幾つあっても足りやしないからな。

 

 

「よし、時間を食ったがこれで話が前に進む。門番さん、申し訳ないがコイツの拘束を・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 振り向いた先の光景に言葉を失った。強引に口を塞がれ、悲鳴すら上げられず貫かれた胴体から鮮血が滴り落ちる。宙を掻く指先の震えが、より一層無念さを伝えてくる。

 

 剣を引き抜き、ゴミのように打ち捨てられる前にウォルフが抱き抱える。隙だらけの身体へ剣が振り下ろされるが、クインの放った風によって刀身の半ばから両断され事なきを得た。

 

 考えるより先に【治癒魔法(キュア)】を行使するが、何度も経験した【呪詛】によって回復が阻害される。イーグレットさんの『対策』がまだ残ってて良かった、これならまだ間に合う。

 

 

「・・・・・・怪しいとは思ってた。いや怪しさしか感じなかったけどな。それでもこんなに早く馬脚を現すとは思わなかった」

「これ以上の猫被りは無駄だろう?伯爵令嬢が側に居れば、どれだけ不可解でも君たちに手出しは不可能。後は手薄になりさえすれば楽に()()が出来る」

 

 

 さっきは門番さんが死角になってて見えなかったが、まるで荷物のように少女が抱えられている。殺されたのかと思ったが、どうやら眠らされてるだけらしい。まだ利用価値があるのか、それとも他に理由があるのかは不明だけど。

 

 

「・・・・・・砦に居た人たちはどうした?」

「聞く必要があるか?こうして自由に出て来れてる以上、まあそういうことだ」

「クソがっ・・・・・・!最後の質問だ、()()()()()()()()は死んでるのか?それとも生かしてあるのか」

 

 

 門番さんだけでなく砦内でも凶行を働いた男───"ハンスの形をしたナニカ"は遊びを満喫した子どものような笑みを返すだけ。その沈黙が何よりの答えだった。

 

 

「何故そんなことを聞くんだい?君にとって彼は迷惑以外の何者でもないだろうに」

「俺の視界に二度と入ってくるな、とは思ってたよ。だがソイツの死を願ったことはない。誰かの不幸を祈るような人間になりたくなかったからな」

「よく分からない感覚だな。どうせ邪魔にしかならない相手だ、始末した方がよほど───」

「───いい加減その喋り方止めろよ。似合わなさ過ぎて逆に気色悪いんだよ」

 

 

 俺の指摘に能面のような表情へと変わる。だがそれも僅かな間だけで、すぐに肩を振るわせながら堪えるように嗤い始める。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なんだぁ、気付いてたんなら早く言ってよぉ。バレてたなんて恥ずかしいよぅ」

 

 

 腐れ縁と同じ顔の口から溢れたのは、聞き覚えのある粘ついた口調だった。

 

 

 

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